Coral Fung -02

Posted by Hootalinqua 2/12/2010

 


"Coral Fung"はいかにも昔のキャバレーを模した店のつくりをしている。照明を落とした店内にはビロード張りのソファがそれらしく並べ立てられている。

客は俺達のショーと、ショーの後の俺たちとの会話を目当てに此処に来ることになる。
その客席を真っ二つにするような感じで、悪く言えばストリップ劇場よろしくステージの真ん中から花道が延びている。ドラァグクイーンがやるショーはリップシンク(口パク)ショーがほとんどで、ジュスティーンも俺もそのご他聞に漏れずリップシンクを売り物にしている。

これでもかってくらいRの音を強調するレオナルドのコールで俺達が舞台袖から舞台の真ん中へと、12センチのピンヒールで踏み出す。
客は俺たちの体の大きさと衣装の派手さに、ショーがはじまった途端に釘付けになっていた。

客席から巻き起こる拍手と歓声。

曲は70 年代のディスコヒッツ。東ベルリンじゃベッドにもぐってラジオで聞くしかなかった代物さ。

いかにもって感じのイントロにあわせてポージング。 ジュスティーンが大胆に足を開いて腰をしならせる隣で、ドレスのスリットから黒の網タイツの右足を思い切り出し、腿の上に左手を乗せた格好で客席をぐるっと見渡す。 二人でこれ見よがしに視線を一周。
皆騒ぎながら俺達のステージに釘付けになるのも俺達の計算どおり。
演出はプランどおりに決まり、俺とジュスティーンが交互にステージから向ける視線に合わせて客席にもピンスポットが当たって行く。

貴方が今気づいてる事
貴方が今感じてる事
そう。
貴方は分かってる
本当の自分を

貴方の愛は私のもの
私の愛は貴方のもの
私たち、愛し合ってるから
今一緒に此処に居る。
そうでしょ?

アンタが感じているものはアタシの愛!
アタシの愛はアンタの愛!

愛こそが現実。
愛こそが真実なの!

俺は流れる音楽にあわせて大きなフリで踊りながらVIPシートを見る。 そこには楽屋でレオナルドから取り上げた今日の席の予約どおり、軍服姿の男達と、その傍らにいる女たちが見えた。ウチのVIPシートなんてクーダム界隈の高級バーなんかよりよっぽど高くつく。こんなところにまるで頓着無く飲みに来れる連中はそうざらには居ない。
だけど、VIPシートに連中が居るってことはつまりこれから俺は尤も苦手とする種類の連中の相手をしなくちゃいけないってことでもある。

俺たちと同じ種類の連中とならいくらだって話してやる。だが、この俺自身を珍しい生き物みたいな目で見に来る西ベルリンの金持ちとは願わくば一言だって口を聞きたくないってのに、金払いの良いこの手の客をレオナルドは週に1度は必ずブッキングして来やがる。

俺はあと20分先の未来のことを思って、シェリル・リンのディスコソウルナンバーを怨念たっぷりに謳いあげた。

 
 

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