そして、それからどれ位経っただろうか。
さくらの視界内に時計はなかった。
一時間以上経っているような気もするが、まだ三十分程度しか過ぎていないのかもしれない。
ただ一つ、確かなのは…大量に飲んだ水が、全て別の液体に変質してしまったという事実だけだ。
「はぁ…もう、やめ……ひぅっ!」
尿意は耐えがたい程に高まっている。
気を抜けば、その瞬間に溢れだしてしまうだろう。
「これはもう、時間の問題ですね。我慢しきれるものでしょうか…」
雛子はそこで手を休め、椅子から立ちあがった。
突然押し寄せてきた解放感に、さくらは大きく息をつく。
「はぁ……はっ…」
「残念ながら、そう長くは休ませてあげられませんよ」
その声の聞こえ方から、彼女が屈みこんでいることが分かった。
しかしその意味を理解する間もなく、さくらは両足を強く引っ張られた。
「あっ!?」
動揺している内に、足首に何かが巻き付く。
「な…何をっ!?」
見下ろすと、自分の両足首がまとめて椅子の後ろ足に結びつけられているのが分かった。
「せっかくの瞬間が隠れていたら興醒めですからね。どうです?足、閉じられますか?」
そう言われてやっと気づいた。
さくらの足は大きく開脚させられ、膝は椅子の角よりも外側だ。
力を入れてみたが、閉じることはできそうにない。
「私としては、縛るのは趣味ではないのですが…背に腹は代えられませんものね」
そう言って、今度はさくらの手首を掴む。
「嫌っ…」
雛子の力は強く、さくらの本調子でも勝てるかどうか微妙に思われた。
為す術もなく、両手を椅子の背もたれに縛られてしまう。
「あら、まぁ…前言撤回しましょう。縛るのも中々よいものですね」
雛子は立ち上がり、さくらの周囲をぐるぐるとまわり始めた。
無遠慮な視線が彼女の体を熱くさせる。
「本当にいい眺めですね。こうなったら、やはり…」
雛子はポケットから携帯電話を取り出し、ボタンを押して耳にあてる。
「もしもし。えぇ。それで…え、既に用意をしてあるのですか?
中々優秀ですね…では、三十秒以内に来て下さい」
一方的に通話を切り、雛子は腕を組んで待つ。
「すいませんね、さくらさん。すぐに準備できますので」
「準備って、何を―」
言い終わる前にドアが開き、先ほどの二人が紙袋を携えて入ってきた。
「二人とも、迅速にお願いします」
二人は袋からいくつもの三脚を取り出し、手際よく組み立て始める。
(まさか、これって…)
さくらの予想は違わず、全ての三脚の上に一つずつ、ビデオカメラが設置された。
「起動させましたね?では、また向こうで待機していて下さい」
二人はやはり無言のまま、部屋を出ていく。


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