俺は後ろを振り返らず、そのまま進んだ。
そして目的地に辿り着いたとき、ともねえはうつぶせに倒れていた。
「ともねえ!ともねえ!しっかりするんだ!」
「…」
ゆすってあげたけど、返事がない。どうやら気を失っているようだ。
そのまま俺が顔を上げた先にはクロウが3体、内1体は『エゴ』の指輪を装備しているやつだ。
「お前ら…お前らが〜〜!!!」
奴らに向かって左腕から高周波ナイフ『グラディウス』を取り出して特攻していく。
「キサマ…ハ…」
「うおぉぉぉぉぉぉ!」
不意を突かれたクロウに、ナイフを思い切り突き刺した。手ごたえありだぜ!
「グゥゥゥ!」
「ムゥン!」
もう1体のクロウがそれを見てすぐさま俺を投げ飛ばした。
しかし、俺は立ち上がってすぐにまた攻撃に入る。
「くそ…だぁぁぁぁ!」
「キサマ…ナンダト…イウノダ…」
「ただの人間だ!!そして、ともねえの弟だ〜!!」
相手のほうが強いかもしれない。でも、ここで後ろを見せるわけにもいかない。
ともねえが起きるまででいい、頼むからもってくれ!
「くそ、それならこいつで勝負だ!」
今度は『エクスカリバー』を『クーヤチェイサー』から取り出した。
クロウだって一撃で倒したことのある武器だ。こいつなら!
「でやぁ!」
「フン…イリョク…ハ…アル…シカシ…ソレダケ…ダナ…」
寸前のところで避けられ、カウンターパンチをまともに受けてしまった。
「ぐあっ!」
ちくしょう…こんなところで…負けて…!
「ヌゥ…!?」


突然クロウの攻撃が止んで、俺の後ろを見ていた。
俺もつられて後ろを振り返ると、なんと行方不明だった透子さんが立っていた。
その場にいる全員が、驚きを隠せなかった。
「透子さん!生きてたんだね!」
「バカナ…キサマハ…シンダ…ハズ…」
「残念だったわね。私は不死身よ!」
「はは…よかったよ。いなくなったって聞いたから…死んだのかと…」
「心配かけちゃったかしら?さあ、この前の借りは返してもらうわよ!超纏身!」
透子さんは『イド』の強化バージョンに纏身し、俺達に割ってはいる。
やっぱりこいつらが透子さんを退けたのか。
あとはともねえが起き上がってくれれば…
「トモちゃん、何を寝ているの!敵は目の前なのよ!」
「そうだ、ともねえ!みんなを守るんだろ!」
俺達が声を上げると、倒れていたともねえがふらりと立ち上がった。
少しうつろではあるが、戦う意志に揺らぎはない。
「空也…透子さん…ごめん。」
「何…飛び出して行ったんだよ!何でも勝手にしょいこんで!」
「説教は後よ。まずは目の前の敵を倒す。そうじゃなくて?」
「はい。いくよ…超纏身!」
ともねえの体は光に包まれ、『ジガ』の強化バージョンに纏身した。
これで役者はそろったぜ!


形勢は逆転した。
俺が銃を乱射し、それをバックにしてともねえと透子さんが攻撃する。
このフォーメーションで2体のクロウをどんどん追い詰めていった。
戦っているうちに、あのクロウは奥のほうへと姿を消していった。
このままじゃ逃がしてしまう。なんとしても、今回で奴を倒さないと。
俺の『C3-X』のエネルギーもこのままでは危ない。弾も残り少ない。
「よし、お姉ちゃんが言っていた切り札を使うか!」
『ガトリングスマッシャー』に『ライトニングボルト』をくっつけ、両手で構える。
すると、みるみるうちにエネルギーが増幅され、『ガトリングスマッシャー』の先端にチャージされた。
「全エネルギーをくらえ!ファイナルシュート!!」
高エネルギーの弾丸が発射され、透子さんが戦っていたクロウに命中する。
『ガトリングスマッシャー』はあまりのエネルギー量に耐え切れず、砲身が潰れてしまった。
クロウがダメージを受けたのを好機と判断した透子さんは一気に間合いを詰めた。
「とどめ!ジェノサイド・フロウジョン!!」
「ギャァァァァァ!!」
クロウは悶え苦しんだ後、灰になって消えた。
それを見たもう1体が動揺を見せる。
ともねえはその瞬間を逃さなかった。
「今だ!パープル・ストライク!!」
「ガハァ!!」
まともに受けて吹き飛ばされたクロウは、地面に落ちてから爆発した。
「へへ…どうだ、ざまあみろ。」
「OK、残るはあいつだけね。」
「急ごう!一気に倒すんだ!」


膨大な量のエネルギーがクロウに流れ込んでいた。
それらは『エゴ』の指輪に集まり、青白い光を放つ。
「ウムム…霊力ガ漲ッテクルノガワカルゾ…」
もはやクロウの姿をしてはいなかった。
まさに怪物、まさに化け物。
体は膨れ上がり、全身からは妖気のようなものを放出している。
その姿に変化させたのは、このクロウの執念か、それとも指輪の力か。
「今コソ…今コソ次元ノ扉ヲ!」
両手を天にかざし、ありったけの力をこめる。
しかし…
「馬鹿ナ…コレホドマデチカラガアルトイウノニ、マダ足リナイトイウノカ!」
何も変化は現れない。
「仕方アルマイ…ヤツラノ指輪ヲ使ウシカ手ハナイヨウダナ…」


「くそっ!このっ!はなせってば〜!!」
やっぱりこの人数相手にはきつかったね。20人は倒したけど、後から後から湧いて出てくる。
アタシは両手両足をつかまれ、全然身動きが取れない。
そして、敵の一人が棒切れを持ってきた。
「くっそ〜!!」
アタシの頭めがけて棒を振り下ろそうとしたそのとき…
「げはぁ!」
いきなりそいつが吹っ飛ばされ、さらに立て続けにアタシを捕まえていた奴らも吹っ飛ばされた。
アタシを助けたのはモエより身長の高い、見覚えのある男だった。
「大丈夫ですか、瀬芦里さん。」
「マシュー!」
「この摩周慶一郎、要芽様の命により助太刀に参りました。」
要芽姉の言っていた助っ人はこのことだったのか…
とにかく、これで百人力!もうこっちの勝ちは決まったも同然だね。
「さあて、それじゃ反撃開始と行きますか!」
「私は大丈夫です。瀬芦里さんは休んでください。」
「ジョーダン!アタシはまだまだこれからだよ!」
「…そうですか、わかりました。」
多分要芽姉から『なんとしても守れ』って言われてるんだろうけど、こっちもやりかえさないとね。
「さあ来い!我が名は摩周慶一郎!要芽様の家族を傷つける者、この私が容赦はしない!」
「第2ラウンド開始だよ!みんなまとめてかかってきな!」
「我らもいるぞ!」
「ひなのん!みんなも…」
「ゆくぞ皆の衆!かかれ〜!」

…そして数分後、アタシ達は全員を倒した。
さすがにマシューもこの人数相手では苦戦もしたけど、とりあえずは一安心。
全員が到着してからすぐに加勢してくれたのもあったけど。
うみゃは同級生もいるだろうに、一切手加減してなかった。
「よし!アタシはクーヤ達のところに行ってくるよ!」


ヤツらとの戦いでちょっとはなれてしまったけど、俺達は祠に辿り着いた。
そして、あのクロウが姿を現した。
いや、あのクロウだとわかるという程度で、その姿は今まで見たことがない。
全身から不気味なオーラが立ち込めており、圧倒的な威圧感が俺達を襲う。
しかし、それにおびえを見せる俺達ではなかった。
「…マサカアノ者達ガ負ケルトハ思イモヨラナカッタ。
 ツイニコチラニ来タノハ我タダ一人トナッテシマッタ…」
「あいにくだけどな、お前の思い通りにいくと思ったら大間違いだぜ!」
「あなたたちはここで生きることはできないのよ、OK?」
「命を奪っての支配なんて…絶対にさせない!」
「…モウ我ニハ何モ残ッテハオラン。儀式モ失敗ニ終ワッタシナ…」
「やはり無理があったようね。指輪一つでは、やっぱり無駄だったと。」
「ソウダ…ダカラキサマラノ指輪ヲ手ニ入レ、再度儀式ヲ行ウ。
 ソレデモ無理デアレバ、全人類ヲ根絶ヤシニシテ、我モ消エヨウ…」
「指輪は渡すことはできない。私は死ねない。みんなが待っているから…」
「サア来イ!コレガキサマラトノ最後ノ戦イダ!」
クロウは俺達に飛びかかってきた。
すぐに俺達は散開し、クロウを取り囲むように陣形をとる。しかし…
「ムハァ!」
クロウが腕を振り払うと、いきなり衝撃波が全員を襲った。
「あぅっ!」
「ちぃっ!」
「おわぁ!」
全員が吹っ飛ばされ、散り散りになってしまう。
「ドウシタ、ソンナモノカ?貴様ラニハ…真ノ地獄ヲ見セテヤロウ!」


俺達はすぐ立ち上がり、一斉に襲いかかる。クロウはそれに対してまっすぐ立ち向かう。
ともねえが火の玉を投げつけたが一瞬でかき消され、透子さんの竜巻も全く効かない。
素早い動きに翻弄され、的確な攻撃は俺達を完膚なきまでに痛めつけていく。
「ちくしょう、これでもくらえ!」
奴に狙いを定め『ライトニングプラズマ』を発射したが、なんと目の前でストップしてしまった。
「う、うそだろおい…」
「フフフ…ハァッ!」
しかも光弾をそのまま透子さんへ投げつけてきた!
「し、しまっ…うぁぁぁ!!」
透子さんは回避も間に合わず、まともに受けてしまう。
そのまま立て続けにクロウは衝撃波を放ち、俺を岩に激突させた。
「あがっ…」
凄まじいダメージは胸のパーツを破壊し、ヘルメットを粉々にするのに十分だった。
さらにクロウは飛び上がったかと思うと、急降下してともねえに蹴りを繰り出した。
「がふぅ!」
蹴りを受け、ともねえは木に激突し、その木は完全に折れてしまった。
「う…うぅぅ…」
「なんてパワーなの…」
「ち、ちくしょう…」
俺達の攻撃が、こいつには通用しない。
あまりにも強すぎる。
このままなす術もなくやられてしまうのか。
「くそ…なにかいい方法はないのか…」
せめてパワーの源である指輪を破壊するか、取り外すことができれば…
「…そうだ!こいつだ!」
思いついた瞬間、俺は急いで背中のエネルギーパックを取り外した。
多分これが効かなければ…俺達は負ける…
チャンスは一度きり、失敗はできない!


強い。本当に強い。手も足も出ないとはこういうことを言うんだろうか。
もう私も透子さんも限界が近い。
いや、もう限界はとっくに過ぎているのかもしれない。
「ともねえ!透子さん!離れてくれ!」
空也の突然の叫びに驚いたけど、私と透子さんはすぐにクロウから離れた。
その手には『C3-X』のエネルギーパックが握り締められている。
空也はそれをクロウに投げつけた。
しかし、クロウはそれを片手で難なくキャッチする。
「ドウイウツモリダ?」
クロウはニヤリと笑い、不可解な行動に馬鹿にしているようだった。
しかし、空也には考えがあった。
「こういうことさ!」
今度は『ライトニングボルト』をエネルギーパックに狙いを定めた。
エネルギーチャージは完了している。もうこれが最後の一発だ。
まさかアレを…
「いっけぇぇ〜!」
見事にエネルギー弾がパックに命中すると大爆発が発生、辺りは煙に包まれた。
これでうまくいかなかったら…
「ガァァァァァ!!」
煙が晴れると、そこには片手を失い、苦しむクロウがいた。
どうやら効果覿面だったらしい。
「どうだ、思い知ったか!」
空也はもう立ち上がることもままならないようだ。
大ダメージを負ったクロウの体からは、不気味なオーラは感じ取られない。
よく見ると、クロウの足元に『エゴ』の指輪の残骸が散らばっていた。
「ナゼダ!ナゼ指輪ガ腕ゴト消エウセタノダ!」
「…どうやら『人間』がはめたからではないからかもしれないわね。
 それとも…指輪がアナタにあいそを尽かしたからかしら…?」
「馬鹿ナ!ソンナコトガアルハズガ…」
「へへ…人間を見くびるからこうなるんだ!俺達の…人間の力を思い知れ!」


クロウに深手を負わせた今しかチャンスはない!
空也がせっかく作ってくれたチャンスを逃すわけにはいかないんだ!
「今だ、透子さん!今ここで全ての力を使って、あいつを倒す!」
「ええ!」
「「はぁぁぁぁぁぁ!」」
二人で腕をかざし、炎と風を巻き起こす。まるでそれは赤い竜巻のようだった。
クロウはそれに巻き込まれ、全く身動きがとれない。
「グゥゥゥ!」
必死に足掻こうとするけど、捕まってしまってはもはや無駄だった。
そして、私達は最後の力を振り絞る。
「炎よ、私の右腕に集え!」
「風よ、私の左腕に!」
私の右腕と透子さんの左腕に全エネルギーが集束されていく。
お互いが最後の一撃を繰り出す、まさにその瞬間。
クロウは何とか炎と風の力を振りほどき、私達に向かってきた。
「キサマラナンゾニィィィィィ!!」
「私達の力全てをこの一撃に賭ける!」
「つらぬけーー!!」
「「ファイヤー・ストーム・クラーッシュ!!!」」
私達は同時に一撃を繰り出し、クロウはそれをまともに受けた。
二人の腕は、確実にクロウの胸を貫いていた。
「グギャァァァァァア!!」
「私達のこの世界に!」
「アナタ達は必要ない!」
「ガハァァァァ!…コ、コレデ終ワッタト思ウナヨ!我ハ、我ハ必ズ…
 ウ、ウォォォォォォォォ!!」
…ピキッ…
閃光が走り、空が裂けるような爆音が響き渡る。
衝撃波が辺りを襲い、私達は吹き飛ばされた…


あれから数日が過ぎた。あの戦いでこちら側に来ていたクロウは全滅、もうクロウとの戦いはない。
あの時、傷ついた俺達をねぇねぇが運び出してくれたんだ。
そして…
「約束…果たせなかったですね。」
「しょうがないわ。ま、これも運命かな?」
ともねえと透子さんの指輪はあのときの一撃を最後に崩れ去った。
使命を終えたからだろうか、全ての力を出し尽くしてしまったからだろうか。
理由は誰にも解からない。
「私ね…トモちゃんとの約束、果たせなかったらいいなって思ってたの。」
「…え?」
「何故かは自分でも解からないんだけど…フフッ。それじゃ、また今度ね。バイ。」
透子さんはもとの教師に戻った。その人気は相変わらずだ。
ともねえも、いつも通り『みんなのお母さん』のような生活だ。
普通の女の子にもどれて、心底うれしそうだった。
そして俺は…今までが非日常的すぎたからか、もとの『普通の生活』が物足りなく感じている。
ご飯を作って、本を読んで、眠たくなったら寝て、ちょっと悪ふざけしたりして…
そんな『普通の生活』に馴染めなくなっている自分がいた。
ひょっとして、他のみんなもそうなんだろうか。
でも、それも一時的なものだろう。
俺に『普通の生活』がやってくるのは、それほど遠くないかもしれない。
「ああ〜、くーや、くーや、くーやぁ〜。」
「お姉ちゃ〜ん。」
こうやって海お姉ちゃんとすりすりするのも、なんだか久しぶりに感じる。
「あのね、くーや。実はちょっと実験に付き合ってもらいたいんだけど〜。」
「ど、どんな実験?」
「『C5』の起動実験なんだけど〜。」
「は!?」
「ダメかな〜?」
…訂正。俺に『普通の生活』がやってくるのは、まだもう少し先の話かもしれない…

(作者・シンイチ氏[2005/01/31])


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