特権
 すぐそばで聞き慣れた音がする。
俺はパッと目を開け、灰色の天井を見つめながらしばらくその音に耳を澄ませていた。
するとその音がなんなのか、すぐに分かった。
枕に頬を乗せ、すぐ隣にいる雅樹を見つめると、彼はいい夢を見ているようで、わずかに微笑みながらスヤスヤと眠っていた。
俺は彼の肩にふとんを掛けてやり、ほんのり赤い彼の唇にそっと右手の人差し指をあてた。
まったく、何も気付かずによく眠ってるよ。俺はこいつの小便の音で目を覚ましたっていうのに。
恐らくもうシーツはびしょ濡れだ。ここ2ヶ月間オネショはしていなかったのに、今日は久しぶりにやっちまったみたいだ。
こいつが目を覚ましたら、きっと泣くんだろうな。

 雅樹は15歳。中学3年生。
1年前に俺たちが付き合い始めた頃、彼はもっと子供っぽい少年だった。
なのにこの1年で大きくなっちゃって、もう今では背丈も俺とほとんど変わらない。
顔つきも大人っぽくなっちゃって、後輩の女の子にラブレターをもらったりもして、なんだか彼が遠く離れていくようで少し寂しかった。
でもまだ夜の明けない薄闇の中で眠る彼はとても無防備で、頭の上に跳ね上がった寝癖は愛嬌たっぷりで。 雅樹の寝顔を見られるのが俺だけだと思うと、ちょっと優越感に浸ってしまう。
昼間の彼は精一杯背伸びして、3つ年上の俺になんとか追いつこうとして、一生懸命大人のふりをしている。
でもベッドの上の彼はただの甘えん坊で、俺がそばにいないと眠る事もできやしない。

 枕に頬を押し付けて、安心し切ったように眠っている彼。
ふっくらした頬はピンク色で、薄い唇はほんのり赤い。
そろそろ、起こしてやらなきゃいけないかな。でもやっぱりこのままもう少し寝顔を見ていようかな。
彼が自然と目を覚まして、子供のように泣き出す瞬間を決して見逃さないように。
だってその顔を見る事ができるのは、俺だけの特権だから。
END

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