俺たちが到着した頃にはすでに透子さんが戦っていた。
沢山のクロウを相手に勇猛果敢に戦っている。
相手はこの前の大量発生していたクロウだ。
実体のある幻…その幻を作っているやつを倒さなくちゃいけないんだけど。
とにかく、俺たちは別のルートからマルの監禁されている部屋へと近づいていった。
「空也よ、ここからマルの存在を感じるぞ。」
「よし、わかりました。離れてください。」
俺はドアを思い切り蹴破った。すると、すでにクロウが3体も部屋にいるではないか!
「こいつら…!雛乃姉さん、俺が引きつけているからマルを!」
「うむ!」
クロウたちを体を張って制し、そのまま壁を突き抜けて隣の部屋まで押し込んだ。
「今のうちに早く!」
「さぁマル、怖かったろう。」
「ギュ〜。」
マルは特に目立った外傷もなく、電気を無理矢理取り出されたものの、まだ元気そうだ。
戦っている途中で急に力が湧いてくるのを感じた。
まさか、ともねえも来て戦ってるのか!?あんな体だっていうのに。
「うおりゃぁぁぁ!!」
フルパワーで戦えるようになった俺はすぐさまクロウを一気につき飛ばし、銃の連射でしとめた。
こいつらは所詮は幻、大して強くはない。
『ガトリングスマッシャー』を使わなくても十分倒せる。
「とりあえずここは片付けたか…。
 雛乃姉さんはここから脱出してください。俺はまだやることが残っています。」
「高嶺を…止めに行くのだな?」
「はい。」
「空也よ、絶対に死ぬなよ。」
「大丈夫ですって!それでは柊空也、行って参ります!」


それにしてもなんて数の多さかしら。一体一体はそれほど強くはないけど、消耗戦になったらこっちが不利ね…。
トモちゃんも来てくれたけど、これじゃジリ貧に…。
「ねえ、トモちゃん。空也君は来ているの?」
「はい、私より先に出たから今頃どこかに…。」
「そう…きゃぁぁぁぁぁっ!?」
「透子さん!?」
いきなり足元のマンホールから腕が伸びてきて、中に引きずり込まれた。
ここで戦力を分散されると危険が多すぎる!
私は床になんとか着地をしてまわりの様子をうかがった。とてつもなく強い力を感じる…。
長い間、意識を集中して注意深く探っていると、前から異質な気配を持つクロウが現れた。
「マズハ…イド…カラカ…」
「あなたね…私を引きずり込んだのは!レディに対して失礼じゃなくて!?」
私は先手必勝と言わんばかりに手刀を繰り出したが、簡単に腕を掴まれてしまった。
凄まじい力で、まるで万力のよう。
そして次の瞬間…ベキィ!という音とともに、私の腕はへし折られてしまった。
「ああ…うあぁぁぁぁ!!!!腕が…腕が…」
「ゼイジャク…ナ…ニンゲン…ガ…トドメ…ヲ…サシテ…ヤロウ…」
「うぅ…カハッ…!」
足蹴にされ、力も無くただ倒れているだけの私。
なんて惨め…そして許せないわ…自分自身が!ただやられているだけの自分自身が!
(力が欲しいか…?)
これは…指輪の声!?
(力が欲しいのか…?)
そうね…欲しいわ。こんな化け物に負けない圧倒的な強さが!
(ならば…我に任せるがよい…)
「!?あぁぁぁぁぁ!」
初めて訪れる感覚。
血液が逆流し、視界は物を捉えず、脳は左右に揺れ動き、全身の筋肉や骨がきしむ。
これが…新しい力を持つってこと?
トモちゃんは初めはこの力を持て余していた。だけど私は…違う!


「はぁ!」
クロウを押しのけ、立ち上がった私は、その全身から力が湧きあがってくるのを感じた。
いつの間にか折られた腕は完治している。
私は全身の力を光り輝く指輪に集中するように意識した。
「全身に力が漲ってくるわ…いくわよ!超纏身!」
光の中から現れた私の体は、それほど外見に大きな違いは見られない。
でも、トモちゃんと同じく全身に金色の模様が浮かび上がっている。
パワーも今までとは段違いだ。
「ナン…ダト…マサカ…メザメタ…ト…イウノカ…」
「ちぇぇい!」
クロウが動じた隙に、私は素早く飛び込んで翼を切り裂いた。
「グァァァァ!」」
悲鳴を上げ、その場に倒れこむクロウ。
さらにそこから疾風のごとく切りつけ、反撃の隙を与えない。
クロウは勝てないと思ったのか、逃げ出すそぶりを見せた。
でも、ここで逃がすわけにはいかない!
「逃がさないわよ!」
手をかざすとクロウに向かって風が走り、小規模な乱気流を起こしてクロウを地面に叩きつけた。
トモちゃんが炎を使うことができるように、私は風を使うことができるようだ。
新たに得た力を認識した私は、空気の歪みを作り出してクロウを動けなくする。
「コレ…ハ…カラダ…ガ…ウゴカン…!」
「これで最後よ…ジェノサイド・フロウジョン!」
「グワァァァァァ!」
断末魔の叫びとともに、クロウは跡形もなく消え去った。
「フフ…これにて終了、OKOK。」
改めて、新しくなった自分の姿を見る。
「これが私の…真の…力…」


透子さんがいなくなってしまったものの、私はクロウを次々と倒していった。
しかし、前と同じで手ごたえがあまり感じられない。
幻を作っているやつがどこかに…。
とりあえず見渡せる範囲のクロウを倒すと、今までのクロウと少し違う、赤い色をしたクロウが現れた。
「ミゴト…ダナ…ジガ…」
「お前が幻を作っていたやつだな!」
「サァ…コイ…ジガ…ワタシ…ミズカラ…アノヨニ…オクッテ…ヤロウ…」
強い、このクロウは強い。
迫力がここまで伝わってくるようだ。
手加減なんて…している場合じゃない。
ここは指輪の真の力で一気に叩く!
「はぁぁぁぁ…超纏身!」
声とともに、私の体には金色の模様が浮かび上がっていった。
対するクロウは棒状の武器を持っており、パワーで勝っていても私のほうが不利だ。
懐に飛び込もうにも、なかなかそのチャンスがうかがえない。
「トリアエズ…マアイヲ…トル…カ…ナラバ…コレナラ…ドウダ…」
棒を直角に折り曲げて、クロウは思い切り回転をかけて投げつけてきた!
一度かわすものの、その棒はもどってきて私の背中に重い一撃を食らわせた。
棒はいつの間にかブーメランのような形に変形している。
「うう…ブーメランか…」
「ユダン…シタ…ナ…クタバル…ガ…ヨイ…」
「くっ…!」
とどめの一撃をうけようかという瞬間、電撃がクロウを突如襲った。
電撃が飛んできた方向を見ると、マルと雛乃姉さんがいるのが見えた。
「巴、何をやっておる!お前なら勝てるはずだぞ!」
雛乃姉さん…マルも無理して…よし!
「だぁぁぁぁぁ!」
ひるんだクロウに向かってタックルをしかけ、そのまま馬乗りになる。
連続のパンチを浴びると、クロウは飛んで間合いをはかろうとした。
またブーメランで攻撃しようというのか。


「逃がすものか!」
ジャンプしてガシッとクロウの足をつかむと、思い切り地面に叩きつけた。
クロウはボールのようにバウンドし、そのまま遠くまで吹っ飛んでいく。
かなりのダメージをあたえたようだ。
「グ…オ…オォ…」
「今だ、巴!」
「ギュビス!(訳:さっさとやっちまえ!)」
「うん!」
超纏身をしたことで、私は新たに炎を使役する力を得た。
腕にありったけの力をこめると、そこから炎が現れ、それをクロウめがけて投げつける。
投げつけられた炎はクロウの身を焦がすのに十分な破壊力を持っていた。
「ムォォォォォ!!」
「いくぞ…パープル・ストライク!」
「グオァァァァァァァ!!」
炎が巻き起こる拳はクロウを吹き飛ばし、そのまま爆発四散させた。
これでクロウの幻も全部消えただろう。
クロウを倒した私に向かって、雛乃姉さんがこっちまで足早にやってきて扇子を広げた。
「うむうむ。巴よ、あっぱれであるぞ。飴をやろう。」
「ありがとう。雛乃姉さん、空也はまだ戦ってるはずなんだ。
 もうクロウはいないだろうから、早くトラックに戻って。
 私は空也のところに行く。」
「わかった、無理をするでないぞ。」
「うん。」


ようやく姉貴を、いや『C4』を発見した。
海お姉ちゃんによれば、なんとか回線をつなげて説得を試みたものの、姉貴は聞く耳を持たなかったそうだ。
どうやらAIがヘルメットを通じて姉貴の精神を支配してしまったようである。
ヘルメットを破壊、あるいは取り外すことができれば姉貴を元に戻せるようだ。
最後のクロウ(俺が見た限りではだが)を倒した『C4』はこちらに気づき、向き直った。
「姉貴!『C4』は呪われたシステムなんだ!早く離脱してくれ!」
「フフン…何を言っているのかしら。そんなこと聞くと思ってんの?
 アタシの答えはわかっているはずよ?せっかくこの力を手にしたっていうのに…。」
「…俺は力づくでも止めるぞ。」
「面白いわ…どっちが強いか、この場ではっきりさせてやろうじゃないの!」
かくして、『C3-X』と『C4』の激戦の火蓋は切って落とされた。
しかし、やはり性能差は歴然としている。
こちらの攻撃は簡単に防がれ、そして『C4』の攻撃は俺の体をどんどん痛めつける。
左肩のパーツは破壊され、ヘルメットの片方のカメラアイも潰された。
壁に押し付けられ、これまでかというときに要芽姉様から通信が入った。
ヘルメットが半壊しているためノイズは少しあったが、俺はわらをも掴む思いでその通信を聞いた。
「空也、性能の劣る『C3-X』では『C4』に勝ち目はないわ。『柊空也』として戦いなさい!」
「ね…姉様…だぁぁ!」
力をこめて『C4』を押しやり、よろけた瞬間に蹴りを浴びせて『C4』を転倒させた。
『C3-X』としてではなく『柊空也』として…か…。
俺はヘルメットを取り外し、自ら『C3-X』のコンピューターによるサポートを断ち切った。
「フン、それがどうしたって言うのよ…どうあがこうと『C4』に勝てるはずがないでしょ!
 くたばれぇぇぇ!」
「このぉ!」
パンチをしっかりと腕でガードし、隙を見てワンツーパンチをくらわせた。
「なっ…!」
そこから一気にハイキックを繰り出すが、これは受け止められてしまった。
「イカの分際で…調子に乗ってぇ!」


俺は顔面には攻撃を受けないように注意して戦い続けた。
くらったらその瞬間にお陀仏だ。頭がザクロみたいになっちまう。
だれも邪魔は入らず、互い譲らぬ一進一退の攻防がしばらく続いた。
そして渾身の力をこめて頭にパンチを食らわせた瞬間、急に姉貴が苦しみだした。
「あううぅぅ!イ…イカ…た…す…けて…」
「姉貴!?」
途端に『C4』から煙が上がり、その場にガクリと膝をついた。
「くーや〜!今の攻撃で高嶺お姉ちゃんが意識を少し取り戻したよ〜!
 今のうちに『C4』のバッテリーパックを取り外して〜!」
「よ、よし!」
俺は言われるままに『C4』に飛びつき、背中のバッテリーパックを取り外す手順をとった。
見事取り外しに成功したそのとき、
「うぅぅ…あぁぁぁぁ!」
『C4』は組みつきを無理矢理解いて、強烈なパンチを俺の胸にくらわせた。
不意の一撃をくらい、思いっきり吹っ飛ばされて壁に激突する俺。
「グハッ…こ、この…。内部電源が稼動してるのか…?」
「はぁ、はぁ、はぁ…あぁ…。」
『C4』はドシャリと崩れ落ちた。まるで糸が突然切れた操り人形のように。
しかしこれで終わりかと思った瞬間、さらに起き上がってまだ戦おうとしていた。
どうしてこいつは…こんなに戦おうとするんだ?
姉貴をこれ以上どうしようっていうんだ?
もう…やめろよ…姉貴を…これ以上傷つけるなよ…。
「もういい…もういいだろ!」
右足に装着していた『ライトニングボルト』を取り外して構え、無我夢中でトリガーを引いた。
ヘルメットは砕け、姉貴の素顔があらわになり、そのまま仰向けに倒れた。
戦いの疲れと、やり場のない怒りに、俺はもう一歩も動けなかった。
「『C4』…活動を…停止しました…。」
「…ご苦労様。高嶺は確認したところ生命反応があるわ。命に別状はなさそうよ。」
「よかった…はぁ…」
全身の力が抜け切り、俺はその場で意識を失った。


俺が気づいた時はもう朝だった。
どうやらともねえが俺を連れて帰ってきたらしく、海お姉ちゃんはすでに『C4』の解体作業を終えていた。
姉貴は衰弱していたが命に別状はなく、
「みんなに迷惑をかけて、本当にゴメンなさい…」
としきりに謝罪していた。
それからしばらく経って、仕事のある要芽姉様以外のみんなで久しぶりに姉貴のピアノの演奏を聴くことにした。
どこか悲しげ、しかし繊細なその音色は、いつしかみんなの心の奥に染み渡る。
マルを含め、全員がただ黙ってその音楽に耳を傾けた…。
姉貴は…自分の居るべき場所に帰ってきたんだ…。

(作者・シンイチ氏[2004/12/14])


※1つ前 姉しよSS「PROJECT【C4】(前)
※1つ次 姉しよSS「指輪の主
※2つ次 姉しよSS「みんなのために(前)
※3つ次 姉しよSS「みんなのために(後)
※関連 姉しよSS「行け空也!C3、起動!


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