君の笑顔が見たいから
 大学を卒業して、就職先も決まって、春から1人暮らしを始めた。
実家を離れるのは初めてだったので、たまにはホームシックになりそうな予感がしていた。
しかしそんな思いは杞憂に終わった。
俺が1人暮らしをするアパートの側には、親戚の家がある。
そこには元樹という従兄弟がいて、彼はしょっちゅう俺の部屋へ泊まりにきた。
いつも従兄弟の相手をしていると、俺には寂しくなる暇なんかなかったのだ。


 夜中に目が覚めて、俺は1つ欠伸をした。
部屋の中は真っ暗で、とても静かだ。でもよく耳を澄ますと、元樹の寝息が微かに聞こえてきた。
今は多分、午前3時頃だろう。元樹が泊まりにくる時は、大体いつもその時間に目が覚めるのだ。
彼は俺の隣で眠っている。
しばらく様子を見たけれど、元樹が起きる気配は感じられなかった。彼はいつも眠りが深くて、朝までぐっすり寝るタイプなのだ。
彼が熟睡しているのを確信した後、俺はいつもの行動に出た。
ベッドを揺らさず、なるべく音をたてないようにして、布団の下でゆっくり右手を移動させる。
真っ暗な中で行う作業は、はっきり言って手探りだ。でも何度もこれを繰り返すと、嫌でも感覚が研ぎ澄まされた。
元樹が仰向けで眠っている事はすぐに分かった。それが分かると、今度はウエストの位置を想像する。
注意が必要なのは、パジャマのズボンに手を入れる瞬間だ。
この時元樹は、何かを感じ取ってモゾモゾ動く事がある。その時はすごく血圧が上がるけれど、それで実際に彼が目を覚ました事は一度もなかった。
今夜の元樹は、パジャマに手を入れてもビクともしなかった。
第一段階を突破して、ひとまず小さく息をつく。でもまだ先は長い。すべての作業を終えるまで、気を抜く事はできない。
俺はできるだけ刺激を与えないように注意して、その手を更に奥へ進めた。
元樹はもうすぐ中学2年になるが、夜は紙オムツをして眠っている。 彼はよくオネショをするので、そうしないと安心して眠れないようだった。
スッとオムツの中へ手を滑り込ませると、男の子の証しが手に触れた。 もしこの瞬間に彼が目覚めたら、俺は変態男のレッテルを貼られてしまうかもしれない。

 もう手馴れているので、俺にはすぐに分かった。
オムツの中に湿気が漂い、指先にその気配を感じる。
元樹は今夜もオネショした。それを確認すると、次の作業へ取り掛からなければならない。
俺はこの時のために、まっさらな紙オムツを枕の下に忍ばせて眠っている。
元樹はオネショに悩んでいて、朝になってオムツが濡れていると、すごく落ち込んでしまうのだ。
そんな彼を見ると、こっちも胸が痛む。だから俺は、彼が寝ている間にオネショの事実を消してしまう事にしていた。
乾いたオムツを手に持って、布団の下を移動する。
そこからは、時間との闘いだ。あまりグズグズしていると、いくら眠りの深い元樹でも、目を覚ましてしまいそうで怖いのだ。
パジャマのズボンを膝まで下ろし、まずは濡れたオムツを剥ぎ取る事にする。何も見えない中で、その作業は粛々と進む。
手探りでオムツを固定しているテープを探し当て、それを外したらまず前に当てている部分を剥がす。
今夜はオムツが温かかった。きっとまだオネショをしてから、それほど時間が経っていなかったのだ。そのせいか、下腹部にはおしっこの粒が付着している様子だった。
そういう時は、オムツの乾いた部分をサッとそこに当てる。紙オムツは吸収がいいので、それで大体事足りる。
そこまでくると、俺はいつも開き直った。ここまでしても起きないなら、もう大丈夫だろう。
少しお尻を持ち上げて、濡れたオムツを引っ張り出す。その下に新たなオムツを滑り込ませれば、作業の終わりが見えてくる。
彼に乾いたオムツをはかせると、俺はすごくほっとした。
あと数時間で、元樹は自然に目を覚ますだろう。
朝になって自分のオムツが乾いているのを知った時、彼は幸せそうに微笑むのだ。
俺はその笑顔が見たいから、いつもこうして孤独な作業を行っているのだった。
実際の作業時間は、それほど長くはない。 しかしこの行為はかなりの緊張を強いられるため、終わった後には疲れがどっと出る。
その疲れをとるために、俺は再び眠りに着く。

*   *   *

 朝の気配を感じて、大きく寝返りを打った。
するとベッドがギシッと音をたて、偶然伸ばした手の先に、何か柔らかいものが触れた。
「おはよう、勇くん」
その声を聞いて、ゆっくりと瞼を開ける。すると側には、元樹の笑顔があった。それを見た瞬間に、俺の苦労は報われるのだった。
「あぁ、おはよう」
俺の手に触れたのは、元樹の頬のようだった。彼は小さな右手を、俺の手の上にそっと重ねた。
外はもう明るい。まだカーテンは閉じたままだけれど、寝癖で髪が跳ねているのも、彼の目が煌くのも、全部クリアに見えた。
「ねぇ、今日もオムツ濡れてなかったよ」
それがよほど嬉しかったのか、元樹が突然俺に抱きついた。
首筋に息が吹きかかると、すごくドキドキしてしまう。彼の髪に鼻を寄せた時、そこから甘いシャンプーの香りがした。
「よかったな、元樹」
「うん」
俺はもっと彼に近付きたくて、細い背中を抱き寄せた。 元樹はすごく華奢で、あまり強く抱くと骨が折れてしまいそうな気がした。
「勇くん、大好き」
また首筋に熱い息を感じた。その言葉に深い意味がない事は分かっているのに、それでもやっぱりドキドキした。
こうして胸を合わせていると、心臓の動きが彼に伝わってしまうかもしれない。
そう思った時、元樹がそっと顔を上げた。頬を赤らめて、白い歯を見せて、とても嬉しそうに笑っている。
「僕、これからずっとここに泊まる。勇くんと一緒に寝るとオネショしないから。家で1人で寝る時は、ほとんど毎日やっちゃうのに」
その言葉は、いろいろな意味で俺を揺さぶった。
彼と一緒に眠るのは、すごく嬉しい。朝になって笑顔を見られるのも、本当に嬉しい。
でもあの緊張する作業を毎晩行うのかと思うと、少し憂鬱になってしまう俺だった。
END

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