■ 短編小説
思いがけず目にした光景は、不気味なほど静かな寝室の中で、自分に何かを語りかけているようだった。
いつものように、鋭い視線が自分に向けられている。
彼はきっと、すぐに僕の惨状に気付いたはずだった。
ここでは真壁くんは僕だけの恋人だ。
彼の目は僕しか見ないし、黙ってどこかへ行ってしまう事もない。
恋は人を狂わせる。
不純な欲求がどんどん高まって、他には何も考えられなくなる。
赤ちゃんごっこはもう飽きた。ここからは、大人の娯楽を楽しもう。
彼の目は、雄弁にそう語っていた。
目が覚めたら、隣にいるはずの人がいなかった。
バスルームやトイレを覗いてみても、その影は見当たらない。
「俺に触られるの、そんなに嫌なの?」
きつい目をして睨まれても、首を振る事しかできなかった。
スクリーンの中にいるのは君だけだ。君はこの夢物語の主役なんだ。
ここからが見せ場だよ。緊張を解きほぐして、体の力を抜いてごらん。
そこからは、時間との闘いだ。あまりグズグズしていると、いくら眠りの深い元樹でも、目を覚ましてしまいそうで怖いのだ。
もう1人ぼっちじゃない。
空から舞い降りる雨は、今日から僕の友達だ。
すべてを誰かに見られているような気がして、羞恥心がくすぐられる。
これからたっぷり時間をかけて、彼と愛し合いたい。
その時僕は、見てはいけない物を見てしまったような気がしていた。それでも彼から目を逸らす事はできなかった。
「座ったままで平気だから。早く楽になって、感想を聞かせて」
恋人に愛を囁くかのように、彼がそう言った。
このままでは家に帰れない。
どうしよう……どうしたらいいんだろう。
涙を美しいと思ったのは、それが初めてだった。真夏の太陽よりも、風に揺れるひまわりよりも、彼の涙は美しかった。
素直な気持ちを打ち明けると、秀太は笑顔を絶やさず俺の腰に手を回した。
弟として抱きしめる事ができるのも、今がギリギリの年齢だ。
だから今夜は、朝まで彼を抱きしめて眠りたいと思った。
キスしたい。強くそう思っても、今はまだ我慢するしかない。
こんな気持ちになるなら、あんな約束をしなければ良かった。
僕はすぐにベッドを下りて、バスローブを片手でつかみ、バスルームへと急いだ。
むき出しのペニスが、太ももに当たる。
それは石のように硬く、炎のように熱かった。
何度も腰が砕けそうになったけど、その時はいつも逞しい腕に支えられた。
この現象はたまたま起こったものなのか、それとも彼にとっては日常茶飯事なのか。
僕はどうやら感じやすい体質のようです。耳に舌が触れただけで、自然と大きな声で叫んでいました。
彼のジャージは、とってもいい匂いがした。
香水なんかとは全然違う、大人の男の人の匂いがしたんだ。
早くアパートへ帰って、筋肉をまとったその体に包まれてみたい。
そんな思いが頭をよぎった時、彼の姿が突然視界から消えた。
竜ちゃんの目は、ほんの少しだけ濡れていた。
そっと唇を重ね合うと、また幸せな時間が戻ってきた。
それからすぐに、マンションを出た。1人であの部屋にいる事に、どうしても耐えられなかったからだ。
3ヶ月前に彼が失くしたキーケースは、今僕の手の中にある。でも英二はもちろんその事を知らない。
ママとパパが隣の部屋で寝ているので、僕はちょっとドキドキしてしまいます。
彼はわずかに首を振り、「恥ずかしい……」 と蚊の鳴くような声でつぶやいた。
僕は彼の姿を食い入るように見つめ、やがて訪れるその瞬間に思いを馳せた。
僕がそう言えなかったのは、単純に恥ずかしかったから。それにどうしても彼の手を離したくなかったからだ。
もしも10年後の君が僕の隣で笑っていてくれたら、僕はきっとすごく幸せだと思う。
彼の失敗を僕の失敗に変えた事で、僕は和成くんを自分のものにできると確信していた。
誰も僕の事を気にする人なんかいない。だから、そろそろやってしまおう。
僕たち2人は感情の起伏がよく似ていた。
僕にはその時、夏樹も自分と同じ事を考えているという確信があった。
たった半年離れていただけなのに、俺の目から見る弟は以前より少し成長していた。
この時僕はまだ考えていた。どうしたら彼が泊まらずに帰ってくれるだろうか……と。
僕は初めてその写真を見た時大声を出して笑ってしまった。
そこに写っているのが幼い頃の自分だとは知りもせずに。
倦怠期を抜け出すには何かサプライズが必要なのかもしれない。
僕はその時、心の中でそう思っていた。
やっとエレベーターが降りてきた時は少しほっとしたけど、そこで気が緩んだのがよくなかったのかな。
太一は泣きじゃくる僕を抱き締めて必死に慰めようとしていた。
でも僕はこの時どんな慰めの言葉も聞き入れる事ができなかった。
セーターの裾を引っ張る小さな手は、「何も言わないで」という合図をしていた。俺にはちゃんとそういう事が分かっていた。
最後の引越し。僕はお父さんからその言葉を聞いた時、本当にほっとして胸をなでおろした。
僕が泣いてしまうと風間くんはひどく慌てて僕の肩を抱き、彼が思い付く精一杯の言葉で僕を励ましてくれた。
俺はパッと目を開け、灰色の天井を見つめながらしばらくその音に耳を澄ませていた。
するとその音がなんなのか、すぐに分かった。
紺色のジャージは、まだ新しい匂いがした。黒いリュックも、ピカピカに光っていた。これで準備は万端なはずだった。
ユキナリ。俺のかわいい弟。
茶色っぽい髪も、切れ長の目も、全部大好きだよ。
でかい門をくぐり、10メートル先の白いドアへ向かって走る。その時プリンスの手は俺の右手をしっかりと握っていた。
狭い玄関の内側からドアを開けると、健ちゃんが真っ青な顔をして目の前に立っていた。
彼は僕の頭の上にあるタッチライトに触れ、ベッドの上に淡いオレンジ色の光をもたらした。
中学校へ入学した日。あきらにヒトメボレ。その翌日。あきらに告白。
そしてそれから2週間後。俺は大好きな彼に別れを告げた。
拓ちゃんは、一度も僕を失った事がない。
そんな拓ちゃんに、あの時の僕の気持ちなんか分かるはずがない。
「さとる、顔上げて。キスしたいんだ」
しばらくすると、僕を抱きしめる兄貴の腕から少し力が抜けた。
僕は学校で具合が悪くなり、担任の先生に断わってから保健室へ行った。
少年の目には、涙が浮かんでいた。
そこにいたのは、色白で、童顔で、目が大きくて、とてもかわいい少年だった。
その時はあまり不思議に思わなかったけど、僕たち2人は裸でプールの中にいた。
彼の名前は、リオン。
ルックスは完璧だけど、ひどく生意気なクソガキだ。
それがどれほど異常な現実であろうとも、死ぬほど気持ちがいいのは真実だった。
■ 少し長めの小説
ナオが突然過激な罰ゲームを提案したのは、あの少年の行いが彼になんらかの影響を与えたためだと思われた。
これが最後なのに、部屋の中は暗すぎて彼の顔はろくに見えなかった。
バイバイ、勇気。すごく好きだったよ。
■ 連作
(拓也と誠の物語)
2つ年下の誠は中学2年生。彼は小柄で、今でもよく小学生に間違えられるという。
誠は袖丈が長すぎるブレザーに身を包み、嬉しそうに笑いながら俺の目を見つめた。
俺たちはその時、たしかに同じ空の下にいた。
本当は勉強なんかやめて、今すぐ彼の所へ飛んで行きたかった。
俺は彼が眠っている間に風呂で汗を流し、その後に誠の寝込みを襲うつもりでした。
ずっとこの苦しみに耐えてきた彼を、思い切り両手で抱きしめてあげたいと思った。
もう雨音は聞こえない。空の色なんかとっくに忘れた。
今聞こえるのは、キスの合間の息遣いと、高鳴る心臓の音だけだ。
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