超大型台風が接近し、海はかなり荒れていた。
夜中に通り過ぎると言われているが、先々で甚大な被害をもたらしているため、人々は不安を隠せない。
そんな中、津波と強風が吹きつける岸壁で戦い続ける2人の者。
クロウと、そして『イド』こと月白透子である。

「OK、なかなかやるじゃない。」
「フン…ウワサ…ドオリ…ダナ…」
お互いの戦力は互角、油断したほうが負けね…
「さっさと終わらせるとしますか!超纏身!」
金の模様が全身を巡り、大いなる力が全身に漲る。
「ホウ…ナラバ…コチラモ…ホンキ…デ…イコウ…」
そう言うとクロウは一気に筋肉を膨張させた。
その姿は一気に変化し、一回り巨大化したように見える。
「ムゥン!」
腕を振るだけで衝撃がやってくる。凄まじいパワーだ。
「力はあるようだけど…スピードはどうかしら?」
こちらは動き回って相手を撹乱する。
しばらくの間、一進一退の攻防が続いた。
長引かせるよりは、ここで一気に叩いたほうがよさそうね。
「行くわよ!ジェノサイド・フロウジョン!」
「オォォォォォ!!」
互いの超エネルギーがぶつかり合い、私とクロウは吹き飛ばされた。そのとき…
「!?」
突然足場が崩れ、私は高波が押し寄せる大荒れの海へと落下してしまった!
「あぁぁぁぁ!!?」
「ヌゥ…コレデハ…ユビワ…ヲ…カイシュウ…デキンナ…」


台風が通り過ぎた朝は快晴、雲を全部取り払ってしまったかのようだった。
実に清々しい。
例によってねぇねぇが俺にへばりついて寝ていたが、それを振り払い、居間へと足を運ぶ。
居間ではともねえがお茶を飲んでくつろいでいた。
ホントこの人は早起きだなぁ。
「ともねえ、おはよう。」
「おはよう、空也。」
それにしても昨日の台風は凄かった。
夜中に風の音で目が覚めちゃったし、姉貴は上でドタバタするし。
まあ昨日は寝るのが早かったから、今はそれほど眠くはないけど。
「空也、まだ朝ごはんまで時間があるし、TVでも見ないか。」
「うん。」
俺は机の上のリモコンに手をのばした。
俺達家事コンビは、『柊家ヒエラルキー』のほぼ最下層に位置づけされている。
こういうときしか、TVを自由に見ることはできない。
わりとデカイ家なのに、どうしてTVが1台しかないのかといつも不満に思う。
ともねえは動物番組を見てても変えられるし、俺に到っては自分でつけることもできない。
いつか自分の部屋にTVを置いてやるぜ!
…たぶん姉貴あたりにとりあげられるな。
「ポチっとな。」
TVをつけると、昨日の台風のことが早くもニュースで報道されていた。
やっぱり、ここでも結構な被害がでたのかな…
「…この台風による死者はありませんが、○○高校教師の月白透子さんが行方不明となっており、警察では…」
「な、なんだって!?」
アナウンサーの言葉を聞いた瞬間、この場が凍りついた。
台風が通り過ぎた清々しい朝は、衝撃的な幕開けとなってしまった。
「そんな…透子さんが…なんで…」


海お姉ちゃんの学校では大騒ぎになっていた。
透子さんは生徒の間でも実に評判が良く、そのファンは男女を問わない。
ま、俺から言わせれば『猫かぶってる』ってやつだ。
そんな一部の生徒の集団が透子さんを探すために行動しているらしい。
別にお姉ちゃんがそのグループに入ってるわけではないけど。
心配なので、俺達も手分けして探すことにした(要芽姉様は疲れて寝てるので参加せず)。
随分と外を歩き回り、ヘトヘトになって帰るころにはもう夕方になっていた。
その夜中、海お姉ちゃんが変な情報を入手してきた。
お姉ちゃんは自室で情報収集をしていたのである。
どうやっているのかはかなり気になるところだ。
「関係あるのかどうかわかんないんだけど…これを見て〜。」
いきなりみんなの前に出された地図には、赤で大きなマークをしているところがあった。
「実は、ここの磁場が急激に変化しているの〜。」
「むっ、ここは…」
「知ってんの、ひなのん?」
「うむ、かつて修行僧がここで荒行をしておったと言われているところだ。
 今では祠が設けられ、神聖な場所として崇められておる。」
「クロウに関係あるのかしら。」
「それはわからんが、霊的なものがあるのは確かだ。我が確認しておる。」
「…!」
一瞬、ともねえの表情が険しくなったかに見えた。
何かを決意したかのような眼差し。
一体、何を決意したっていうんだろうか…?


次の日から、ともねえは部屋にこもって古文書とにらめっこをしていた。
俺も横からちらりと見てみたが、何が書いてあるのかちっとも解からない。
たまに部屋を出ては雛乃姉さんの部屋に行き、そしてすぐに戻ってくる。
その表情はかなり思いつめていたようだったが、俺は今は何も聞かないことにした。
何日かそんな日が続き、ある日俺は突然ともねえに呼ばれた。
「なぁ、空也。今日はぽえむちゃんと帆波さんも呼んで、一緒に晩ご飯にしようかと思うんだけど。」
「おっ、いいね。他のお姉ちゃん達は?」
「要芽姉さんは渋々だったけど、みんな了解してくれたよ。」
「そっか。じゃあ早速呼んでくるね。」
「空也…」
「ん?」
「…ううん、なんでもない。」
「?」
俺はちょっと腑に落ちなかったが、そのままねぇや達を呼びに行った。
なんだか様子が変だけど…ま、いっか。
幸い、二人とも家にいてくれたおかげで話は進んだ。
こっちにやってきたねぇやは、いきなり要芽姉様と喧嘩しだした(姉様が一方的につっかかっていったんだけど)。
この二人は本当に相変わらずだ。ちなみに、今日は卓球勝負をするらしい。
姉貴が命令通りに物置から卓球台を持って来させられていた。
ねーたんは俺やともねえと一緒に準備をするといったんだけど、
「あは、私は大丈夫だから、二人とも手伝わなくていいよ。」
「いいの?」
「私、手伝いたい…」
「いいよいいよ。今日は私だけで作るから…」
そう言って断った。
俺達は仕方なく、海お姉ちゃんと一緒に夕飯まで遊ぶことにした。


少し遅めの夕飯になったけど、料理が運ばれてきた途端、全員が文句の一つも言わなくなった。
「おお、これはこれは美味そうなものばかりだのう。」
「肉!肉!とってもジューシー!!」
「ヤキソバ大盛りなんて、気がきいてるわね、巴姉さん。」
「これ、辛そうでおいしそう…」
何せ全員の好物ばかり。これだけの量を一人で作ったなんて、本当に凄いと思う。
「要芽姉さんには、デザートにミントアイスもあるから。」
「ふふ…ありがとう、巴。」
うわ、この人本当にうれしそうだ。
「それにしても、どうしたんだよ。急にここまでご馳走を出すなんて。」
「ムガ…ホントホント。おいしいからいいけど…モガ。」
「これ、ほなみよ。口に食べ物を入れてしゃべるでないわ。」
「アン、気にしない気にしない。」
「礼儀もなってないなんて、本当にどうしようもない馬鹿ね。」
「…かなめも野菜ぐらい食わんか!」
相変わらず騒々しい食事だ。
「あは、みんなへの感謝の気持ちだよ。」
「何言ってんのよ。こっちが感謝したいぐらいよ。」
「…ありがとう、高嶺。」
「何か巴お姉ちゃん、おかしくな〜い?」
「な、何を言ってるんだ。いつも通りだよ。」
「う〜ん、まいっか。はい、くーや。あーん。」
「あーん。」
ともねえはみんなの食べている姿を見て、本当にうれしそうだった。
でも、なんとなく後ろめたさを隠していたような…
嵐のような夕飯が終了してねーたんと後片付けをしていると、急に眠気が襲ってきた。
「ごめん、ともねえ。ちょっと部屋で横になってくるよ。」
「私も…」
「うん、いいよ。ぽえむちゃんは私の部屋を使って。」


夜も随分とふけた。
どうやらみんな寝たらしい。
市販の睡眠薬を使ってみたけど、全員に効いてくれて助かった。
瀬芦里姉さんに効くかどうか心配だったけど、食べた量が多かった分、よく効いたみたいだ。
ぽえむちゃんは私の部屋で、帆波さんと瀬芦里姉さんは空也の部屋で、あとは自分の部屋で寝ている。
ちゃんと確認をとった。
それから私はみんなを起こさないように注意して、そっと家を抜け出した。
『ラスカル』をガレージから引っ張り出し、音を立てずにそのままゆっくりと外に出る。
エンジンの音で目が覚めないように、家から少しはなれた。
「…ごめん、みんな…これは力を持つ私だけしかできないことだから…
 クロウは復活を狙っている。それをもう止めれるのは、力を持つ私だけ。
 透子さんだって…いないんだ。最後は…私の手で…」
目的地は、あの時に海が言っていた場所。古文書では、そこが霊力を増大させる場所だという。
異変があったということは、そこにクロウが集結して、次元の門をこじ開けようとしているだろう。
あの『エゴ』の指輪を手にしたクロウが中心になっていることは間違いない。
透子さんはそれに気づいて、その時にやられたのかもしれない。
なんとしても阻止しないといけない。
もっと多くの人が苦しむことになる。
それだけは…それだけはなんとしても…この命にかえても止めないといけないんだ。
それが私の使命だから。
指輪を手にしてしまった、私の…
「それじゃ…行ってくるね。みんな…空也…バイバイ。」


ほんの少しの眠りから覚めてからの柊家はあわただしかった。
ちょっと頭がボーッとする。
ともねえの姿がどこにも見えず、『ラスカル』もない。
こんな夜中にどこへ行ったんだろう?
するとねーたんが、台所から何かを見つけてきた。
ビンの中に錠剤が入っている。
「…これ…」
「なんだこりゃ?なんかの薬かな?」
「う〜ん、これは睡眠薬みたいだね〜。」
「そんなことわかるの、お姉ちゃん?」
「お姉ちゃんは何でもわかるよ〜。」
いや、全然説明になってないよ。
「むむっ!これはまさか…うみよ、前に異変があったと言っておったろう?」
「うん。」
「読めましたわ。雛乃姉さんは古文書の解読に協力していた…
 おそらく、ここのことが書いてあったんじゃありませんか?
 そして真相を解明した巴は、その場所に向かったと…
 私達について来させないために料理に睡眠薬を混ぜたんだと思います。
 自分は睡眠薬入りの料理を食べずによけて…」
「うむ。あそこは霊力が高まると言われる聖なる場所。
 クロウが集結していることを考えて、ともえは最後の決戦に…
 クロウはこちらとの次元の門を開ける手はずをここでとるやもしれん。」
「そ、それじゃ一人で行ったともえちゃんが危ないわっ!」
「よし、直ちに出撃準備にかかれ!各々方、気を引き締めよ!」
「了解!」
「くうやとせろりは装着後、直ちに現場へ向かえ!装備をぬかるでないぞ!
 我らもすぐに向かう!」


その場所はひんやりしていた。
ただならぬ雰囲気をかもし出している。
そしてその場所を探って30分ほどすると、奇妙な光を発見した。
「キタ…カ…」
「クルト…オモッテ…イタゾ…」
「久シブリダナ、『ジガ』ヨ。今ハ神聖ナ儀式ノ最中…邪魔ヲスルナ。」
「お前は…あの時の!」
「我ガ霊力ヲ極限マデ高メ、次元ノ門ヲ無理矢理開ク。
 『エゴ』ノ指輪ノ力ヲ利用スレバ、ソレモ容易ダロウ。」
「そんなことはさせない!この世界に生きるみんなのために!」
ここで全ての決着をつける。そう心に決めたんだ。
「纏身!」
「ワレワレ…フタリ…ガ…アイテ…ダ…」
「ユクゾ…」
「はぁぁぁぁぁ!」
2対1の死闘が始まった。私も必死だけど、相手も必死だ。
ここに全てを賭けた、戦士達の極限の戦い。
2匹の研ぎ澄まされたコンビネーションは、的確に私の体を痛めつけていった。
そして、2匹は私を挟む形で取り囲んだ。
「ノコサレタ…ノハ…ワレラ…サンニン…モウ…アトハ…ナイ…」
「シンデ…イッタ…モノタチニ…オマエノ…ナキガラヲ…ササゲテ…クレル…」
「う、うわぁぁぁぁ!」
それぞれの腕から放たれた電撃のようなエネルギーが私を襲い、そのまま私は膝をついてしまった。
「このままでは…やられる…」
攻撃が終わると、私の纏身は力の消耗からか自然に解除されてしまった。
もう…だめなのか…こんなところ…で…
「サテ…ドウ…スル…」
「イマハ…ダイジナ…トキ…コイツ…ノ…シマツ…ハ…イツデモ…デキ…ヨウ…」


俺とねぇねぇは急いだ。夜道を猛スピードで駆け抜け、ともねえの無事を祈る。
もうあと少しというところで、こちらを遮るように立ちつくす奇妙な集団を発見した。
全員がうつろな表情で、こちらをジロリと見ている。
どうやら邪魔をするつもりらしい。
「みんな普通の人間じゃないか!?」
「どうなってんの!?」
急に海お姉ちゃんからの通信が2人の耳に響く。
「み、みんな私の学校の生徒だよ〜!どうしよ〜!」
「私…わかる。この人達みんな…操られている。」
「そんな…なんてことしやがるんだ!」
クロウならいざ知らず、相手が人間となるとこの装備じゃ戦えない。
パンチ一発お見舞いするだけで、人間なら即あの世行き決定だ。
「クーヤ、ここは私に任せて。」
そう言うとねぇねぇは、自分から『C3〜Ver.Serori〜』の装甲を取り外していく。
最終的に、見事にアンダースーツのみとなった。スタイルのおかげでメチャクチャ色っぽいぞ。
「ねぇねぇ、いくらなんでもムチャだよ!50人以上いるぞ!」
「大丈夫だって。こいつら全員のしてから、後で追いかけるからさ。」
姉様たちの通信も通信も飛び込んでくる。
「空也、ここは瀬芦里に任せなさい。私達も到着したらすぐに加勢するから。
 それに、今助っ人を頼んだわ。強力なやつをね。」
「今ここで空也ちゃんがやられたら元も子もないわっ。」
「早く行くんだよ、クーヤ!」
ねぇねぇの瞳は決意の眼差しだった。もうこうなったらテコでも動かないだろう。
それにみんなが到着したら、ねぇねぇの手助けになってくれるはずだ。
誰かはわからないけど助っ人も来るって言ってたし。
「…ごめん、先に行くよ。」
「うん。早く行って、モエの手伝いをしてきな。」
俺は横をすり抜け、それを追いかけようとするヤツラにはねぇねぇのとび蹴りが炸裂した。
「さぁて、パッパと倒しますか!今日のアタシは、手加減を知らないよ〜!」
そういうとねぇねぇは集団に向かって飛び込んでいった。

(作者・シンイチ氏[2005/01/24])


※3つ前 姉しよSS「PROJECT【C4】(前)
※2つ前 姉しよSS「PROJECT【C4】(後)
※1つ前 姉しよSS「指輪の主
※1つ次 姉しよSS「みんなのために(後)
※関連 姉しよSS「行け空也!C3、起動!


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