暑い。寝苦しい。鎌倉の夜ってこんなに暑かったっけ?それにとても息苦しい。なんだろう。薄く目を開けてみた。
ああ。なんだ。瀬芦里ねーさんとともねえに抱きしめられていた。「ク〜ヤ〜」すりすり。「よしよし…」なでなで。
ぱたぱたぱたぱた。何か上の方で音がする。見ると姉貴がツインテールで飛び回っていた。
「姉貴はなんでとぶのんー?」
「尿モレですけどー」
あ、そうか。それなら納得。なんてったってツインだし。それに尿モレも加わってれば天下無敵だね。
「出力安定〜、メガネ粒子砲!発射〜!」
「あがぁぁぁぁぁぁっ!!」
海お姉ちゃんが姉貴を撃ち落としていた。さすが空気中に漂うメガネ粒子を圧縮して放つ大砲。姉貴もイチコロだ。
どすぅっ!
「うわぁっ」
雛乃姉さんがお腹の上に乗っかってくる。
「ふふ、くうやの愛のぱわぁで我の病気は治った。天晴れであるぞ」
「ひ、雛乃姉さん。そんなに乗ったら重いって……」

…………重い?(ぴくり)

ん?今なんか殺気を感じたような。まぁ気のせいだろうけど。
「………空也?」
振り向くとそこには要芽姉さんが立っていた。
「ね、姉さん……」
胸がときめく。もう会えないと思っていたのに。
「要芽姉さん……俺、立派になったよ!もう情けなくなんかないさ!」
「空也……立派になって…」
姉さんが涙を流しながら抱きついてくる。
「本当はね……私も好きだって言おうとしたの……でも、姉弟だからってためらってしまって…」
「そんなの関係ないよ!俺はずっと姉さんだけを…!」


ギュッと抱きしめ合う二人。
「これからはずっと一緒に居ようね!夢、ふくらむなぁ」

………………ふくらむ!?(ぴきっ)

あ、また殺気。なんだろう。でもこんないい場面でそんな事ある訳無いし。気のせい気のせい。
「空也……もう離さないわ……」
ぎゅううううっ。要芽姉さんが俺を強く抱きしめてくれる。ちょっと痛い。
ぎゅうううううううっ。あの、さすがに苦しくなってきたんですけど。
ぎゅううううううううううっ。ぐおぅっ!これはもはやベアハッグ!
「姉さんっ………痛いよぅ……このままだと王大人に死亡確認されちゃうよぅ」

………………脂肪ですってぇ!?(ぶちぃっ!)

ぎりぎりぎりぎり。
「ギバーップ!ギバーップ!」
「ダメよ……離さないわ……!!私はずっと待ってたのに……あなたは沖縄でよろしくやっていたと言うワケね……待っていた私が馬鹿だったわ……」
違うんだよ!姉さん!俺はそんな事!
「壊れなさい、空也」
「ウボァー」
急速に意識が遠のいて行った。

「痛い痛い痛いっ!要芽姉さんっ!!ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイッ!!」
「すぴ〜………脂肪……膨張……」(ぎりぎりぎりぎり)
目を覚ましたら見知らぬお姉さんに絞め技掛けられてましたよ?
「やめてとめてやめてとめてーーっ!!」
「くか〜………ふくよかなのは女性らしさの証なのよ………」(バキバキバキバキッ!)
「あー、もっ……なんか破滅の音っぽいのも聞こえてきたからやーめーてー!!」
渾身の力を込めて絞めをほどく。


「はぁ……はぁ……はぁ……」
やばかった。危うく「ひでぶっ!!」とか言うハメになる所だった。あと、なぜかほっぺもヒリヒリする。
(ぴくり)「デブ……?」
「ひぃうぁぁぁぁっ!?」
慌てて飛び退く。
……あれ?この人……確か…そうだ。俺はオヤジにアホみたいな地図と飛行機の券だけ渡されて空港に置き去りにされたんだっけ。
当然のように迷って波止場でメソメソ泣いていたのをこの人……帆波さんに見つかって。
その場で姉弟の契りを交わしたんだった。ちなみに姉弟と書いてスールと読む。
外を見ると眩しいぐらいの太陽。俺寝ちゃったのか。この場に居るって事は……添い寝してくれたんだな……帆波さん。
それにしてもなんつー夢を……あの優しい要芽姉さんがあんな恐ろしい事言うはずないのに。予知夢とかだったら嫌だなぁ。
昨日帆波さんにデレデレした天罰かも。ごめんなさい要芽姉さん。
「すぴ〜……ぴょろろ〜………」
うわ。帆波さんの寝姿はすっごくだらしなかった。瀬芦里ねーさんといい勝負かも。てか、そろそろ起きないとマズイんじゃ。
とりあえずゆさぶってみるか。Lボタンとかで。
「帆波さん……起きてよ……」ゆさゆさ。「起きてったら……」ゆさゆさ。「ううん……」
お、反応アリ。これならなんとかなるかも。
「ねぇ、起きてよぅ」ゆさゆさ。「おきろよぅ」ゆさゆさ。
ちなみにさっきっからゆさゆさしてるのは帆波さんのおっぱい。絵にすると大変けしからんのでお見せできません。残念。
「ん……ふぁぁぁ〜……」
やっと起きてくれた。
「あ、おはよう……空也ちゃん?………なんか……寝てる時にワタシの悪口言わなかった?」
「言ってないよぅ、そんな事。第一俺も寝てたじゃないですか」
「それもそうよね………じゃあ歩笑ちゃんが枕元で囁いてたのかな……確かに聞こえたのよね……膨らむだの重いだのって。これはあとでオシオキねっ」
さっきも反応してたし。体重関係は禁句なのかな。注意しよう。
「おはよう……えっと、帆波さん」
「あー、ダメよ?昨日言ったでしょっ!?ね・ぇ・や!
もう、マリア様の前でロザリオを交わした中なんだからっ!遠慮はナシっ!」
「ごきげんよう、お姉様」
「んー。そっちでもいいんだけどねー。ねぇやのほうがなんか禁断〜って感じがしていいじゃない♪」


なにがいいんだか全然わかんない。けど言わないとヒドい目に合いそうなのは分かる。弟ゆえの勘とでも言おうか。
「え、えっと………ねぇや……」「もう、照れ屋さんねぇ。もっとー」
「ねぇや」「イヤん」
「ねぇや」「あハンっ」
…………十分後。
「いいわねぇ……男の子にそういう風に呼ばれるのってすっごく新鮮でゾクゾクするわ〜」
あの、こっちは言い過ぎて疲れてるんですけど。あと空太郎が大変な事に。
「さてと、充分堪能したしっ。朝ご飯食べに行こっか?空也ちゃん」
「いや、もう時計的には昼前……だよ?」
「え〜!?もうそんな時間!?……この時間だと歩笑ちゃんは多分あそこね……空也ちゃん、取りあえず付いてきて〜。ワタシの妹紹介するから」
「うん、ねぇや!」「はぅン」
いや、それはもういいから。ねぇやに連れられて外に出る。うぁ、あっつい……さすが沖縄。
「すぐに慣れるわよっ。風も吹いてるからそこまで暑くもならないしっ」
「あ、暑くなんてないやい」
「顔見れば分かっちゃうわよ♪」
そんな事を話ながら歩いてる内に景色に緑が混じってきた。ちょっとした林みたい。
「たぶんここだと思うんだけど………歩笑ちゃーん。恥ずかしがってないで出てらっしゃいよー」
じーっ。視線を感じる。そっちの方を向いてみる。………なんだろう、アレ。黒いひらひらが木の影からはみ出している。
「歩笑ちゃーん」ひらひら。「ぽーえーむーちゃーん」ひらひら。「ねぇや、アレ」
「あ、あんなところに……歩笑ちゃーん!この子が今日からウチの子になる空也ちゃんよーっ!」
………こそこそ。あ、ちょっとだけ顔出してくれた。木の影から覗いてるのは線の細い気弱そうな女の子だった。今もなんだかおどおどしている。だがそれよりも一番の特徴は。
………フリフリ?上もフリフリ。下もフリフリ。全身黒のフリフリで固められていた。なんか、昔見たロボットアニメのヒロインみたいな格好。たしかエセルドなんとかとか言う。
「えーと……あそこにいるのが妹の歩笑ちゃんなんだけど……」
じーっ。なんか、木の影から見られてる……
「歩笑ちゃんは内気だからね、少しずつ仲良くなって欲しいな」
「う、うん、分かった」
「あれでも空也ちゃんよりは年上だから姉ってことになるわね」
「そうなんだ。挨拶してくるね」


たったったっ……(俺)
たったったっ……(歩笑ねーさん)
「こ、こっちが近づくと向こうが逃げる?」
じぃぃーーっ。う、また木の影から見られてる……
「別に空也ちゃんを嫌ってるわけじゃないの。初対面の人にはたいていこうなのよ」
うーん、どうしたもんか。しかたない。今の所はここから大声で挨拶しておこう。
「こんにちはーー!今日から犬神さんちにお世話になる柊空也ですー!よろしくー!」
ささっ。ああ、隠れちゃった。
「最初の内はこんな感じかもしれないけどくじけないで頑張って。ちょっと……かなり内気だけどいい子だから」
「うん、もちろん!」
ねぇやの妹でしかも姉とくれば仲良くしていくしかないじゃないかっ!俺はお姉ちゃんには絶対服従なのだ。
「さてと。ワタシはこれからちょっとひと泳ぎしてくるけど。空也ちゃんはどうする?」
「うーん。じゃあ俺は家の周りを見て回ってくるねー、昨日は無我夢中で覚えてないし」
「そう。あんまり遠くまで行っちゃダメよ〜?歩笑ちゃんー!儀式の植物採集だかなんだか知らないけど暗くなる前に帰るのよーっ!」
ひらひら。答えの変わりに木の影のフリフリが縦に揺れる。
「うん!いい返事ー。空也ちゃん!明日は街の方案内してあげるからねー!」
ねぇやは走って行ってしまった。視線も感じないと言う事は歩笑ねーさんもどこかに行っちゃったんだろう。
俺は……とりあえずプラプラしてみますか。俺は当てもなく歩き出した。
…………………………
同時刻。空也を見つめる2つの影があった事はまだ誰も気づいていなかった。
「アイツが帆波さんの家に居候するってやつか………なんだよ、あのヒョロヒョロ」
「オレらの憧れ、帆波さんの家に居候なんざ………あいつはメチャゆるせんよなぁぁぁぁぁ。バックブリーカーでもかけたい気分だぜ」
「その通りだ!帆波さんには俺が将来プロポーズするんだからなっ!そして幸せな家庭を築いて子供にパパ大好きとか言われるんだっ!」
「何言ってやがんだ!交通事故で意識不明になった彼氏を思って落ち込んでいる帆波さんを俺が慰めてあげるんだ!まぁ、その彼氏が2年後に目覚めて三角関係になっちゃうんだが」
「くっ……さすがイエヤス……今の妄想…やるな」
「あんまり俺を過小評価するなよ、団長」

どーでもいいが空也追えよオマエラ。

(作者・愚弟氏[2004/08/23])


※1つ次 姉しよSS「犬神家の夏 〜第2話〜 「全ては妄想のために」後編
※2つ次?姉しよSS「犬神家の夏 「空也キュンチェンジ」アナザーバージョン後編
※関連 姉しよSS「犬神家の夏〜第1話・前編〜
※関連 姉しよSS「犬神家の夏〜第1.5話〜 空也ちゃん観察日記
※関連 姉しよSS「犬神家の夏 〜第3話〜 「クー君と呼ばれた日」前編


Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!