ミドル好きに25のお題 11-15


11.バニシング・ツイン(失われた双子の片割れ) / ハーレム、ルーザー、サービス

12.Eブロック / マジック→ルーザー

13.青 / ジャン→サービス

14.赤 / サービス→ジャン

15.Mr.マッドサイエンティスト / 高松→ジャン


11.バニシング・ツイン(失われた双子の片割れ) ――ハーレム

俺がまだガキの頃の話だよ。
ルーザー兄貴に「バニシング・ツイン」という話を聞かされた。
母親の胎内で、生まれる前に双子の片方が消えてしまうという現象なんだそうだ。
「ぼくたち、消えなくてよかったね」
双子である俺とサービスは、手を取り合ってそう言い合った。
あン? 俺にもアイツにもそういう時期があったんだよ。

ところがだ、ルーザーの野郎はそんな俺達を見て、楽しそうに笑いながら言いやがった。
「どうしてこんなことが起こるのか、まだ解明はされていないんだけど、
 一説によるとそのままでは両方は育つことができないから、
 一方が解体され吸収されてもう一方の栄養になるんだってさ」
あの思い出しただけでも寒気のする、やたらめったら綺麗な笑顔で言いやがったんだ。

俺は思わずぞくりとして、その片割れである弟の手を握っていた。
でもサービスは、あくまで無邪気にこんなことを言った。
「ぼく、ハーレムの栄養になれるならそれでもいいよ」
純真無垢に、俺のことも兄貴のことも、世界の全てを信じている笑顔で。

そんなのってアリかよ!?と、あの時も思ったな……。
分かんねえ。大切な相手なら、何が何でも生き抜いて、ずっとそばに居てやる。
それが愛ってもんじゃねぇのか? その方が相手のためだとか、ンな綺麗事は言わねえけどよ。
とにかく俺はそんな愛し方されても迷惑なだけだぜ。
ああ、まったく、ホントーに、大迷惑だッ!

2004.5.31


12.Eブロック ――マジック

戦略という点から物事を見た場合、切り捨てざるを得ない部分というものはどうしても存在する。
あの場所、つまりルーザーが戦死したEブロックもそうだった。

守りきるにはあまりに多大な犠牲を必要とする割に、死守する程の価値はない。
だからもうそこは陥落することを前提として、次の作戦が考えられていた。
もちろん将来的には取り戻す、そのためにも一時的にくれてやる、戦争とはそういうものだ。
奪還時には、当然我が将兵の流した血は数十倍にして返すはずだった。
何をするにしても、必要な犠牲というものは存在するからね……。

だが、私はそこでかけがえのないものを失ってしまった。
弟ルーザー。総帥となって以来、兄である私をずっと影から支えてくれた最高の科学者。
一般武器から生物化学兵器まで、求めればためらうことなく何でも作ってくれた。
彼はひどく純粋な人間で、ただ科学的な真理を追究することしか頭になかったから、
いかなる大量殺戮兵器であっても、効率という言葉で全てを片づけて平然としていた。
そんな性質はガンマ団総帥である私にとって、とても都合が良かった。
兄としては懸念でもあったが、私はあえて無視していた。
必要な犠牲だと、後で取り返そうと、そう思っていた。……結局、出来なくなったがな。

Eブロックはどうしたか。
弟は遺骸すら残らなかったから、あの地も跡形を残さず吹き飛ばしたよ。
私が直々に出向いて、両目に秘石眼を持って生まれた青の一族として、あらん限りの力で。

今は廃墟すら残っていない。なにもない。何十年経とうと草一本生えはしない、一面の荒野。
そこが私――ガンマ団総帥マジックの、弟ルーザーに捧げた墓地だ。

2004.5.31


13.青 ――ジャン

青といえば、パプワ島の海の色を思い出す。海が好きだった。今でも。

パプワ島にはなんでもあるから、周りの海もそりゃもー豊かで起伏に富んでいてさ。
遠浅の珊瑚礁がどこまでも続いていると思うと、反対側にはいきなりぽっかりと
海底が段になって落ち込んでいて、すっげー深い部分があったりしてね。よく潜っていたよ。
あの聖地では、海にもたくさんの生物がいて賑やかだったけど、
俺は人間の形をしているからやっぱ海の中では異質でね。でもそれがなんだか面白かった。
そんな別世界の奴らに囲まれながら、呼吸せずにどこまで行けるのか常に挑戦でさー。
苦しいんだけど、ギリギリまで粘って、底を目指して何度も潜ったもんだ。
海水はすごく澄んでいたから、深い所まで陽が届いて明るくて。海底の砂が白く輝いていて、
そりゃもう美しいんだけれど、なかなか辿り着けない。手が届きそうで届かない。

サービスと再会して、幸せな気分に満たされている時、俺は時々あの美しく深い海を思い出す。
あいつは本当に海みたいな奴だよ。冷たい優しさで一杯で、どんなに潜っても底に着けない、
どこまで追いかけていっても捕まえることが出来ない。その前に呼吸が続かなくなる。
それでも俺は、だからこそサービスという人間を、どこまでも追い続けたいと願っている。

幸せなことに、俺はつまり中毒ってやつになってしまっているらしい。
海の青に。そして青の一族である彼に。

2004.6.3


14.赤 ――サービス

赤といえば、人が流す血の色を思い出す。血は嫌いだった。今でも。

私のまわりには常に血がついて回った。ガンマ団総帥の家系に生まれたから
ということだけで、全てを片づけるのは言い訳なんだろうな。
身の回りで人が沢山死んだよ。間接的にも直接的にも、多くの人を殺してきた。
そしてというべきか、だからというべきか。戦場だとか別のところでだとか、
とにかく血なまぐさい現場から離れて、静けさの中で、好きな本を読むことや
美しい絵を観ることに浸っていても、ふっと血の匂いがただよってくることがあった。
古びた紙とインクの匂いの隙間から。完璧な空調がなされている美術館の中でも。
あの生臭くて息が詰まる、思わず喉から何かがせり上がってくるような忌まわしい匂いが、
時々やってきた。その匂いの源は、きっと私自身の身体や心に染み付いていたものなんだろう。

ジャンと再会して、幸福に包まれながら彼のそばに居る時でも、私は時々血の匂いをかぐ。
彼と血もまた、私にとって切っても切れないものだ。あの血まみれの彼の姿は今でも思い出す。
ジャンは怖いヤツだよ。あんなに明るくて陽気なのに、常にどこか破滅を背負っている。
それでも私は、だからこそジャンの事を、身に染み付いた血のように分かちがたく感じてしまう。

困ったことに、私はつまり中毒というものになってしまっているらしい。
血の赤に。そして赤の番人であった彼に。

2004.6.3


15.Mr.マッドサイエンティスト ――高松

まったく、ジャンはどうして急に科学者になるなんて言いだしたんでしょうねえ。
迷惑なんですよ。本当に。一体何を考えてるんだか。
まさか本気でサービスに永遠の美貌とやらを提供するためじゃないでしょうね……?

だとしたら、彼にはマッドサイエンティストになる素質が十二分にありますね。
考えてもごらんなさいな、不老不死なんて人類最大の夢でありタブーですよ。
彼はそれを、たかが一人の人間への執着のために、軽い気持ちで夢見ている。
あの脳天気な笑顔に騙されちゃいけません。
それって今まで何人もの人間が追い求めては、破滅への道を辿ったパターンじゃないですか。

人は私のことを散々マッドサイエンティスト呼ばわりしますけどね、
この高松がやっていることなんて、たかが生態系狂わせて学生で人体実験しているだけでしょ。
大したことじゃないですよ。ただのお遊びに過ぎません。平和なもんです。
……何か異論でも?
こう見えても私はね、踏みとどまっているんですよ。今のところ。
ま、理由までは教えてあげませんけど。

あなた、科学者が道を踏み外す最大の原因って何だと思います?
研究に失敗することではないんです。むしろ成功こそが科学者にとっては落とし穴です。
真理を探究する科学者を阻むことは誰にもできません。
科学者を狂わせることが出来るのは、当の科学者が生み出した結果だけ。

ジャンには無限の時間があり、成し遂げたい強い欲求があり、そしてそれは……。
いつの日かそこに手が届いた時、彼は何を見るんでしょうね。

哀れですね。もしもジャンが本気ならば、ですけれど。彼は哀れだ。

2004.6.4


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