テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル



[記事リスト] [新着記事] [ワード検索] [過去ログ]
タイトルRe^5: 小泉構造改革とはなんだったのか
投稿日: 2007/08/02(Thu) 22:33
投稿者おちょくり塾過去ログから
Subject:黒字・赤字という詭弁
From:北の狼
Date:2005/09/02 01:01
No:2648
郵政民営化反対の論拠として、しきりに以下のように主張されています。

”竹中大臣も国会答弁で述べているように、政府の「骨格経営試算」によると、郵便貯金事業が完全に民営化される2016年度には600億円の赤字に転落するが、一方、公社のままなら、2016年度に1383億円の黒字になる。だから、郵政公社を民営化することは誤りである。”

これは、文脈や数字の内実・意味をすりかえた、詭弁の一種ですね。

民営化した郵便貯金銀行とは違って、公社の場合は預金保険料を払わなくてもよく、郵便局会社への手数料への消費税も払わなくてすみます。したがって、郵政公社の郵便貯金事業は、民営化された郵便貯金銀行よりもコストが1983億円少ないので、1383億円の黒字になるのです。
上の反対論を読むと、いかにも「民営化しないほうが経営状態がいいのだから黒字になる」と政府が認めているように読めますが、実は経営の実態にはまったく差がないと前提したうえで、民間会社に当然必要とされる保険料や税金を払うか(民営化)、免除されるかで(公社)、将来的にペーパー上の収支にどういう違いが生じるか【試算】として述べたにすぎないものです。その目的は、莫大な「見えない国民負担」を算出することにあります。
まあ、極端なことをいえば、仮定の、または架空の数字ですね。それを、いかにも実態として政府がお墨付きを与えたのだ、と「誤読」して上のように主張しているわけです。

実際には以下のようなやりとりが交わされていますが、そこから恣意的に一部分を抜き出しただけのシロモノです(2005年6月6日 郵政民営化特別委員会)。


===================
○佐々木(憲)委員 
 そもそも民営化しなくてもできるということで公社はスタートしたはずであります。
 6月3日の当委員会の質疑の中で、小泉総理はこう述べています。郵政公社はこのままでいくと立ち行かなくなる、早い時期に民営化すべきだ、民営化しても利益を出せるような会社として国民の要望にこたえるような形にぜひともしていきたい。
 竹中大臣にお聞きしますが、ということは、郵政事業は、公社を続けるよりも民営化した方が利益が出るということでしょうか。

○竹中郵政民営化担当大臣 
 私どもが考えておりますのは、公社であるがゆえの、つまり国の機関であるがゆえの幾つかの制約がある。その制約を外して経営の自由度を拡大していただいて、もちろんそのときに民間とのイコールフッティングは大事でありますけれども、その自由度を持っていただくことによって、いろいろなビジネスの可能性が広がる。そうしたことをしていただくことによって、今総裁、先細りというお言葉も使われましたけれども、そういうものを克服してしっかりとした持続可能な経営基盤をつくっていっていただける、そのように考えているわけでございます。

○佐々木(憲)委員 
 私が聞いたのは、民営化した方が利益が出るのかと聞いたわけですけれども。
 具体的に聞きましょう。竹中大臣は、5月31日の当委員会の答弁でこう言っているんですね。「長短のスプレッドが今1.3%ぐらいで今の収益を生んでいるというふうに承知をしております。過去の平均が1%ぐらいでございました。この1.3%の長短スプレッドが仮に1%になったと仮定しますと、実はそれだけでほとんど公社の収支がとんとん、今は利益を出しておりますけれども、とんとんになってしまう。そういうやはり厳しい金融環境の中にあるというふうに認識しなければいけないと思います。」竹中大臣は、公社の郵貯事業の収益は、長短スプレッド1%という厳しい金融環境になれば収支がとんとんになると言ったわけですね。
 そこで、改めて聞きたいんですが、民営化された郵貯銀行の場合には、この公社よりも利益が確実に出ると言えるんでしょうか。

○竹中郵政民営化担当大臣 
 先ほど申し上げたことと重なるかもしれませんが、例えば、スプレッドが今縮小した場合という例を御紹介くださいましたが、そうした場合には、資産の運用の範囲を広げることができる。これは、公社の場合は安全資産に限定されるわけですけれども、信用リスクを、ビジネスに進出してしっかりとしたスプレッドを稼ぐという可能性が広がるわけでございますから、これはもちろん経営をしっかりしていただくということが大前提でありますけれども、そういった問題に対処して、新たな利益機会をつくっていくことができる。同様に、今、金融の例ですけれども、金融以外についても幾つかの可能性がある。そういう可能性について、私たちは、骨格経営試算を補強する収益の試算として御提示をしているところであります。

○佐々木(憲)委員 
 新規事業でもうけが出る可能性があると。しかし、新規事業でもうけが出ない可能性もあるわけです。
 新規事業というのは、これからゼロから出発していろいろなことをやっていかなければならぬ。しかし、それはやってみなければわからない世界の話ですから。今おっしゃった、竹中大臣、骨格経営試算、これでまず比較すべきだと思います。
 民営化された郵貯銀行、それと公社の収益を比較してみたいと思うんですが、まず確かめたいのは、長短スプレッドが1%の場合、骨格経営試算における郵便貯金銀行の2016年の利益試算、これはどうなっていますか。

○竹中郵政民営化担当大臣 
 骨格経営試算ですから、新規のことをやらない、そういう場合でよろしいわけですね。(佐々木(憲)委員「はい」と呼ぶ)
 これにつきましては、税引き前の当期利益が、2016年度でございますけれども、2015年度のプラス200億円から2016年度にマイナス600億円になるということでございます。

○佐々木(憲)委員 
 赤字になるんじゃありませんか。しかも、巨額の赤字ですね。金融サービスを郵便局で保証するためにつくられた地域貢献基金からの投入額は120億円、その5倍の赤字が出る。
 では、郵政公社が続いた場合についてお聞きをしたい。2016年度の収益は、スプレッド1%の場合、公社が続いた場合はどうなりますか。

○竹中郵政民営化担当大臣 
 公社が続いた場合は、民営化される場合に比べまして、これは、租税を払わない、そして預金保険料を払わないということになりますから、その租税が上乗せされ、そして預金保険料が上乗せされた形になりますので、単純にそれを計算いたしますと、1383億円という数字が出てまいります。
 ただし、この1383億円は、民営化の場合だったら払っていた租税848億円、預金保険料1135億円を払わない場合ということでありますので、その分の利益が上乗せされて出ているということになるわけでございます。

○佐々木(憲)委員 
 つまり、民営化された場合には600億円の赤字になる、民営化されずに公社のまま続いた場合には1383億円の黒字になる。それは、民営化したら、預金保険料を払うあるいは消費税を払う、余分な負担がかかるわけですよ。だから赤字になるんですよ。だから、結局、公社の場合、この利益の半分が国庫納付金になったとしても、公社の方が利益が多いんです。どう試算しても公社の方が利益が多くて、経営が安定するんじゃありませんか。民営化した場合には赤字になる、公社の場合は黒字になる、これが骨格経営試算の結果じゃありませんか。
 どうなんですか、これは。今まで言っていることと全然逆の結果が出るんじゃありませんか。

○竹中郵政民営化担当大臣 
 それは、税金を払わなければその分恵まれた状況になりますから、それは、とりもなおさず、公社の形態では民間企業の場合に比べてイコールフッティングが確保されていないということをそのまま佐々木委員はおっしゃっておられるわけです。そういう計算をしますと、これは、むしろその分民間に比べてそれだけ公社は恵まれているということを意味してしまうのだと思います。
 現実に何が起こり得るかといいますと、民営化することによりまして、さらに新しい、新規のビジネスが可能になるわけでありますから、その可能性については、私たちはかなりしっかりと幾つかの可能性を示しております。そういうものが、つまり、公社から民営化されて、それで何もしなければこうなるということとは、これはやはり意味が違うわけでございます。
===================


竹中大臣も述べているように、本当は以下のような文脈で読まなければいけないものです。

「試算によると、2016年、公社形態で1383億円の黒字が出ると算出されたが、これは税制の優遇や国家保証などの特典によるものである。民業圧迫にならないようイコール・フッティングを確保したうえで、民間と同じ条件でも黒字になるように新規ビジネスを展開するなどの努力を民営化に向けてしなければならない。」

赤字と黒字の差とした算出された1983億円は、公社のままだと将来予想される「見えない国家負担」を表しているのであり、このような国家負担を民営化によって解消してゆき、もって国家財政に寄与させるべきだ、というのが本来の趣旨です。赤字か、黒字か、には大した意味はありません。
.
............................................................................

Subject:骨格経営試算
From:ore3
Date:2005/09/02 16:44
No:2650
初めて書き込みます。北の狼ファンクラブのサイトから辿ってきました。
北の狼さんの「赤字か、黒字か、ということ自体には大した意味はありません。」に同意します。

--------------------------------------------------------
平成16年11月10日「郵政民営化に関する有識者会議」

[竹中大臣]
このシミュレーションの趣旨として、さっき担当の高橋参事官が説明したのは、非常に極端な資本政策によって、バランスシートは非常に大きな影響を受けるわけですね。例えばですけれども、窓口ネットワーク会社の収支が厳しいかもしれない。そうであるならば、例えば経営戦略としては、公社の持っているすべての不動産をそこに持たせて、そこでレントで稼ぐようなシステムを入れてやろうというようなことをもし無理やりすれば、収支に影響を与えることはできるわけです。でも、そういう恣意的なことをやらないで、自然体で切り分けて、それでやりますと。実際問題として、資本政策としてどういうことであるかというのは、最終的な経営の判断の問題では非常に問題になってきますから、そういうことはやるわけですね。
 今やっているのは、まさにそういう意味では骨格をつくって、だからシミュレーションと書かないで、骨格試算と書いているわけですけれども、それをつくって、それぞれの事業が大きな枠組みとして、サステインされるということを確認した上で、それで次の段階としては政策シミュレーションをやらなければいけません。どのような政策をとるかによって、どういう結果が出てくるか。さらには、その次の段階としては経営シミュレーションが出てきます。翁委員も言われたように、例えばこれはどの程度の新規事業ができるかどうかというのは、これは我々で判断できませんが、次の経営者が判断して、ここで新規の事業をこれだけできるとしたらどのようになるかと、そういうベースになるものを骨格試算として示そうということですので、高橋参事官が言ったのは、そういう意味でバランスシートというものに対して、特定の判断を与えないようにしようと、バランスシートが特別な形でフローの収益に影響を与えないような試算をしようと、そういう趣旨ですので、バランスシートはフロー、P/Lをつくってバランスシートをつくって、そこからP/Lをつくっていくということで出てくるわけですけれども、それを出すのが妙な予見を与えてしまわないかどうか、その点はちょっと確認して、出し方としてはいろいろあるんだと思いますので、そういう意味ではちゃんとした計算をやっているはずですので、ちょっと出し方は検討してもらえればいいんだと思います。
--------------------------------------------------------
と、言っている通り、あれはシミュレーションではなく、あくまで「骨格」であり、今後行われるであろう政策シミュレーション、経営シミュレーションの標準シナリオという位置付けですね。

大体、経営シミュレーションではなく「新規事業が全く考慮されていない一方で、民間企業として租税・預金保険料などのコストをフルに負担するような前提」の単なる骨格を作って10年後も黒字になるような試算結果の出せる企業なんて、そうそうあるものでもないと思いますが...

あの骨格経営試算を根拠に赤字だ赤字だと騒ぐ佐々木議員が実に滑稽に見えます。
答弁する竹中大臣もさぞ大変だったことでしょう。

全く個人的な意見ですが、「民営化反対の材料として骨格試算を持ち出す」という事に対して非常に違和感を覚えます。
あれは「さあ骨格ができました。それでは今後、どのような政策、経営戦略を練りましょうか」という、叩き台となる試算であり、民営化賛成者のための資料となるべきだと思っています。

--------------------------------------------------------
佐々木議員は、「新規事業といっても人材もノウハウもないところから始まる事業で簡単に利益を見込めるものではない」「赤字になれば法人税も国に入らない」と指摘。公社のままなら利益の半分を国庫納付金として納めた後でも692億円の利益が残ることをあげて、竹中担当相の弁明をつきくずしました。
http://www.sasaki-kensho.jp/else/article/else_050606.html
--------------------------------------------------------
などとご自分のホームページで勝利宣言までして、いやはや...
.
............................................................................

Subject:郵政民営化について(終):田中角栄というモンスター
From:北の狼
Date:2005/09/09 01:55
No:2679
台風に選挙と、今週は大変ですね。
次にいつ投稿できるか分りませんので、小泉構造改革・郵政民営化について一区切りの投稿をしておきたいと思います。


過去に何度も述べましたが、小泉構造改革というのは、つまるところ「田中角栄的なもの」の払拭を意味します。
「田中角栄」を原理としたからといって、いまの日本の情況全てが説明できるわけではありませんが、しかし、「田中角栄」を無視してしまっては、今の日本の情況のコアーを理解することはできないでしょう。田中で全てを説明しようとすれば過大評価ですが、どの面においても田中を無視したら過小評価になります。そして、日本のあちこちで、かつて、そして今もミニ角栄が跋扈しているというのが、日本の政治状況です。
今から述べることは、そういった感じで読んでください(参考:『田中真紀子研究』立花隆)。


【政治家】

たとえば、羽田孜、小沢一郎、渡辺恒三、綿貫民輔、梶山静六、奥田敬和、石井一といった政治家は、田中角栄が幹事長として采配を振った最初の選挙で当選してきたので、「昭和四十四年当選組」と称されている者たちです。四十四年に三回目の当選を果たした橋本龍太郎、小渕恵三もずっと田中派所属で、竹下登、金丸信、後藤田正晴、二階堂進、野中弘務、・・・・数え上げたらキリがありませんね。
あの細川護熙にしても田中派時代が長く、武村正義も国会議員に転職する時に田中の世話になっています。他の派閥に属していた議員にしても、隠れ田中派は腐るほどいました。公明党と田中の蜜月ぶりに関しても、多言は無用でしょう。


【官僚】

官僚に目を向けますと、田中角栄の官僚操縦術はずばぬけていました。
田中以前は、新憲法が発布されたとはいえ、「官僚は天皇に対してのみ服従義務を負い、天皇に対してのみ責任を取る」という明治以来の気質が色濃く残っていました。かように日本は歴史的に官僚の力が強いので、大衆の間には反官僚意識が強く、国会の場などで官僚がやりこめられたりすると、拍手喝さいとなったりするわけですが。もっとも、官僚が政治セクターに対して拮抗する力をもっていないと、三権分立が上手く機能しませんから、官僚は国家公務員法によって身分が保障されており、政治家が恣意的に官僚の身分を動かすことはできないようになってもいます。
そういった官僚たちを田中は上手く利用したのですが、その方法は官僚に思う存分仕事をさせて、何かあったら田中が責任を取るというものです。「学者は駄目だ。世間知らずだ。連中の話など聞いても机上の空論だ。一文の得にもならない。彼らの意見を聞きたいならお前が聞け。俺は、それより官僚だ」との信念を持っていた田中は、庶民宰相と持てはやされながらも、ある意味で官僚主義の権化のような存在だったと言えましょう。

”田中は、役人の正、負の特徴を仔細に知り、以後、手足のように彼らを動かした。役人の苦手なアイデアを提供、政策の方向を示し、失敗しても、責任を負わせることはしなかった。心から協力してくれた役人は、定年後の骨まで拾った。入省年次を寸分違わず記憶し、彼らの顔を立て、人事を取り仕切った。
角栄についていれば損はない。思えば思われる。角栄の経験、才幹と腕力、それに役人の知識、ノウハウがドッキングして、相乗効果を発揮した。”
(『駕籠に乗る人・担ぐ人』 早坂茂三)

「定年後の骨まで拾った」というのは、要するに、定年後・退職後の天下りのポストを確保してやったり、選挙に立候補させてやったりしたということです。そして、天下りのポストを確保するためもあって、特殊法人は田中によって量産されたのでした。また、盆暮れには幹部職員に「別封」と呼ばれた現金を送ったりしていたのですが、百万単位の半端な額ではなかったそうです。こうして官僚のモラルまでもが低下していったわけです。


【郵便局】

田中が、<集票マシーン>兼<集金マシーン>として、(無集配)特定郵便局を粗製乱造したことは、以前に述べましたので割愛します。


【外交、貿易】

田中は外交問題における独特の解決法を考案しており、その嚆矢は1971年の日米繊維交渉でした。
当時、通産大臣だった田中は、日米の繊維摩擦を外交問題として解決するのではなく、日本国内の問題として捉え、これをお金で解決するというウルトラCを考案しています。その方法は、外交ではアメリカに譲歩して日本からの繊維輸出を規制し、それで被害を受ける日本の業者に対しては被害額を算出して補償する救済措置を打ち出すというものです、この際、補償額をケチらないどころか、場合によっては数倍もの補償を与えるというのがミソです。つまり、札束で頬を引っぱたいて言うことを聞かせ、日本の中小繊維企業を次々と廃業させていったわけです(実は、私の実家も、このようにして小さな機織場を閉鎖しています)。

以後、この「田中方式」は貿易摩擦を解決する際のお手本となっていきます。竹下内閣による牛肉・オレンジ問題、焼酎・ウイスキー問題、ウルグアイ・ラウンド対策(コメ問題)、牛肉のBSE対策、と。
コメといえば米価算定の際の生産費補償方式ですが、この方式は、かかった生産費を100%補償するというもので、これが日本のコメの生産性の向上ならびに国際競争力を削いできたとされています。そして、この方式をフル活用して、農業セクターへの気前のよいバラまき農政をはじめたのが、池田内閣時代の田中角栄大蔵大臣です。
そして、この「田中方式」は多額のお金が動きますから、当然のごとく汚職などの温床になっていき、他方で国家財政を圧迫することにもなりました(ウルグアイ・ラウンド対策費だけでも6兆円になっています)。


【道路】

田中角栄の最大の利権は道路でした。ただし、運輸のほうは中曽根で、田中は土建のほうですね。ロッキード事件は、田中が不慣れな運輸利権に手を出してしまったために、脇の甘さをつかれたものとも解釈できます。また、同事件で中曽根の名前が取りざたされたのも、当然といえば当然ともいえます。

田中は昭和28年に「道路整備の財源等に関する臨時措置法」(ガソリン税を道路整備の財源にする内容)という法律を議員立法でつくっていますが、これにより道路予算が一挙に増え、田中は道路族の元祖となりました。ちなみに、田中は議員立法によって三十三もの法案を成立させていますが、この記録は圧倒的です。
この法の効果もあって、2002年の道路特定財源は五兆五五〇〇億円と、防衛費の二倍を越えています。こうなりますと、旧建設省の道路局は田中にまったく頭が上がらないことになるわけです。

“田中さんと官僚の関係ですか。やっぱり僕らは道路財源を確保するガソリン税法などを通じて、田中先生に大変な恩義を感じていますから。頼まれたことはできるだけ協力するのにやぶさかではなかったですね。私に限らず建設省としてそうです。”
(高橋国一郎 元建設事務次官)

このような関係を雛形として、建設省=族議員=土建業者というトライアングル(政官業)が形成されていくことになります。族議員は官に予算を引っ張ってやり、特殊法人をつくり、それが官の利権の源泉となります、そして、官は政治家の口利きで地元の業者に数々の公共事業・公共投資を回してやります。その見返りに業者は政治献金をしたり、選挙を応援したりします。さらに、官僚が政界に進出する時はバックアップします。
こういう政官業のトライアングルの癒着構造を、システマチックかつ大規模に完成させたのが田中です。


【参議院】

官僚と選挙といえば参議院ですね。かつては知性と良識の府と称された参議院ですが、田中角栄の出現以来、巨大労働組合、巨大宗教、巨大職業団体(医師、薬剤師、歯科医師、など)、巨大利益擁護団体(軍恩連、遺族会など)などが跋扈するようになり、なかでも国内最大の官僚組織がグループとしては最大の規模を誇っています。参院の全国区は、ある程度の規模の全国組織が組織的に選挙をおこなえば、必ず議席をとれます。
こういう流れのなかで田中は参議院で圧倒的な強さを誇り、自民党内で政争があるたびに、参院自民党の主流を握る旧田中派=旧経世会が威力を発揮してきました。現在、参議院の実力ナンバーワンは青木幹雄氏ですが、もちろん青木氏の出自は旧田中派=旧経世会です。もっとも、最近は青木氏の威光も衰えてきたようですが、それもやはり小泉が首相の座にいるからこそです。

特定郵便局も組織的選挙をやっているのですが、2002年の参院選全国区で、全特(全国特定郵便局長会)は旧郵政省OBの高祖憲治氏を当選させています。しかし、特定局長は国家公務員であり、国家公務員法第102条や人事院規則によって、選挙において特定の候補者や政党を支持し、政治的行為をすることは本来禁じられているのです。そこで、全特は任意団体であり特定局長が「私人」として参加しているとし、選挙活動を行っていました。しかし、この時の参院選では、近畿郵政局長らの逮捕にまで発展した大規模な選挙違反事件として摘発され、結局高祖氏は辞職しています。小泉内閣でなかったら、この選挙違反はどうなっていたか分かりませんね。


【土地神話】

田中の影響は、銀行の不良債権問題においても認められます。
銀行の不良債権問題の本質は土地にありました。銀行はバブル時代にじゃぶじゃぶとお金を貸したのですが、その担保のほとんどが土地でした。しかも、担保価値はバブル時代にバカみたいに跳ね上った地価をもとに算出されていたわけです。やがて、バブルの崩壊とともに地価は下落し、この値下がりのためにほとんどの担保(土地)を処分できないか、できても貸金を回収できないという事態に陥ってしまいました。これが、銀行の不良債権の実態でした。
なぜこういうことになったのかというと、戦後一貫して土地が値上がりを続け「土地神話」がつくられ、その「神話」のうえに日本経済の基礎が形成されてきたことが根本的な原因でした。この「土地神話」形成に決定的な影響を与えたのが、やはり田中角栄です。

土地と田中角栄というと「日本列島改造」(公共投資の大判振る舞い)ですが、実は「土地神話」の形成はそれ以前からはじまっています。
田中は昭和25年に「国土総合開発法」をつくり、昭和37年、自民党政調会長だった田中は「全国総合開発計画」(一全総)をつくります。そして、一全総の目標年次(昭和45年)が近づきますと、今度は「新全国総合開発」(新全総、または二全総)をつくり、この流れで「日本列島改造」が生まれてくるわけです。そして、三全総、四全総と続き、さあ開発だということで土地の投機に火がつき、その後バブルに突入していくわけです。この間、地価は多少の例外を除いてずっと右肩上がりで推移しています。
この全総も、やれ工業用地だ、やれテクノポリスだと煽っておいて、インフラ整備だけは行いましたが、結局、いくら誘致しても企業も研究機関も来てくれず、整備されたインフラも利用されずに終わり、全国各地にその残骸をさらしています。


【公共事業】

バブル後の不景気から脱却するために、田中同様、歴代内閣も公共事業を大判振る舞いしましたが(橋本内閣は一時抑えようとしました)、その狙いは、全総の発想に基いて地価を上げることに最大の眼目があったと言ってもよいのです。地価が上昇すれば自然と銀行の不良債権が減少し、景気も回復するという次第です。
しかし、数百兆円のばら撒きを行ったにもかかわらず、効果は限定的でした。つまり、日本経済の基礎構造は、バブルの崩壊とともに「土地神話」から脱却してしまっていたのです。そんなところに、全総型の発想(公共投資の大判振る舞い)を持ち込んでも効果がないことは自明だったのですが、しかし、政治とりわけ政官業(財)の癒着構造にどっぷりつかっていた利権家たちはそのことに気づかず、馬鹿な経済学者の煽りもあって(その典型がリチャード・クーや「新党日本」の副代表に現在おさまっている紺谷典子です)、経済が回復しないのは財政出動がまだまだ足りないからだという理屈で公共投資をどんどん増やしていったわけです。結局、後に残ったのは膨大な財政赤字のみで、それの尻拭いを今、小泉政権がやっているところです。

“この時期、土地のほかに、政治家とカネを結びつけることになった媒体に公共事業がある。一全総、二全総ともに全国に公共事業をばらまいたが、一全総がいわば「点」的に公共事業を展開したのに対し、二全総は「線」的、「面」的な公共事業を繰り広げた。新幹線、高速道路が「線」、国際空港、同港湾、大規模工業基地などが「面」にあたる。それら公共事業がかつてない規模でおこなわれたのである。
公共事業でもっとも注目されるのは「箇所づけ」である。いつ、どこで、どれくらいの規模の、どのような事業がおこなわれるかということである。企業(土木建設業)と地元は、自らを豊かにする「箇所づけ」を知るのに血眼になるが、その情報は中央省庁が一手に握っている。それは建設省、運輸省、あるいは農水省といった公共事業官庁ということになるが、これら省庁が情報を独占しているということは、その省庁を支配している政治家のところに情報が集中することを意味する。この時期でいえば、田中の情報量がもっとも大きい。田中と企業、地元とのつながりが、公共事業を軸に年々より強固なものになると同時に、田中のところには情報の見返りとしてのカネが入ることになる。もちろん、その過程で多くのミニ田中がうごめいていたのはいうまでもない。
(中略)
このようにマクロの政治体制においても、ミクロの政治体制においても、官の情報にもとづき、権力を有する政が、事業がほしい財界にその口利きをして政治資金を得る手法が一般化し、政・官・財の構造的三角関係がより強固に構築されていった。二全総以降のロッキード、共和、リクルート、談合、佐川急便事件、ヤミ献金事件等は、おおかた田中がまいたタネから派生したものといってよい。それらはすべて土地と公共事業とその許認可に関連したものであった。田中は一全総〜列島改造論に至る過程でその手法をフルに活用して、結局はロッキード事件で自縄自縛に陥ったが、その手法だけは今日に至るまでなお生きているといっていいだろう。“
(『国土計画を考える』 本間義人)



繰り返しになりますが・・・・「田中角栄」を原理としたからといって、いまの日本の情況全てが説明できるわけではありませんが、しかし、「田中角栄」を無視してしまっては、今の日本の情況のコアーを理解することはできないでしょう。田中で全てを説明しようとすれば過大評価ですが、どの面においても田中を無視したら過小評価になります。

小泉構造改革とは、「田中角栄的なもの」によってしゃぶりつくされ滅茶苦茶にされた、日本の政治、経済、社会の再生に他ならないのです。
郵政民営化について論じていると、上にあげた「田中的なもの」の殆ど全てが不可避的に顔を覗かせることになります。つまり、郵政民営化というのは、かようにいろいろな問題と関連しているわけです。
.

- 関連一覧ツリー (★ をクリックするとツリー全体を一括表示します)