ふたりきり
午後7時過ぎ。外はそろそろ暗くなってきた。俺は親父に借りた車に高校1年生の弟を乗せて、宿泊先のホテルを目指していた。
俺は大学3年生。3日前弟が夏休みに入ったため今日から兄弟2人で旅行に出かけようという事になり、 遠出をしている最中だった。
しかし、今夜泊まる予定のホテルまであと少しという所でひどい渋滞に巻き込まれてしまい、もう2時間近くも ノロノロ運転が続いていた。
空は少しずつ灰色になってきた。もう前を行く車のほとんどがライトをつけている。
車内に流れるお気に入りのCDはもう聞き飽きた。渋滞にもそろそろ飽きて、さっきから弟との会話もない。
窓の外に見えるのは、雑木林と前を行く車の列だけ。
ホテルまでは本当にあと少しなのに。せめて8時までには到着できるだろうか。
「お兄ちゃん……」
俺は久々に弟の声を聞き、窓の外から隣のシートに座る弟へと視線を移した。
ユキナリ。俺のかわいい弟。茶色っぽい髪も、切れ長の目も、全部大好きだよ。
「お兄ちゃん……おしっこ」
車のスピーカーから流れる歌謡曲にかき消されそうなほど小さな声で弟がそう言った。
弟はその時、もう漏らしてしまっていた。
ユキはお気に入りのズボンを濡らしてしまい、かなりショックを受けているようで、すぐにすすり泣きを始めてしまった。
やけにおとなしいと思ったら、彼はしばらく尿意を堪える事に必死になっていたようだ。
「ユキ、ちょっと待ってな」
俺は弟にそう言い、前の白い車が少し前進した後思い切ってユーターンした。
200〜300メートル引き返すと、左側に細い道があったはずだ。
俺はその道を見逃さず、すぐに左ウィンカーを上げて雑木林の中へ車を突っ込んだ。
その道を曲がってしばらく走ると、周りにはもう背の高い木と雑草ぐらいしか見えなくなった。
俺は適当な場所へ車を止め、俯いて泣いている弟の頭をポンポン、と叩いてできるだけ明るく話しかけた。
「ユキ、早く着替えよう」
それでも弟が動こうとしないので、俺は先に車のドアを開けて外へ出た。
田舎の空気は新鮮だった。俺は緑がいっぱいのその場所で大きく深呼吸し、助手席側へ回って弟を外へ連れ出した。
助手席のシートの上には、深い水たまりができていた。
やっと車の外へ出てきた弟はもう何も考える余裕がないらしく、ただ鼻をすすって涙を流していた。
ユキの茶色のズボンは前のファスナーのあたりとお尻の部分が特にひどく濡れていた。 弟は白いTシャツの袖で何度も涙を拭き、もうそこだけはズボンと同じぐらい濡れていた。
そこは、とても静かな場所だった。 時々風が吹いて木の葉の揺れる音がするけど、それ以外の人工的な音は一切聞こえてこなかった。
俺が後部座席のドアを開けるバタン、という音がやけに大きく響いて、思わずドキッとした。
俺は後部座席に置いてあったボストンバッグの中から弟のジーパンとトランクスを1枚取り出した。 そしてそれを弟の手に握らせ、彼の濡れた頬にそっとキスをした。
「早く着替えて。ホテルへ着くのが遅くなっちゃうよ」
俺がどんなに優しく声をかけても、弟は一歩も動けずただ涙を流していた。
ユキは、すぐに泣く。いつまでたっても子供で、何かあるとすぐにこんなふうになってしまう。
俺は弟の涙を両手で拭ってやった。俺は昔からこうするのが好きだった。 弟がそれをさせるのは、俺だけと決まっていたからだ。
「ユキがおもらしするなんて珍しいね。でも、6年生の頃に1回ぐらいあったかな。 今度から漏らす前に言わなきゃだめだよ。恥ずかしくて、おしっこしたいって言えなかったの?」
ユキは泣きながら、声を絞り出した。
「我慢できると思ったんだ……」
「そうか。じゃあ、しかたがないね。早く着替えなよ」
俺がそう言うと、やっとユキが着替えを持って車の後ろへ移動した。
どうやら俺の前でお尻を出すのは恥ずかしいらしい。俺は、そんな照れ屋な弟が大好きだった。
弟が着替えている間、俺はバスタオルで革のシートの上の水たまりを拭き取った。 バスタオルに染みこんだ水は、まだ少し温かかった。
「お兄ちゃん」
気付くと、弟がすぐ後ろに立っていた。もうその時、外はかなり暗くなっていた。
俺は弟が濡らしたズボンとトランクスを受け取り、濡れたバスタオルと一緒にビニール袋へ入れて後部座席の上へ放り投げた。
それから落ち込む弟と向き合って、彼の様子を伺っていた。
「お兄ちゃん……ごめんね」
弟は少し落ち着いていたが、まだ俯いて泣いていた。俺はそんな弟を抱きしめ、必死に元気付けてやった。
「ユキ、元気出して。ユキが泣いてるとお兄ちゃんも悲しくなっちゃうよ」
「だって……」
弟は俺の胸に抱かれるとさっきよりすごい勢いで泣き出した。きっと、安心したんだろう。
静かな田舎の雑木林の中に、子供のように泣く弟の声が響き渡った。
音のない世界にかわいい弟の声だけが響くと、2人きりでいる事を実感して俺はすごく嬉しくなった。
「ユキ、お兄ちゃんが好き?」
弟はもう喋れなくなっているようだった。それでも俺の問いかけにはちゃんとうなずいて意思表示をしてくれた。
「お兄ちゃんもユキが好きだよ。今夜はユキと2人きりでいられるから、すごく嬉しいんだ」
弟はまだ泣き続けている。俺のTシャツは、どんどん弟の涙を吸い取っていく。
「ユキが元気になるおまじないをしてあげようか?」
ユキは顔中を涙で濡らしながらやっと顔を上げた。
弟は泣いていてもすごくかわいかった。いつもはキリッとしている目が、その時は少し垂れ下がっていた。 俺を見上げるその目には、真珠の涙が光っていた。
俺は弟にキスをして彼の涙を止めた。
かわいい弟と舌を舐め合うと、興奮して下半身が熱くなる。 雑草の上に彼を押し倒して、思いを遂げてしまい欲求がこみ上げてくる。
やっと弟の唇から俺の唇を離すと、ユキは笑顔で俺を見上げていた。
ユキには笑顔が良く似合う。笑い皺も、ちょっと上がった頬の肉も、すべてがかわいい。
「早く行こう。ホテルに着いたら、すぐにしたい」
俺が弟の目を見てそう言うと、彼は恥ずかしそうに俯いてもう一度俺の胸にしがみ付いた。
その時、遠くの方から鳥の鳴く声が小さく聞こえてきた。
ユキ。俺のかわいい弟。今夜はずっとお前を離さない。明日の朝まで、たっぷりかわいがってあげるからね。
END