ミドル好きに25のお題 16-20


16.跪け / サービス→マジック

17.たった一つ / ルーザー→サービス

18.ゴーイング・マイ・ホーム / グンマ

19.宇宙 / ジャン→サービス

20.会えて良かった / サービス→ジャン


16.跪け ――サービス

昔々、あるところに一人の王様がいました。
彼はとても強い人で、強くあり続けたいと願っている人でした。
だから王様は、強い人が好きでした。

王様には弟がいました。彼は弱い人でした。
王はそんな弟は嫌いでしたが、それでも精一杯愛しました。
だけど弟は、自分が王の期待に応えていないことをいつも感じていたのです。

「それからジャンが死に、ルーザー兄さんが死に、ぼくはガンマ団から姿を消した。
 本当はどこか人知れない場所で死ぬつもりだったんだけど、死にきれなくて……」

人生で初めて対面した挫折から這い上がった時、王の弟は自分を鍛え始めました。
やっと彼にも強くある必要が理解できたのです。
そのために彼は努力しました。誰も知らない山の中で、何日も何十日も何百日も。
ただ、もはやそれは自分のためでも王のためでもありませんでした。

そうして弟が何年かぶりに王の前に現れた時、王は驚きました。
一族の象徴を捨て、その強大な力を自ら放棄したはずの弟が、
逆に一族しか持てない最高の剣を手にしていたからです。
王は喜ぶだろうと弟は思っていました。彼はまだ、少しは兄のことを愛していたのでしょう。
王は喜びました。彼はまだ、弟のことをとても愛していたのです。

そして王がしたことは弟を組み敷いてその身に牙を突き立て、
決して消えることのない印を刻むことでした。

王は弟を愛し、彼に強くあることを求めていましたが、一番に求めていたのは
自分に跪けということだったのです。なぜなら、それが彼の愛だったからです。

「それでぼくが彼の目線に入るだけの強さを持った時、彼は初めてぼくを愛したのさ」

「マジック兄さんは、可哀相な人だよ」

2004.7.6


17.たった一つ ――ルーザー

僕はたった一つの間違いを犯した。

あの時……。
僕がたった一つ許せなかったのは、その男がおまえを腕に抱いていたことだ。
たった一つ許せなかったのは、裏切り者であるはずのその男が
本当に大切なものを扱うように、おまえの体を抱きしめていたことだ。
だから僕はあの男を消した。

サービス。おまえは僕にとって、たった一つの大切な存在だった。
誰もおまえの代わりにはなれない。おまえは誰よりも僕の近くにいた。
僕は本当におまえを愛していたんだよ、サービス。たった一つ、僕の大切な人。

だけどおまえは、そのたった一つの眼を、あの男のために抉ってしまった。
それがたった一つの僕の失敗だった。
たった一つのちっぽけな裏切り者の命のために、
おまえはたった一しかない、かけがえのないものを捧げてしまった。

ああ、サービス。だけど僕はそんなおまえを許すよ。今までだって、何度もそうしてきたように。
サービス、おまえはたった一つの僕の光だったから。
だけどサービス。もしも真実を知ったならば、おまえは一体どうするのだろう。
今度はそのたった一つの命すら、あの男に捧げてしまうのかな?

だからサービス。……消えるのは僕だ。
たった一つの命を、僕は贖罪のために捧げよう。
たった一つの罪のために、たった一つの命を捧げよう。
さようならサービス。たった一つ、僕が愛した人。

たった一つのもののために、全てが壊れていく。
たった一つのもののために、全ては存在したのだから。
一つだけ。僕がサービスに望んだことは一つだけ。
ずっと傍にいて欲しい。そのたった一つのことだけだったのに……。

2004.9.1


18.ゴーイング・マイ・ホーム ――グンマ

おうちに帰ろう。
僕はいつだってそう思う。そしてみんなに言う。おうちに帰ろうと。
そこが幸せの場所だけではないことを、僕は知っている。
お父様や叔父様たちの過去にも、兄弟や従兄弟たちの過去にも、
たくさんたくさん辛くて悲しいことがあった。
それでも僕は言う。おうちに帰ろう。
未来を見つめることは、時々辛いけれども、それでも僕は言う。
現在を生きることは、時々苦しいけれども、それでも僕は言う。
おうちに帰ろう。

そこは守るための場所だけじゃなくて、眠るための場所だけじゃなくて、
たくさんの話をするところで、そして人生の中のいつかを一緒に生きるための場所で。
喧嘩をしたり、泣いたり、笑ったり、一緒に遊んだり、あるいは食べたり飲んだり。
いつかは皆、旅立っていくかもしれない。巣立っていくのかもしれない。
けれども、また帰ってくればいい。
僕たちはきっと幸せになれる。幸せにならなきゃいけないと思う。

だから僕は言うんだ。おうちに帰ろうって。
そこにはきっと、幸せが待っているからって。

僕たちは家族になるんだ。血のつながりだけじゃなくて、愛しあえる、本当の家族に。
みんなみんな、僕たちの家にくればいい。血のつながりなんて、大切なことじゃない。
憎しみや悲しみなんて大切なことじゃない。一緒に生きればいいんだよ。
一人で生きるのが大変なら、みんなで寄り添い合って生きればいい。
そうすればきっと、癒せる悲しみがあるはずだ。僕はそう信じている。

だから僕は言うんだ。おうちに帰ろうって。
そして、僕たちはみんなで、幸せにならなきゃいけないんだって。

2007.2.2


19.宇宙 ――ジャン

宇宙に行こうと思った。
あいつとよく、並んで座って夜空を見上げた。
いろいろな星のいろいろな色を、そしてそれらが形作る星座を一つ一つあいつに教えてやった。
あいつはやっぱり、少し視力が弱かったから、
俺が見えるほどには星がきちんと見えないらしかったので。

矯正手術やコンタクトレンズや眼鏡をかけることや、星を見るときには望遠鏡を使うことも薦めたんだけど、
あいつときたら、聞いちゃいなかった。
「片目の私の何が悪いんだい」
そうあっさり言い切った。まったく、あの女王様は。
「私は片目で見えるものを見る。それだけで充分なんだ」
そんなことを言って、髪の毛をかきあげて笑うものだから、もう何も言えなかった。……弱い俺。

それならいっそのこと、宇宙に行こうと思ったんだ。
少なくとも大気圏を突破すれば、星はずっとよく見える。空気やチリに邪魔されることなく。
俺はあいつ自身も、あいつの考えも、あいつの外見も、なんにも変えることはできないから、
じゃあ丸ごとさらって連れて行けばいいと思った。
こんな俺でも、それだけは出来ると思ったんだ。

そうして二人で星を見る。
遥かなる過去の輝き、何万光年も離れた先に在る、あるいは在ったものを。
人よりもずっと大きくて、だけど確かに生まれては死んでいく、一つの命の形を。
あいつと二人で並んで見たかった。手をつないで。肩を抱いて。最後には口づけをして。
……拒まれるかもしれないけど。
じゃあ、並んで星を見ればいい。それだけでいい。

どうしてかな。
俺は星が好きだった。あいつと並んで星を見ている時間が好きだった。
数十年で生死を繰り返す人類、永遠をすごす秘石の番人、そのどちらでもない、数十億年の輝き。
そしてそれらを包む暗黒の宇宙。無から始まり、いつかはすべてを巻き込んで無に還るもの。

そんな宇宙に出て行きたかった。あいつを連れて。
そこには、確かに何かが……俺たちをつなぐ何かが、あるような気がしたんだ。

気の遠くなるような時間と距離とに囲まれて、生命のない暗黒の中で二人浮かんでいられれば、
そこには、俺たちを永遠につないでくれる何かが……、
俺たちを永遠の中にとどめてくれる何かが……、
あるような気がしたんだ……。

2007.1.13


20.会えて良かった ――サービス

「会えて良かった」
それを最期の言葉にしようと決めていた。

別に死のうと思ったわけではないのだが。いつか自分が死ぬことは分かっていたので。
人間である限り、それは当然だろう。
そしてそれは、99.9%の確率で彼より先であるとも分かっていたので。
でないと困る。
彼はもうすでに自分より先に、一度死んでいるのだ。
次は私の番だろう。それは当然だ。もう二度とあんな思いは耐えられない。

……それに、それだけではなく、純粋に、彼には生きていて欲しかった。
生きるということは素晴らしいことだと、私は知っていたから。
たくさんの苦しみの中であえぎながら、たくさんの絶望を見ても、それでもなお……
生きることは素晴らしいと、最後には思えたから。
彼はもしかしたら、苦しむかもしれない。生を呪うかもしれない。
私は自分自身が経験したから、そのことをよく知っている。
でもやっぱり、生きるってことはただそれだけで素晴らしいことなんだよ……ジャン。
だから私は死ぬことはやっぱり、怖いんだ。だから最期には、せめて愛の言葉を、ささやきたい。

「おまえに会えて良かった」
それが私の生の意味だった。そう言って死のうと心に決めていた。
実際に言えるかは分からない。病院のベッドの上で衰弱しながら死んでいければ、
それが一番言うことの出来る確率は高いだろうが、人間は事故であっさり死んでしまうこともある。
誰かに殺されることだってあるだろう。
……残念ながら私は罪深い人間なので。他の人間より、多少は死に近いところにある。
もしかしたら、自らこの命を捧げなくてはならない状況というのも、この先訪れるかもしれない。

それでも、「会えて良かった」。
そう言いたかった。

人生の最期には、彼に。それが私の生の意味だったと。
伝えたかった。

2007.1.13


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