このところ、体の調子がおかしい。
風邪をひいたとかそういうのじゃなくて、もっと体の奥深くのところ。
最近、纏身をすると体の奥底から何かが飛び出しそうになる。
本当に何でもないんだろうか。
私の中に、何か大きな変化が現れ始めてるんじゃないだろうか。
ひょっとしたら私は…

…所変わって犬神家…
いつものように、帆波姉さんがネットゲームをやりつつ私を呼んだ。
「ぽえむちゃ〜ん、おかしとジュース買ってきて〜。」
「めんどくさい。」
「おねが〜い。今いいところなのよぅ。」
「ふぅ…わかった、適当に買ってくるね。」
「ありがと〜!さっすがぽえむちゃん!」
やれやれ、こんな時間なのに…。
ま、シメキリはまだまだ先だし、気分転換に夜中の散歩もいいかもね。
それから私は駅前のコンビにで買い物を済ませ、海岸通りを歩いていた。
ふと気がつくと、うずくまっている人を発見。
なんか苦しそう…。
「あの…大丈夫ですか?」
そういって近づこうとしたら、急に背中がバリバリと割れてきた!
服から飛び出したものは黒い翼、その目は赤く恐ろしい光を放っている。
「あ…ああ…た、たすけて…」


「む!やつらか!」
「うん!空也は後から来て!」
「オッケイ!」
またクロウがやってきた。
しかもこの感じ…いつもと違う!
何か、これまでよりも強い力を感じる!
私は『ラスカル』にまたがり、フルスピードで出て行った。
現場に到着した時、私は目を疑った。
襲われているのは…ぽえむちゃん!?
ぐずぐずしている暇はない!
「ぽえむちゃん!」
「と、ともえさん…」
「はやく安全な場所に!」
私はぽえむちゃんを促すと、すぐに体勢を整える。
「はぁぁぁ…纏身!」
黒い衣に身を包む戦士ジガ、それが私。
いままでいくつものクロウを屠り去ってきたこの拳を、今日も見ることになるのか。
「え…巴さんが…?」
逃げたと思っていたぽえむちゃんは、物影からその光景を見ていた。
といっても、私は全く気づかなかったけど。
「はっ!ふん!」
突きを繰り出したが、このクロウには全く通用しない!
私の攻撃が止んだとたん、即座に反撃してきた。
「うわぁ!!」
クロウのパンチが私の肩を打ちつける。
あらゆる技の間合いを殺され、次第に追い詰められていった。
やっぱりこいつは、今までのクロウと違う!それなら…
「パープル・ストライク!」
私の持つ最強の必殺技。
渾身の力を込めた必殺の一撃を繰り出したものの、クロウの左腕に突如現れた盾に防がれてしまった


「何!?そんな…」
技が通用しない…大きなダメージを与えることができない…!
「ソノ…テイド…カ…ジガ…」
「えっ…?」
しゃべった…初めてクロウがこっちにもよくわかる言葉でしゃべった。
私にはそれが衝撃的だった。
今まで獣のようだったクロウにも、そこそこはっきりと言葉を話せるものがいるなんて。
「ナラバ…ソノ…ユビワ…イタダコウ…」
そういうとクロウは私を蹴り、投げつけ、拳を打ちつけた。
抵抗もむなしく、あっさりと倒れてしまう私。
もう…だめなのか?
(力が欲しいか…?)
え…?
(力が欲しいのか…?)
ほ、欲しい…ぽえむちゃんを守らないといけないんだ、その力が欲しい!
(ならば…我に任せるがよい…)
「う、う、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


俺は到着してから驚いた。
纏身したともねえが光り輝き、何か進化を遂げているようだった。
ふと、物陰からその様子を見ているねーたんを発見した。
「ねーたん!」
「あ…クー君…?」
「え…うん、まあそうなんだけど。な、なんなんだよ、ありゃあ…。」
「わからない…。あれ…ともえさんなの?」
その輝きが終わったら、ともねえは猛然とクロウに突進していった。
「むん!だぁ!づぁぁ!!」
強烈な連続攻撃。
盾を持ったクロウも最初はもろに受けていたが、その荒々しい攻撃は正確さを欠き、
そのうちに当たらなくなってしまった。
これじゃあ敵の的になってしまう。
「この野郎、これでもくらえ!」
俺は狙いを定めて『ライトニングプラズマ』を発射し、光弾は見事に命中!
クロウはそのままどこかへと撤退したようだった。
ともねえはうずくまって動かない。
「ともねえ…大丈夫?」
心配になって近づいたとたん、なんとともねえが襲い掛かってきた!
「なっ…!?」
「がぁぁぁぁぁ!」
強烈なパンチをまともにうけ、俺は吹き飛ばされてしまった。
この恐ろしい破壊力と野獣のような雄叫び、本当にこれがともねえなのか?
さらに追い討ちをかけるかのように、ともねえは飛び掛ってきた。
「やめるんだ、ともねえ!」
「ともえさん、やめて!」
俺とねーたんの声を聞いたともねえはその場にがくりと膝をつき、纏身を解いた。
顔からは嫌な汗が流れ、目のまわりにはくまができている。
「あ…あ…あ…私…」
そのままともねえは倒れこんだ…。


とうとうねーたんにもジガへと纏身することがばれてしまい、それは当然ねぇやにも知れわたった。
俺が『C3-X』を装着していることも、俺たちがクロウと戦っていることも。
翌朝、俺は目を覚ましてすぐにともねえの部屋に向かった。
そっと部屋に入ったつもりだけど、すぐにともねえは起きてしまった。
「空也…おはよう…」
「お、おはようともねえ。」
どうしよう、会話が思いつかない。
「あ、朝ごはんは俺が作っとくから、ともねえは休んでていいよ。」
「うん…」
そういうと、俺はそのまま部屋をでてしまった。
ダメだな、ああいうときなんでもっと他の言葉をかけてやらないんだ、俺は。
でも思いつかないしなあ。
「イカ!さっさと朝食を作りなさい!」
「メシー!メシー!早く作れー!肉必須ねー!」
とりあえず、うるさい消費者どものために朝ごはんを作るとしますか。
結局、朝ごはんにはともねえはやってこなかった。
昼もそんな状態で、どうしようかと悩んでいる時…
「イカ!巴姉さんがいないわ!」
「えー!?」
「今、みんなが探し回っているわ!
 アンタも行ってきなさい!」
「う、うん!ねぇやとねーたんにも知らせてくるよ!」
一体どうしたっていうんだよ、ともねえ…


ワケもわからず『ラスカル』を走りまわしていた。
普段は速度を守るのに、今はそんなもの完全に無視している。
『ラスカル』を止めて休憩していると、もう夜だった。
どこか遠くに行きたい…そう思っているときに、二人乗りした自転車がこっちに向かってきた。
乗っているのは帆波さんとぽえむちゃんだった。
「ぜぇ、ぜぇ…やっと見つけた…」
「巴さん、随分と探したんだよ。」
「帆波さん…ぽえむちゃん…」
必死に自転車をこいでいた帆波さんはその場にぐったりしてしまい、私はぽえむちゃんと話をした。
「この前は…その…ごめん。びっくりさせちゃったよね。」
「ううん、そんなことないよ。
 私、巴さんが助けに来てくれたとき、すごくうれしかった。」
「…ぽえむちゃん、私、自分が怖いんだ。」
「え?」
「昨日がとくにいい例だよ。
 最近になって自分の力が制御できなくなってるんじゃないかって。
 ついには空也を襲ってしまった。
 もう…何がなんだか…」
「それで、家を飛び出したの?」
「うん…。今度は誰を襲うかわからない。
 ひょっとしたら、今この場でぽえむちゃんを襲ったりするかもしれないし…。
 みんなに迷惑をかけられないよ。」
話をしているうちに、私の顔は涙でくしゃくしゃになっていた。
自分がみんなを守るって決心したのに、私は自分でみんなを傷つけようとしているなんて…。


「巴さん、逃げてる。」
「あぅ?」
「巴さん、現実を目の当たりにして逃げてる。
 それでみんなを助けるなんて笑わせる。」
「そんな…」
「どうして向き合わないの?
 私が憧れた巴さんは、そんな人じゃない。」
「うう…」
ここまで言われるなんて…。
私は…私は…なんて情けないんだろう…。
「現実から逃げることはできないんだよ、巴さん。
 確かにクー君を襲ったけど、それは巴さんの体の中にある力だから、制御できるはずだよ。」
「ぽえむちゃん…」
「逃げないで、巴さん。それに…巴さんは巴さんだよ。」
「…」
「頑張って、巴さん。」
「…ありがとう、ぽえむちゃん。私、混乱して大切なことを忘れていたよ。
 誰も悲しませない、誰も傷つけない、そして…私が大好きなみんなを守りたい。」
私は最初の自分の意志を再確認した。
戦う理由、それが自分にとって何であるか。
その時、指輪が不思議な光を放った。
「あ…綺麗…」
「うん…」
そうだ、私はぽえむちゃんだけじゃない、他の人のこの笑顔を何よりも守らないといけないんだ。
「…はっ!ぽえむちゃん、やつらが…」
「巴さん、行くんだね…がんばって、ね。」
「うん!」


ねーたんたちがともねえを見つける数分前、海お姉ちゃんから緊急連絡が入った。
「哨戒任務中のメカ高嶺・飛行型が、クロウの姿をキャッチしたよ〜。
 雛乃お姉ちゃんから出動命令が出たよ〜。
 各員速やかに集合〜。」
ともねえを探すのは大切だけど、誰かが襲われるのを放っておくわけにはいかない。
全員がすぐに駆けつけ、トラックに乗って出撃する。
でも、今回は運転しているのは要芽姉様だった。
「って要芽姉様はトラックの運転できるの?」
「私に不可能はないわ。」
うーん、あんまり説明になってないぞ。
「瀬芦里おねえちゃんもくーやも準備完了〜。」
「今回はねぇねぇも出撃するんだ。」
「そーだよ。いつまでもかわいい弟ばかりに苦労させられないしねー。」
「瀬芦里お姉ちゃんの『C3-MILD』は巴お姉ちゃんの力を借りなくても100%のパワーが出せるんだよ〜。
 ただし、武器は使えないけどね〜。」
「まーアタシには必要ないよ。」
確かにそれは言えてる。
でも、クロウ相手に『C3-MILD』がどこまで通用するか、それが一番問題だ。
「準備はよいな。空也よ、今は巴がおらんから、あまり無理はするでないぞ。
 それでは『クーヤチェイサー』、『キャットスライガー』発進!」


さーて、アタシの鉄拳のサビになりたいやつはどこだ!
クーヤは全力で戦うことができないから、私が前線に出ないとね。
「先行ってるよ、クーヤ!」
「ちょっと、ねぇねぇ!」
クーヤの制止を聞かず、私は全速力で現場へと向かった。
現場に到着、そこは古くなった廃工場だった。
身を隠すにはうってつけの場所だね。
しばらくうろついていると、野生の勘が身の危険を察知する。
「にゃっ!お前か〜!」
「キサマ…タダノ…ニンゲン…カ…」
明らかに人間と違う格好をしているやつ、あいつがクロウか!
「たぁぁぁぁ!くらえ!」
渾身の力を込めたパンチを放ったけど、あっさりと受け止められた。
「なっ…」
掴んだまま凄い力で腕をねじられ、蹴りをまともに受けてしまった。
全く歯が立たない…クーヤやモエはこんなやつらと戦っていたのか…。
でも、姉として、ここでひくわけにはいかない!
「おりゃぁ!」
蹴りを放つも空振り、それにカウンターをあわせるように強烈なパンチをくらって、
アタシは意識を失った…。
「タダノ…ニンゲン…モ…ココマデ…チカラ…ヲ…モツ…ト…イウノカ…」
くそっ…アタシの力じゃここまでだっていうの…。


「ねぇねぇ!この野郎〜!」
俺が到着した頃、すでにねぇねぇはダウンしていた。
生きてはいるようだけど、やはりこのままでは心配だ。
あの盾を持った昨日の強力なクロウ、こいつが相手だったのか。
「これでもくらえ!」
『ガトリングスマッシャー』を発射したがあっさりかわされ、背後からの一撃を食らってしまった。
すると、急に全身が重くなっていく。
ともねえが纏身していないこととは理由が違うようだ。
「な、なんなんだよこれ!?」
「背中のバッテリーパックが破壊されたわ!
 そのままでは危険よ!空也、離脱しなさい!」
「いやだ!ねぇねぇを置いて逃げれるものか!」
追い討ちをくらっているその時、クロウが不意の一撃を受けてふっとんだ。
「透子さん!」
「ヒーローは後から出てくるものよ、OK?
 さあて、今度は私が相手よ。」
「イド…カ…オモシ…ロイ…オマエ…ノ…ユビワ…サキニ…イタダコウ…」
しかし、相手が強い。
あの透子さんですら歯が立たない。
これじゃあみんなやられてしまう…
「クーヤ、これをつけて…」
ねぇねぇが気がついたのか起き上がり、背中のバッテリーパックを取り外して手に持っていた。
「ねぇねぇ!」
「情けないねぇ、アタシ…せっかくクーヤのサポートに来たってのに…
 後は…任せたよ…」
「うん、わかった!」
俺はその場で交換をしてもらうと、クロウに向かって突進していった。


感覚でわかる。昨日戦ったあいつだ。
廃工場に到着し中に入っていくと、空也はうつぶせに倒れ、透子さんはクロウに首を掴まれていた。
「あ…トモ…ちゃん…。」
「ううぅ…とも…ねえ…。」
「ジガ…カ…スコシ…マッテ…イロ…コイツヲ…コロシテ…カラ…アイテ…ヲ…シテ…ヤロウ…」
「そんなことは…させない!絶対に!」
絶対に殺させたりなんてしない!
みんなを守るって決めたんだ!
私は全身の力を指輪に集中するように意識した。
奥底から力が湧きあがってくる…そんな気がした。
「超纏身!」
ジガの新たな姿。
形は変わってないけど、全身に金色の模様が浮かび上がっている。
力も今までと違う!
すごい…これが新しい纏身!
「ムウ…コレハ…」
「いくぞ!たぁぁぁぁぁぁぁ!」
拳がぶつかり、蹴りが交錯し、互いの力が奮い立つ。
前のように一方的な戦いにならないし、力に振り回されることもない。
「てやぁ!」
強力なパンチがまともにクロウの顔面をとらえ、大きく吹っ飛んだ。
パワーアップしたこの状態なら倒せるはずだ!
「はぁぁぁ…」
右腕に全身の力を集中させる。
いつもとは違う、強烈すぎるパワー。
「パープル・ストライク!」
放たれた拳からは炎が巻き起こり、盾のガードを見事に貫いた。
「グハァ!!!」
クロウの左胸に拳が突き刺さり、そのまま大爆発を起こした。
「やった…勝った…」


「トモちゃんに貸しを作っちゃったわね。」
「あぅ、そんなこと、別にいいですよ…。」
「もしかしたら、私にもあんな力が眠っているのかもしれないわね。」
「確かに…そうかもしれません。」
「じゃ、空也君によろしくね。バイ。」
透子さんはいつもの調子で、ちょっとほっとした。
空也はというと、瀬芦里姉さんの様子を心配していたけど、気がついてからはいつもと変わらない。
「ほっとしたらお腹すいたにゃー。帰ったらなんか作ってー。」
「はいはい。」
なんとか無事でよかった。
みんなも私の帰りを祝ってくれたし、やっぱり私はみんなから必要とされている。
心からそう感じた夜だった。

…帰宅後…
柊家の全員が寝静まってから、ただ一つの部屋だけに電気がついていた。
今日のデータのまとめをしてある六女・海の部屋である。
「『C3-MILD』はクロウに歯が立たなかったね〜。しぼむ〜。
 もうこれはやめといたほうがよさそう〜…
 これから敵も強力になってくるけど、かといって瀬芦里お姉ちゃんも危険と感じたアレだけは…
 アレはすっごく危険だから、封印してそのうち廃棄しないとね〜。
 雛乃お姉ちゃんに『PROJECT【C4】』は危険だからボツにしたって言っとこ〜。」


(作者・シンイチ氏[2004/11/24])


※2つ前 姉しよSS「行け空也!C3、起動!
※1つ前 姉しよSS「蒼き閃光C3-X
※関連 姉しよSS「PROJECT【C4】(前)<


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