Here You Come Again

 「みんな来てるかな?」  西遠寺を去ってから二年後の春休み、未夢は同窓会に出席するために平尾町に戻ってきた。去年の秋、両親と共に彷徨の母親である瞳のお墓参りに行った時以来のことである。  「アデュ〜、未夢っち。今日も一段ときれいだねぇ」  会場である四中の教室の扉を未夢が開けた瞬間、肩にオカメちゃんを乗せた光ヶ丘が一輪の薔薇を手にやって来た。おそらく一番最初に教室にやって来て、女の子が来るたびに出迎えをしていたのだろう。マメな男である。  「あ、ありがとう」  (望くんは相変わらずですなぁ〜)
 差し出された薔薇を受け取った未夢は思わず苦笑した。中学三年になると同時に転校した未夢であったが、二年から三年になる時にクラス替えがなかったので、教室にいるメンバーは中学二年の頃とまったく変わりがなかった。
 「あ、未夢ちゃん」
 「み〜ゆ、久しぶりだね」
 「綾ちゃん、ななみちゃん」
 未夢の到着に気付いたななみと綾が駆け寄ってきた。墓参りの時には時間がなかったので、二人に会うのは去年の春休み以来のことである。四月から高校二年生になる二人は、中学生のころとは違い、大人びた雰囲気を醸し出していた。
 「あれ? 綾ちゃん髪型変えたの?」
 「うん……」
 去年会った時は中学生の頃と同じお下げ髪だったが、今では肩までかかるセミロングのウェーブヘアになっていた。
 「田丸くんがこっちの方が似合うんだってさ」
 「内緒にして言ってたのに……。あのね、未夢ちゃん驚かないでね。ななみちゃんはね……」
 「スト〜ップ。それ以上は言わない」
 「え〜。聞きたい、聞きたい」
 「あのね、ななみちゃんは………ふごふご」
 これ以上喋られるとまずいと思ったななみの右手があわてて綾の口をふさいだ。
 「あれ? 西遠寺くんは一緒じゃないの」
 「うん、あたしは直接こっちに来たの。まだ来てないの?」
 「さっき黒須くんに聞いたんだけど、今日はおじさんと一緒に法事だって」
 「そうなんだ………」
 「西遠寺くんがいなくて寂しいでしょ」
 一瞬寂しげな表情を浮かべた未夢を綾は見逃さなかった。ななみの手からようやく逃れると鋭い突っ込みを未夢に投げかけた。
 「そ、そんなことないよ」
 「本当かな? 顔真っ赤だよ」
 頬を赤く染めた未夢にななみが追い打ちを掛ける。
 「もう〜、ななみちゃんのいじわる」
 

 「あら、未夢ちゃん」
 「クリスちゃん。久し振りだね」
 未夢たちが昔話に花を咲かせているところにクリスが顔を出した。もちろん光ヶ丘からもらった一輪の薔薇を手にして。
 「あの……彷徨くんは……」
 「彷徨は宝晶おじさんと一緒に檀家さんの法事に行ってるの」
 「そうなんですか。……………何で未夢ちゃんが知ってらっしゃるのですか」
 おどおどとしていたクリスの態度が一変した。目がキラリと光り、身体から妖しいオーラが放出され始めていた。
 「遠く離れていても二人は一心同体。『彷徨、明日の同窓会どうするの?』『オレ親父と一緒に檀家さんの法事に行くから同窓会出れないかもしれない』『え〜っ』『ゴメン。その代わり同窓会が終わったら……なっ』こうして二人は手に手を取って二年後の結婚式の予行練習のためにタキシードとウェディングドレスに着替えて、誓いのキスの練習をするのですね……ゆ・る・せ・ま・せ・ん・わ(ゴゴゴゴゴ)」
 (クリスちゃん変わってないなぁ〜。なんて言ってる場合じゃないのさぁ〜)
 「ち、違うよ、クリスちゃん。ななみちゃんが教えてくれたの。ねぇ〜、ななみちゃん」 
 「そうだったっけ?」
 「ななみちゃ〜ん」
 慌てふためく未夢の顔と、今にも手にしたロッカー四台を外に放り投げようとしているクリスを目にしては、これ以上未夢をからかい続けることはさすがにまずいとななみは思った。
 「クリスちゃん、落ち着いて。西遠寺くんが法事に行ってることはあたしが教えたの」
 「彷徨くんと未夢ちゃんとななみちゃんは三位一体だったのですね(ゴゴゴゴゴ)」
 「違う! さっき黒須くんから聞いたの」
 「あら、そうですの」
 語気を荒げたななみの言葉を聞いたクリスはようやく正気を取り戻し、担ぎ上げていたロッカーを元の場所に戻した。


 「みなさん、大変長らくお待たせしました」
 「よっ、待ってました」
 「ヒューヒュー」
 どうやら彷徨以外のメンバーが集まったようだ。何故かタキシード姿の司会兼幹事兼写真係兼雑用係の三太が開会のあいさつを始めた。
 
 
 
 「ばいば〜い」
 結局、彷徨は同窓会に顔を出さなかった。名残惜しげにななみたちと別れた未夢の足は自然に西遠寺の方へ向かっていた。
 「懐かしいなぁ」
 久し振りに訪れた西遠寺の石段の下でたたずむ未夢。ルゥとワンニャーとペポ、そして彷徨。一緒に暮らした頃の思い出が未夢の脳裏に走馬燈のように浮かび上がった。
 「ルゥくんたちどうしてるかなぁ」
 「未夢!」
 振り返った未夢の視界に入ってきたのは袈裟姿の彷徨であった。中学生の頃は僧侶になることを拒んでいた彷徨であったが、今では宝晶の元で僧侶になるための修行を始めていた。
 「もう、何で同窓会来なかったのさぁ〜」
 「悪い、檀家さんの法事が長引いちゃって」
 修行のせいなのだろうか、それとも袈裟を着ているからなのだろうか。未夢の目には久し振りに会った彷徨の姿がとてもたくましく見えた。
 「おじさんは?」
 「まだ檀家さんのところ。これからどうするんだ?」
 「えっ、このまま家に帰るよ」
 「そうか……。せっかくだか上がっていけよ。時間ないのか?」
 「え〜と、六時の電車に乗るから……」
 「今は五時だからお茶を飲む時間ぐらいはあるな。さぁ、行こうぜ」
 「うん」
 二人は肩を並べて西遠寺の長い石段を登っていった。
 

 

 「へぇ〜、そうなんだ。彷徨さんも大変ですなぁ〜」
 中学生の頃のようにちゃぶ台に向かい合い、お茶を片手にとりとめもない話を続ける未夢と彷徨。
 (どうしよう……)
 楽しそうに話し続ける未夢とは対照的に、彷徨は上の空であった。二人っきりになった彷徨がやりたいことはただ一つだけ。ただそれを始めるきっかけがつかめなかった。
 「彷徨、聞いてるの」
 「あぁ、ゴメン」
 離ればなれになってから、未夢が西遠寺を訪れたことは数回あるが、長時間二人っきりになれることはほとんどなかった。墓参りの時も宝晶らに隠れてキスするのが精一杯だった。最後に二人が愛を交わしたのはちょうど一年前の春休み、二人で四中に忍び込み、屋上での
 (このまま未夢を帰したくない)
 彷徨の我慢も限界に達していた。時計の針はちょうど五時三十分を差していた。
 「それでね、三太くん凄かったんだよ」
 「こっちに来いよ」
 「えっ、うん」
 きょとんとした顔の未夢は言われるままに彷徨の横に座った。そんな未夢の身体を彷徨は強引に引き寄せるといきなり唇を重ねてきた。
 「くちゅ…くちゅ…」
 彷徨の身体に腕を回し、忍び込んできた彷徨の舌に自分の舌を絡ませる未夢。二人の舌が生き物のように絡み合い、互いの唾液が行き交っていた。
 「ちょっと彷徨……」
 彷徨の手が強引に未夢の下半身に伸びていった。慌ててその手を払いのけようとする未夢。だが、その手はあっさりとワンピースの中に忍び込んでいった。
 「ん……んんんん」
 拒絶の言葉を吐こうとした未夢の唇を強引にふさいだ彷徨はパンティの上から秘部を激しく愛撫した。湿り気を帯びていた未夢のパンティにうっすらとしみが出来てきた。
 「お願い……やさしくして」
 涙を浮かべ懇願する未夢を床の上に押し倒した彷徨は、ワンピースをたくし上げ、純白のパンティを強引に引きはがすと、四つんばいにすると一気にペニスを未夢の中に挿入した。
 「この格好やだよ〜。お願い、前から……ふぁ〜ん」
 未夢の願いを聞き流した彷徨はバックから激しい勢いで未夢の身体を突き続けた。
 「未夢……未夢……」
 久し振りに味わう未夢の身体。とろけるような感触が彷徨のペニスを包み込んでいた。
 「彷徨……いい……いいよ〜……変になっちゃうよ〜〜〜」
 上半身を畳の上にうつぶした未夢もやはり彷徨と同じであった。身体全体を包み込むとろけるような快感。彷徨のペニスが子宮の奥に当たるたび、甲高い歓喜の声を上げていた。
 「ぬちゅぬちゅぬちゅ」
 「あん……あん……あん」
 ペニスが出入りする淫らな音と未夢の喘ぎ声が二人の興奮をさらに高めていった。未夢の口から漏れる喘ぎ声がすすり泣くようになり、蜜壺が彷徨のペニスをキュッキュッと締め付け始めた。彷徨は腰の動きを一段と激しくした。
 「未夢……イクぞ」
 「あたしも……来る……来るよ……彷徨……一緒に……あぁ〜〜〜〜ん」
 身体を仰け反らせ、頂点に達した未夢の丸みを帯びた白いヒップの上に、彷徨は白いエキスを発射した。

 「もう、強引なんだからぁ」
 「ゴメン…」
 「いいよ、あやまらなくても。あ〜あ、電車に乗り遅れちゃった。今日の『合わせて一本!』見たかったなぁ」
 衣服の乱れを整え終えた未夢はちゃぶ台の前に座ると、乾いた喉を冷め切ったお茶で潤していた。
 「五時四十五分か。まだ間に合うな」
 時計を見た彷徨は立ち上がると未夢の腕を掴んだ。
 「間に合わないよ。ここから駅まで十五分以上かかるんだから」
 「オレ、原付の免許取ったんだ。言わなかったか?」
 「聞いていないよ」
 「とにかく行くぞ。今出れば六時の電車に間に合うからな」



 「何とか間に合ったな」
 二人が駅に着いた時、時計は五時五十五分を差していた。時刻表を見ると次の電車は六時五分発だった。
 「じゃあな。気を付けて帰れよ」
 「彷徨……」
 改札口で見送ろうとした彷徨の手を未夢はぎゅっと握りしめた。
 「おい、未夢……」
 無言で彷徨を見上げる未夢は悲しげな表情を浮かべ、その目から涙が溢れ出ていた。
 「……帰りたくない。彷徨と離れたくない。もっと一緒にいたい……」
 潤んだ瞳で彷徨を見上げながら、未夢はしゃくり上げるような声で訴えかけた。
 「あれ、なんざんしょねぇ」
 「若いのに大胆ざんすねぇ〜」
 「よ、色男。女を泣かすなんてやるじゃねぇか」
 改札口の近くにいた人々の、好奇心に満ちあふれた視線が二人に注がれた。
 「ちょっと待ってろよ。オレの分の切符を買ってくるからな」
 未夢の腕を振りほどいた彷徨は入場券を買うために切符売り場へ走っていった。
 

 「落ち着いたか?」
 未夢を連れて人目を避けるようにホームに上がった彷徨は、空いてるベンチに未夢を座らせると自分もその横に座った。
 「うん。ごめんね、わがまま言って」
 「気にするなよ」
 「今日は楽しかったなぁ。ななみちゃんたちに会えたし、彷徨と一つになれたし。でも……今度いつ会えるのかなぁ……」
 再び悲しげな表情を浮かべた未夢。目から今にも涙をこぼれ落ちそうだった。
 (未夢……)
 そんな未夢の姿を愛おしく思った彷徨は人目もはばからず抱き締めた。
 「彷徨……」
 「約束する。今度はオレが未夢のところへ行く。来月……は無理だからゴールデンウィークには必ず行くぞ」
 「本当?」
 「あぁ、本当さ。オレが嘘ついたことあるか」
 「う〜ん」
 「何で考え込むんだよ」
 「か・な・た」
 彷徨の腕の中から抜け出した未夢はニコリと笑うと、小指を彷徨の方へ差し出した。
 「指切りしようよ」
 「こんなところで……恥ずかしいぞ」
 「やろうよ〜」
 「分かったよ」
 頬を赤く染めた彷徨は未夢の差し出した小指に自分の小指を絡ませた。
 「ゆびきりげんまん。うそついたら……ゆびきった」
 「嘘ついたらどうなるんだ?」
 「な〜いしょ」
 「あのなぁ〜」
 「まもなく一番ホームに電車が参ります。白線の内側までお下がりください」
 ホームのアナウンスが二人を現実の世界に引き戻した。未夢はベンチから立ち上がると、彷徨の頬に軽くキスをした。
 「えへへ…。じゃあね」
 頬を赤め、照れくさそうに笑った未夢は電車へ乗り込んだ。
 「おい………」
 「プルルルルル〜」
 あっけにとられ、ベンチに座ったままの彷徨の前で電車のドアが閉まった。彷徨の目に嬉しそうな顔をして手を振る未夢の姿が映った。
 (終)

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