I can't get enough

 外はまだ日が差しているような時間だったが、その光はカーテンに遮られ、部屋の中は薄暗かった。窓際に置かれたベッドの上で、男と女が絡み合っている。だがその部屋には、もうひとり…ベッドのすぐ隣にあるソファーで、煙草を燻らせながらその行為を見ている人物が、居た。

 「他人に見られてる方が燃えるだなんて、…ったくおかしな連中だな。」
女が甲高い悲鳴をあげて達した後、しばらく間を置いて、ソファーに座っていた男が声をかける。彼が吸っていた煙草を揉み消すと、紫灰色の煙が立ち昇り、ゆっくりと空気に溶けていった。
 「そう言いながら、付き合うお前もお前だろ、デジル。」
女に軽いキスをくれて身体を起こしたもうひとりの男が、口元だけで笑いながらそう言った。
 「それは、そうなんだけど………。」
 「もしかして、感じちゃった?」
行為の後の気だるさに浸っていた女が、長い髪をかきあげながら、甘えた声でそう続ける。
 「あたしがなだめてあげるわ…って言いたいところだけど、そろそろ行かなくちゃ。」
女は、ついさっきまでベッドで絡み合っていたその男と濃厚なキスを交わすと、シャワーを借りるわね、と言って席をはずした。
 「残念だったなぁ、あいつ、舐めるの巧いんだぜ。」
 「どっちにしても、オレは遠慮しとくよ…。」
そう言って、デジルと呼ばれた男は苦笑した。
 「なぁ、ホントに勃っちまったりしてないのか?」
 「なんだよ達也、オレが不能だとでも言いたいのか?」
 「そーじゃねーけど。」
達也がジッと、デジルの顔を覗き込む。その時ちょうど、女がバスルームから出てきて、会話はそこで途切れた。
 「じゃあねぇ達也、またお店にも顔出して頂戴。」
 「ああ、またな。」
ふたりはまたも深く口付けを交わし、女はデジルにひとつウィンクをよこすと、部屋から出て行った。
 「見せ付けてくれるじゃん。」
 「そりゃ見られてる方が燃えるからな。」
 「キスもなのか…。」
デジルが呆れてそう呟いた。

 「なぁデジル、ホントに勃っちまったりしないのか? 毎回思うんだけどよ。」
バスルームから出てくるなり、乱暴な動作で濡れた髪を拭きながら、達也がそう訊ねる。デジルは雑誌をめくる手を止めて、ソファーから達也を見上げた。
 「しつこいな…あんたとあの女じゃ勃たね〜よっ。」
 「どういう意味だよ、それはぁ。」
 「どういう意味って…言葉通りに。」
 「俺が下手だって言いてーのか?」
普通にしていても相手を威嚇しているように見える達也の顔だが、眉をひそめて凄むその表情には、デジル以外の相手なら冷や汗をかいて逃げ出す事だろう。
 「相手が悪いんだろ…もっといい女と、にしろよ。」
 「ハァ? そりゃ、俺とお前の趣味の違いだからなぁ。」
そう言って達也は大声で笑った。そんな達也にデジルは苦笑いを浮かべていたが、吸っていたタバコを揉み消した手を掴まれて、ハッとして彼の顔を見た。
 「なぁ、不能じゃないって証拠を見せろよ。」
 「…一体どうしろって言うんだ?」
笑って誤魔化そうとするデジルを、達也がソファーに押し倒した。
 「俺と寝てみろって事。」
 「お、おい…待てよっ! あんた…やり方知ってンのか!?」
 「知らねぇ。でもま、何とかなるだろ。」
 「…って、あのなぁ……。」
デジルは困ったような表情で笑っている。が、その瞳には、先刻までは無かった光が宿っていた。
 「デジル?」
 「そりゃまあオレは、あんな女なんかよりよっぽどあんたを気持ち良くしてやる自信はあるけどさ。」
 「ハン…やっぱお前、ゲイだったんだなぁ。」
 「それは正しくはない。…実はバイ。しかもリバもOK。」
 「…へぇ…そりゃ知らなかった。」
驚いた、と言うよりは感心したといった表情で、達也はデジルのその綺麗な顔に見入っていた。
 「…んじゃ一発、楽しませてもらおうじゃないの。」
ニヤリと笑みを浮かべた達也の唇に、デジルのそれが重なった。

 デジルの身体を、達也の唇や舌が這う。どこに触れてもデジルは切ない溜め息でその行為に応え、あっという間に達也を熱くさせた。
 「デジル…そろそろ、いいか?」
 「え? ちょっと、待って…まだ……」
 「もう待てねぇって。」
言うが早いか、達也はデジルの両脚を大きく開かせると、その中心に自分のいきり立つモノを押し当てる。
 「…た、達也、止め…っ…痛……!!」
達也が乱暴に、デジルの中にソレを挿入した。
 「ぅあああーーーーっっ!!!」
デジルの痛々しい悲鳴には一向に構わず、達也が激しくその身体を突き上げる。
 「やっ…嫌…達、也……ああっ!!」
デジルの腕が、達也の首に絡みつく。彼の顔を自分の方へと引き寄せると、デジルはその唇に深く口付けた。達也の動きが、その速度を緩める。
 「…ン……デジル…」
 「達也…もっと、ゆっくり……そんなに急くなよ……オレだって、あんたと一緒にイきたい…。」
 「…ん〜…分かった、ちょっと頑張ってみるわ。」
 「ちょっとって…。」
デジルはその言葉に苦笑したが、そっと達也の唇に触れるだけのキスをして、身を任せる事に無言で同意した。
 達也はデジルの唇を貪りながら、今度はゆっくりと、彼の中で動き始めた。指先が、首筋や鎖骨を撫でる…途端にデジルの唇から、甘い溜め息が漏れる。
 「…ンっ、達也……」
 「気持ちイイか…?」
デジルは小さく頷く事で、それに答えると、その行為をせがむように身体をくねらせる。達也は上半身を起こすと、デジルのモノに触れながら、彼のもっと深いところを貫いた。
 「あ…!!」
デジルの表情が、痛みに一瞬歪む…だがそれも、本当に一瞬の事だった。触れられている部分と、達也のモノを受け入れているそこから、快楽の波が全身へと広がっていく。段々激しくなる達也の動きに合わせて、デジルの身体が揺れる。悲鳴はいつしか、切なげな喘ぎ声に変わり…その声さえもが、達也の欲情を誘い出していく。
 「…ぅ…あ、イイっ……達也ぁ…っ!!」
夢中でデジルの身体を突き上げていた達也の動きが一瞬止まり、彼は低くうめくと、その中で情熱を解放した。同時にデジルの熱いソレが彼の手の中で弾け、その指を濡らす。
 達也のモノが何度かデジルの中で痙攣して、彼に小さな悲鳴をあげさせる。そっと覆い被さってくる達也を受け止め、デジルは満足そうに微笑った。

 達也が眠っている間に、デジルはこっそりと起き出して、シャワールームへと向かった。だが、浴び始めて間も無く、達也がシャワールームのドアを開けた。
 「汗流してる場合じゃないだろ、まだ終わってねっての。」
 「…寝てたんじゃないのかよ…。」
驚いた顔をしてシャワーを止めたデジルの手を掴むと、達也はデジルを後ろから羽交い絞めにした。
 「ちょ…達也っ」
片手でデジルの腰を抱くと、先刻自分自身が激しく突き上げたばかりのそこへ、指を潜り込ませる。
 「あ…ヤッ……!!」
言葉とは裏腹に、デジルのそこは、その指をやすやすと受け入れていく。内部にはまだ十分に滑りが残っているのを確認すると、達也は指を引き抜いた。デジルの唇から、哀願とも取れる溜め息が漏れる。そして、熱い先端が触れたかと思うと、それはゆっくりとデジルの中へと押し入った。
 「あっ…達也……!」
目の前の壁に手をついて、デジルはその行為を受け入れる。達也のモノが根元までデジルの内部に収まると、達也は左手を前へと廻し、再び彼のモノに指を絡ませた。
 「……ン…ハァ…ッ……」
徐々に激しくなるその動きに、デジルの喘ぎ声が反響する。達也は更に激しく何度か突き上げる動作を繰り返すと、デジルの中で欲情の証を弾けさせた。

 シャワールームの壁に身体を預けて、ふたりは抱き合ったまま、何度か唇を重ねた。
 「やっぱ、すげぇ……こんないやらしい身体は、初めてだ……」
 「それって、褒めてるつもり?」
呆れてそう呟くデジルに、達也は、一応、と答えて、喉の奥で笑った。デジルも思わず笑みを返す。
 「……気持ち、良かったか?」
 「ああ……。」
 「なら、いい…。」
淡い微笑みを浮かべているデジルをそっと抱き締めて、達也は彼の耳元でこう言った。
 「お前ってさ、アレ触られるとメチャ感じるのな……すげぇ締まって、俺も、イイ。」
 「バカ…口に出して言うなよ。」
平手打ちのマネをして、頬を朱に染めたデジルが苦笑する。だが、実際その通りだから仕方ない。照れてしまったデジルの表情にまた誘われて、達也はもう一度彼に深く口付けた。

 翌朝。
 デジルは達也の腕の中で目を覚ました。デジルは彼の下半身に目をやると、達也を起こさないようにこっそりと身体をずらしていく。すっかり勃ちあがってしまっているその先端にキスをして、ソレを口に含むと、一旦喉の奥まで迎え入れ、舌と唇、そして指を使って奉仕を始めた…たまらず、達也が目を覚ます。
 「…朝っぱらから、ナニやってンだよ。」
 「苦しそうだったから、サービスしてんだけど。」
達也はククッと笑うと、デジルの肩を掴んで、彼を引き起こした。
 「なら、サービスついでに、乗らねぇか?」
その言葉に、デジルが楽しそうに笑う。
 「それじゃ、遠慮なく。」
そう言いながらデジルは、ゆっくりと達也の上へと腰を降ろしていく。そして、その身体を揺さぶるデジルの動きに合わせて、達也が彼のソレを弄び始める。
 「あん…イイっ、達也……ぁ…」
 「…すげぇ…デジル……」
 「ン…あぁっ、達也ぁ…達也……ーーーっ!!」
デジルの動きが激しくなり、それが一瞬止まったかと思うと、ガクガクと身体を震わせて、達也の上へ倒れこんだ。デジルの中へと自身を放った達也もまた、彼を抱き締めながら、深い溜め息をついていた。

 ベッドの端に腰を降ろし、達也が煙草に火をつける。それを奪って一口吸った後、デジルはまたそれを達也に咥えさせた。
 「やっぱり、あんたってすげーや。」
 「バーカ。」
互いに顔を見合わせて、声を殺して笑い合う。

 達也の吐き出す煙草の煙が、ゆっくりと空気に溶けていった。

das Ende

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