罰ゲーム 7
 もう風の音は聞こえてこなかった。ナオはまだ目を閉じて俯いていた。
水たまりの座布団に腰掛けた俺のジーンズはナオのジーンズに負けないぐらい濡れていた。
彼の股間のわずかな膨らみにそっと指を這わせると、ナオの体が突然ビクン、と小さく震えた。
濡れたジーンズに触れて少し濡れてしまった俺の指先には、はっきりと硬い感触があった。
おもらしを終えたナオは明らかに興奮していた。
俺は彼のジーンズの上から硬いものを強く擦った。窓から入り込む雨上がりの日差しは、興奮するナオの顔を明るく照らした。
「あぁ…!」
ナオは水たまりの上で体をくねらせ、長い髪を揺らして頭を後ろにのけぞらせた。 その衝撃で彼の寄り掛かっていたベッドがガタン、と小さく音を立てた。
「気持ちいいの?」
ナオは俺が動かす指の刺激に耐えるのに必死で、もうその質問に答える余裕を失っているようだった。
でもどんどん膨らみ続けるナオのものは、その質問にしっかりイエスと答えていた。
「ん…あぁ…」
ナオは両手で髪を掻きむしり、何度も小さく喘ぎ声を上げた。彼の髪は大きく乱れていたが、誰もそんな事は気にしなかった。
濡れたジーンズ越しにナオの硬いものを強く握ると、また彼の体がビクン、と動いた。
ただでさえ赤かったナオの頬がもっともっと鮮やかな赤の色へと変わっていった。 雨上がりの日差しは少しずつ変化を遂げる彼の頬をピンポイントで照らし、俺の指はまだ膨らみ続ける硬いものをしっかりと捉えていた。
「出ちゃう…」
ナオは俯き、もう一度両手で乱れた髪を掻きむしった。彼の額には汗が光り、眉間に深いシワが寄っていた。
「出してもいいよ」
俺は一瞬たりとも指の動きを止めずに俯くナオの顔を覗き込んだ。
彼が果てる瞬間、いったいどんな表情を見せるのか。俺の興味はその一点に絞られていた。
水たまりの水が俺のジーンズにどんどん染み込んでいき、ふくらはぎにまで湿り気を感じた。 でもジーンズが濡れようが、足が濡れようが、もう俺にとってはどうでもいい事だった。
「ナオ、我慢しないで出してもいいよ」
ナオは時々体を震わせながらまだ射精を堪えていた。
雨上がりの日差しはナオの汗を照らし、水たまりを照らし、俺たちの濡れたジーンズに透き通った光を当てていた。
でもナオはずっときつく目を閉じていたので、彼にはその透明な光が見えていなかった事だろう。

 やがてナオが薄目を開けてぼんやりと俺の顔を見つめ、乱れた髪から両手を離した。 ナオの大きな目には透明な光が反射していた。
その時俺はナオの射精を待ちわびてひどく興奮していた。 指に触れるナオのものはもちろん硬くなっていたけれど、俺のものもナオに負けないぐらい硬くなっていた。
「あっ!」
ナオの目の光に一瞬見とれた俺は、次の瞬間大きく声を上げていた。
雨上がりの透き通った日差しが、急に遠く感じた。目の前にいるはずのナオの姿も、何故だか急に遠くに見えた。
とっくに硬くなっていた俺の股間に5本の指の感触があった。
それがナオの指である事は明らかだったが、理性を失った俺がそれを理解するまでにはにわずかな時間を必要とした。
「智行、気持ちいい?」
ナオの震える声が、俺の鼓膜を揺らした。
彼の細い指が俺の股間を大胆に刺激し始めた。するとものすごく激しい快感が体中を駆け抜けていった。
俺はきつく目を閉じてナオの愛撫になんとか耐えようとしていた。
水たまりの座布団は俺のジーンズを更に濡らした。
俺はもう一度自分がナオと一緒におもらししてしまったような錯覚に陥った。 すでにジーンズはかなり濡れていたし、ナオの指がおもらしした時と同じ快感を俺に与えてくれたからだ。

 ナオと一緒に頂点を迎えたい。
俺はそう思い、ナオのものを一生懸命に擦り続けた。 ナオの指が俺と同じ動きをするから、今度は1人でマスターベーションしているかのような錯覚に陥った。
目を閉じて真っ暗闇を見つめているはずの俺は、時々闇の中にナオの姿を見た。
暗闇に浮かぶのは、紙オムツを身に着けてベッドに横たわり、小指をしゃぶっている彼だった。 ナオのその様子を思う事は、俺が性的快感を得る時に必要不可欠な事だった。
頂点が近づいてくると、ナオの姿を見る間隔がどんどん縮まっていった。 頭の中のバーチャルなナオは、頬を真っ赤に染めて気持ちよさそうに紙オムツを濡らしているようだった。
「出ちゃう…」
しっかりと閉じた瞼の向こうで、姿の見えない本物のナオが泣きそうな声を出していた。
その時俺は目を開けてナオが射精する瞬間の顔を見たいと思った。 でも俺は瞼の奥に浮かぶ可愛いナオからどうしても目を逸らす事ができなかった。
「出してもいいよ」
もう一度彼にそう言った時、俺はもう射精を堪えきれなくなっていた。
おしっこを我慢する事に限界があるように、射精を堪えるのにもたしかな限界があった。
「あぁ…!」
その声が自分の声だったのか、ナオの声だったのか、俺にはよく分からなかった。
気持ちよく射精した瞬間は、瞼の奥に眩しいほどの光を感じた。そしてナオも同じ瞬間に同じ光を見つめていたに違いなかった。
彼のジーンズの奥から溢れ出して指に絡みつく生温かい体液が、その事を俺にちゃんと教えてくれた。

*   *   *

 射精した時の快感が失われて我に返った時。その瞬間は、いつも恥ずかしかった。
俺とナオは彼が作り上げた水たまりの上にまだ向かい合って腰掛けていた。
俺たちのジーンズがいくら水を吸って変色しても、尻の下にはまだ大きな水たまりがしっかりと存在していた。
冷静になって自分の股間を見つめると、ジッパーの横に白い縁取りの大きなシミがある事に気付いた。
そして右手を見つめると、指先に白くてベットリしたナオの体液が当然のようにまとわり付いていた。
俺は正面に座っているナオの姿をじっと見つめた。 晴れ間の見えてきた空は随分と明るくなり、その日差しがりんごのように赤いナオの頬を照らしていた。
彼の股間には、俺と同じように白い縁取りの大きなシミがあった。
「ナオ…」
彼の名前を呼ぶと、俯いていたナオが少しだけ面長な顔を上げて恥ずかしそうに俺を見つめた。 この時彼は前歯で下唇をきつく噛んでいた。それはナオが緊張している証拠だった。
「ありがとうナオ、気持ちよかったよ」
俺はりんごのように赤く染まったナオの頬に唇を寄せてそっとキスをした。 するとその時、彼の頬の熱が唇にはっきりと伝わってきた。
もう一度ナオの顔を見つめると、彼は唇を噛むのをやめて穏やかに微笑んでいた。

 20インチの真っ黒なテレビ画面には未だに "GAME OVER" の黄色い文字が躍っていた。 テレビの前に敷かれた2枚の座布団は、今日はまったく濡れていなかった。
そして、どんどん明るくなる外の日差しが水たまりの座布団を白く輝かせていた。
俺はナオの手を取ってゆっくりと彼を立ち上がらせた。
ナオの手を取る俺の手はしっとりと濡れていて、俺の手を掴むナオの手もそれと同じように濡れていた。
濡れたジーンズを身に着ける俺たちは一緒に立ち上がってやっと乾いた床の上に移動した。そして俺は白く光る水たまりを見下ろした。
ついさっきまで行われていた出来事が遠い昔の事のように思えた。 ナオがおもらしした事も、俺たちがお互いを興奮の頂点へ導いた事も。
でも、水たまりはたしかに目の前に存在していた。
俺たちがやった事は遠い昔の出来事なんかじゃなかった。 白く光る水たまりは板張りの床の上に居座ってしっかりとその事を証明してくれていた。
「ねぇ、早く脱ごうよ」
ナオに手を強く握ってそう言われ、俺はもう一度彼の真っ赤な頬を見つめた。
そして徐々に視線を落とすと、びっしょり濡れたビンテージもののジーンズと目が合った。
ナオのジーンズは乾いているところよりも濡れている部分の面積が圧倒的に多いようだった。
ジッパーから太もものあたりにかけては特に濡れ方が激しく、そこには大きな黄色いシミが広がっていた。 そしてそれ以外の部分も負けじとしっとり濡れていた。
彼はおもらしした後しばらく水たまりの上に座り込んでいたから、それは当然の結果だったのかもしれない。
でも俺がその時1番注目していたのはジッパーの横に存在する白い縁取りの大きなシミだった。 それが俺の指で彼を刺激し続けた結果なのかと思うと、また興奮して心臓が少しドキドキした。

 「せーの、で一緒に脱ごう」
ナオはそう言いながら俺の手を放し、その手をジーンズのジッパーの上に持っていった。
俺は彼の気持ちがすごくよく分かった。濡れたジーンズを身に着けているのは不快でしかなかったからだ。
「せーの」
その掛け声を上げたのはナオの方だった。その声はほんの少しだけ掠れていた。
ナオが迷いもせずにジッパーをスッと下ろすと、その奥に黒いヘアーが見えた。 それを見た時、ナオがトランクスをはいていなかった事を思い出した。
黄色いシミの付いたジーンズは彼の手によってゆっくりと下ろされ、やがて牛乳のように真っ白なナオの足が俺の目に飛び込んできた。
彼の両足にはおもらしの痕跡があった。その真っ白な足は全体的に濡れて光っていた。
特に下腹部から太もものあたりの濡れ方はひどく、どこかで止まっていた雫が一粒スッと彼の足の上を滑って床の上に落下した。
俺はナオがジーンズを脱ぐ様子をしっかりと見つめながらそっと自分の濡れたジーンズを膝まで下ろした。
すると前の方だけびっしょり濡れたトランクスが露になり、なんだかひどく恥ずかしい思いをした。
俺はジーンズとトランクスを重ねて脱ぎ捨て、同時に湧き上がる羞恥心を投げ捨てた。
板張りの床の上に立つ俺たちの横には大きな水たまりが存在し、2人の足元には2枚の濡れたジーンズが投げ出された。
射精後のナオのものは当然のように小さく縮んでいた。でもそれは俺も同じだった。
この時のナオは紺色のトレーナーの裾を引っ張って自分のものを隠すような事はしなかった。
丸めて脱ぎ捨てられたナオのジーンズを見つめると、その内側にこびり付く白いものがわずかに見えた。 それは紛れもなくナオが吐き出した性欲そのものだった。

 俺は乾いた白いタオルを2枚用意し、その1枚をナオに手渡した。
下半身が丸裸になった俺たちは、雨上がりの日差しを浴びながら濡れてしまった皮膚をタオルでしっかりと拭いた。 その時、縮んでしまったものの先端はお互いに特に念入りに拭いた。
タオルと皮膚の擦れ合う音が静かな部屋の中に響き、透き通る日差しは快楽の後始末に取り組む2人の少年を無言で照らしていた。
俺は本当はナオの濡れた皮膚を自分の手で拭いてやりたいと思っていた。でも恥ずかしいからそれはやめておいた。
ナオの皮膚を拭く事が恥ずかしいのではなく、そのお返しとしてナオに同じ事をされるのが恥ずかしかったのだ。
快楽に溺れている間はどんな事でもできそうな気がするのに、 いざ冷静になってみると羞恥心が心の中に溢れて消極的になってしまう俺だった。

 ひとまず自分の後始末を終えてまっさらなトランクスを身に着けると、スッキリするのと同時にほっとした。
同じく自分の後始末を終えたナオは、白いタオルを前に当てて小さく縮んだものを覆い隠していた。
彼は恥ずかしそうに俯いてもじもじしていた。その真っ赤な頬が白く変わる気配はまだなさそうだった。
俺はベッドの上にナオの乾いたトランクスが置いてある事を思い出し、それを手に取ってそっと彼の手に握らせた。
「ジーンズはすぐに洗濯してあげるよ。その間、これをはいて待ってて」
恥ずかしそうにタオルで前を隠すナオにそう言ってやると、彼は何かに気付いたようにハッとした様子で俺の目を真っ直ぐに見つめた。
窓を背にして立つナオは、逆光を浴びて長い髪が光っていた。
彼は大きな目を輝かせて口許だけで笑い、淡い水色のトランクスと白いタオルを手放した。 すると乾いた板張りの床の上にその2枚がゆっくりと落下した。
ぼんやりとそれを見届けた後、ナオが突然俺の肩に両手を回して抱きついてきた。
その瞬間はすごくドキドキした。おもらしするナオを見ている時よりも、彼に紙オムツを装着する時よりも、 胸に彼の温もりを感じた時の方がずっとずっとドキドキした。
「ありがとう。この時のためにパンツをよけておいてくれたんだね」
ナオの掠れた声が俺の耳元でそう囁いた。
俺は両手でナオを抱き寄せ、綿のトレーナーの上からそっと彼の背骨に指を這わせた。 俺はその付近に天使の羽を探したが、ナオはいつも翼を隠しているようだった。
ナオの柔らかな髪が俺の頬をくすぐった。
雨粒の付いた窓ガラスの向こうには明るい未来の光が見えた。俺はこれからの梅雨の季節を、ナオと2人で過ごしていきたいと思った。
彼をきつく抱き締めたその瞬間は、今まで経験したどの時よりも幸せだった。
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