なごみが帰ってきてから、色々な事があった。
帰ってきたその年に、スバルがオリンピックで銅メダルを獲った。
そして、世界ネットでのプロポーズ。あいつは二度も日本をわかせやが
った。マダムは出涸らしの貰い手が見つかって大変喜ばれたそうな。
その2ヵ月後、2人は結婚式を挙げた。
式では俺が仲人を務め、緊張のあまり声が裏返ったりして恥をかいてし
まった。
フカヒレの奴は2人のために作った曲を披露した。何年も後に、その曲
は結婚式の定番ソングとなった。
結婚式の料理は、なごみがシェフを任され、海外で磨いた腕を披露した。
その料理を食べた姫は、今のシェフをクビにして、今すぐ専属のシェフ
にスカウトしたいと言ってくれた。
ちなみに今回のブーケ投げも乙女さんがゲットした。

そんで、カニ・スバル夫婦はお隣さんとなった。
カニは今、「伊達きぬ」としての人生を送っている。改姓については、
マダムと一悶着あったらしい。スバルが婿養子に入って蟹沢を名乗ると
言ったらしいけど、マダムが出涸らし(カニ)と同じ姓を名乗るのは終り
にして欲しいとか言い出したもんだから喧嘩になったという話。なんと
かカニが伊達姓になる事で決着がついた。スバルはマスオさん状態って
訳だ。
おかげで毎日のようになごみとカニの喧嘩を見なければならない羽目に
なっている。


カニ抑止役のスバルはメダル獲得の後にプロ転向してから、取材や何や
らで不在が多い。俺だけじゃなかなか止められない。2人の喧嘩は近所
の名物となっている。
ついでに夕方の買い物時には、なごみとカニ親子の壮絶なバトルが繰り
広げられていて、これもまた近所の名物となっている。

フカヒレはなごみが帰ってくるまでにメジャーデビューは出来なかった
が、翌年にメジャーデビューが決定したそうだ。
彼女も出来たらしく、俺に自慢してきた。じつは2年ほど前からつきあ
ってたらしい。その彼女は竜鳴館の後輩だそうだ。童貞を卒業したのか
どうかは別に俺にとってはどうでもいい……。聞かないでおいた。


そして、俺となごみはと言うと―――

「妊娠だって!!?」
「ハイ……」

夕食時。
今日、なごみは身体の異変を感じ、産婦人科に行ったところ、妊娠した
という事実を伝えられた。いつもは避妊には気をつけているけど勢いで
「間違う」事は何度もあった。思い当たる事は沢山あったけど、今まで
そうならなかったのが不思議なくらいだった。


やったじゃないか! なごみ! ついに俺もパパか〜」

俺は跳び上がって喜んだが、なごみは複雑な表情だった。
実言うと、最近やっと俺たちの夢が実現に近づいていた。なごみはシェ
フとして自信がつき、俺も経営のノウハウがわかってきた時だった。開
業資金もなんとか目処がつくようになった。
妊娠したとなれば、とても独立して店を開いている場合じゃないし、産
休、育休暇児をとらなければならない。夢の実現が遅れてしまう。

「なごみ、店を開くのは当分無理になるけど、いいじゃないか。店は後
 でだって開ける。今はお腹の中の子供を一生懸命育てようぜ? 元気
 に生まれるようにな」

妊娠させたのは俺だし、偉そうなことは言えないけど、これから生まれ
る命を大切にしなきゃな。

「……! ハイ! それはもちろんですよ!」

なごみの元気な返事が返ってきた。

「これから”3人”で頑張っていかなきゃな!」
「ハイ! ……そうだ! 早くお母さんとお養父さんに知らせないと!」

なごみは電話ではなく、直接のどかさん達の元に行った。なごみは戸惑い
は少なくともあっただろうけど喜んでいないわけじゃなかった。

のどかさん達は初孫の誕生に抱き合って喜んでいたらしい(なごみ談)。
「かなえ」にとっては甥、もしくは姪が誕生したわけだ。


俺はすぐに隣に住むカニとスバルに俺の子供が出来た事を話した。2人は
素直に祝福してくれた。

その1週間後、隣の夫婦もパパ、ママになったという知らせが入った。
カニの奴は胎教音楽にデッドを聴かせているらしい。大人になってもカニ
の頭はカニミソのままだった。


そして月日は流れて……

「何だこの甲殻類が!」
「ウルセー! この単子葉類!」

なんで同じ病院に入院するかなあ……
いつも病院に来るたびそう思ってしまう。なごみとカニは1日違いで子供
を出産した。そんで同じ病室で入院してるもんだからいつものように喧嘩
している。毎日のように医者&看護婦に叱られる日々。遠くから眺めてい
れば微笑ましい光景に見えなくもない……? 一緒に来ていたのどかさん
も、ただ微笑んでいるだけだった。
もうすぐ退院だってのに何やってんだか。

「「う、う、おぎゃあぁ」」

見ろ、言わんこっちゃない。俺となごみの息子「吼太」と、カニとスバル
の息子「隼人」が泣き出してしまった。

「あらあら。吼太ちゃーん。おばあちゃんですよ〜」
「あっ、母さん。それはわたしの役目……」


のどかさんが吼太を抱き上げてあやすと、不思議とすぐに泣き止んだ。俺
があやしてもなかなか泣き止まないのに……。さすがだ。向こうもカニが
何とか泣き止ませたようだ。
それを見て安心した俺はなごみのベッドの脇に行った。なごみはちょっと
不機嫌そうな顔だった。

「そんな顔するなよ」
「ですけど……」

「ゴホン」

カニがわざとらしく咳払いした。

「おめーら何コソコソ話し合ってんだよ。まったくこっちはダンナが来な
 くて寂しい思いしてんのに」

スバルは昨日から日本選手権で松笠にはいない。

「まあまあ、いいじゃありませんか〜、きぬさん。こっちは女同士で楽し
 くお話しましょう〜」
「あんたはいっつも楽しそうだな〜」

カニとのどかさんはこの入院を期に仲良くなった。カニがのどかさんのペ
ースに巻き込まれるような形になっているだけなのだが、カニは嫌な顔一
つせずに、むしろ来るのを楽しみにしている節がある。


カニとのどかさんの話に花が咲き始めたところで、俺はなごみを見た。な
ごみは料理の本を読んでいた。やはり母親の顔になっていた。うまくは言
えないけど、なにか強さを持ったような。なごみもカニも母親になったん
だと感じた。

「なあ、なごみ」
「なんですか?」
「吼太が大きくなったら今度こそ店を開こうな?」
「もちろんですよ。あなた」

何年も前に誓った夢。
今度こそ叶えなきゃなと思った。

〜1年後〜

だけど、その夢は叶えられなかった。
っていうか延期した。

なごみに「2人目」が出来たから―――


(作者・TAC氏[2006/02/16])


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