2話 日常
「お前のつるぎ、弱いなぁ」
「うっさい、ほっといてよ」
「俺のわけてやろうか?」
「間に合ってます!」
放課後の小学生は、遊びに夢中だ。
今みんなが夢中なのは、「つるぎ」という遊びだ。
カードゲームに似た感じの、もっとずっと大変で、面白くてわくわくするもの。
あたし、蛍は小学校五年生。
あたしも「つるぎ」を持っている。
あたしの持っているのは「柴犬つるぎ」だ。
「俺のモモンガつるぎの圧勝だな」
ニヤリ、と笑って蘇我はいった。むっかつく。
あたしは悔しくってプイッと横を向いた。
「泣くなよ」
「泣いてないよ!」
ああもう、ほんとむかつく。
ただいま二十連敗中。
でも、やっぱりあたしは「キュウ」と一緒じゃなきゃ嫌だ。
あたしの剣。「柴犬つるぎ」の「キュウ」。
十年一緒に暮らした大切な犬が死んで、大泣きするあたしを慰めるためにお父さんが買ってくれた「つるぎ」。
それにキュウの意識とか、いろんなものを詰め込んで出来る、世界でたった一つのカード。それがつるぎ。
対戦場っていう四角い、大きめの箱にそのカードを入れるとカードが犬になったり、鳥になったり牛になったりするんだ。
あたしのキュウはもちろん柴犬になる。そんで、対戦相手と戦うんだ。
さっきは、素早く動く蘇我のモモンガに引っかかれて、体力が無くなっちゃったからあたしはギブアップした。
カードを引き抜いたの。
なんで「つるぎ」っていうのかはよく分かんない。
カードの中の絵に必ず剣が描かれてるからなのかな。
「なんでお前いつも弱いの?」
「うっさい、蘇我には関係ないでしょ。あたしはキュウを戦わせたくなんかないんだから!」
キュウが傷つくのなんか、見てられない。
カードでも、あたしの大切な犬だもん。
「ふうん。別に良いけど。カードなんて賭けてないしな」
普通、対戦はカードを賭けてやる。でも、カードによっちゃ、新しい使用主を拒絶するカードもあるらしい。対戦場に入れても、変わんないんだって。
そんなプライドの高いカードは見たこともないけど。
「じゃあ、明日の対戦は黙って見てろよ。今度こそ俺は町内一のつるぎ使いになってやるんだからな」
「勝手にすれば」
あたしは呆れて言った。
「誰も止めないよ」
「毎年お前が泣くから、俺は途中でギブアップする羽目になるんだよ」
「なんであたしが泣くとギブアップするの?」
「それは……うっさいな、何でもいいだろ」
蘇我はムッとして自分のつるぎを対戦場から引き抜いた。
「へんなの」
と言いながらあたしは何故かどきまぎしてた。
3話 新製品
1話 夢の出会い
2話 日常
4話 大会前
5話 ライバル?
6話 ネオドランス
7話 とりかえしのつかない戦闘
8話 夢のなかで
9話 剣を求めて
10話 夢の通い路
11話 きつねつるぎ
12話 その後
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