ミドル好きに25のお題 6-10


6.小鳥 / サービス、ハーレム、ルーザー

7.美しい人 / 高松→ルーザー

8.許さない / マジック→サービス

9.写真 / ハーレム

10.思い出だけではつらすぎる / 高松→グンマ、ルーザー


6.小鳥 ――サービス

鳥を飼うのが好きだった。綺麗な鳥籠に入った美しい鳥を眺めているのが好きだった。
あんまりいい趣味じゃないとは分かっていたけれど。

ある日、色鮮やかな羽根の小鳥を引き取って、その鳥によく似合う中国製の
山や川の細やかな細工が施された、木製の籠に入れて眺めていた。
「悪趣味だぞ、おまえ」とハーレムがケチを付けてくる。
「でもこの鳥は愛玩用に羽根を切られて、もう飛べないんだよ」と言うと、
なおさら悪趣味だと言われた。実はぼくもそう思う。でも切ったのはぼくじゃない。
一応風切り羽は切ったものの、飼い主が想定したようには羽根の色が揃わなかったこの鳥は、
もう処分するというから引き取ったんだ。そしてどうせなら、ふさわしい籠に入れたかった。

「今でもこの鳥は美しいよ」と反論した。「俺なら飛べなくても外へ出すぞ」とハーレムは言う。
「すぐに猫にでも捕まって殺されてしまうよ」と応じても、
「鳥にとってはそのほうがずっとマシだ」と即座に言われる。そうなのかもしれない。
でもぼくは、この美しい小鳥が死んでしまうのが嫌だった。

別の時、ルーザー兄さんもぼくの鳥を不思議そうに眺めていた。
「綺麗な鳥でしょう?」と尋ねると、「この鳥じゃないといけないのかい?」と聞く。
「この鳥でなくてもいいけれど……、ぼくはこの鳥が好きなんです」と答えたら、
兄さんは兄さんらしく、「分からないね」と苦笑しながら
鳥籠を撫でて、でもこれは素敵だと言ってくれた。

――結局、小鳥はまもなく死んでしまった。
元々人為的に交配を重ねた、あまり丈夫な種類じゃなかったからかな。
朝起きたら、もう冷たくなっていた。
でもやっぱり悲しくて。庭の隅に埋めながら、ハーレムが言っていたように、
どうせ死ぬならやっぱり外に出してあげるべきだったのかもしれないと後悔した。

部屋に戻ると、ルーザー兄さんが空っぽの鳥籠をじっと眺めていて、
ふうんとうなずきながら、「鳥がいないと意味がないんだね」とぼくの方を振り返って言った。
それでもこの空になった籠が欲しいというので、もちろん喜んで譲りますよと答えた。

特になんてことはない思い出だけど……。兄さんはその鳥籠を、ずっと研究室に吊していたな。
兄さんのそばにある空の鳥籠は、奇妙に調和して美しかったのを覚えている。
ルーザー兄さんはあの籠の中に、一体何を閉じこめていたのだろうね。

2004.5.31


7.美しい人 ――高松

ええ、とても美しい方だったんですよ。ルーザー様は。
あの方は光でした。でも太陽じゃない。もっと人工のものに近いですね。
科学の光、理知の灯火。ただ照らすということだけを追求して作られた灯りですよ。
その前では闇も影も存在を許されない。全てを暴き出す、ひたすらに純白な輝き。

おや、あなたはそれが美しくないっていうんですか? そんなのつまらないとでも?
あのねえ、自然に幻想を持つのはおやめなさい。
それならこれから一切の投薬を拒否して生きていってみなさいな。
風邪で辛くても解熱剤飲んじゃ駄目ですよ。
あ、もちろん怪我しても治療に麻酔なんて使ってあげませんから。ふふ。

はいはい。
私は美しくなんかありませんよ。そんなこと分かっています。
だからなんだっていうんです? 私は美しい人を見たことがある。
この高松のごとき非才の身には、それだけで充分なんですよ。
それだけで充分――生きていけるんです。

2004.5


8.許さない ――マジック

いつも不思議だった。人は何故あいつに惹かれるのか。
美しい顔をしていることは認めよう。だがあいつの魂は、本当に美しいと言えるのか。
――私の末の弟、サービスは。

一つ昔話をしてやろう。
ルーザーの死から数年後のことだ。ずっと私に向かい合うことから逃げていたサービスが、
珍しく呼び出しに応じてガンマ団にある総帥執務室にやってきた。その姿を見て驚いたよ。
弟は変わっていた。もちろん、変わらないなどと思っていたわけではない。
一連の出来事は私にとっても人生観を揺るがすような出来事だったが、
弟はまさに当事者であったわけだからね。
ただ、変化の方向が私の想像とは正反対だっただけだ。
私は彼が現実に打ちひしがれて、
これからずっと不具を抱え、弱者として生きていくのだろうと思っていた。
あんなことがあったのだから仕方あるまい、それがあの子なりの幸せなのだろうとね。

ところがサービスは逆に、山奥で一人修行に励んでいたというじゃないか。
私の呼び出しに応じられなかったのはそのせいだと、彼は言った。
「ぼくは弱かった。だから強くなることにしたんですよ、兄さん」
そう私に告げながら弟は……笑っていた。すぐには気付かないほどの笑みだった。
ほんの少しだけ唇の端を持ち上げた、ただそれだけの。
幸福ではなく、悔いるわけではなく、彼は私の前に立って現実を嗤っていた。

それに気付いた時、私は無性に腹立たしかった。
逃げたのだと思ったよ。またしてもお前は逃げたのだなサービス、と。
嫌いだった強さを手にしてまでも、逃げ出すことを選んだのだなと。
人は普通、現実に相対するために強くなるものだ。しかしあの弟に限っては逆になる。
あいつは現実に目を向けたくないが故に強くなろうとし、実際に強くなってみせたのだ。

まるで道化だ。ふん。だが、あなどることはできん。
ただの力無き愚者として死すか、我が一族のjokerとなるか。
もっともアレがもたらす変革は、破滅にしか行き着かんのだろうが……そう、ルーザーのように。
ゆえに、我が手の内に押さえ込んでおかねばならないと直感した。
私にはすでに子供がいたから、その子には未来を渡したかった。
例え血塗られた道であってもね……。

それにしても。なぜあいつは一番肝心なものだけは、絶対に見ようとしないのか。
見えないのではなく、見ないのだ。そのことが一番許せない。
弱さはまだ許せる。だが強者でありながら弱者のふりをしようとすることは許せない。

分からんな。本当に、不思議だ。

ただ、私はこれからもあの微笑みを、決して許すことはないだろう。
私にはサービスが理解できず、サービスには私が理解できない。そういうものなのだ。
我々が兄弟として生まれたことは、果たして幸せだったのか、あるいは不幸だったのか。

……それを分からないでいてやることが、私が兄として与えられる唯一の愛なのかもしれんな。

2004.7.15


9.写真 ――ハーレム

ここに一枚の写真がある。俺達四兄弟を写したものだ。
撮ろうって言いだしたのはもちろんマジック兄貴で、俺は嫌だったんだけど
サービスが「きっとこれが最後だよ」なんて言うもんだから、つい。
最後っていうのはつまり、俺が戦場に出てあいつが士官学校に入って、
もう同じ屋根の下で毎日顔を合わすなんてことは最後だっていう意味だったんだが……、
なんだかその時はやけに最後って言葉が重く感じられてな。
そして実際、四人揃って写るのは最後になっちまった写真なんだけどな。

場所は俺達兄弟が育った家の居間だ。
サービスはこの長椅子が好きで、よく寝そべってワイン片手に分厚い本を読んでいた。
そしてもちろん、写真を撮るならこの椅子を使おうって言いだしたのも、
真っ先にお気に入りの場所に座ったのもあいつだった。無邪気だったよな、あの頃は。

「おまえ達は双子なんだから隣に座りなさい」ってマジック兄貴が指図してよ、
俺はもうそんなこと照れくさかったんだけど、まあ、それを言ったらそもそも写真自体が
照れくさいもんだしな。毒を食らわば皿までっていう心境で座ってやったのさ。
あの頃は、その程度の思い切りで隣に座れたんだな。

ルーザー兄貴はサービスの後ろに立って、さりげなく肩に手なんか置いてやがる。
兄貴らしいぜ、まったく。そしてまっすぐにレンズを見つめて、口元が少し歪んで、
そう、つまりは笑っているんだが……怖い笑顔だな、まったくよォ。
それでもこの写真の中でだけは、兄貴は幸せそうだ。
この人は永遠にこの場所に封印しておきべきだ、なんてな。
本当に、そうしていられれば、よかったのかもしれねぇな。

マジック兄貴は、まったくなーんも考えてない顔で笑ってる。
場所は俺の後ろで、さりげなくどころか堂々と隣のルーザー兄貴の肩に手を回して、
もう片方の手で前に座っている俺の頭をくしゃくしゃにしやがって。
ああっ、まったくあの恥ずかしい兄貴はッ。
ん、そういえばこの手、俺がそっぽを向こうとするから無理矢理押さえつけていたんだっけか。
そーそー思い出した。とんでもない馬鹿力だったぜ。

その騒ぎでサービスも笑い始めたんだ、確か。
あいつときたら、目を細めて口を開けて、カメラに向かって子供みたいに笑ってやがる。
そう、こんな顔をしていたんだな。笑い声は覚えていても、顔は見てなかったぜ。
……思えばこの写真で笑っていないのは俺だけってことかよ。
でも心の中では他の三人に負けず劣らず幸せだった。つまりはガキだったってことだ、俺も。

今ならそう言える。今ならそう思える。だけど戻ろうとは思わない。
これは古ぼけて変色しかかった、火を付ければ燃えて灰になるだけの思い出さ。
まったく……。何度もそうしようとして、燃やせないのは何故なんだろうな。

2004.6.30


10.思い出だけではつらすぎる ――高松

最初に感じたのは、思い出だけではつらすぎるということでした。
だから、私はグンマ様をルーザー様の跡を継ぐ子として育てました。
天才の作り方なんて、さすがのこの私も知ってはいませんでしたが、
グンマ様はご幼少の頃から学術方面の才能を示されてはおられましたので、
それを引き出すために最大限の事を。興味を示されたものについては何でもお教えしましたし、
ルーザー様のあの純粋さを再現したくて、全力でこの世界のすべてからお守りしました。

ははっ。勝手な希望でしたけどね。そしてものの見事に失敗したんですけどね。

グンマ様は紛れもなく天才だと私は今でも信じていますが、やっぱりルーザー様とは違います。
才能の方向性も違いますし、天才以外の部分も存在しますし……コホン、
なにより性格が……あまりに違いすぎますよねえ。はっはっはー。
いやまったく、どこで間違えてしまったんでしょう、このドクター高松ともあろうものが。

でも、いいんですよ。失敗してよかったんです。
私ごときにルーザー様が作れるわけがなかったんです。
そして今のグンマ様は、とても可愛らしい、素敵な方なんですから。
あの方が「高松ぅ」と私のことを読んでくださるだけで。……幸せです。

思い出だけではつらすぎて、思い出を追ってみても再現は不可能だと知りました。
そのかわり、思い出だけが全てではないことも知ることが出来ました。
グンマ様のためなら私はなんでも致します。

つまり……。グンマ様を泣かせる奴は、この高松が許しませんッ!

2004.6.3


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