6話 ネオドランス
表彰式が終わった後、団体戦が開始された。
一年から六年までの六人が、部屋型の対戦場に入った。
各々メットをかぶって、つるぎを手元のポケットにいれる。
新しい対戦の仕方ってどんなんだろう。
あたしもちょっとわくわくした。
「ゲームを開始しますね」
アナウンスのお姉さんが穏やかに言った。
「初めに、この新しい対戦場のことはネオドランスと呼んでくださいね。ネオドランスは、使い手とつるぎを共にバーチャル世界に送る装置です。今まで、意志の疎通が上手くなっていなかった使い手も、これで安心。つるぎは、立体型にも剣にもなります。剣として使おうと、動物型として使おうと自由。ただし、今まで通り、壊れたら元には戻りませんよ。では、まず最初の十分間は試し動きをしてください。戦っちゃ駄目ですよー」
ブウゥン、と、ネオドランスについている、モニターが動いた。
するとそこには、蘇我を含めた六人が草原に立っていた。
「うわ、すっげ!」
蘇我は嬉しそうに飛び跳ねた。
「本物っぽいなぁ」
南くんもきょろきょろと辺りを見回した。
「大鷲! 剣になれ!」
蘇我の声と同時に側を舞っていた大鷲が急降下し、蘇我の手の中に収まった。剣として。
「へぇ……」
南くんはウサギを見た。ウサギも寄ってきて、南くんの手に収まった。剣として。
「すごい」
あたしは羨ましかった。キュウとあそこにいけたら、どんなにか楽しかったろうな。
ほかの選手も歓声を上げながら剣を握ったり動物型に戻したりしている。
「いいですか? そろそろ始めますよー」
アナウンスのお姉さんは笑顔で言った。各々頷く人たち。
「はじめ!」
試合が始まった。
蘇我は大鷲を剣として使用するようだ。
はじめの合図がかかると共に、六年生に斬りかかった。
「うわ!」
一撃が、六年の男子の脇腹に刺さる。
見ている方からも悲鳴が上がった。
ところが……。
「ハイ、二名様早くも脱落ですー」
アナウンスのお姉さんはにこやかに言った。
そのとき、六年の男の子と、三年の男の子のヘルメットが自動で外された。
二人とも現実世界に戻ってきたのがまだ分からないみたいで、ぽかんとしていた。
「ハイ、更に二名様脱落ですー」
早っ!
モニターを見ると、蘇我が二年生を、南くんが一年生を倒したところだった。
南くんはウサギつるぎを獣型に戻して使っている。
なんでだろ? 剣が苦手なのかな?
蘇我は南くんに向かって剣を振りかぶるが、その横からウサギの突撃を受けて、倒れこんだ。
観衆がざわめく。
蘇我、負けないで!!
蘇我はすぐさま起きあがると、追撃をかけようとするウサギをなんとか剣で受け止めた。
ところが、ウサギはすぐに横に飛び退き、また横からの追撃をかけようとした。
あのウサギ、すごく素早いんだ。
だから南くんは剣にしないんだな。せっかくの利点が消えちゃうから。
あたしが感心していると、蘇我は横に倒れ込んでウサギの追撃を避けた。
一瞬うまれる空白。
そのとき、蘇我は持っていた剣を南くんに投げ付けた。
ええっ!
何で!?
ここぞとばかりにウサギにやられちゃうよ!!
もちろん南くんだって馬鹿じゃない。
飛んできた剣を驚きながらも避けた。
手ぶらの蘇我にウサギが襲いかかる。
「うわあ!!」
悲鳴と同時に蘇我が画面から消えた。
そして、プシューと音がして、二人とも現実世界に帰ってきたのだった。
あうー。負けちゃったのか……。
あたしは何だか悔しかった。蘇我も、「絶対勝つ」って言ってただけにショックだっただろうな……。
すると、アナウンスのお姉さんがにこやかに言った。
「すばらしい闘いでしたね。引き分けましたね。
二人とも丁度同時に脱落したので、この勝負、引き分けですねー」
ええ!?
モニターを見ると、さっきの闘いがリプレイされてた。
蘇我が剣を投げる。
それを避ける南くん。
蘇我はニヤリと笑った。
すると、剣が大鷲に戻り、反転して南くんの体にそのくちばしを突き立てた。
同時に、ウサギの牙が蘇我の首に……。
そして、画面に現れる、ドロウ、引き分け、と言う文字。
そういうことだったんだ。
蘇我、すごいなぁ。
蘇我は部屋から出て、こっちにやってきた。
「……勝てなかった」
悔しそうだ。
「でもすごいよ! 蘇我! あたし負けたと思ったもん」
「……」
蘇我はジト目でこっちを見た。
あれ?
褒めたつもりだったのに。
「負けると思われてた訳ね」
「ち、違うって! 危なかったからさ、あの」
「……ふーん」
結局表彰式が終わっても、蘇我の機嫌は直らなかった。
蘇我はスタスタと先に帰ってしまい、残されたあたしはため息をついた。
「帰ろ……」
そんなとき、後ろで何か険悪な声がした。
「……だろ!」
「…………! ……じゃない!」
ネオドランスの裏だ。
覗くと、そこには南くんと、中島くん、それと六年生らしき人がいた。
何だか雰囲気が悪い。
ケンカしてるみたい。
「手伝えよ!」
「断るね!!」
中島くんが言う言葉に、そっけなく返事をする南くん。
六年生は中島くんの後ろで、南くんを睨んでいた。
「じゃあ、あれで決着をつけようぜ!」
「……」
中島くんは、ネオドランスを指さした。
南くんは苦い顔をした。
「……さっきの闘いで、僕のつるぎはほとんど体力を持ってかれた。休憩しなきゃ、無理だ」
「知ったことかよ! 逃げんのか!」
「……」
南くんは唇をかみしめた。
「嫌なら、蘇我を倒す手伝いをしろよ。三対一ならまず間違いなく勝てるぜ」
「……そんな情けないことはしたくないね」
「じゃあ戦え! 今すぐだ!」
「……」
悔しそうに横を向いた南くんと、あたしの目があった。
それに気付いた中島くんはあたしの方を向く。
ニヤリと笑っていった。
「じゃ、チーム戦にしようぜ。俺と、山口先輩対お前と、あの女で」
「そんな……」
あたしが嫌だと言うより早く、中島くんはあたしをネオドランスに押し込んだ。
諦めたように南くんはやってきた。
六年生の山口くんも入ってくる。
「さあ」
中島くんはあたしに向かって笑った。
怖い。
中島くんは蘇我と仲の良いあたしのことも嫌っているんだ。
「ゲームの始まりだ」
7話 とりかえしのつかない戦闘
1話 夢の出会い
2話 日常
3話 新製品
4話 大会前
5話 ライバル?
6話 ネオドランス
8話 夢のなかで
9話 剣を求めて
10話 夢の通い路
11話 きつねつるぎ
12話 その後
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