I can't wait

 ある日の昼下がり。

 「まぁ〜った留守かぁ〜……。」
そう呟いてはみたが、デジルが家に居ないのは、毎度の事だ。もらった合鍵で勝手にドアを開けて、部屋ン中で待っているのもいつもの事。
 だけど、今日ぐらい居てくれたって……

 「……忘れてるんじゃねーのかよ。」
今日は俺の誕生日なのに。

 付き合うようになってまだ半年ぐらいだけど、この部屋には何度来てるんだろう。アイツがあまり物を置きたがらないせいか、やたらとスッキリしていて…かえって落ち着かない。

 ソファーに寄りかかって持ってきた雑誌を読んでいるうちに、俺はいつの間にか眠ってしまっていた…。

 ………
 なんだか息苦しい、と思って目を開ける。
あれ、デジル…帰ってきてたんだな…そういえば窓の外が薄暗い……って、え?
 「ちょ…待て………」
 「うるさい。」
有無を言わせぬ強引さで、唇が重ねられる。息苦しかったのはそのせいか…でも。
 「待てって…苦し………んんっ」
 「こんなトコで寝てるお前が悪い。」
シャツの上から俺の胸を弄るその指先が、いとも簡単に感じやすい部分を探り当てると、それを摘み上げる。
 「あっ…!」
思わず唇からこぼれてしまうそんな声と同様、どんなに頭で拒否してみても、熱く蕩けてしまう身体は抑えようがなくて……

 舌を絡ませあったまま、デジルが器用に、俺のシャツのボタンをひとつずつはずしていく。露わになった俺の胸を這い降りると、ざらざらとした彼の舌が、さっきまで指先で弄んでいたそれをくすぐった。俺は思わず身体を震わせて、その行為に反応してしまう。デジルが薄く笑ったようだった。
 「あっ…も、イヤ……」
自分の声が上ずっているのが判る。イヤだなんて言ってはみても、もし今この状態で、本当に止められたりしたら……。
 一瞬頭をよぎったそんな考えを否定するかのように、デジルの手が俺の両脚を開かせる。厚いジーンズの布地を通しても、俺が昂ぶっている事ぐらい、彼にはすぐに判ってしまうだろう。恥ずかしいけれど…それを隠す事なんて、もう俺には出来ない…。

 ソレを弄ぶその動きに合わせて、俺の腰が揺れる。止める事なんて…出来るものか……

 「…早く服を脱げよ。」
デジルの口の中で、いとも簡単に達してしまった俺は、まだ頭がぼんやりとしていた。すでに半分脱げかけているシャツを剥ぎ取ると、彼は俺を後ろ向きにソファーに押し倒した。
 「ま…待てってば、何でそんなに急ぐんだよ…っ!?」
 「時間が無いんだよ。」
 「…へ?」
しゃべる時間さえ惜しむように、デジルが俺のジーンズに手を掛ける。下着ごと一気に脱がされ、そのまま後から強く抱き締められた。デジルの身体も、熱くなっていて……
 「ああっ!!!」
貫かれる痛みよりも…その熱さが、デジルの情熱が……俺の全身を駆け巡っていく。俺は何がなんだか分からないまま、それを全部受け止めようと身体を震わせていた。彼の手が俺のモノを握り締めると、自分の動きに合わせて扱き始めた。
 そして…決して他の誰かには聞かせたくないような声を上げて、俺は………

 シャワールームから出てきたデジルは、濡れた髪をバスタオルで荒っぽく拭いて、そのタオルをまだボウッとしている俺の方に投げてよこした。
 「……また出掛けンの…?」
 「仕事の途中なんだ。」
体力にしか自信が無くて、力仕事しか出来ない俺と違って、器用で頭もいいデジルは、どんな仕事だってこなせてしまう。だから、何でも屋稼業なんてやってると、本当になんだってやらされてしまうんだ。今だって多分、俺の知らない別の仕事をしてる最中なんだろう……え、それじゃ、もしかして…?

俺ノ誕生日ダカラ、仕事ヲ抜ケ出シテキテクレタノカ……??

 勿論そんな事、口に出して訊けるハズも無く………。
 でも、何となく緩んでしまった俺の唇を見て、デジルがフッと笑った。
 「プレゼントは無いからな。」
 「要らね〜〜よっ。」
俺を想ってくれている、あんたのその気持ちだけで…なんて、そりゃ本当は、形のあるものが欲しかったりはするけど…。つい強がってしまう俺の気持ちを見透かしたように、彼がまた、強引に唇を重ねてきた。名残惜しそうにそれが離れると、デジルは俺に背中を向けて、衣服を身に着け始める。
 「居たけりゃ勝手に居て構わんが…寝る時には戸締りを忘れるなよ。」
 「盗られるものなんか無いだろ。」
 「お前を盗られたら困る。」
思わずポカンとしてしまった俺をひと睨みすると、帰ってきた時同様黒っぽい衣服に身を包んだデジルは、物音も立てずに玄関へと向かった。

 「またな。」
…と素っ気無く言って彼が出て行った後、それじゃあ鍵でも…と思い玄関先まで出た俺は、床に置かれている薔薇の花束を見付けた。20本はあるだろうか…まさか、デジルが???

 添えられたバースデーカードのそれこそ素っ気無い印刷だけの文章を読みながら、デジルのヤツ、どんな顔してこれを買ったんだろう…と考えてみる。だいたい俺に薔薇が似合うとでも……。

 うん、でも、とにかく。
 形のあるもの……今の俺には、この花束で充分だよな。

 色々あるけど、それでもやっぱり、俺はデジルが好きだ。

das Ende

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