───多分その男の背中には、闇よりも昏(くら)い漆黒の翼が生えている。
いつかはその翼を広げてここから飛び立ち、俺の知らない世界へと行ってしまうんだろう。
それはきっと、そいつの運命だから───
「何か言ったか?」
「いいや」
俺の胸でセックスの余韻に浸っていたデジルが、不意に顔を上げそう訊ねてきた。咥えていた煙草を揉み消して、俺はその手でデジルのあごを引き寄せる。
「ん……」
互いに貪りあうような、深いキス。絡ませた吐息が、再び俺の脳髄を刺激し始める。唇が名残惜しげに離れ、デジルがふ…と微笑った。
「まだイける?」
「そっちこそ」
もう何度こうして身体を重ね合ったかなんて覚えちゃいない。俺の方は勿論こいつの身体に夢中で、デジルもどこが気に入ったのかこうして俺に付き合ってくれている。
「んっ…達也、もっと……」
俺の上でなまめかしく踊る、デジルの肢体。肌を伝い落ちる汗の雫が、淫靡さを増幅させる。
「っ……そこ、イイ…っ……!」
「ここか?」
「んぁああっ!!」
デジルの律動が、速く激しくなっていく。
こいつとこういう関係だということを、俺は他の誰かに話したことはない。男同士だから、なんていう理由からではなく、他人に知られてしまうのが勿体無いような気がするからだ。例のフィルムを撮った連中にも、おそらく気付かれてはいないと思う。俺ももう直接連絡は取っていないし、アダルトフィルムなんてあの一本限りだと伝えてあった。
俺はこいつ以外の男を抱く気は毛頭無い。他に男と付き合った経験も無い。だからどうしてあの話が回ってきた時そんなものに出演する気になったのか、俺自身今もよく分かっていない。ピンと来た、というか……そしてその後も、俺とデジルはこうして身体だけの関係を続けている。
「くっ…達也、そろそろっ……」
「もうちょっと待てよ」
「ふあ…ぁあっ」
いやらしい音を部屋中に響かせながら、デジルが昇りつめていく。俺を締め付けているその内側は信じられないくらいに熱くて、一気に融かされてしまいそうだった。
「ん…んふ、達也っ……ダメ、も…」
「いいぜ、デジル」
そう言って俺は、デジルのものを強くしごき上げた。
「んんっ!」
同時にデジルの締め付けもきつくなる。
「あぁっ、達也、ぅっ……ああーーーっ!!」
全身を震わせながら、デジルが絶頂を迎えた。俺はそのデジルの中に、ありったけの炎を放出していった───
咥えていた煙草を、またデジルに奪われた。…と思ったら、一口吸っただけで返された。
「相変わらずきついの吸ってるな」
「これじゃねぇと落ち着かなくてな」
デジルが、ふっと微笑った。だが、紫煙の向こうに見えるその笑みは、まるで………
こいつの背中には、美しい漆黒の翼が生えているんだ。
その双翼を切り落として鳥籠に閉じ込めてしまうことなど、神にさえ出来ない。
das Ende