『 ライアンぐるぐる 』
(キャロルが現代にずっといる設定です。)


その夜、帰宅したライアンを驚かせたのは母親のリード夫人の言葉だった。
食後のゆったりとした時間に、キャロルと一緒にライアンが美しい女性とレストランにいるのを見たと話したのである。
「ほら、黒髪の美しいお嬢さんと一緒にいたじゃありませんか?
 そろそろあなたにも素敵なお相手が見つかるといいとは思っていたのよ、ライアン。
 あのお嬢さんはどなた?」
ライアンは困ったように苦笑した。
「彼女はスペンサー財閥の令嬢ですよ、今日偶然にレストランでお会いしたんです。
 でも図々しく食事にまで付き合わされたのには参りましたよ。断りたかったんですけどね。」
「あら、スペンサー財閥のお嬢さんなの?お年はお幾つなの?」
「18歳だってさ、おかあさん。僕も以前会ったけど、凄い我儘でさ、キャロルの我儘の方がまだましだったよ。」
ロディも軽口で話しに加わった。
「僕なんて話すらまともにしてもらえなかったよ、後になってから父親のスペンサー氏が謝ってたけどね。
 リードコンツェルンとの繋がりがわからなかったらしい。」
「スペンサー氏も最近急にあちこちで名前が聞かれるようになったきたからね。」
「娘を使って取り入る魂胆だって噂だよ、注意しないとね、兄さん。」
そんな話しをしている三人の横をすうっと通り過ぎて自室に向かうキャロル。
「キャロル、今日は急に具合が悪くなったんだし、注意しないとね。」
「・・はい、ママ」
妙に大人しいキャロルにライアンは気が付いた。
階段を上がって行くキャロルを見送りながらライアンは言った。
「おかあさん、キャロルの具合が悪いって?」
「そうなの、今日あなたを見かけたレストランに入ろうとしたら、気分が悪いって言うので
 急いで帰ってきたのよ。
 まだジミーとの事のショックが抜け切らないのかしら?感受性の強い子だし、心配だわ。」
「・・・そうですか・・。」
紫煙を燻らすライアンも何事かと思っている様子である。


キャロルは自分のベッドに腰を降ろして考え込んでいた。
今日見た光景は、キャロルの大好きなライアンの知らない面を垣間見たようだった。
さっきだって口では困ったような事を言っていたけど、まんざらでもなさそうだったし・・・。
何より自分の事を「可愛い妹」としか見てもらえないのだ。
我儘であっても、あれだけ美人でスタイルもよく、スペンサー財閥の令嬢なのだ。
傍目からみれば申し分のない縁組である。
ママだって喜んでいるような口ぶりだったし・・・。
思い悩んでいるとノックの音がして、「キャロル、入ってもいいかい?」とのライアンの声がした。
「はい、どうぞ。」と返事をするとライアンが部屋に入ってきて、そっとキャロルの座っている横に腰を降ろした。
「まだ調子が悪いのかい?無理するんじゃないよ。」
そう言いつつキャロルの頭を撫でる。
「お母さんも心配してるけど、僕もロディも心配してるんだよ、何かあるのなら言ってごらん。
 大事な妹なんだからね。」
「・・違うわ・・妹なんかじゃないのに・・・。」
自分でも思ってもいなかった言葉が迸る。
「私・・私・・知ってる・・。ママや兄さん達と血が繋がっていないことも・・・。
 でも兄さんは私のことなんて、ただの妹としか見てくれないんだわ、こんなに兄さんのことが好きなのに!」
そう言ってキャロルはライアンに抱きついた、いつも優しく抱き秘めてくれたその胸に。
「知ってたのか?キャロル・・・。」
「嫌、私以外の女の人と兄さんが一緒に居るなんて嫌!」
泣きじゃくりながらしがみ付くキャロルをライアンはただ抱きしめていた。
だがずっとキャロルへの愛を抱いていたライアンである、愛しいキャロルに愛を告げられていつもの抑制された様子はどこかへ拭き飛んでしまった。
キャロルの顎を持ち上げて顔を上に向けさせると急に唇を重ねたのである。
唇を貪るライアンにキャロルは驚いたが、自分の望みも叶い、ライアンの好きにさせるままだった。



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