ミドル好きに25のお題 1-5


1.石 / ジャン

2.カルマ / サービス、高松

3.わたしを罰して / 高松

4.共犯者 / ハーレム、マジック

5.突破せよ / ルーザー


1.石 ――ジャン

今でもたまに、あの石のことを思い出す。

長い番人生活にも飽き飽きして、ちょっとばかり外に出てみたかった。
島の外で出会った人間達はどうしようもなく愚かで騒がしくて無秩序で、
だけど美しいものもたくさんあって、毎日が楽しかった。

こうして再び全てに満たされていると、俺は時々怖くなる。
会えなかった間に彼らは変わっていた。
それでも変わらず美しくて、でもその美しさは以前とは違う形のもので。
怖いよ。あいつらはこれからも変わっていくんだろう? どこまで行くつもりなんだろう?
行き着く先は……なあ、きっといいことばかりじゃないんだろう!?

秘石の輝きはずっとずっと変わらなかった。
気の遠くなるような年月の中でも、いつだって記憶の中の石の姿は一定だ。
人間は……、そうじゃない。

俺は時々分からなくなる。
そんな時、無性にあの石が懐かしい。

2004.5


2.カルマ ――サービス

以前、高松から聞いたことがある。
東洋には輪廻転生という考え方があるそうだ。
人は死ぬと人生の所行に応じて、次の世で何に生まれ変わるかが決まるという。
また人に生まれることができればいい方で、地獄に迷い込んだり、
グール(餓鬼)になったり、動物や植物になったり……。

「ま、私も興味がないんで大して詳しくないんですけどね」と彼は言った。
「おまえは植物に生まれ変われたら幸せなんじゃないのか?」とからかうと、
「冗談じゃない。私は観察する側でありたいんであって、観察される側なんてごめんです」
と怒られた。「それよりあなたはどうなんです?」と聞かれて、「想像できないな」と答えたら、
「では前世は?」と。これはすぐに答えられた、「きっと青の一族だよ」。
「生まれ変わってもまたそうなんだろうね」と笑ったら、眉をひそめられた。
「だからあなたの一族は傲慢なんですよ。カルマって知ってます?」

そしてまた彼の説明が始まった。詳しくないと言いながら、
自分の知っている範囲のことは全て説明したがるのって、科学者としての癖なのかな。
ともあれ彼の説明によると、カルマとはその人のが成した行為の積み重ねであり、
生まれ変わる先を決定する要因でもある。逆に言えば今の自分も前世のカルマの結果だと。
もっともカルマというものは、大抵が悪業の報いという意味合いで語られるものらしい。
「なんだ、やっぱりあなた方は前世も来世も青の一族ですねぇ」と彼は一人納得していた。
まあ確かにと笑っていると、高松はそんなぼくをどこまでも呆れたように見やって、こう言った。

「ところでサービス、仏教の僧は輪廻転生の結果、何を最上のものとするか知っていますか?」
「知らないよ。天国に行くことかな?」
「いいえ。確かに天界は存在しますけどね、彼らが求めるのはそんな所じゃない。
 彼らが求めるのは、輪廻の輪から抜け出すことなんですよ」

その考え方には、ひどく共感したことを覚えている。

2004.5.31


3.わたしを罰して ――高松

わたしを罰して――そう思うことすらできない辛さを考えたことはありますか?

サービスはジャンを殺して――殺したと思いこんで、その目を抉りました。
ルーザー様はそのきっかけを作ったのが自分であることを悔いて、死地に赴かれました。
ジャンは裏切り者でした。
マジック総帥も……きっと心の底では感じていらっしゃるはずです。弟君を止められなかったことに対して。

わたしを罰して。そう多くの人の嘆きが聞こえます。
けれども私には思えない。わたしを罰して、とは。
私は――それすら思うことの出来ない、ただの傍観者です。いつまで経っても。

あなたはそれを幸せなことだと思いますか。これを不幸だと思うことを、欺瞞だとののしりますか。
私はただの傍観者です。何も止めることができなかった、何もすることが出来なかった。
ただ私は見ていただけです。すべてを。私に関わる人たちが次々と苦しみ、傷つき、
また死んでいく、すべてを。

わたしを罰して――そう思うことすらできない辛さを考えたことはありますか?

2007.2.2


4.共犯者 ――ハーレム

俺が部屋に入っていくと、マジック兄貴一人だけが葉巻片手にグラスをかたむけていた。
「やあ、ハーレム」と軽く微笑してグラスをかかげる顔には、決して部下達の前では見せない
憂愁があり、兄が総帥ではなく一人の男として、この日この場所にいるのだと告げていた。
今日は俺のもう一人の兄貴の命日で、ここは俺達兄弟が育った家。

「サービスは?」 俺は姿が見えない兄弟の最後の一人の名を告げる。
マジック兄貴は目を閉じ、深く紫煙をはきだしながら答えた。「……彼は昨晩やってきたそうだ」
「そうか」 分かってはいたことだが、少し溜息をつく。
俺の双子の弟は、未だに兄弟の会合を拒否している。
クリスマス、ニューイヤー、父母の命日、甥たちの誕生日、顔を合わせる機会は
いくらでもあるはずなのに、いつもほんのわずかなタイミングの差ですれ違う。
いっそ全く出てこないならまだしも、あいつはまるで見せつけるかのように
一応は顔を出しながら、俺と兄貴の二人同時に会うことだけは拒否し続けているのだった。

まったく執念深い奴だと思う。だが昔のように一発肩を叩いて強引に引っ張ってこられないのは、
俺と兄貴は確かにあいつに対して共犯者だからだろう。
あいつが思っているような意味ではないのだが。
あいつが思っているような意味ではないが故に。
「ったく、どうしようもねぇな」 そう言いながら、俺も懐から煙草を取り出した。

……兄貴が一本の葉巻をじっくり味わっている間に、安物の紙巻きを何本も吸い捨てた。
その間、会話は一切無かった。特に話すことなんてないのだ。
ガンマ団の幹部である俺達は、好むと好まざるとに関わらず普段からしょっちゅう
通信画面の向こうとこちらで顔を合わせているのだから、今更特に語ることなど。
兄貴もこんな日に、いつものような俺への説教を繰り返す気にはならないんだろう。
かといって"あいつ"の――もう一人の兄の話をするには、この部屋の空気は重すぎた。

特に今更語ることなんてないのだ。死んでしまった人間については。
だが彼の罪はまだ、生き残った兄弟の間に黒く渦巻いて、この世に留まっている。
俺達が引き留め、残したのだ。それが正しいことだったのかどうかは、今更語れることではない。

「ハーレム」 やがてマジック兄貴は、深く低い声音で俺を呼んだ。
「なんだよ?」 物思いから呼び覚まされて怪訝な声で返事をすると、
空になっていた手の中のグラスに、新しいブランデーが注がれる。「献杯をしよう、ルーザーに」

俺は目だけでうなずいて、見た目よりもずっと重いブランデーグラスを持ち上げた。
打ち合わされたクリスタルガラスは心に刺さるトゲのように、高く澄んだ音を響かせる。

「ルーザーに」 「ルーザー兄貴に」 そして俺達の罪に。

2004.7.17


5.突破せよ ――ルーザー

ここに3つの課題がある。
Aをクリアしようと思うと、Bに届かなくなる。Bをクリアすると、Cが消えてしまう。
しかしAを満たすためにはCが必要である。
ややこしいかな。これでもできる限り単純にしたんだけどね。

さてそれをどう解決するべきか。考えることが僕の仕事だ。
仕事――work、それは人が神から与えられた罰だという。
楽園を追い出され、人は労働に手を染めざるを得なくなった。
……おもしろいね。僕はそれこそ、人の、人にしかできない、人の唯一の素晴らしさだと思うけどな。
まあきっと、神様には分からなかったんだろう。バカな神様にはね。

さて僕は考える。どうすれば解を見つけ出せるのか。
思考する。いくつものファクターを織り交ぜ、それに手を加えて結果をシミュレートする。
考えはどんどん広がり分散していき、相互につながり合いながら複雑なnetを構築する。
蜘蛛の巣(net)のように。いや、それでは足りないな。三次元の、いや時間軸も入れて四次元のnetだ。
強いて言うなら、脳神経の間を行き来するシナプスに近いかもしれない。
人の頭の中にも、netが構築されている。

僕は考える。無数の細胞の間を行き来する電気信号のように。
考える。どこかに解はあるはずだ。
僕は知っている。すでに解はあることを知っている。僕はもう捉えている。ただ、気がついていないだけだ。
分からないのではない、考えが足りないだけだ。
分からないのならば、分かるまで考えるだけだ。

――人は僕を天才だと言う。
愚かしいことだよ。僕はただの人間だ。他の誰よりも人間だ。
突破せよ。突破せよ。突破せよ。たった一つの解を求めて。果てしなきnetを構築し潜り抜け、捉える。
workする。考える。考える。考える。分かるまで考える。見つけ出すまで考える。
ただそれだけのことだ。突破せよ。解はある。確実に、解はある。突破せよ。神の作った世界を。
僕がこの手で書き換えてやるんだ。

……そうして僕は答を見つけた。たった一つの解を。
この瞬間こそすべて。人が神を越える瞬間。

では次の問題に、僕の仕事――workに向かおう。
突破する。僕はいつだって突破してみせる。この世界の論理が投げかける問いを。
それがこの僕、ルーザーの幸せなんだ。……分かるかな? 君に。

2007.1.11


1-5 / 6-10 / 11-15 / 16-20 / 21-25
お題一覧


index / top

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル