『 ライアンぐるぐる 』
(キャロルが現代にずっといる設定です。)


(なぁに、あれ!感じの悪い!私がそんなに邪魔なの?)
不機嫌なキャロルにすかさずアフマドが声をかけた。
「兄上はよそに行かれたんですね。僕がエスコートしてはご迷惑かな?」
アフマドはさっきまでまとわりついていた女性達をあっさり振ってキャロルの手を優しく取った。いかにも男慣れしていないようなキャロルの初な反応がアフマドを喜ばせた。

「ご親切にありがとう。アフマドさん」
「いや、どういたしまして。僕のことはアフマドと呼んでください。またお会いしましょう。今度、僕の父がエジプトにやって来るので歓迎レセプションがあるのでね。是非、おいでなさい」
「でも・・・お国の方は外国人がお好きではないのでしょう?兄から教わりました。私みたいなのがしゃしゃり出てはご迷惑でしょうに」
アフマドはいかにも楽しそうに笑った。
「なるほど、ライアン氏はあなたに色々なことを教えていますね。でも本当でないこともあります。あなたなら大歓迎です。是非、来てください!」
そしてアフマドは帰っていった。結局、彼はキャロルを屋敷まで送ってきたのである。
(結局、兄さんとは帰れなかったわね。仕方ないわ。兄さんは・・・私だけの兄さんじゃないんですもの。仕事やなんかで忙しいのよ)
キャロルはそっとため息をついた。
(こんなにおめかししてバカみたい。兄さんと一緒だって浮かれて・・・)
「兄さんが社長なんかじゃなく、私だけのただの人なら良かったのに・・・」
そこにライアンが帰ってきた。ライアンは不機嫌ここにきわまれりといった様子だった。
「キャロル!どういうことだ?僕に無断で勝手に帰ったりして!何故、僕から離れた?」
アフマドとキャロルが一緒に帰ったと聞き、早々に帰ってきたライアン。
「だって・・・兄さんは忙しそうだったもの。私みたいな子供の・・・子守でもないでしょう?」


「兄さんは大人で・・・仕事も忙しいのに私が我が儘を言って困らせるわけにはいかないもの。今日だって私は邪魔だった・・・かもしれないもの。本当にごめんなさい」
「何を見当違いのことを言ってるんだ!今日はこの僕がお前を連れていきたいと思ったんだ。それなのにお前は僕以外の奴と・・・!」
キャロルの細い手首を掴んで、感情のままに言葉を発していたライアンだが、ここまで言ってふと言葉を失った。
(これじゃあ、まるで下手な痴話喧嘩だ・・・)
これではキャロルがおびえてしまう・・・とライアンが思ったのと、キャロルがライアンから走り去ってしまったのはほぼ同時だった。

次の日。
「兄さん。昨日はごめんなさい。疲れていたの。」
キャロルは目を伏せて詫びた。昨日の晩からライアンの言葉が頭の中に渦巻いて、兄の秀麗な顔をまともに見ることができない。
(何を見当違いのことを言ってるんだ!今日はこの僕がお前を連れていきたいと思ったんだ。それなのにお前は僕以外の奴と・・・!)
「本当にごめんなさい。でも、あの私ね。これまで兄さんに甘えすぎていたのは本当よね。昨日・・・兄さんが大人で・・・沢山の人を抱える大きな組織のトップの人だって改めて分かったの」
キャロルは勝手に詫びの言葉を並べると学校に行ってしまった。
(何を言ってるんだ、あの子は?甘えすぎたって?それがいけないとでも言うのか?いつだって側にいる子が・・・急にあんなことを・・・?昨日・・・つい押さえがきかなくて言ってしまったことで怯えさせたか?)
ライアンはため息をついた。愛しくて愛しくて・・・たまらない大切な妹が急に遠くに行ってしまったような予感。
「ばかばかしい。あの子は自分のしたことを素直に謝るのが照れくさかっただけだ。決まっている」
ライアンは父親のような


でも。
本当にキャロルはライアンから急に遠ざかってしまった。嫌っているわけでもない。避けているわけでもない。普通に話す。普通に笑う。
ただ。
ライアンに甘えない。ライアンが小さい子にするように甘やかしたり、お土産だと言って好きな菓子類を渡してもはにかんで笑うだけ。抱きついてキスしたりはしない。
ライアンがどこかに行くと言えば機嫌が悪かったのに今では顔色を変えず見送る。何だか遠慮しているような。
休日も学校の友人と遊びに行くことが多くなった。今まではライアンと一緒にいたがったのに。
(キャロルめ・・・どういうつもりだ?)
ライアンは落ち着かなかった。アフマドの招待にもキャロルは応じ、付き添いのライアンがかすむほどアフマドの親族に気に入られ、大事にされた。
そしてトドメの一撃。
「ねぇ、ライアン。キャロルとジミーの婚約のことだけど・・・。ジミーに打診したら二つ返事で・・・キャロルにもそれとなく探りを入れたんだけど満更でもないようなのよ。
ね、二人が好きあっているなら・・・」
「お母さん!僕は・・・!」
「ライアン・・・あなたはひょっとしてアフマド氏を推しているの?」
驚いて口も利けない息子に母親は言った。
「そりゃ、あなたの仕事のことを考えればアフマドさんとの縁組みのほうが好ましいのでしょうけど、でも私は母親としてあんな外国の方より・・・」
ライアンは最後まで聞いていなかった。キャロルの部屋に飛び込むライアン・・・。


ライアンは日頃の冷静さもかなぐり捨てて、キャロルに詰め寄った。本当にジミーと婚約するつもりなのかと。それはまるで恋人の不実を責める男のようだった。
「キャロル。お前はまだ16才だぞ。子供じゃないか。それを・・・婚約だなんて。まだやりたいことがいっぱいあるって言っていたじゃないか?お前はまだまだ勉強したり、沢山の人に会って大きくなって行かなくてはいけないんだ。それを・・・」
「兄さん・・・。婚約しても結婚しても勉強はできるわ。それに・・・ママも強く勧めてくれる。私・・・私、ママのこと安心させてあげたいのよ」
絶句するライアンを部屋の外に押し出すとキャロルは静かに涙を流した。
(ジミーは私のこと愛してくれている。私を望んでくれている。私を求めていてくれる。これ以上、何を望むの?私もジミーを・・・好きだわ。きっと夫として考古学者として・・・尊敬して・・・いつか愛せるようになるわ。
ママを安心させてあげなきゃ。ママは私とジミーの結婚を・・・望んでいるんだもの)
キャロルの脳裏にライアンの言葉が繰り返しこだました。
(何を見当違いのことを言ってるんだ!今日はこの僕がお前を連れていきたいと思ったんだ。それなのにお前は僕以外の奴と・・・!)
「私・・・ずっと兄さんのお嫁さんになるつもりだったのよ。バカみたい」
キャロルの呟きは誰にも聞こえない。


キャロルはジミー宅で開かれるパーティーに出席する支度をのろのろと整えていた。ブラウン教授の本の出版を祝うパーティーだが、その席上でキャロルとジミーの婚約も発表される段取りになっていた。
白いドレスを着たキャロルは蒼ざめて、疲れた哀しそうな顔をしていた。
(この間、兄さんとパーティーに行けるってはしゃいでいたのが遠い昔のことみたい)
そんなキャロルを見てリード夫人も驚いた。どう見ても婚約発表を控えた幸せな娘の顔ではない。でもキャロルは敢えて微笑んで見せて母親の心配を笑い飛ばして見せた。
「さぁ、ママ。行きましょう。遅れては失礼よ」
「そうね、キャロル・・・。ライアンもロディも仕事で遅れるそうよ。・・・ねぇ、キャロル。どうかしたの?ひどくやつれて見えるわ」
「大丈夫よ」
ブラウン教授の家には沢山の人々が集まっていた。ジミーは盛装してリード母子を迎えた。ジミーはキャロルを熱っぽく見つめ、その青ざめた頬に接吻した。この幸せな少年はキャロルの苦悩など気付かない。

パーティーもたけなわ・・・。
ジミーは疲れ切って憔悴してみえるキャロルを静かな庭先に連れ出した。
「大丈夫かい?キャロル。何だかひどく疲れているみたいだ」
「何でもないわ。本当よ。きっと緊張しているだけよ。だって・・・」
「ああ・・・そうだね。じき僕らの婚約が発表される。皆、驚くよ。でもね、ぼくはきっと君を幸せにするよ」
ジミーはそう言って唇を重ねてきた。


その瞬間。
「いやあぁぁぁっ!」
キャロルは思い切りジミーを突き飛ばして、逃げ出した。無理矢理キスされてしまった、しかもジミーにと思うと腹が立って悲しい。
(やっぱり私は・・・私は・・・)
闇雲に門から外に走り出すキャロル。
そこにライアン・ロディ兄弟を乗せた車がやって来た。妹の異変を察知したライアンは素早く車から降りると妹を抱きしめた。兄の胸で思い切り泣くキャロル。門からキャロルを追ってきたジミー。
ライアンは冷たく言った。
「キャロル。今日はもう帰ろう。ジミーくん。何があったかは君からは聞かない。だが今日のメインイベントは取りやめだ。いいね。・・・ロディ、屋敷へ」
ロディもだいたいのことは察した。何しろ、ここに来るまでに兄の妹キャロルに対する深い愛を告白されたばかりだからだ。
(何だ・・・キャロルはこの婚約は気乗りせず、ライアン兄さんも反対だった。そしてキャロルは兄さんに助けを求め、兄さんはキャロルを守る気だ。ははぁ、これはママの思惑とは全く別のことが起きるかな?つまり二人はひょっとすると相思相愛ってやつ?)
「兄さん、リード家の兄妹が揃って退場というのはまずいよ。ぼくはパーティーに出るよ。兄さんはキャロルを見てやってくれ。・・・ジミー、悪いけれどね、キャロルは急に具合が悪くなったよ。中座の失礼を許してくれたまえ」
こうしてライアンとキャロルを乗せた車は走り去った。


朝になってもリード家の雰囲気は何処かちぐはぐなものだった。
朝食の準備をしているばあやが話しかけてもライアンは妙に口数が重く、ロディも何事か考え込んでいる。
「奥様、一体何があったのでございます?」
忠義者のばあやにしてみたら心配でたまらない様子。
「キャロルさんに何かお腹に入れるものでもお持ちしないと・・。」
「・・・いいのよ、なにも食べたくはないんですって。もう少ししたらいつものようにお腹すいたって降りてくるわ。」
そう言葉を返すリード夫人も表情が暗い。
夫人は昨夜ロディと一緒にライアンとキャロルに遅れて帰宅した。
ロディから「今夜の婚約発表は中止にしてほしい」と言われて仕方なくその通りにしたのだ。
帰宅してみるとライアンが「キャロルはまだ子供だから婚約は早いようだし、この件は白紙に戻してください。」と言う。
キャロルの部屋へ行って見るとベッドで泣き伏しているありさま。
「ママ、ママ、ごめんなさい、ジミーのこと好きだって思ってたのに・・・。
 せっかくママが婚約させてくれるって言ったのに・・・。」
あんなにも哀しげに泣くキャロルを見て夫人も動転してしまった。
(キャロルもてっきりジミーのことを愛していると思っていた私の思い違いだったのかしら?
 私がジミーならと喜んでしまったからキャロルは嫌と言えなくなってしまったのかしら?
 私がキャロルを手放さずに済むと思った余りに、キャロルの気持ちをわかってやれなかったのでは・・・?)
夫人は今は亡きキャロルの母である妹を思い出した。
(あの子も無邪気で人を疑うことなんて知らない子だったわ。父や母が良かれと思って整えた婚約者にも何も言えずにいた・・・。
 でも最後の最後にいつも側にいた幼なじみと駆けおちしてしまって・・。
 いつでも自分の事よりも周りの人の事を思いやって、我慢してた。
 あの時は私達もそんなに事業で成功しているわけでもなく、あの子を守ってやれなかった。
 それでも駆けおちを許してもらって、キャロルも生まれてこれから幸せになろうとしていたのに・・・。
 キャロルにはあの子の分も幸せになって貰いたいのに、私が先走りすぎたのかしら?
 私はあの時の両親と同じ事をキャロルにしてしまったのかしら?
 もしやキャロルにもジミー以外に好きな人が・・・?)
いつもはキャロルの屈託のない笑い声のする食卓が今朝は静か過ぎて落ち着かない。
「ねえ、ライアン。キャロルには誰かジミー以外に好きな方がいるのかしら?」
ため息と供に吐き出される夫人の言葉にライアンは心臓を掴まれたようにどきりとした。
「僕にもわかりません、おかあさん。でもまだ子供なんだししばらく様子を見ましょう。
 ジミーに会うのが辛いのならアメリカでしばらく過ごさせるのもいいし、好きにさせて見ましょう。」
考え事をする時のライアンの癖で葉巻を吸いながらの返答。
「なんだかあの子の母親を思い出してしまって・・・。私はあの子に辛い事をさせてしまったのではないのかと・・。」
「おかあさん、血は繋がってないにしろ、キャロルは可愛い僕達の妹です。
 おかあさんだってあの子のためと思ってした事なんだし、自分を責めるのは間違いです。
 誰も悪くないんです。だからそんなに気を落とさないで・・。」
「そうだよ、おかあさん、ライアンの言うとおりなんだから。今はショックだろうけど
 キャロルもすぐ元気になるよ。」
三人の交わす会話をキャロルは影に隠れて聞いてしまった。
(私は兄さん達と血が繋がっていない?)
余りにおおきなショックを受けたキャロルは足音を忍ばせてまた自室に戻ってしまった。
(こんなに好きなのに、私は可愛い妹なのね?これで兄さんに愛してると言えると思ったのに・・・。
 こんなにライアン兄さんのことが好きなのに・・・。)
新たな涙がミャロルの枕を濡らしていく・・・。


(私はずっとこのままで過ごしていくの?ライアン兄さんに気持ちを打ち明けられないまま
 ずっとこの家で・・・?)
書斎でぼんやりと考えているうちにいつしか眠ってしまったらっしキャロル。
「・・・風邪をひくよ、キャロル。」
優しく髪を撫でる感触がしてキャロルは目を覚ました。
葉巻を吸いながらキャロルの傍らに座っているライアン。
「おかあさんが心配しているよ、お前があんまり夜も寝ていないんじゃないかって・・。
 ここにいるのが辛いならしばらくアメリカに帰ってみるかい?
 気分転換になっていいだろうしね。」
「ううん、いいの、ただジミーのこと、傷つけてしまったんじゃないかっておもって・・・。」
「ブラウン教授にもお詫びはしておいたよ、こちらが急がせ過ぎたようですってね。
 ジミーを連れてしばらく発掘に出かけると行っていた。」
ジミーにも悪い事をしてしまったとキャロルは思っていた。
自分の気持ちを誤魔化して、ジミーの気持ちを利用したのだと。
「最近、葉巻の本数が増えたのね、私のせいね、ごめんなさい。」
キャロルは考え事をする時に葉巻を吸うライアンの癖を良く知っていた。
ライアンに抱きついた時にほのかに香る葉巻の臭いがキャロルは好きだった。
「何を気にしているんだい?葉巻はどうしても止められない僕の癖なんだからいいんだよ。
 まあ、相手が誰であれ、まだしばらくはリード家の可愛い娘がいる方がいいよ、
 お前がいないと寂しいからね。」
そういってキャロルの頭を撫でたライアンにキャロルは以前の陽にしがみ付いて泣き出してしまった。
「私、どこにも行かない、ずっと兄さん達と一緒にいるわ、本当よ!」
ライアンの気持ちなど知らないままキャロルは泣いていた。
(一生言えなくてもいい、兄さんとずっと過ごせるなら。)
泣きじゃくるキャロルをライアンは複雑な思いで抱きしめていた。


なかなか元気にならないキャロルを心配したリード夫人は気分転換にとキャロルを買い物に誘った。
「でもママ、この前ドレスを買ったばかりなのに・・。」
「でもあなたは何だか納得していないような顔をしてたじゃありませんか?
 この前のはちょっと子供っぽかったかしらね、さあ、こんなのは?」
確かに自分の選ぶドレスは子供っぽい感じがするのをキャロルは認めた。
先日のパーティでみたドロシー・スペンサーは確かに自分の身体を見せつけるような大胆なダレスを着ていた事を思い出した。
ラフマーンの連れていた女もそこに立っているだけで妖艶さを漂わせているようなタイプだった。
大人の男の人はあのようなドレスの似合う人に惹かれるのかしら?
キャロルも自分では選ばないような肩や背中を大胆に露出した青いドレスを試着してみた。
「あら、よく似合っているわ、いつもよりも大分大人っぽくて。」
夫人の言葉に勇気付けられてキャロルは少し自信を持った。
まだまだ少女らしい身体つきであっても、細いウエストが強調されて、またキャロルの持っている清純な雰囲気を壊すことなく
より一層魅力的であった。
「あなたももう大人なのね、嬉しいけど寂しいような気もするわ。」
買い物を終えたキャロルに夫人は寂しげに微笑んだ。
「何を言ってるの?ママったら、私はずっとママの娘じゃないの、ずっとそばにいるわ。」
「・・そうね、少し休憩でもしましょう。」
そういって行きつけのホテルのレストランに入ろうとした二人は、奥の方で同じテーブルで話しをしている
ライアンとドロシー・スペンサーを見た。
「あら、どなたかしら?ライアンがお話ししてる方は?」
不思議そうに言う夫人の言葉などキャロルの耳には入らない。
心臓がこれ以上にないほど大きな音を立てて脈打っている。
(兄さんが・・兄さんが・・・あのドロシー・スペンサーと・・・)
キャロルはもう立っていられないくらいだった。
「・・ママ、家に帰りたいの・・。」
娘の様子に驚いた夫人は慌ててキャロルを連れて帰宅したのであった。


(分岐しています)

●その夜、帰宅したライアンを驚かせたのは母親のリード夫人の言葉だった。

●キャロルは変わった、とライアンは思う。



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