(これは、まさか…) 一つの可能性に気付いた弘毅は、わざとそっぽを向いて横目で少女を観察した。 すると少女は目の前の駄菓子を手にとり、今度は棚に戻さない。 そして―素早く手提げ鞄の中に落とした。 「…!」 万引き。目にするのは初めてだが、こうも一瞬の犯罪なのか。 少女はレジへも来ないで、店の出口へと早足で向かう。 弘毅は少女がドアをくぐり抜けるのを待ち、それから走って追いつき、彼女の肩を掴んだ。 「…っ!」 少女は振り向くと、弘毅を見上げてビクッ!と身を震わせた。 どうやら、弘毅がレジにいた人間だと気付いているようだ。 「あんま言いたくないんけど…鞄の中の、早く返しな」 「知らないっ…」 少女は逃げ出そうとしたが、すぐに回り込まれてしまった。 「知らなくないだろ。一応うちにも防犯カメラはあるんだよ。ビデオを近くの学校に送った方がいいか?」 「…嫌」 少女は観念したようで、鞄の中から盗んだ物―某十円スティック菓子―を取り出し、弘毅に押し付ける。 「返したからいい、って訳にはいかないんだよ。分かるよな? 警察には言わないでやるから、ちょっと事情聴取させてもらうぞ」 警察という言葉が聞いたのか、少女は大人しく従った。 二人は店内に戻ると、履き物を脱いで奥の居住スペースへと上がる。 ちなみに入口には「準備中」の札をさげておいた。 (どうせ客来ないし、構わないだろ) 弘毅はそう自分をフォローしつつも、少しだけ胸が痛んだ。 「で、まぁ…まず、名前は?」 畳に座って向き合うと、弘毅はそう切り出した。 「…」 しかし、少女は無言でうつむく。 弘毅に何度も聞きなおされ「警察行くか?」と言われて、少女はやっと「…遠藤由香」と名乗った。 それからいくつか質問をして、少女―由香についての大体のことが分かった。