じりじりじりじり………。
「うう、あっつい」
さすが沖縄。半袖でも暑い。
さて、まずはどこから見て回ろうかな。
「う〜ん、海は昨日見たしなぁ。こっちの高台の方行ってみよっと」
方向転換して歩き出す。その途端。
ぞくり。
!?
この感覚!……誰かから見られているような感覚。さっき歩笑ねーさんに見られていた時とは全然違う。
まるでケツの穴にツララでも突っ込まれた気分だ……しかしすぐにそれは消えた。
「何だ今の………」
姉貴に睨まれているかのような感覚だった。嫌な記憶が思い出される。
あー、気のせい気のせい。気のせいって事にしとこう。なんか怖いし。早めに見て回らないと遅くなっちゃうしね。
………………
「思ってたより勘のいい奴だな……ぜー…もう少し離れて尾行するか……はー」
「はぁはぁ……団長が俺の妄想にケチつけるから遅れちまったんだよ!息が乱れてるから気づかれたんだっつーの」
「いや、そのりくつはおかしい。その場合だと迷っている彼女を説得して彼氏の所へ帰れよって言ってやるのがカッコイイ男だろう!?」
「ハッ、これだから。そこはそんな奴より俺の方がお前の事好きだぜって言うんだよ!そしてゴールを決めるのさっ!」
「何だとぉっ!?……………それもいいなぁ」
「だろう?」
「よし、今回はお前の勝ちだ。イエヤス。気持ちを切り替えて任務を遂行するぞ!」
「了解だ、ダンチョー」
「しっかしよぉ。あいつを倒すったって具体的に何をするんだよ?」
「安心しろ、俺に作戦がある。それはな………」
ごにょごにょ。
「ふむふむ……なるほど、さすが団長!オレにできない事を平然とやってのけるッ。そこにシビれる!あこがれるゥ!」
「褒めてないだろ、お前」
……………………草を踏みながら歩いていく。潮風が焼けた肌に気持ちいい。
「家ばっかりだねー、ここらへんは」


店とかも全然ない。繁華街と住宅地がキッチリ分かれてるのは鎌倉と似てるかも。
あ………鎌倉の事を思い出す。向こうは騒がしかったなぁ………お姉ちゃん達大丈夫かな……泣いちゃったりしてないかな…
ちょっとしんみり。………だめだ、泣かないぞ。もう決めたんだ。あの時。要芽姉さんに叩かれたあの時に。
うん。ウジウジしてないで他の所に行こう。
と、その時。ん……?なんだろう。草むらに何か転がっているみたいだ。………まさかアレはっ!?
もしやアレは噂に伝え聞く路上エロ本っ!?
知っているのか雷電!
路上エロ本。エロ本の処分に困った青年がこっそり捨てた物。カピカピか雨でベチャベチャな事が多い。(民明書房刊
〜思春期の光と影〜より)
鎌倉の友達に自慢気に見せてもらった事はあるけど、実物を見るのは初めてだ………心臓の鼓動が高まっていく。
どくん。どくん。どくん。俺の中のDNAがざわめく。目の前のエロ本をモノにしろとはやし立てる。
だが待て。落ち着け、柊空也。アレをあのまま家に持って帰ったらどうなる?
歩笑ねーさんやねぇやに見つかりでもしたら言い訳のしようがない。シャツの下に隠して持って帰るか………いや、ダメだ。
考えろ。考えるんだ、柊空也。思考を疾走させろ。はるか地平の向こうまで。………ぽく、ぽく、ぽく、ちーん。
ひらめいたーっ。これしかない。この場で読んで出来る限り脳に覚えさせるのがベストだ。そうと決まれば行動は迅速に。
「COOL!!COOL!!COOL!!COOL!!COOL!!COOL!!」
レンタルボディーガードのごとく意識を集中させながらエロ本へと走る。そしてエロ本に手を伸ばしたその瞬間!!
「今だっ!!」
ずぼぉっ!!どすーん!!
「おわぁっ!」
……っ………いったぁ……なっ、なんだぁっ!?エロ本に触ろうとしたら急に足元の手応えが無くなった。
見てみると目の前は土一色。もしかしてコレ………落とし穴?
「っしゃぁ!流石だな、団長!」
「あの人に聞いた策がここまで決まるとは……何者だ?あの男……」
上から声が聞こえてくる。この落とし穴を掘った奴らか……?
「うぉぉぉぉっ!」
気合いを入れて落とし穴から這い上がる。幸い、落とし穴はそんなに深くなかった。


「ヒューッ、見なよ団長!!え・も・のだ!!」
「あの身のこなし……かなりの使い手だな……」
登り切った先には二人の男が立っていた。
片方はバカっぽそうな感じのするひょろ長い男。けどそんな事よりも一部分が気になってしかたない。なんだ、ありゃ。
マゲ。力士がやってるようなのじゃ無くてぶっきらぼうに束ねただけみたいなマゲ。服装がTシャツとジーンズなだけに珍妙さがさらに極まっている。
そしてもう片方は………なんと言うか………ヤンキーだ。出る話間違えてませんか、アナタ。
「!?……死ぬまでやってやんよ…”オナニー”の”向こう側”が見えるまでよ……!?」みたいな。
二人とも俺と同じぐらいの年に見える。肌が焼けている所を見ると地元の奴らしい。
「いっ、いきなり何をするだァーーーーーッ!ゆるさんッ!」
勢いこんで二人に言い放つ。初対面の人間にいきなりなんて事してくれるんだ。ヘタしたらエロ本を取ろうとして死んだ男として教科書に載っちゃう所じゃないか。
………ん?でも、初対面にしてはイヤに俺のツボを突いた罠だな。実はどっかで会ってるのか?
「ふん、何をするだと……それはこっちのセリフだぁっ!!お前みたいな奴が帆波さんの家に居候だとぉ!?帆波さんが許しても俺が許さんっ!!」
「そうだそうだ!!”俺の”帆波さんの家に居候してアレヤコレヤだとうっ!?うらやましいじゃねぇかよぉ!ちくしょぅ!!」
あー。そーゆーことね。
「ちょっと待てイエヤス。どさくさに紛れて”俺の”とか言うんじゃない!」
「うるせぇな。帆波さんは俺の母親になってくれるかも知れない人なんだよ!」
「とりあえず君達が帆波ねぇやのファンで俺が居候すると言う話を聞いたがそれが気に入らないために俺を襲撃した事は分かった」
「なにぃっ!!な……何故俺達の秘密がっ!?」
あれだけ喋られて分からないのはともねえぐらいだと思う。
「ふ、ふん!だがそれだけじゃあないぜ!?お前が帆波さんの家に居候するって教えてくれた人がいるのさっ!!」
何だとっ!?
「そう………あれは昨日のことだ………」
あ、何か遠い目をしだしましたよ?このヤンキー。


昨日、俺が本屋のショーウィンドウに飾ってあるBOMBをガラスに顔をくっつけながら見ていた時の事。
「おい、坊主。なんだ?そのグラビア雑誌が欲しいのか?」
後ろから声を掛けてくる人がいた。
「そうなんだ。けどチェリーボーイの俺には恥ずかしくて買えないから、見てるだけなんだ」
「そんなに、この雑誌が欲しいのか?」
「もちろんさ!俺はゆくゆくは一流のエロ本ソムリエになろうと思ってるんだよ!その夢のためにも一刻も早く練習を始めたいんだ……」
「そうか……それはステキな夢だな……じゃあ、ワシが買ってやろうか」
「えっ!いいのか!?」
驚いて後ろを振り向く。そこに立っていたのは。
「だ、誰だアンターーーー!?」
真っ白なゴムのマスクをかぶったガッチリした男。正直言って怖い。
「なぁに、単なるお節介なオヤジじゃよ……ふぉっふぉっふぉっ」
「怪しいにも程がある……そうだ!怪しくないってんなら名前を言ってみろ!」
「ぬ……ワシの名は……マスターワカ……ゲフンゴフン!いや……青沼・スーザン・しず馬じゃ!」
「ほう、名前を名乗ると言う事は少なくとも怪しい人ではないんだな」
「そうじゃ。それに太っ腹だぞ。その本だけではない。エロ雑誌とエロマンガも付けよう」
「ま…マジですか!?うわーい!」
「だが、タダでやる訳にもいかん。世の中等価交換だからの。かわりにワシの願いも聞いてくれんか?」
……………回想終わり。
「その条件が柊空也!お前を倒す事だったのさ!!しかも詳しく聞いたら帆波さんの家に居候するって話じゃないか!ますます闘志が湧いてくるってもんよ!」
うわ、こいつバカだ。
「ちなみに俺の方は入院してた病院にそのオッサンがやってきてホームランを打ってやるから代わりにお前を倒して来いって言われたんだ!!」
いや、聞いてないし。ていうかそんなアホな理由聞きたくない。
「と、言う訳だ。俺のエロ雑誌のために死ねっ!柊空也!我が奥義……食らうがいい……!」
くっ……どうやらアイツ、マジみたいだな。明らかにさっきとは感じるパワーがダンチだ………
「行くぞっ!!」
来るっ!!とっさに身構える。
…………来ない?団長とやらの方を見る。すると奴は視線を俺の後方へと向けていた。
そっちに何があるって言うんだ?と、俺も後ろを見ようとしたその時!


「あぁっ!?きれいな女の子のスカートが風でめくれてパンツ見えてるっ!!」
何だとぉぉぉぉっ!!??パンツですとっ!?超反応で後ろを振り返る。
て………誰も居ないじゃないかっ。しまったっ!
「もらった!」
気づいた時にはもう遅かった。目の前で奴のパンチが炸裂する!
「ギャラクティカ・ボンバーッッッ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
俺は2ページ見開きでぶっとばされていた。しかも背景のベタフラッシュ+隕石効果付きと言う豪華版。
「フッ……どうだ、俺の拳は。体内の小宇宙っぽい物を燃焼させて放つスーパーブローの味は」
「ぐっ………なかなかやるじゃないか……」
「なっ……あの技を受けて立ち上がっただと?」
「上手く急所を外せたみたいだな。俺の気を逸らしておいて必殺の一撃か………着眼点は悪くないぜ、アンタ。ちょっとヤバかった」
ほんとは”女の子”と聞いてちょっとだけ後ろを向くのが遅れたから反応できたんだ。さっき、もし”お姉さんのスカート”って言われてたら負けていただろう。
「けど見直したぜ。生っちょろい貧弱野郎かと思ったらなかなかやるじゃないか」
「………ありがとうよ」
柊空也は思った……鍛えられたからな………ここに来る前に姉貴に出会ってさんざんイジメられた時に恐怖に対して鍛えられたからな……
姉貴はビビっている俺を見てこう言ったんだ……やさしく子供に言い聞かせるように……
「失礼ね、イカ……ゲロを吐くぐらい怖がらなくたっていいじゃない……恐れる事なんかないのよ……姉弟になりましょう」
俺は自分を呪うっ!それを聞いて心から安心してしまったんだ……まだまだ生きられるんだ……そう思った…
しかし、これは屈辱だ……姉貴に精神的に屈した自分を呪ったよ……
もう、二度とあの時のみじめな柊空也には絶対に戻らないっ!おまえらとの闘いから逃げないのはそれが動機さ!だから……
「この闘いで柊空也に精神的動揺による敗北は決してない!と思っていただこうッ!」
「ほう、大きく出やがったな。じゃあ、見せてもらおうか。お前の技を」
「応よ!」
精神を研ぎ澄ます。奴にスキを作るには……これだ!俺は今、奴から目を逸らし違う方を凝視している。
察しの通り、今やられた事をそのままやり返すつもりだ。


奴が自分の手に掛かるハズがないって?まあ、普通ならそうだろう。
だが、俺には勝算があった。奴は100%このフェイクにかかる。行くぜっ!
「ああっ!?お前の友達が帆波ねぇやに抱きついてキスしてるっ!!」
「なんだとぉっ!?なんて事してくれやがんだ!イエヤスっ!」
ほーら、かかった。だってバカだもん。
ごすっ!!
「うぐぉっ………テメ……団長……俺がそんな状況だったら……もっとすごい事してるぜ……」
ガクリ。
「し、しまった!すまん、イエヤス…ちぃっ、この見事な手腕……空也っ!きさま、妄想をやり込んでいるなっ!」
「答える必要はない」
「くそっ……こうなったら実力行使だっ!君がッ
泣くまでっ
殴るのをやめないッ!」
やっぱりそう来るか。けどこっちもそれは望む所だ!これぐらいで逃げるようじゃぁ要芽姉さんに誇れる立派な男になんてなれない。
「かかってこいよ!俺はお前との闘いで一皮剥けてレベルアップしてやるぜ!」
「誰がムケてないんだ!俺はムケてるぞ!」
いや、そーゆー事言ってるんじゃなくて。
…………………
そんなヒートアップしていく二人の妄想バカの闘いを物陰から見つめる影ひとつ。
「ぬぅぅ………作戦失敗か……いろいろイジメて穏便に鎌倉に帰ってもらう気になってもらうハズが………次はワシが直々に……」
「直々に、何するの?お父さん?」
「それはもう、毎日毎日生きてるのがイヤになるくらいの地獄の特訓をして自分から帰ってもらうんだよ。やっぱり、ウチには弟なんていらないもんねー」
「へー、そうなんだ。空也ちゃんがくる前に改心してくれたと思ってたんだけどアレ、ウソだったのね?」
「ははは、あたりまえじゃないか。ウチのお姫さまに近づく男は例え誰であろうと容赦しないよ。パパ、容赦せん!」
「そーなんだ………」(ぷっちり)
「ははは……は……ところでどうしてキミはこんな所にいるんだい?」
辺り一帯に殺気が渦巻いていく。もの凄いプレッシャーだ。
「空也ちゃんの帰りが遅いから心配で探しに来たんだけどねー。そしたらワタシのコレクションのスケキヨマスクを被った変な人がいるじゃない。
コレお気に入りなのよー。昨日コレクション箱探したら見あたらなかったからおかしいと思ってたんだけどね。まさかお父さんが盗んでたなんて……ほなみショック」


「な…何の話ですかな?ワシは謎の気の良いオヤジ”青沼・スーザン・しず馬”ですよ?」
「悪いけどバレバレよ、お父さん。右がいい?左がいい?」
「ひ……ひと思いに右で…やってくれ」
「ノーノーノー♪」
「じゃあ……左で……」
「ノーノーノーノーノー♪」
「もしかしてオラオラですかーッ!!」
「イェスイェスイェスイェス♪」
どかぺきぐしゃばき。
「あン、また悪が一つ滅びたわ………じゃあ空也ちゃん拾ってかーえろっと♪
お父さん!スケキヨマスクはちゃんと洗って返してねー」
………………………
「はぁ…はぁ……」「ぜぇ……ぜぇ……」
二人とももう限界が近かった。
「これでもう打ち止めだな……」「こっちもそろそろだ……」
俺は団長に。団長は俺に向かってダッシュをかける!
「おぉぉぉぉぉっ!!」
互いの拳がぶつかろうとしたその時!
「空也ちゃーん!こんな遠くまで来ちゃダメでしょーっ!探しちゃったじゃなーい!」


「ねぇや!?」「帆波さん!?」
ピタリと拳を止める。
「もぅ……ケンカなんかして。痛い所ない?大丈夫?」
「う……ごめんなさい……」
「団長ちゃんも!ウチの弟イジメないでよねっ!」
「ち、違うんですよ帆波さん!イジメていたんじゃなくてですね、これは男と男の決闘だったんですってば!
「ほんとに?」
「本当です」
「じゃあ、団長ちゃん。空也ちゃんを団長ちゃんの友達グループに入れてあげてくれる?」
「もちろんですともっ!!」
わかりやすいなー、コイツ。
「そう言う事で今度俺達の仲間を紹介するぜ!じゃあ、俺はこのへんで失礼します!」
団長は仲間を担いで素早く去っていった。
「じゃあワタシ達も帰りましょっ♪歩笑ちゃんが夕ご飯作って待ってるからね。歩笑ちゃんの料理は美味しいわよー。もーどーなってるのかってぐらい」
「うん!ねぇや!」
ねぇやと夕暮れの歩道を歩き出す。
「空也ちゃん、なんでニコニコしてるの?」
「へへ、なーいしょ」
「何隠してるのよっ!教えなさいっ!」
「ひーみーつっ!」
秘密だよ。さっき、団長が俺の横を通る時に小さな声で言った。
「腕っぷしも根性も結構あるじゃないか。帆波さんの事を抜きにしたら結構嫌いじゃないぜ、お前の事」
姉と帰る新しい道。
長い影が2つ。南の風に吹かれて伸びていった。
(作者・愚弟氏[2004/08/29])


※前  姉しよSS「犬神家の夏 〜第2話〜 「全ては妄想のために」前編
※次? 姉しよSS「犬神家の夏 「空也キュンチェンジ」アナザーバージョン後編
※関連 姉しよSS「犬神家の夏〜第1話・前編〜
※関連 姉しよSS「犬神家の夏〜第1.5話〜 空也ちゃん観察日記
※関連 姉しよSS「犬神家の夏 〜第3話〜 「クー君と呼ばれた日」前編


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