「さてと。ワタシはこれからちょっとひと泳ぎしてくるけど。空也ちゃんはどうする?」

 周りを見て回ってくる

>先に荷物を片付ける

「うーん、俺は一回帰って荷物片付けてくるよー」
「そう。ワタシはめんどくさいから手伝えないけど頑張ってね♪歩笑ちゃんー!儀式の植物採集だかなんだか知らないけど暗くなる前に帰るのよーっ!」
ひらひら。答えの変わりに木の影のフリフリが縦に揺れる。
「うん!いい返事ー。空也ちゃん!明日は街の方案内してあげるからねー!」
ねぇやは走って行ってしまった。視線も感じないと言う事は歩笑ねーさんもどこかに行っちゃったんだろう。
じゃあ、取りあえず家へ戻って荷物を片付けちゃおうっと。

そして、夜。
「で、空也ちゃん。この人がウチのお父さんでーす!」
「ヤァ、クウヤクン!ハジメマシテ!ワシガイヌガミワカバダ!」
すっごい棒読みですよ?この人。右手を差し出される。うわ、なんか悪意に満ちた右手ですッッ、悪意に満ちた笑顔ですッッ。
怖々と右手を差し出す。その途端!
グッ!ギリギリギリギリ………
うぁっ………凄い力で握られている。ちょっとでも力を抜いたらあちら側に体を持って行かれそうだった。
「信じていた。必ず握ってくれると」(くそう………さっき外に出たままで居てくれればいくらでもイヤガラセが出来たハズだったものをっ……!)
ギリギリギリギリ………こうなったら!昔マンガで読んだ合気を駆使して!渋川先生!今こそボクに真の護身を!
「……お父さん、ごはん……」
!?
急速に力が抜けて行く。
「う……うむ……スマンな……歩笑……あー、オホン…翔から話は聞いている、これからよろしくな」」
ふぅ、助かった。もしかして俺、歓迎されてなかったりする?
…………それから一週間。
「ふっふふのふ〜♪いよいよ今日から空也ちゃんも学校デビューねっ♪」


「う……うん……そうだね……ねぇや……」
「?
なんでそんなに疲れてるの?空也ちゃん?」
分かってて聞いてるんだろーか。この人は。
日中は若葉さんが
「翔から言われてるんでな。悪く思わんでくれよ。くっくっくっ……分かったら口でクソたれる前と後に「サー」と言え!」「サーイェッサー!」
みたいな事になってて地獄の特訓(亀の甲羅を背負って牛乳配達とか耳穴に耳たぶをしまい込む練習とか)させられてるし。
そして憩いのハズの食事は
「かっ………辛いッ………!?だっ…けど……コレはっ…!!ンまぁーいっ!!」
そう、歩笑ねーさんの料理は辛かったのだ。ウマいんだけどね。でも辛いので残そうとすると
じぃぃぃぃーーーーっ。ポエムネェザン!ナズェミテルンディス!
斜め45度から悲しげな表情で見られるのだった。
これが一週間続いて疲れない人がいたらこっちが見てみたい。
「あン。歩笑ちゃんの料理はガマンしてあげて。あれでも手加減してる方なのよ?
それと、お父さんには後でキツ〜く言っておくわねっ!イジメないって言ったのにっ!」
「うん……ありがとうねぇや……じゃあ行ってくるね……」
よろよろしながら玄関に向かう。
「ランドセルは持った?
ノートの確認は?
学校までに迷ってウジウジ震えて泣いたりしない準備はOK?」
「だ、大丈夫だよぅ。行ってきまーす!」
学校はすぐ近くみたいだし、案内してもらわなくても行けると思う。
それになにより。じぃーっ。道はずれたりすれば。じぃぃーっ。多分この視線が途切れると思うから。
…………「じゃあ、説明はこれくらいかな。ハイ、コレがこっちの教科書」
「は、はい」
担任の先生から教科書を受け取る。
「本土からの転校生なんて珍しいから、最初の内は色々あるかもね。ま、挫けないでがんばんなさいな。じゃー、教室行きましょうか」
「あ、はい」
先生の後について教室へと向かう。その途中。
「あ、あと一つだけ忠告。保健室には、なるべくなら行かない方がいいよ?キミみたいなカワイイ子は特にね」
「?はい……」
保健室に何があるんだろう?
「ハイ、着いたよ。緊張してるんなら今のウチに深呼吸でもしときなさい」


と、言いつつもうガラリと扉を開ける先生。どーゆー性格してるんだろう、この人。
「おはよーう。ガキンチョどもー!静かにするー!今日は本土からの転校生を紹介しまーす」
おおおおおおっ!!転・校・生!転・校・生!
女・の・子!美・少・女!教室がざわめく。うわ、ちょっと怖いかも。
(ぼそり)「男だけどね」
ブーブー!ブーブー!カ・エ・レ!カ・エ・レ!おお、早くも帰れコールですよ。なんだこの学校。
「まー、入っといで。転校生」
覚悟を決めて教室へと入る。こつ、こつ、こつ。先生の横でくるっと回って黒板を背にする。
うわぁ……みんな日に焼けて黒々としてる。それに何というか………健康的だ。分かりやすく例えるなら全員瀬芦里ねーさんみたいな。
「やっぽー!あそぼー!クーヤ!」「おねーさんをかまえー!かまわないと昨日覚えたパロスペシャルかけちゃうぞー」「クーヤのアイス食べかけでいいからちょーだい」
………やめよう。我ながら恐ろしい想像をしてしまった。それは流石に身が持たない。
「本土から転校してきた柊 空也君。都会っ子だからって物怖じせずに仲良くやってってー」
「柊 空也です…よろしくお願いします…」
ビビりつつぺこりと挨拶。………顔を上げる。するとなぜか教室はしーんと静まり返っていた。
あ……あれ…?どうしたの?もしかしてすでに無視イジメ?空気のような存在ですかボク?そう思った時。
っきゃああああああっ!?カワイー!肌白ーい!男・の・子!美・少・年!
キンキンする声が響く。歓声は主に女子からだった。ほっ……よかった。実は鎌倉でも女の子受けはよかったり。もっともそのせいで男子グループにいじめられてたんだけどね。
「席は………あそこの空いてるトコに座って。うん、そこ。よし!じゃあこれで今日の連絡事項はしゅーりょー!残り時間は自由時間にしたげるから転校生と話してみたりしなさいな」
すたすたと先生は去っていった。
ふぅ。ランドセルを置いて一息つこうとした途端。すざっ!!女子に周りを囲まれた。バックアタックだ!
「ねぇねぇ、どっから来たの?」「いくつ?って同い年か……」「かわい〜♪ホントに男の子?」「趣味は?好みのタイプは?」「空也くんハァハァ」
ワイワイガヤガヤと一気に質問攻勢。わっ…わっ…なんかスゴイ事に。


「あ、あの……落ち着いて……ちゃんと答えるから……」
きゃーっっっっっっ!また歓声が上がる。ちょっと嬉しいかも。だが同時にギラギラした視線も感じる。
ドドドドドドドドド…………ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………
ちらりと男子の方を見る。!?何”チョーシ”こいてんのよ……!?(ビキッ)”全殺し”ダベ!?(ピクッ)
空也キュンハァハァ……
ひしひしと身の危険を感じる。うわーん。やっぱりこっちでもイジメられ街道決定!?
キーン……コーン……カーン……コーン……キーン……コーン……カーン……コーン………………チャイムだ。しめたっ!
「ごっ、ゴメン!ちょっとトイレに行かせて?質問はお昼休みにでもゆっくり聞くよー!」
だっしゅっ!よしっ、脱出成功!このままぐあい悪いとかなんとか言ってお昼まで保健室で休ませてもらおうっと。
その頃になれば少しは男子の怒りも収まるだろうしね。長年弱虫やってるとこういう知恵が付くもんなのよ、ええ。
でも、保健室ってさっきなんかあるって言われたような気が…?
………ま、思い出せないから大した事じゃないよねー。
階段を駆け降り、保健室に着く。
「すいませーん………」
扉を開けつつ中を見回す。
あ、らっきー。誰も居ないみたい。じゃあ、お昼まで眠らせてもらおうっと。
ばふっ!っとベッドに潜り込む。おやすみなさーい。幸い風も涼しいし、すぐに眠くなってきた。


………………がららっ。扉を開ける。
帰ってきました、わたしのお城。やっぱり消毒薬の匂いって落ち着く〜。
「長引いたわね〜。職員会議。さてと、アルバム整理でもしよっかな〜」
ポイッと机の上に書類を放り投げる。こんなのの処理は後でいいのだ。マル秘アルバムの整理をしないとね。
「………う〜ん」
ビクゥゥッ!
誰!?誰かいるの!?
恐る恐る声の方へ行ってみる。するとそこには嘘みたいに可愛い子が眠っていた。
わーっ!!何!?何この子!?女の子みたいなあどけない顔、さらさらの髪!抱きしめたら壊れちゃいそうな線の細さ!
ま・さ・に・パーフェクトっ!!てゆかど真ん中ストライクゾーンっ!最高級の素材だわ……
………アレをしたい。
うー。でもさすがに見知らぬ子にアレをやっちゃマズいかも。大事になるとナニだしね……
でもしたいっ!ダメよっ!したい!ダメよっ!理性と欲望が葛藤する。
オラオラオラオラオラオラオラっ!無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!ロードローラーだっ!
はい、理性がペチャンコになったので欲望の勝ち。
「と、言う事でっ!レッツビギンでございます!」
さぁ!お着替えの時間よ!ベイビー!


ん………なんか……涼しい……すーすーする……
寒気がして目が覚める。
わー!本気で寝ちゃったよぅ!
時計を見ると12時45分。そろそろ昼休みも終わっちゃう。急いで戻らないと………
と、その前にトイレ行って顔洗ってねむいのをとってから………ぼや〜っとしながら保健室を出る。
トイレは………あった。とっとと顔洗っちゃおうっと。
ふー、すっきり。ハンカチどこだっけ………?
ごそごそとポケットを探る。
……あれ?……ない?
というかポケット自体見あたらないんですけど?
下を見てみる。…………はい?一瞬思考が止まる。ナンデスカートトカハイテルノカナ?
な、何!?何があったのっ!?鏡も見てみる。そこには女の子女の子したレースの付いた服を着た髪の長い美少女がいた。
アレ?アレアレ?首をかしげてみる。すると鏡の中の少女も同じ事を。
ってやっぱり俺なの〜!?これ!?うわ、いつのまにかカツラまでかぶらされてる。
………忌まわしい記憶が蘇ってくる。
「うわぁん!やめてよぅ!姉貴〜!」
「何言ってんのよ。アンタ、女顔だから似合うわよっ。それとも裸にむかれる方がいいのかしら?ホラホラ、観念しなさいよっ!!」
「うぅぅ……ともねえー!要芽姉さん!助けてよー!」
「く、空也……この服とかどうかな……?」
「ふふ……それとも私のおさがりでも着てみる?」
「二人ともノリノリっ!?瀬芦里ねーさんは止めてくれないだろうし……海お姉ちゃーーん!!」
「クーヤっ!今のセリフはおねーさん傷ついちゃったなぁ……くらえっ、岩斬両斬波っ!!」
「ああ……くーや……くーや……くーやかわいいよかわいいよくーや」
「わぁ〜ん!味方0!?」
そう。実は柊家でもやらされてました。しかも写真まで取られてます。
眠ってる間に着替えさせられたのかな?とりあえず保健室に戻って服を探さないと……
考えながら廊下に出る。
パシャッ!
でも今回はなんで……?まさかここまでお姉ちゃん達が来たわけじゃないだろうし………
パシャッ!!
さっきからパシャパシャうるさいなぁ………


そっちの方を振り返る。目が合った。…………怪しい人が構えるカメラと。
「あ、見つかっちゃった?」
見つかったも何もバレバレなんですけど。そこにいたのは白衣を着た女の人だった。
「いやー、すごいわねー。君。そこまでハマる子ってそうそういないわよ?うん!私の目に狂いはなかったわ!」
そんな断言されても。ってまさか………?
「もしかして……俺をこうしたのってお姉さんですか?」
「うふふっ、あ・た・り♪」
やっぱりですかっ!
「さっき保健室で寝てる君を見てムラムラしちゃってね〜。色々試させてもらったわよ?ブルマとかぁ、スク水とかぁ」
そ、そこまでぇっ!?うう……お姉ちゃん……ねぇや……ボク、汚されちゃった……汚されちゃったよぅ……
よよよ、と廊下にへたり込む。
「あ、そのポーズイイ!すごくイイ!アルバムのお気に入りになっちゃうわねっ」
パシャッ!パシャッ!フラッシュが光る。
「撮らないでくださいったら〜!」
「ハァハァ………フィルム全部撮り切っちゃった……」
「服返してくださいよぅ……」
「うーん。実は……窓際に置いといたら風で飛んでっちゃった。てへっ♪」
あ………あんですとーーっ!!!
あまりの衝撃に俺は固まってしまった。
「アノ、カエノフクトカハ………?」
「あーーーーっ!!私、用事があるのよねっ!それじゃあまたっ!」
どひゅんっ!お姉さんは風を切ってダッシュして行ってしまった。
……………はっ!しまったぁぁぁぁぁっ!固まってるうちに逃げられたっ!なんてヒドいおねーさんだっ!
「ぐすっ……どうしよぅ……こんな格好じゃ教室にも戻れないよーっ!!」
今クラスに戻ったら100%変態扱いだよぅ………
なにかいい手はないかなぁ…………………ピポーン!あ、豆電球!
うん。ねぇやが帰ってくる前に急いで家に帰って着替えるしかないかも。誰にも見つからないように………そーっと急ごう。
周りに気を張りつつ玄関に向かう。どきどき。どきどき。すっごい怖い!授業サボろうとしなければこんな事にならなかったかなぁ……
うわーん!ごめんなさい。もうしないよぅ……。こーゆー所も直さないと立派にはなれないよね。うん!反省しよう。


ぬきあし、さしあし、しのびあし。よし!後はあの角を曲がれば校門まで一直線!あとは全速力で駆けていくだけ!GOー!
そして角を曲がろうとしたその瞬間!
ごつんっ!☆
目の前に星が舞った。
…………「う〜〜トイレトイレ」
今 トイレを求めて全力疾走している俺は小学校に通うごく一般的な男の子。
強いて違うところをあげるとすれば女の子にすごく興味があるってとこかナ――
名前は団 長(だん おさむ)。こんな名前なんで仲間からはダンチョーって呼ばれてる。
そんなわけで学校にある校舎のトイレ目指して走っているのだ。
よし!後はあの角を曲がればトイレまで一直線!あとは全速力で駆けていくだけ!GOー!
そして角を曲がろうとしたその瞬間!
ごつんっ!☆
目の前に星が舞った。
…………痛ぅ………たた……目の前がチカチカする。どうやら曲がり角で誰かにぶつかったようだ。
「ゴッ、ゴメン!急いでたもんだから………」
今のは間違いなくこっちの不注意だった。相手を見ながら謝る。
「こちらこそ……ごめんなさい……」
その時………心臓が………止まるかと思った。俺がぶつかったのは女の子だった。それもとびきりの可愛いコ。
ウホッ!いい女の子…!
細い眉。つやつやした唇。色素の薄い長髪。夏らしい爽やかな服装も彼女の細い体によく似合っていた。
どうしよう。思いっきりストライクだよ、この子。
「あっ……」
彼女が慌ててスカートを隠す。しまった!あんまりジロジロ見るからスカートの中を見てると勘違いされたかもっ!
「ち、違うんだっ!パンツを見ようとしてたんじゃなくって………その……君があんまりカワイイから見とれちゃって……」
慌てて言いつくろう。
「………っ……!!」
たったったったっ。彼女は走って行ってしまった。
俺はそれをぼうっと見送るしか出来なかったワケで。
……………また会えるかな……名前も聞けなかったよ………


…………
…………痛たた……目の前がチカチカする。どうやら曲がり角で誰かにぶつかったみたい。
「ゴッ、ゴメン!急いでたもんだから………」
ぶつかった誰かが謝ってくる。俺も反射的に謝ってしまう。
「こちらこそ……ごめんなさい……」
その時………心臓が………止まるかと思った。今人に会うのはすごーくマズい。俺がぶつかったのは男の子だった。それもけっこう美少年。
………ヤンキーみたいな珍妙なカッコを除けばだけど。
じろじろ。じろじろ。うぁ………なんかスッゴイ見られてる。
どうしよう。もしかして女装してるのバレてる……?
下の方を見る。やばいっ!スカートがまくれてるっ!下着はブリーフのまんまなんだよぅっ!
「あっ……」
慌ててスカートを隠す。しまった!見られなかったよね………?
「ち、違うんだっ!パンツを見ようとしてたんじゃなくって………その……君があんまりカワイイから見とれちゃって……」
男の子は慌てて言う。
「………っ……!!」
たったったったっ。男の子の前から急いで走り去る。
バレた。ぜーーーーったいバレたーーーーっ!!!うわーん!転校初日からもう学校いけなーいっ!!
全速力で校門を走り抜けながら泣いた。でもその後は無事に家にたどり着けた。

次の日、学校に行くのがイヤでねぇやに引きずられて行ったのは、また別の話。

(作者・愚弟氏[2004/09/03])


※2つ前?姉しよSS「犬神家の夏 〜第2話〜 「全ては妄想のために」前編
※1つ前?姉しよSS「犬神家の夏 〜第2話〜 「全ては妄想のために」後編
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