7話 とりかえしのつかない戦闘
操作の仕方は、南くんが知っていた。
偶然大人はおらず、ゲームにすぐに入れた。
広い草原。
あたしと柴犬つるぎのキュウ。南くんと、ウサギつるぎ。
中島くんと熊つるぎ。そして山口くんと猫つるぎ。
この世界にいるのは、四人と四匹だけだった。
「キュウ……!」
あたしは初めて立体のキュウに会えて感激していた。
そのふわふわの体をなでこする。
あたたかい。キュウ!
「じゃあ、約束しろよ。南は俺らに負けたら、蘇我を倒す手伝いをする。その女は、そうだな……つるぎでも貰おうかな。あんまり良さそうなものじゃないけど」
ええ!? 嫌だよ!
キュウは誰にも渡さないもの!
「……わかった」
南くんは頷いた。
あたしは首を振って南くんをみた。
多分泣きそうな顔をしていると思う。
「大丈夫、俺が勝つから」
そう囁いて、南くんは自分のつるぎを剣にした。
あたしはこっくり頷いた。
キュウを抱きしめる。キュウは、安心させるようにあたしの頬をなめた。
南くんはその剣をまず猫つるぎに振り下ろした。
猫は俊敏にそれを避ける。
南くんは剣を投げ、獣型に戻した。
猫とウサギでは、相性が悪い。
何をするつもりなんだろう。
あたしは冷や冷やしながら見ていると、ウサギつるぎは猫つるぎに襲いかかられた。
危ない!
その瞬間南くんはウサギを剣型に戻し、その硬い鉄の剣に食らいついた猫は、まごついた。
そして柄を握った南くんは、その剣を一閃した。
その瞬間、山口くんと猫つるぎはいなくなった。
勝ったみたいだ。
やった!
「獣型に出来るなら、その逆も自由に出来ると思ったんだ」
ぽそり、と南くんは言う。
あたしが歓声を上げようとした瞬間、目の前の風景が吹っ飛んだ。
ジジ、と音がして、体がしびれたような感覚になった。
「痛い……!」
次の瞬間、あたしはヘルメットをかぶった状態で椅子に座っていた。
プシュー、と音がして、ヘルメットがはずれる。
え ?
何が起こったのか分からなかった。
「お前は、負けたんだよ」
憮然とした顔をして、六年生の山口くんはあたしの方に寄ってきた。
あたしは椅子から立ち上がった。
内部からもモニターが見える。
中島くんの熊つるぎと、南くんのウサギつるぎが戦っていた。
ああ、そうか。
あたし、中島くんの熊つるぎに殴られたんだ。
そんで、離脱したのか。
あたしはドキドキしながら、自分のつるぎを引き抜いた。
なんともない。
よかった、死んだのはあたしだけか。
「えっ!!」
カードを眺めてると、いきなり山口くんがあたしのカードを奪った。
「な、何するの!返してよ!!」
「うるせえな。俺のつるぎが壊れちまったんだよ。お前負けたじゃねぇか。約束だ、これ貰うぜ」
え!?
あたしは団体戦で、二人とも負けたらって意味だと思ったのに……。
「や、やだ! 返して……!」
あたしが半泣きでそう言ったけど、山口くんは怒った声で「嫌だね! 南をぶっ倒してやる!」と言って、早々にネオドランスの世界に行ってしまった。
残されたあたしはどうしていいか分からなくて、涙が出てきた。
そんななかもモニターは闘いの風景を映し出す。
そこに、キュウをつれた山口くんが参戦した。
「その犬……」
南くんのいぶかしそうな声がモニターから聞こえる。
「さっきの女の子のじゃないか?」
「さあな! でも今は俺のものだぜ!」
山口くんはニヤリと笑った。
「よそ見すんなよ!」
中島くんは剣を南くんに斬りつける。
南くんはウサギを操って、防戦してた。
しかし先ほどの闘いの余波か、スピードが少し遅くなってて、防戦一方だった。
それに、山口くんが加わったら……。
「さあ、行け! 犬!」
喜々として、山口くんはキュウを南くんに向かわせるよう命令した。
………………。
………………。
行かない。
キュウは、ぴくりとも動かなかった。
なん……で!?
「おい、何やってるんだよ!」
「いや……だって……」
山口くんはまごついていた。
「おい、行けよ!!」
キュウに向かって怒鳴る。しかし、キュウはそのつぶらな瞳を瞬かせただけで、首を傾げた。
「拒否してる……」
あたしは思わず呟いた。
キュウは、命令を聞きたくないときとか、知らん顔で首を傾げていた。
あれは……。拒否。
あたし以外の「つるぎ」にはならないって……そういうことなの? キュウ。
思わず涙がこみ上げた。
山口くんは怒って怒鳴ったり、キュウをこづいたりするが、しかしキュウは命令を拒否し続けた。
そして。
「おい、中島! そのつるぎをちょっと貸せ!」
「ちょっ、何すんだよ!」
怒り狂った山口くんは、南くんを追いつめた中島くんの熊つるぎを奪った。
そして、そのつるぎで勢いよく、キュウに向かって斬りつけた。
!!!
「キュウ!!!」
あたしは悲鳴をあげた。
そしてその瞬間、モニターから山口くんが消え……。
プシュー、と音を立てて山口くんのヘルメットがはずれた。
山口くんは、何が起こったか分からずにきょとんとしている。
あたしはキュウの名を叫びながらそのポケットのなかのつるぎを引き抜いた。
キュウの柴犬つるぎ。
そこには……大きな文字で、DEADと書いてあった。
「いやああああ!! キュウ!! キュウ!!」
ぼろぼろと涙がこぼれる。
一度死んだつるぎは、蘇らない。
だから……だから!
「いや……キュウ……ぁ……」
あたしはただ、泣くことしかできなかった。
プシューと、音がして残りの二人が帰ってきた。
中島くんは、ヘルメットがはずれた瞬間に山口くんにくってかかった。
「山口先輩! なにすんだよ! おかげで、南にやられちまったよ!」
「……悪い」
山口くんは、ばつが悪そうな顔で、あたしと中島くんを交互に見た。
中島くんもあたしをみる。
怪訝そうな顔をして、そしてはっとなった。
「お前……」
「こら、そこで何をやってるんだ!!」
中島くんが言いかけたときに、大人のおじさんの声がした。
「やべ……!」
「逃げろ!!」
二人が慌てて逃げだす。
南くんがあたしの手をつかんだ。
「逃げよう!」
あたしは泣きながら、なすがままに連れて行かれた。
8話 夢のなかで
1話 夢の出会い
2話 日常
3話 新製品
4話 大会前
5話 ライバル?
6話 ネオドランス
7話 とりかえしのつかない戦闘
9話 剣を求めて
10話 夢の通い路
11話 きつねつるぎ
12話 その後
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