8話 夢のなかで
「大丈夫?」
全然大丈夫なんかじゃない。
でもあたしは頷いた。
「ゴメンね……」
謝って貰っても何にもなんない。
あたしは首を振った。
南くんは心配そうにあたしを見ていた。
「あの後、つるぎを取られたスキに、僕があの熊つるぎを倒したんだ。だから、蘇我を倒す手伝いをしなくてすんだんだよ」
「……」
それも、これも正直どうでも良かった。
ただ、あたしはキュウが死んだのが悲しくてならなかった。
「……そこが、うちだから」
あたしは南くんに言った。
ほっといて欲しかった。
「……分かった。ごめんね。もし何か僕に出来ることがあったら、何でも言ってね」
「……」
あたしは頷いた。
南くんは、ホッとしたように笑顔を見せて去っていった。
あとには、あたしと、死んだキュウがあたしの手の中で眠っていた。
もう起きることはない。
永遠の眠りに。
「……!」
あたしは、声を押し殺して家に駆け込んだ。
お父さんの「夕飯出来てるよ」と言う声も耳にはいらなかった。
ただひたすら、ベッドに突っ伏して泣きじゃくった。
そして……泣きながら、眠りへと引き込まれていった……。
古沼に狐がいる。
何をするわけでもなく佇んでいる。
あたしはたまにそれを見かける。
すると狐は、いつもあたしをみては一声鳴くのだ。
「何が悲しいのだ?」
「!!」
いつもの夢と違う。
あたしはびっくりした。
「娘よ、何故に驚く」
「……狐さん、日本語話せたの?」
「ほっほっほ。夢だからの。娘よ、何が悲しいのだ?」
「……あたしの大切なものが、死んじゃったの」
「ほう。ほう。それは悲しいのう」
全然悲しそうじゃない。
ちょっとむかついた。
あたしは思わず拳を握った。
「生き返らせたいかえ?」
「……そりゃ、もちろん」
「生き返らせてやろうか?」
「……」
これはもしかして、あたしが見たい夢を見てるだけなのかな。
夢の中で、もしかして霊感商法とかにつかまりそうなのかな。
「生き返らせたいのなら、明日の午後、余の所に来るがよい。この、沼を探すのじゃ」
「……」
なんかRPGっぽい。
あたしの目は知らないうちにうさんくさそうな奴を見る目になっていたかもしれない。
だってお父さんも変な人について行っちゃいけないって言うし。
「こら、余を何て目で見てる」
怒られた。
「だって、キュウは死んじゃったんだよ。狐さん、ゲーム会社に勤めてるの?」
「何じゃそれは」
やっぱり頼りになれない。
あたしはため息をついた。
「それならダメかもしれないけどお父さんに頼んだ方がいいよぅ」
「ほっほっほ。無駄じゃ無駄じゃ。作る技術があったからと言って、直す技術があるとはかぎらんじゃろ?」
「じゃあ、狐さんにはキュウのつるぎを治せるって言うの?」
「ほっほっほ」
狐は、すうっと、目を細めた。
「それの正式名称をいってみよ」
「それって……?きつねつるぎ?」
「ほっほ。それじゃあ、娘は、今まで、きつねつるぎをみたことあるかえ?」
「??どういうこと?」
「狐のつるぎじゃ」
「……」
そういえば、ない。
このゲームの名称がなんできつねつるぎなのかって良く話題になる。
でも結局の所、正式な回答はないから……。
狐は何にでも化けられる。だから、「きつね」つるぎなのかなって思ってた。
そんで、タイトルがきつねだから狐剣だけはできないのかなって。
あたしがそう言うと、狐はまた目を細めて笑った。
「違うのぅ。狐つるぎは、最高のつるぎじゃ。じゃから、そんなそこらにある狩った狐の毛を使ったところで、出来るわけないのじゃ」
「へぇ……」
なんでそんなこと知ってるんだろう?
「でも、あたしは狐つるぎが欲しい訳じゃないよ。キュウをただ、生き返らせたいだけなの」
「分かっておる。そのための方法を今、教えているところなのじゃよ」
「どうするの?」
「だから小沼に来いといっておる。そうしたら、必ず娘の剣は蘇る」
「ホントに?」
うさんくさい。
「よいか、必ずくるのじゃぞ!」
言って狐はかき消えた。
後にはただ、あたしが残るばかり。
しかたなく、あたしはその小沼の姿を目に焼き付けた。
どうか人さらいじゃありません様に。
そしてどうか、ただの夢じゃありません様に。
9話 剣を求めて
1話 夢の出会い
2話 日常
3話 新製品
4話 大会前
5話 ライバル?
6話 ネオドランス
7話 とりかえしのつかない戦闘
8話 夢のなかで
10話 夢の通い路
11話 きつねつるぎ
12話 その後
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