「……ああ、雪だ。」
今さっきまでなりふり構わず哭き叫んでいたその同じ唇に、達也から奪った煙草を咥えながら、デジルが呟くようにそう言った。紫煙の向こうに見える景色の中で、確かに白いものが舞っている。
「はン? ホワイト・クリスマスだってか?」
「えらくロマンチックな言葉を知ってるじゃないか……そんなガラじゃないクセに。」
「悪ィかよ?」
ベッドに寝そべったまま次の煙草に火を点けた達也は、気の無い返事をしたきり窓の外など見ようともしない。そんな達也に、デジルが苦笑してみせた。
「ベッドに臭いがつくぜ?」
「お前にゃあ関係ねーだろ。ここは俺の部屋だ。」
「そうなんだけど。」
粗野で乱暴なこの男のどこが気に入ったのか、デジル自身にもよく解ってはいなかった。達也の方がデジルの身体にベタ惚れなのは、言うまでもないのだが。
例のフィルムで共演して以来、こんな関係がずっと続いている。飽きもせず……とは、よく言ったものだ。
そして今日は、12月25日。
本来ならば神聖なる祈りを捧げるべきこの夜に、その宗教には何ら興味を持たない筈の恋人達は、何故か互いの身体を貪り食いたがる。とは言え、行為だけならば彼等と同じ事をしているデジルには、文句など言えよう筈も無い……もっとも彼は、正確には達也の『恋人』ではなかったが。
「なぁ、いい加減俺の恋人にならねェか?」
後ろからデジルの肩口に唇を這わせながら、どこか甘えたような声で達也が囁く。
「遠慮しとくよ、俺はまだ死にたくない。」
そう言ってデジルは声を殺して笑った。むしろそんな返答を期待していたかのように、達也もその口元に笑みを浮かべている。
「バカ言うな……先に殺されちまうのは、俺の方だろーが。」
達也の本業を知れば、誰もがこの会話に納得するだろう。彼の『恋人』を逆恨みした熱狂的なファンがどんな行動に出るか、例を挙げればキリが無い。そしてデジルの側も、業界では既に知らない者など居ない存在だった。
「あんたを独り占めしたとあっちゃ、俺の首も無事にゃ済まねェだろーからな……まぁ諦めっか。」
本気で残念がっているとはとても思えないほどのあっけなさで、達也は再びベッドに寝転がる。火を点けようと咥えた煙草を取り上げ、デジルがその身体に覆い被さった。
「独占欲なんてらしくもない……何にせよ今この瞬間は、俺はあんただけのものだし、あんたも俺だけのものだ。違うか?」
「ああ、まーな。」
クスクスと笑い合う唇が、また重なる。触れ合うだけのそれが深くなるのに、多分それほど時間は掛からない。
次の約束など保証もされない、ただ時間が許せばベッドを共にして、互いの孤独を重ね合う……デジルにとっての達也は、そんな相手でなくてはならなかった。何故なら…………
そうして雪は、ゆっくりと降り積もっていく。身体だけで繋がり合う彼等の罪を、覆い隠すかのように。
das Ende