罰ゲーム 1
 「今日俺の家へ遊びに来いよ。ゲームして遊ぼう」
土曜日の放課後、俺はそう言ってナオを誘った。すると彼は太陽の下でにっこり微笑み、大きくウン、とうなずいたのだった。
俺たち2人は中学1年生。俺とナオは小学生の時からずっと仲良しだった。
俺は土曜日の日差しが大好きだった。 土曜日は学校の授業が早く終わるから、放課後頭上に輝く太陽がいつもより高い位置にあった。
俺は時々空を見上げて高い位置にある太陽に手をかざしてみた。これは、誰も知らない俺の1人遊びだった。
土曜日は家へ帰っても誰もいない。父さんは仕事だし、母さんは弟を連れて水泳教室へ行っている。
だから俺は退屈な土曜日にいつも親友のナオを家へ誘う事にしていた。

 学校を出て10分ぐらい歩くと、幅の広い通りへ出る。
その通りはかなり交通量が多く、バスや車がビュンビュン行き交っていた。
俺とナオは横断歩道の手前で立ち止まった。それはもちろん目の前の信号が赤だったからだ。
通りを挟んだ向かい側には最近オープンしたばかりの家電量販店があり、その大きな店の前には自転車がズラリと並んでいた。
「お昼ご飯を食べたらすぐ智行の家に行くよ」
横断歩道の手前でナオが俺にそう言った。 この通りを渡ったら俺は右へ行き、ナオは左へ行く。彼は一度自分の家へ帰って腹ごしらえをしてから俺の所へやってくるというのだった。
学校帰りの俺たちはもちろんまだ制服姿だった。 紺色のブレザーと灰色のズボン。背格好のよく似た俺たちは、お揃いの制服を着てそこに立っていた。 ナオが一度家へ帰ると言ったのは、窮屈な制服を早く脱ぎ捨てたいという思いがあっての事だろう。
この時、俺たちのすぐ目の前に1人の少年がいた。それは黒いトレーナーとベージュのショートパンツを身に着けている小学生だった。 彼は俺たちに背を向けて立っていた。
彼の背負っている黒いランドセルはかなり年季が入っていた。 随分華奢な印象だったけど、ランドセルを見る限りその少年は小学校5〜6年生のようだった。
まだ5月に入ったばかりなのに、随分涼しげな格好をしているものだな…
俺はショートパンツの下に伸びる少年の足を見つめ、漠然とそんな事を考えていた。

 「ゲーム、今日は絶対負けないからね」
不意にそう言われ、隣に立つナオの顔に視線を送った。
彼は大きな目をキラキラと輝かせ、唇の端を上げて柔らかく微笑んでいた。面長なその顔には、自信がみなぎっていた。
「俺だって負けないぞ」
そう言い返すと、ナオはもう一度軽く笑って俺から目を逸らした。
その後彼は視線を斜め下に向け、ぽかんと口を開けていた。
俺はちょっとマヌケなナオの顔をしばらく眺め、なんだろう…と思って彼の目線を追いかけた。 すると俺も思わずぽかんと口を開けてマヌケな顔をするはめになってしまった。
その時俺たちはすぐ目の前に立つ少年の足元を見つめていた。
ここ2〜3日雨は降っていなかったから、歩道のアスファルトは乾いているはずだった。 なのにその時、雨とは違うものがアスファルトの上を湿らせていた。
青いスニーカーをはいた少年の足元に、次々と水が降り注がれた。 その水の量は少しずつ増え、アスファルトの上に静かに流れ落ちていった。
すると灰色だったアスファルトの上に黒いシミが出来上がった。それはアスファルトが水を吸ってしまったためだった。
その水がどこから流れ落ちてくるかは明らかだった。それは少年の足から滴り落ちる水だった。
ランドセルを背負った少年は、おもらししている真っ最中だったんだ。

 俺とナオはすぐそばでその現場を見つめていた。
信号が青に変わった事を知ったのは、その少年が真っ直ぐ前へ駆け出して行った時の事だった。 彼が去った後には、アスファルトの上の大きなシミだけが残されていた。
俺とナオはしばらくそこから動けず、ぽかんと口を開けたまま目の前に広がる黒いシミを眺めていた。
ナオはきっと、この時何かを感じていたに違いない。
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