ふと気付くと、由香は黙ってしまった弘毅を上目使いで窺っていた。
「…どうしたら、帰っていいの?」
そう言って小首をかしげると、頭の動きに合わせてポニーテイルが揺れる。
「どうしたら、ってお前なぁ…」
(ん?「どうしたら」?)
ふと、弘毅の頭にアイデアが浮かんだ。
「なぁ。それじゃ、罰ゲームってのはどうだ?」
「罰ゲーム?」
「ゲームってのは違うか…とにかく罰だよ、罰」
自分から、どうすればいい?と聞いてきたのだ。ならば、こちらから条件を提示するのは全然構わない筈だ。
そんな都合の良い思考を経て、弘毅は続けた。
「今からお前には罰を受けてもらう。それで今回の万引きは帳消しにしてやるよ」
「本当に…?じゃ、それでいい」
由香は罰の内容も聞かず、あっさりと承諾しした。
「よし。じゃああっち向いて、足伸ばして座ってくれ」
由香は素直に従い、弘毅に背を向けて座る。よっぽど警察や親に言われるのが恐いらしい。
「あ、そうだ。時間とかは大丈夫か?」
「友達んち行こうと思ってたけど、別に約束してない…」
「そっか」
叔父も、夜まで戻らないようなことを言っていた。これで心配事は無い。
弘毅は由香に近づき、背後に座った。
由香の後頭部に顔を近づけると、シャンプーの香りがする。
「いくぞ…」
弘毅は緊張しつつ手を伸ばすと、人さし指で由香の背中をつつ〜っとなぞった。
「ひゃっ!」
由香は悲鳴をあげてのけぞり、振り向いてからザッと飛び退いた。
「何!?」
「何って、罰だよ。くすぐるだけだから安心しろって」
「ふぅん…くすぐるだけ?」
弘毅が手招きすると、由香はすぐに元の位置にもどってきた。
単に予想外で驚いただけで、くすぐられること自体に嫌悪感がある訳ではないようだ。
弘毅は安堵して、再び由香の体に触れた。


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