「祈は寝坊して遅刻しているー。わが輩だけ先に飛んできたー」

またかよ。
いつものように土永さんがありがたい話を始めようとしたとき

「…対馬くん、ちょっと」

なぜか…鉢巻先生が教室の入り口で
ちょいちょいと俺を手招きしている。

「なんすか?」

「…3年の鉄くんは、キミの従姉妹で、同居しているんだったね」

「そう…ですけど、なにか?」

「実は、鉄くんが事故に巻き込まれたらしい。
 救急車で運ばれたそうだ。車で病院まで送るから、急いで」

は?……乙女さんが!?
マジか!?あの乙女さんが……そんな!

「わ、わかりました!お願いします!」

飛び出しかけた俺の背後から大声が響く。

「待てぇーい!我が輩も連れていけー!」

「うわ、なんだ聞いてたのかよ土永さん!?」

「鉄という名前が聞こえたのでなー。
 愛する乙女の一大事、わが輩も行くぞー!」


こうして鉢巻先生の車で病院に向かうことになったわけだが…

「くそっ、渋滞かよ!」

「弱ったな…」

土永さんは狭い車内でバサバサと暴れ出す。

「こんな所でモタモタしてられるかー! 小僧、窓を開けろー!」

「どうすんだよ?」


「わが輩、先に飛んでいくわーい!」

「飛んでいくって…道知らないだろ!」

「だったらお前も来て案内せーい!」

く…だが、そのほうが早いか?

「えーい、くそ…行ったるわい!
鉢巻先生、俺たちここから走りますから!」

「大丈夫かい!?ここからじゃかなり遠いよ!」

「なんとかします!」

ドアをあけ、車を飛び出すと人のまばらな歩道を走り出す。

「土永さん!そっちじゃない、こっち!」

「早く言わんかー!」


しばらく走ったが…
悔しいけど、空を飛んでる土永さんのほうが全然速い。
くそ、オウムに負けるかよ!

「遅いぞ小僧ー!次はどっちだー!?」

「く…こっちは走ってるんだ、無茶言うな!」

先を飛ぶ土永さんを必死で追いかける。
くそ…息が切れる…!

「…仕方がない、小僧、ちょっとコッチ来ーい」

「あ、おい!…どこ行くんだよ!?」

土永さんが狭い路地に飛び込んでしまう。
何やってんだ、急いでるってのに!?
仕方なく追いかけて、俺も路地に飛び込むと
土永さんは人気のない路地の地面でキョロキョロしている。

「おい、何のつもりだよ!?油売ってる場合じゃ…」

「黙れ小僧!いいかー、今から起きることは
誰にも言うなよー!」

何わけわかんねーことを、と思った次の瞬間。

ムク…ムクムク……ムクムクムク!

「……え?」

土永さんの体が…大きく、膨らんでいく……


「ぬーーーおぉーーーー!」

見る見るうちに、見慣れたオウムの姿は消え
代わりに、見上げるほどに大きな異形の姿が俺の前に立っていた。

……なんだ、これ?鳥人間?
人間のような体型だけど、全身羽毛に包まれていて
腕は翼で頭は…土永さんのオウムの頭のまま。

「…ボケッとするな小僧、今からわが輩が運んでやる!」

「え…ちょ、なにお前?土永さん…なわけ?ぅわっぷ!?」

土永さん(?)の羽ばたきに、ゴミやら何やらが舞い上がる。
思わず目を閉じた俺の肩が

ガシッ!

「あ、イテテテテ!ちょ、なに…うわぁっ!?と…飛んでる!?」

「小僧、ジタバタするんじゃねぇよー。あんまり暴れると、落としちまうぜー?」

土永さんの両足に掴まれ、俺は空へと舞い上がっていた!

「さあ、どっちへ飛べばいいんだー?」

「あ……えっと、あ、あっち!」

「よーし、飛ばすぜ小僧ー、おとなしくしてろー」

俺を掴んだまま土永さんは空高く舞い上がると
指さした方角へ一目散に飛び始めた。


宙に浮いた足の遙か下を、建物がすごい速度で後方へ流れていく。

「なあ……これ、夢じゃないよな?
 ただの鳥じゃないとは思ってたけど…」

「ただの鳥で、いたかったんだがなー」

「いや、喋ってる時点でただの鳥じゃないから。
 何なんだよ、土永さんって?」

「見ての通りのものよ。もっとも…
 二度とこの姿にはなるまいと思っていたんだがなー」

何か…事情があるのかな。

「…人間を恨んで、怨念に囚われて、人間を…まあ、色々やったわい。
 わが輩、そんな生き方に嫌気がさしてなー。
 この姿を捨て、仲間を捨て、ただの鳥として生きることを選んだのよ」

色々…か。この化け物のような姿で何をしてきたのか
察しがつかない訳じゃない。だけど…

「どうした、さっきから黙ってー。
 …わが輩のことが、怖くなったかー?」

「いーや。やっぱりお前は祈先生のペットの、オウムの土永さんだよ。
 たとえどんな姿でもな。怖いわけがないだろ」

「そうか…詰まらない話をしちまったなー。
 急ぐぞ、方角はこれでいいのかー?」

「おう、このまままっすぐだ!」


翼が力強く羽ばたき、速度を上げる。
もう…そろそろのはずだ!

ガクン!

「うわっ!?」

急に速度と…高度が落ちてる!?

「おい、土永さん!?どうした!?」

「んー…この姿はー…久しぶりでなー…
 力が…思ったより出ないわけだー…」

「頑張れ、もうちょっとだ!…ほら、見えた!
 あの白い建物!乙女さんが運ばれた病院だ!」

「…乙女……乙女ー!わが輩、今行くぞー…!」

再び羽ばたきが力強さを取り戻す。
が、頭上の土永さんは…いかにも苦しそうだ…

「土永さん、もう俺はいい!
 俺は後は走るから、俺をおろして先に行け!」

「馬鹿たれー!
 お前がいなきゃ病院に入れんわーい!
 つまらん事言ってないでじっとしてろ相棒ー!」

相棒、か……コイツに言われるとは思ってなかったぜ!

「わかった!屋上に降ろしてくれ!」


やがて病院の真上までくると、俺たちはホバリングからすーっと屋上に降り立った。

「よし、ロビーまで降りて…
 おい、どうしたっ!?」

屋上に降りた土永さんは…そのまま倒れ込み
元のオウムの姿に戻ってしまった。

「力を…使いすぎた…少ーし、張り切りすぎたわー…」

「…待ってろ、今乙女さんのところまで連れてってやる!」

土永さんは…黙ったままピクリとも動かない。
そっと抱き上げると、俺はロビーへと走った。

「すいません!こちらに事故で鉄乙女という…!」

受付に駆け込み、案内のお姉さんに尋ねようとしたところで
後ろから呼びかけられる。
一番、聞きたかった声で。

「レオ…?どうしたんだ、こんなところで?」

……へ?今の声…?
こわごわ振り返ると…

「なんだ、土永さんなんか抱えて。
 具合が悪くなったのか?だが、ここは動物病院ではないぞ?」

「おっ…乙女さん、無事だったの!?」

「無事も何も…いったい、何があったんだ?」


乙女さんの話では
通学の途中にある建設現場で事故が起き
たまたま通りがかった乙女さんは
救助活動をしていたらしい。
怪我人の搬送を手伝って、この病院までやってきたのが
どこをどう間違ったのか、乙女さんが運び込まれたと
学校に伝わってしまったのだった。

「…人騒がせな話だな」

話を聞き終えた俺は、脱力して
病院のロビーにへたり込んでしまった。

「しかし…なんで土永さんまでいるんだ?」

おっと、起こしてやらなくちゃな。

「土永さん、乙女さんだぞ。
 無事だったんだ、なんともなかったんだ。
 …起きろよ、土永さん!」

腕の中で、土永さんがもぞもぞと動き
乙女さんの無事な姿を見て喜びの声をあげる。

「うー…おぉー…乙女ぇー…無事なのかー…怪我はないのかー…
 よかったー…よかったー…」

「……変なオウムだな」

変、って……乙女さん、あんまりだ…
そりゃ、乙女さんから見れば土永さんはただのオウムかもしれないけど…
乙女さんを心配して、あんなに頑張って飛んできたのに!


たとえ乙女さん相手でも、言わずにはいられない…!

「ちょっと、乙女さん!…俺たちは…!」

「…いいんだ、相棒…いいんだー…
 わが輩、乙女さえ無事なら…それでいいんだ…」

「…変なオウムのくせに…私を、心配してくれたんだな。
 こんなヘトヘトになるまで、頑張って飛んできたんだな…
 その気持ちは、たとえオウムでも私は嬉しい。ありがとう、土永さん」

……え?

「おお…おおー…わが輩はー…わが輩はー…」

「さあ、もう用は済んだし、学校に戻るぞ。
 …レオ……土永さんは、私が」

「え?…あ、ああ……はい」

俺の腕から土永さんをそっと受け取ると
乙女さんは抱き上げて肩に乗せた。

「とまれるか?うん、大丈夫そうだな。
 では、行こうか」

珍しく、ゆっくりと乙女さんが歩いていく。
肩にとまった土永さんを揺らさないように
ゆっくり、ゆっくりと。
俺もまた、その後を
ゆっくり、ゆっくりとついていった。
ほんのちょっぴり、ジェラシーを感じながら。


(作者・Seena ◆Rion/soCys氏[2006/01/27])


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