月の光に照らされる暗闇の中の、どこだかわからぬ名も無き荒野。
そこに倒れている人間と、傍らに立っている人間の二人がいた。
いや、立っているのは人ではない…クロウだ。
クロウの手は血に染まり、倒れている人間を殺したばかりだと見てとれる。
そして屍の手から指輪を取り外し、それを掲げてしばらくの間じっと見つめていた。
それをおもむろに自分の指にはめると、ニヤリと笑う。
「フフ…ツイニ手ニ入レタゾ!『エゴ』ノ指輪ヲ!チカラガ漲ッテクルワ!
 コチラニ来タ我ラノ数ハ残リ少ナイ…シカシ!コレサエアレバ恐レルモノナドナイ!
 我ガ同胞達ヨ!アノ次元ノ狭間ヨリ開放サレル時モ近イ!」
月の光がクロウを照らし、その狂気に満ちた顔をさらけだす。
「アトハ『ジガ』と『イド』の指輪…ソレラガ揃イシ時、我ノチカラデ次元ノ扉ハ開カレル!
 長キニワタリ受ケタ恨ミ、晴ラセル時モ近イゾ!
 フフフフフ…フハハハハハ…ハーッハッハッハッハッハッハ!!」


俺たちは珍しく透子さんに呼び出された。
「ごめんなさいね、突然呼び出しちゃったりして。」
「い、いいですよ。急な話って何ですか?」
「実は指輪のことなのよ。」
透子さんは以前、指輪を狙ってともねえの命を奪おうとした。
今でも指輪を狙っているのかどうかはわからないけど。
当然のことながら、俺たちよりも指輪のことに関しては詳しい。
そんな透子さんから指輪の話が持ち上がってくるとは…。
「なぜクロウが指輪を狙っているのかが、ようやく判明したわ。」
そういえば最近、言葉を話すクロウから指輪をもらうとかどうとか…。
アレにはやっぱり意味があったのか。
「昔、クロウと人間の間で起こった合戦で、クロウは次元の狭間へと追いやられた。
 そして、次元の狭間へ追いやった陰陽師たちはそれぞれ指輪に封印の鍵を閉じ込めたの。
 どうやって次元の狭間にいたクロウが一部だけこっちにやってきたのかは不明だけどね。」
「ということは…」
「3つの指輪がそろった時、力あるものが使えば次元の扉は開放されるというワケ。」
「それってメチャクチャまずいじゃないですか!人間なんかあっというまに皆殺しにされちまう!」
「ええ。そこで問題になってくるのが『エゴ』の指輪のことよ。」
「確か…最後の戦士の?」
「ええ…実は最近調べて解かったんだけど、どうもかなり特殊な能力を持っていてね。
 どうやら『エゴ』は『ジガ』と『イド』の監督者らしいのよ。」
「ど、どういうことなんですか?」
「『ジガ』と『イド』の指輪を持つ資格がないと判断すると、
 『エゴ』に限り、魔法のようなものを使えば指輪をとりあげることができるのよ。」
魔法って…あ、ともねえがちょっとだけ目を輝かせたぞ。
「ひとつでも指輪がクロウの手に渡るのはまずいけど、それが『エゴ』の指輪ならなおさらよ。
 トモちゃん、十分注意することね。」


俺たちは帰ってからこのことをみんなに話した。
最初は黙っておこうと思っていたが雛乃姉さんにバレてしまい、結局話すハメになった。
「ふむぅ、それは由々しき事態だな。」
「まさかそれほどまで大事になっていたとはね…」
「ちょっと、さすがにこいつはヤバイんじゃないの!?」
非常識揃いの柊家であっても、さすがにこれは全員が息をのむしかなかった。
ねぇやとねーたんは非常識すぎてついていけず、何も言うことができない。
「う〜む…よし、海。もう一つ『C3-X』を作ることはできるか?」
「パーツの関係で『C3-X』はちょっと無理だけど、『C3』なら作ることは可能だよ〜。」
「ならば早急に作業に取り掛かるがよい。『C3』は瀬芦里に装着してもらうぞ。」
「わかったよ、ひなのん。まー実際戦えるのはアタシぐらいなもんだからね。」
いや、それなら海お姉ちゃんも十分いけるような気もするんだけど…
「じゃ、早速作業に入るけど…
 瀬芦里お姉ちゃん用にカスタマイズしないといけないから、結構時間がかかるよ〜。」
「構わぬ。存分に腕をふるうがよい。」
クロウとの戦いに重大な意味を持つ事に、初めて気づかされた。
この戦い、勝つことはできるんだろうか…?
…そして数日後、これまでにない異質な力を持つクロウの気配をキャッチした。
足早に出発したともねえを追い、俺たちも出発した。


すでに現場には透子さんが到着していた。
「透子さん!」
「トモちゃん。どうやらまだクロウは姿を現していないようね…」
そう、こんなことは今までになかった。
耳鳴りが起きると、その方向に行けばクロウに遭遇していたはずなのに…
すると、急にとてつもない悪寒が全身を襲った。
「クックック…マサカコウモ簡単ニ揃ウトハナ…」
「誰だ!?」
月明りが照らした先に、クロウが立っていた。
一瞬、全身が凍りついたように動かなくなった。
クロウが持つ絶対的な力というやつなんだろうか…
「あら、私たち二人が相手だというのに、かなりの自信ね。そんなに指輪が欲しいのかしら?」
「当然、指輪ハ喉カラ手ガ出ルホド欲シイナ…ダガ、モハヤ危険ヲオカス必要ハナイ。」
「どういうことだ!」
「我ハチカラヲ手ニ入レタカラナ…コノチカラヲ!」
そういうと、クロウは手をかざした。その指には指輪がはめられている。
「…!?まさかその指輪は!?」
「ソウ…コレコソガ『エゴ』ノ指輪ダ!アイニク我等デハ纏身デキンヨウダガナ。
 シカシ纏身ハデキズトモ、我ノチカラハドンドン高マッテイクノガワカル…」
「くっ…纏身!」
しかし、私たちの指輪は反応しなかった。それどころか、強い力に指輪が引っ張られていく。
『エゴ』の指輪の力で、私たちの指輪を取り上げようというのか。
「う…うあぁ…!」
「こんな…こんなことって…!」
「フフ…無理ハシナクテイイゾ…ドウ足掻コウト無駄ダ。
 キサマ達ノオカゲデ、我トトモニコチラニキタ同胞モ残リワズカ…
 ソノ恨ミヲ晴ラスタメ、キサマラハチカラヲ失イ、何モデキズ、来ルベキ日マデ恐怖ヲ味ワウガイイ!」


ともねえのところまで、俺とねぇねぇは急いだ。
ねぇねぇはできあがったばかりの『C3〜Ver.
Serori〜』を装着していた。
胸部の形状がねぇねぇのボディに合わせて作られており、姉貴や雛乃姉さん、ねーたんがうらやましそうに見ていた。
ねぇやに到ってははしゃぎだして「ワタシにも作って〜!」とか言っている始末だ。
「う〜ん、今はちょっと無理だよ〜。
 ま、あっちのほうの人ならくーやと同じタイプでもいけそうだね〜。」
と言いながら貧乳トリオをちらりと見つめる。
海お姉ちゃん、それは嫌がらせですか?
性能は俺が以前装着していた『C3』とそれほど差はないらしく『C3-MILD』に比べればこっちのほうが強い。
以上、簡単な説明終わり。
俺とねぇねぇは現場付近でとめてあった『ラスカル』を発見した。
周りはシーンと静まり返っていて、どこか不気味だ。
注意深く周囲に気を配っていると、倒れているともねえと透子さんを発見した。
「ともねえ!透子さん!」
「いたの、クーヤ!?」
「うん!ねぇねぇは周囲を監視していて!」
俺はそういうと、ゆっくりと二人に近づいていった。
近づくと二人は気づいたのか起き上がり、少しボーっとしている。
「あ…空也君…?」
「空也…」
「よかった…二人とも無事だったんだね。」
しかし、透子さんもともねえも暗い表情を浮かべた。
「いや…無事とは言えないわね。」
「え…?」
「…指輪、奪われちゃったんだ…」


透子さんはその場をさっさと後にし、俺たちもとりあえず家に戻った。
3つ指輪が揃ってしまい、これでクロウが大量にこちらにやってくることが確実なものとなってしまった。
あれから3日が過ぎてからの夕方、またもや透子さんから呼び出された。
「まだ助かる道を見つけたわ。」
「え…まだ希望があると?」
「ええ。どうやら指輪が揃っても次元の扉を開くことはできないのよ。
 クロウが閉じ込められた場所まで行き、そこで新月の日に指輪の力を解放すると開くというワケよ。」
「新月の日…まだ余裕はある!場所は!?場所はどこなんですか!?」
「慌てないで…それがここよ。」
周辺地図を取り出して透子さんが指差した先は、古くなった誰も住んでない寺だった。
地元では隠れた心霊スポットとして有名である。
雛乃姉さんが以前この付近で仕事をした時、神聖な力が働いているのを感じ取ったと言っていた。
「方法はふたつあって、門となる場所を破壊するか、指輪そのものを奪い返すか。
 場所というのは、裏にある鳥居よ。これを破壊すればいいわ。」
「そんなバチあたりな…でもぐずぐずしているヒマはない!行きましょう!」
しかし、ともねえも透子さんも気乗りしない雰囲気だった。
「どうしたんだよ、ともねえ。透子さんまで…」
「せっかく教えてあげたのに悪いんだけど…トモちゃんも考えは同じのようね。」
「はい…」
「なんだよ、どういうことなんだよ!」
「もう私たちには力がないわ…」
「うん…あいつは『来るべき日まで恐怖を味わうがいい』って言ってた…
 力のない私たちは、もうそうするしかないんだよ…それに、それが私たちの背負う罰なのかも…」
「なんだよ…なんなんだよ、それ!力がなくなったからって、それでいいのかよ!」
このままでいいのかよ!じっとなんてしていられるかよ!
「もういいよ…だったら俺が一人で行ってやる!あいつらをこのままになんてしておけない!
 もう二人には頼らないよ!」
そう言って俺は飛び出した。
待ってろよ…ありったけの武器を使ってしとめてやる!


お姉ちゃんたちの制止を聞かず、俺は単身家を飛び出した。
『クーヤチェイサー』に積めるだけ武器をのせ、目的地の寺に向かって出発した。
フルスピードで走行し、目的地まで大急ぎで向かう。
到着してから、周りを注意深く窺った。
誰もいないことを確認すると、鳥居に近づき、新兵器『メカ高嶺・自爆型』をセットした。
どうやらこれが海お姉ちゃん作の最強兵器らしい。
ツインテールを両方とも引っ張って、取れてしまうと20秒後に爆発する仕組みだ。
ツインがなけりゃ姉貴は自ら命を断つ…か…
「こいつなら跡形もなく吹っ飛ぶはず…」
しかし、突然『メカ高嶺・自爆型』が一瞬のうちに破壊された。
何か見えない力で無理矢理変形させられたようだ。
「ちくしょう、誰だ!」
『ガトリングスマッシャー』を構え、俺は叫んだ。すると、急に背筋が凍るような視線を受ける。
振り返ると、そのプレッシャーの元凶が立っていた。
クロウ、それも3つの指輪をはめたクロウだった。
「ヤハリ来タカ…甲冑ニ身ヲ覆イシ蒼キ戦士ヨ。サスガニソノ鳥居ヲ破壊サレルワケニハイカンナ。」
「くっそー…こうなったらお前を倒して指輪を全部もらっていってやるぜ!」
『ガトリングスマッシャー』を発射し、完全に捉えたと思ったが、目の前で光弾が四散してしまった。
「そ、そんな!?」
いくら撃ち続けても、全く通用しない。そのうちに弾切れになってしまった。
「フン、ソレデ終ワリカ?」
「これなら…どうだぁ!」
『エクスカリバー』を装着して切りかかったが、やはり目の前で力がかかって動かない。
バリアでも張っているのだろうか。
それから、衝撃波のようなもので吹っ飛ばされ、木に思い切り叩きつけられた。
「ううぅ…まるで歯が立たない…」
「指輪ヲ揃エタ我ハ無敵ダ。遊ビハ終ワリニシテ、トドメトイクカ…イヤ、ソノ前ニ…」


空也がみんなの声を聞かず、家を飛び出したと聞いた。みんなも空也を追って行ったらしい。
原因はわかっている。私や透子さんが頼りないばっかりに…
これじゃいけないのはわかっているんだ。でも…どうすることも…
「…よし!」
『ラスカル』にまたがると、私は出発した。
何もできないかもしれない…でも、このままじっとしてなんていられない!
せめて指輪の行く末を見届けないと!
空也が向かっていったところまで大急ぎで向かう。
途中で透子さんを発見した私は、そこで『ラスカル』を止めた。
「透子さん…」
「あら、奇遇ね。あんな子にああまで言われて…黙っていることなんてできないわ。」
「そ、それじゃあ…」
「…後ろに乗せてもらえるかしら?」
「はい!」
透子さんは『ラスカル』の後ろにまたがり、それを確認した私は一気に発進させた。
しばらくして、透子さんが口を開いた。
「トモちゃん、あのときの約束は覚えているかしら?」
「…この地方に隠れているクロウを全部倒したら、私と透子さんとの決着をつける…ですか?」
「ええ、ちゃんと覚えていてくれたわね。やっぱり私はアナタと白黒つけたいからね。」


私たちが到着した頃、すでにみんなも到着して、トラックはもぬけのカラだった。
全員が寺の裏手にいて、そこには例のクロウがいた。しかし、みんなを襲う気配はない。
空也は寺の屋根で十字架のようなものに縛り付けられ、まるで今から処刑でもされるような状態だった。
さらに2匹のクロウがその両隣にいる。
「空也!」
「巴お姉ちゃん!…それに…月白先生?」
「こんばんわ、柊さん。でも、そんな悠長なことを言ってる場合じゃなくてよ。」
意外な人物の登場で海は驚いていたが、今はそれどころじゃない。
「空也ちゃんをはなしなさいよ!」
「吠エルナ!…ヨク来タナ、待ッテイタゾ。キサマノ弟ニハ我ニ刃向カッタ報イヲ受ケテモラオウ。
 キサマラノ目ノ前デ、ヤツハ今カラ処刑サレルノダ!」
「そんな…空也…」
どうすることも…どうすることもできないなんて…。
すると、ぽえむちゃんの柔らかい手が私の手に触れた。
その手は恐怖で震えている。
「巴さん…戦って!もう一度、『ジガ』として戦って!」
「ぽえむちゃん…」
その声を聞き、何かが吹っ切れた私は、拳を固めクロウに向かって突進した。
空也を守りたい…みんなを…守りたい!
「うあぁぁぁぁぁ!」
「フン…馬鹿ガ。」
目の前で弾き飛ばされてしまった。でも、こんなことで諦めることなんてできない!
私は…私はみんなを、空也を守るんだ!
もう一度雄叫びをあげ、突進した。
「仕方ナイナ…ソレホド死ニタイカ…」
クロウが手をかざしたその瞬間、突然『ジガ』の指輪が光りだした。
「ナニ…!?」
「ああああぁぁぁぁ!」
私の拳は見えない障壁に邪魔されることなく、クロウの頬を殴りつけた。
何が起こったのか、自分でも解からなかった。


まるでダメージはなかったけど、クロウは思いっきり混乱していた。
「ナゼダ!?我ニ触レルコトナドデキルハズガ…!?」
すると『イド』の指輪も光りだし、なんと2つの指輪がクロウのもとを離れていく!
そのまま指輪は私と透子さんの指に納まった。まるで刀が自然と自分の鞘に納まるかのごとく。
「ソンナ…ソンナ馬鹿ナ!」
取り返そうとする力をこめるクロウだが、指輪はもはや動くことはなかった。
理由はわからないけど、多分指輪は私たちが真の主であると認めたらしい。
新しい力を手に入れたことが関係しているのかどうかわからないけど、今は…
「透子さん!」
「ええ!」
「「超纏身!!」」
「月白先生も纏身できたんだ〜…」
「ええ、そうよ。他の生徒にはナイショよ、OK?」
この姿になり、再び戦う時が来た。空也は無事に取り戻す!
すると、急に屋根にいたクロウ2匹が落ちてきた。
見上げると『C3』を装着した瀬芦里姉さんが空也を助け出していた。
「モエ!遠慮はいらないよ!さっさとやっちゃえ!」
「うん!みんなは離れていて!」
さっとその場をみんなが離れ、あの指輪をはめたクロウはいつの間にか姿をくらましていた。
どうやら逃げていったらしい。
「ギシャァァァァ!!」
「さあて、いくわよトモちゃん!最初から飛ばしていくわよ!」
「はい!」
「ジェノサイド・フロウジョン!」
「パープル・ストライク!」

…そして数分後、戦いは終わった。クロウたちは私たちの敵ではなかった。
それから私たちは鳥居を破壊し、もうクロウが大量に来ることはなくなったというわけだ。
しかし、これがきっかけであのクロウが次にどんな手で来るか解からない。
近く訪れる、最終決戦の予感がしてきた。


モウ同胞達ガコチラニ来ルコトハデキン…イヤ、指輪ヲ揃エルコトガデキレバアルイハ…
モハヤソレシカ手ハ残サレテオラン。
コチラノ数ハ我ヲ含メアト3人…ナントシテモヤツラを倒シ、指輪ヲ揃エナクテハ…
我ラニ望ミハ…ナイ。

(作者・シンイチ氏[2005/01/08])


※2つ前 姉しよSS「PROJECT【C4】(前)
※1つ前 姉しよSS「PROJECT【C4】(後)
※1つ次 姉しよSS「みんなのために(前)
※2つ次 姉しよSS「みんなのために(後)
※関連 姉しよSS「行け空也!C3、起動!


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