そして、今朝。
「だってさー。もしさー。なにかマチガイがあったらさー」
「うちのおひめさま達がキズモノになんて……パパ耐えられないっ」
お父さんはまだウジウジ言っていた。
「もぅ………オトナなのにウジウジちゃんはダメダメよー?お父さん」
「帆波……まだ分からんのか…このワシの気持ちがぁ…」
あ、マズい。一人称が”パパ”から”ワシ”に変わっちゃった。
「ぁ……………」
歩笑ちゃんがワタシの後ろに隠れる。
お父さんは感情が高ぶるとこーなる。武道をやってたせいかもしれない。
若い頃はおだやかな心をもちながら、激しい怒りによって目覚めた伝説の戦士だとか言われたとかなんとか。
すっごいめーわく。
まぁ、表に「娘ラブ」
裏に「娘命」なんて書いてあるTシャツ着てるから威厳とかぜーんぜんないんだけど。
歩笑ちゃんの人見知りって多分にお父さんのせいでもあると思うんだけどなぁ。
「えぇいっ!ワシが正しいかお前が正しいか決着をつけてくれるわぁっ!!」
「ゆくぞっ!流派ぁ!南方不敗が最終奥義ぃっ!」
お父さんに気が集中していく。
「まるっきり台風ね…」
「万!国!吃!…」
あ、スキだらけ。
「エイ、あて身♪」
首筋に一発。
「ぐおぅっ!?」
「だめ押しにもう一発っ!」
「がふぅっ!!」
「ず……ずるいぞ…帆波……男と男の勝負は必殺技同士のぶつかり合いだろう……ふつう…」
「ワタシ、女の子だもんっ☆」
「ぬかったわぁぁ!!」
びしぃっ!!お父さんを指差して言う。


「南方不敗、マスターワカバ!!アナタは間違っているわっ!」
「なにぃっ?」
「お父さんのやろうとしていることは過保護と偏見にすぎないわっ!」
「なぜならば、アナタが排除しようとする弟ちゃんもウチに居候する以上はウチの子……いわば家族の一部!!
それを忘れて、なにが家族の平和よ!そう、共に生き続ける兄弟を抹殺しての理想郷など愚の骨頂!!!」
ががーーーん!!
「ぐ……ぐぅっ……」
がっくりと肩から崩れるお父さん。
「うぅ………帆波の言うとおりだ……弟もまた家族の一部……それを抹殺するなど家族を破壊するも同じ……
パパはまた同じ過ちを繰り返すところだった……」
そーなの。前に学校の友達(男の子含む)を連れてきた時も怒って追い払っちゃったしね。
「ああ……そうだな!新しく家族が増えると思えばなんて事はないな!目が覚めたよ、帆波」
「で、その子の名前とかは?そろそろ教えてほしいんだけど……」
「ウム、そう言えば教えていなかったな。名前は柊
空也。写真も見るか?」
「見る見る!ほら、歩笑ちゃんもいらっしゃいよ!」
こくり。
写っていたのはちょっと色素の薄い髪のちっちゃな男の子。
「わー。可愛い〜。女の子みたいねぇ……なんか」
スカートとかはかせても違和感なさそう。
じーっ。
「いつごろ来るの?」
「アイツは今週中とか言ってたがな」
じぃぃぃぃぃっ。
……………なんか後ろからヒシヒシと感じるんですけど。
ふっふっふ。そっかぁ。
「歩笑ちゃん。気に入っちゃった?もしかして」
ビクッ!
「あ……姉さん……ちがっ………」
「照れない、照れない。やっぱり姉妹ねー。好みがいっしょ♪」


へー、めずらしい。歩笑ちゃんが気に入るなんて。これで歩笑ちゃんも人見知りが治ってくれるといいなぁ。
「さてと。そろそろパパは出かけてくる。知り合いに出稽古を頼まれてるんでな」
「今度はどこ?」
「今日は沖縄シーサイドジムだ。なんでも有望なのがいるそうでな。じゃ、いってくる」
「いってらっしゃーい」
「……いってらっしゃい」
バタバタとお父さんは行ってしまった。
でも、あの服装で外に出るのはやめてほしい。ほんとに。
「んーっ」
一つ伸びをする。
「ワタシはお昼寝するけど、歩笑ちゃんはどうする?」
「私は……お洗濯して……そのあと図書館行ってくる…」
「ん。じゃあがんばってねー」
そう言って窓際の日陰にごろんと横になる。外からの風が気持ちいい。意識を手放すのにそう時間はかからなかった。

……………………

ぷるるるるるる………
ぷるるるるるる………

うるさいなー。
電話の音がする。
「歩笑ちゃ〜ん。電話よぉ〜」
夢心地のまま言ってみるけど返事はナシ。あ、そうか。図書館に行ってるんだっけ。
「うー、めんどくさ〜い」
床をずりずり這いながら電話機を目指す。
ガチャ。
「もしも〜し。犬神で〜す」
「お!帆波か。よかった。ウチにいてくれて助かったよ」


「お父さ〜ん?どうしたの?」
「また寝てたな、オマエ……まぁそれはいい。いや、ちょっと困った事になった」
「何?」
「さっきアイツから電話があってな。あのバカこんなこと抜かしやがったんだ」
「よぉ、若葉。待たせたな。今さっき、そっちに送ったぞー。うちのバカ息子」
「ん……!?お前が送ってくるんじゃないのか?」
「間違いなくそっち行きの飛行機には乗せたから心配すんな。今日の午後には着くだろう」
「ちょっと待て。一人で乗せたのかっ!?まさかっ!?」
「獅子は我が子を谷底に突き落とすのにも全力を尽くすと言う……」
「その、なんかかっこいいこと言ってごまかす癖なんとかしろ」

…………えーと。て、ことはもしかして。
「まさか、空港で一人居るかもしれないって事!?」
「そうなるな……」
なんでこう非常識な人ばっかりなんだろう。お父さんのトモダチって。
「帆波……こっちがちょっと長引きそうでな。すまないんだが迎えに行ってやってくれんか?」
「ハイハイ。もー。しょーがないわねぇ……」
「すまんな。頼んだぞ。タクシー使っていいからな。よしっ、これで心置きなくガゼルパンチが伝授できる」
がちゃり。受話器を置く。
「はぁ……ほーんと世話が焼けるなぁ………ウチの中年愚連隊は…」
急いだほうがいいかもしれない。早速家の前でタクシーをつかまえて那覇空港へと走った。

………………

タクシーが遠ざかっていく。さーて。顔知ってるって言ってもこの広い空港の中、どこから探せばいいやら。
とりあえず港内放送で呼び出して貰った方がいいかも。


いない。呼び出しても、搭乗口にも、乗客降り口にも、ぜーんぶいない。
「もぅ……どこ行っちゃったのかしら」
全部回ってくたくたになってきた頃。
ぴーんぽーんぱーんぽーん。那覇市からお越しの犬神帆波様……お電話が入っております…いらっしゃいましたら
中央ロビー受付までお越し下さい……
「?誰だろう」
受付まで辿り着き、お姉さんから受話器を受け取る。
「お電話かわりました〜犬神で〜す」
へろへろになりながら電話に出る。
「やっほー。久し振りだね、帆波ちゃん。相変わらず綺麗なお声だ……」
誰だか一発で分かった。
「さすがにこれはやりすぎよっ!?オジサマ!?」
ちょっとムカッと来たのでキツめに言い放つ。
「うわ。マズかった?ゴメンナサイ」
「空港全部捜しても居ないし……どうしようかと思ってるんだから……!!」
「あわゎ……いや、マジでゴメン。一応地図も持たせたんだがな……」
「最初からオジサマがちゃんと連れて来たら済むことじゃない」
「それを言われるとツライんだが………でも、こんなこともあろうかとアイツには発信器が付いてるんだ!!」
あーもう。頭が痛くなってきた。
「発信器によると……お!?帆波ちゃんちの方の港かな?ペンションからすぐの海岸沿いをフラフラしてるぞ……
よくあの地図であそこまで行ったなぁ。すごいぞマイサン」
「オ・ジ・サ・マ!?」
「あ…いや…すいません」
「ぐぁ。反応が消えた……ワシが渡したお守り投げ捨てやがったな、アイツめ」
「スマン、アトヲタノム」
……ぷちっ。電話は切れた。
「なんですってぇぇぇぇーーー!?」


はぁ……もうヤダ。つかれたー。足いたーい。
残った気力を総動員して空港を出てタクシーをつかまえる。
「すんごい二度手間………」

………………
家の前に降り立つ。
海岸沿いって言われても。船着き場もあるし、漁港もあるし、波止場もある。
「めんどくさ〜い……でも、そうも言ってられないわよねぇ……家族だし」

と、言う訳で今現在。

はぁ…はぁ…はぁっ…
……ああっ、もう!
なんだってワタシがこんなに走らなくちゃならないんだろう。
つかれたー。うごきたくないー。むぎちゃのみたいー。
「見つけたら……は……もぅ……叱ってあげなくちゃ……」
砂浜を走りながらつぶやく。
大体は捜した。後はこっちの方の波止場だけなんだけど………
あ。
いたーーーーーっ!!
波止場の先っぽにちょこんとちっちゃな男の子が座り込んでいる。
もぅっ!!よくもここまで手こずらせてくれたわねぇ………
いや、別にこの子が悪い訳じゃないのは分かってるんだけど。
そう思って男の子に向かって歩き出そうとした時。
風に乗って声が聞こえてきた。
「えぐっ……ううぅ……お姉ちゃん……オネイチャーン……」
あ………
「寂しいよう、寂しいよう」
そっか……


忘れていた。
今まで大家族の中に居たのにいきなり知らない土地に一人だものね……
そりゃぁ、泣きたくもなるわよねー。
…………うん!決めた!
ここはワタシがあの子のお姉ちゃんになってあげるしか!
あの時、歩笑ちゃんに言った通り。
「照れない、照れない。やっぱり姉妹ねー。好みがいっしょ♪」
やっぱり私達は姉妹なのだ。だって、ワタシも一目見て気に入っちゃったんだから。
そうと決まれば深呼吸をひとつ。
ダイイチインショーは大事だものねっ♪
そうして。

「あっ!いたいた。 チャオ! あなたが空也ちゃんね♪」

ワタシは親愛なる弟ちゃんに”はじめまして”の挨拶をした。

(作者・愚弟氏[2004/08/10])



※前 姉しよSS「犬神家の夏〜第1話・前編〜
※関連 姉しよSS「犬神家の夏〜第1.5話〜 空也ちゃん観察日記
※関連 姉しよSS「犬神家の夏 〜第2話〜 「全ては妄想のために」前編
※関連 姉しよSS「犬神家の夏 〜第3話〜 「クー君と呼ばれた日」前編


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