ボクの王子様
 5月のある日。俺はその日、テストの成績が悪くて学校へ居残りさせられた。
教室に1人残って数学の問題集を30ページもやらされたんだ。しかもそれをやっている途中、腹の立つ事に空から雨がポツポツと落ちてきた。
やっと課題をやり終え、1年3組の教室を出て校舎を後にした時、外はすでにどしゃ降りの雨だった。
その日は天気予報が大はずれだった。本来は1日中晴れるはずだったから、俺はもちろん傘なんか持っていなかった。
こうなったら走るしかない。俺はそう思い、バケツをひっくり返したような雨の中を走り出した。 水たまりを蹴って。制服のズボンに泥が跳ねるのも気にせずに。
周りの景色は、ただ白かった。そして耳に聞こえるのは雨が降るザーザーという音だけだった。
まだ夕方5時だったのに、もう辺りは暗くなりかけていた。雨の中3分も走り続けると、もう髪も制服もずぶ濡れになってしまった。
俺は帰る途中、臨時休業している商店の軒先で雨宿りをした。
『松下商店』と書かれた青いビニール屋根の下へ逃げ込むと、今度はその屋根を叩きつけるバタバタという雨の音が耳に響き、 地面を叩きつける雨の音とハモった。
一応は濡れた制服の雨粒を払い落としたけど、雨の雫はほとんど生地に吸い込まれてしまい、そんな事をしても無駄なだけだった。
顔を上げると、髪の毛の中から雨の雫が滑り落ちる感触があり、ちょっと気持ち悪かった。
遠くの空は灰色の雲に包まれていた。そして突然どこかでピカッと光が放たれ、その後すぐにゴロゴロと雷の音が響いた。
俺は怖くて寒くて、思わず目を閉じて両手で耳を塞いだ。

 左右の耳に当てていた両手を大きな手でつかまれたのは、それから20〜30秒後の事だった。
俺は突然の事に驚き、すぐにパッと目を開けた。
すると最初に、目の前に立ちはだかるその人の足が見えた。
白いスニーカーは雨に濡れ、紺色のズボンの裾には俺と同じように泥が跳ねていた。
少しずつ目線を上げると、やがて俺はその人が紺色のつめ襟を着ている事が分かった。 紺色のつめ襟。それは、この辺りで1番の名門私立中学校の制服だった。
俺はドキドキしながら彼の顔を見上げた。
その人の首は白くて細く、輪郭はとてもシャープだった。そしてきゅっと結んだ唇と高く尖った鼻と透き通る目が俺を見下ろしていた。
彼の髪はシャンプーした後のように濡れていて、俺と同じように髪の中からツーッと額へ雫が流れ落ちていた。

 プリンス。俺は彼を勝手にそう呼んでいた。
彼はこの先のでかいお屋敷に住む正真正銘のお坊ちゃんだった。 俺は…彼に憧れていた。彼は俺にない物をたくさん持っていたからだ。
生まれ持った上品なオーラ。立っているだけで人目を引く容姿。そして体にピッタリな紺色のつめ襟。 それはすべて俺が手に入れられない物ばかりだった。
「ボク、こんな所にいたら風邪ひいちゃうよ」
『ボク』 プリンスは俺の事をそう呼んだ。
いつもの俺ならその時、「子ども扱いするな」 と言って彼の手を振りほどいたに違いない。
でも俺はその時、自分の両手に重なる彼の手に心地よさを感じていた。だからその手を振りほどく事なんか絶対にしたくなかった。
「僕の家、すぐそこなんだ。あとちょっとだけ走れる?」
俺はほんの少しだけうなずいた。俺はプリンスの城へ招待された事にすごくドキドキしていた。

*   *   *

 でかい門をくぐり、10メートル先の白いドアへ向かって走る。その時プリンスの手は俺の右手をしっかりと握っていた。
玄関のドアへ続く道の両側には紫陽花の花が植えられていた。俺たちはその花たちに見送られながら、白亜のお屋敷へ向かって水たまりを蹴った。
プリンスの家の玄関はバリアフリーで、とても広々としていた。 俺たちが立つと黒い大理石の床に制服から流れる雫がポタポタと零れ落ちた。
「早く入って。体を温めないと本当に風邪ひいちゃうよ」
彼はそう言い、玄関から真っ直ぐに続く長い廊下を歩いていった。その時の俺たちは頭から足の先までずぶ濡れで、彼が歩いた後には 濡れた靴下が描き出す足跡がくっきりと残されていた。
俺は廊下を濡らす事に気が引けたけど、それでも彼の後を追った。

 彼が廊下の突き当たりのドアを開けると、そこにまた広いスペースが現れた。
ものすごく大きくて立派な洗面台と洗濯機がドアの横に並んでいて、その奥にはバスマットが敷いてあり、どうやら曇りガラスの 向こうがバスルームになっているようだった。
彼は洗面台に備え付けてある棚から白いフワフワなバスタオルを取り出し、ドアの前に立つ俺の頭や顔を拭いてくれた。 俺の頭を拭いたタオルで彼が自分の顔を拭いた時、なんだかすごくドキドキした。
その後彼は、窓の外から入り込む淡い光の中で制服を脱ぎ始めた。 紺色のつめ襟が洗濯機の上に放り出され、泥の跳ねたズボンがその上に重ねられる。
その後プリンスは白いワイシャツのボタンを全部外して、俺の顔をチラッと見た。 それからゆっくりと俺に近づき、「ボクも早く脱いだら?」 と笑顔で言った。

 俺は裸になった彼の後に続いて曇りガラスのドアを開けた。するとそこは、やはりバスルームだった。
だけど団地住まいの俺の家の風呂とはまるで違い、バスタブはジャグジー付きだったし白いタイルの床はピカピカに光っていて、気をつけていないと滑って転んでしまいそうだった。
プリンスはシャワーヘッドを片手に持ち、お湯の温度を調節しているようだった。 だけどなかなかシャワーのお湯が出ず、その操作に手間取っているようだった。
「あれ、おかしいな。どうして出ないんだろう」
彼は手に持っていたシャワーヘッドを壁のフックに掛け、銀色に光る蛇口を右へやったり左へやったりしていた。 それでもシャワーのお湯はなかなか出ず、彼は俺に背を向けてしばらく蛇口と格闘していた。
彼の肌はとても白く、シミ一つ見当たらなかった。そして背中に付いた筋肉ときゅっと上がったお尻が俺を更にドキドキさせた。
俺はその時、実はトイレに行きたいのをじっと我慢していた。
シャワーのお湯が出たらどさくさに紛れておしっこをしてしまおうと思っていたけど、シャワーの雨はなかなか降り出す事がなかった。
そのうち、だんだん限界が近づいてきた。
俺は彼にトイレがどこかと聞いて走り出す事も考えた。でももう本当に限界ギリギリで、一歩でも歩いたら漏らしてしまいそうな ところまできていた。
バスタブの向こうには大きな窓ガラスがあり、そこから夕方の淡い光が入ってバスルーム全体を照らしていた。
そこには外の雨の音はまったく聞こえなかった。

 やがて広いバスルームの中にシャワーの音が響いた。
プリンスは一瞬頭の上にあるシャワーヘッドを見上げ、そこからお湯が出ていない事に気付き、そして後ろを振り返った。
限界を超えた俺はとうとう白いタイルの上で放尿してしまい、その水が排水口の中へどんどん流れていった。
俺は両手の拳を握り締め、一歩も動けずタイルの床の上を滑っていく黄色い水を呆然と見つめていた。
プリンスは俺の隣へやって来てきつく握り締めていた右手の拳を開き、今度は自分の手で俺のその手を軽く握ってくれた。 そして彼も俺と同じように排水口へ流れ落ちていく水をじっと見つめていた。
「ボク、おしっこしたかったの?」
そう言われた時、急に今の自分の状況を理解し、頭の中が熱くなった。
するとその時、突然頭の上にシャワーのお湯が降り注がれ、白いタイルの床の上に熱い雨が叩きつけられた。 俺は唇を噛んでシャワーヘッドを睨みつけた。
俺は恥ずかしくて、一言も口を利く事ができなかった。
彼は両手にせっけんの泡を付けて床の上に立ち尽くす俺の体を隅々まで洗ってくれた。
最初に首を洗い、腕を洗い、胸を洗い、背中を洗い、足を洗い、そして彼の手が俺の1番敏感な部分に触れた時、俺の恥ずかしさは 頂点に達していた。
彼は念入りに手にせっけんを付け、すっかり元気をなくして縮んでいるそれをゴシゴシと擦り付けた。
すると俺はすぐに気持ちが良くなってしまい、そこだけだんだん大きく膨らんできてしまった。
シャワーのお湯でせっけんの泡が流されるとその姿が露になり、ますます恥ずかしくなった。
プリンスは俺の前にひざまずき、右手の人差し指で俺の先端をつまみながら少しくすっと笑った。彼は左手でその根元の方をまさぐり、小さくこう言った。
「ボク、まだ毛が生えてないんだね。羨ましいな」
俺は自分が1番気にしている事を言われ、泣きそうになって俯いた。
すると視線の先に彼のものが映し出された。驚く事に彼のそれは、大きく膨らんで上を向いていた。
それを確認した時、俺の先端をつまむ彼の指が突然素早い動きを始めた。
彼の指が俺を擦り付け、頭の中が溶けてしまいそうなほど熱くなり、耳に響くシャワーの音が遠く聞こえた。
やがて彼は立ち上がり、俺たちは熱い雨の下でキスを交わした。その間も、彼は指の動きをまったく止めなかった。
俺は右手で彼のものをつかみ、マスターベーションの要領でその指を激しく動かした。
バスルームの中には雨の音に似たシャワーの音が大きく響き、俺は一瞬外のどしゃ降りの雨の下で彼とキスをしているかのような 気分になった。
「ん……ん」
俺たちはキスを交わしてお互いの口を塞いでいた。きっとどちらもバスルームの中に自分の声が響くのが恥ずかしかったからだ。

 俺たちは、どちらが先にいってしまったんだろう。
お互いの先端から飛び出したものはすぐにシャワーのお湯で流されてしまい、結局それはよく分からなかった。
ただお互いに射精したのを感じ取ると、プリンスは大きな手で俺を抱きしめてくれた。
そして彼はシャワーの音をBGMにして、俺の耳にこう囁いた。
「毛が生えたら、お祝いしてあげる。その時はお口でしてあげるよ。だからこれから毎日見せにきて」
それはボクとプリンスが最初に交わした約束だった。
俺はプリンスの言い付けをちゃんと守り、それから毎日彼の城へ通い続けた。
END

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