「なーんだ。まだ全然元気なんだね。もっとやってあげよっかなー」 夏美がそう言うと、玲奈が体をこわばらせる。 「っ…や、やれば?今度、何倍もお返しするからね」 玲奈は精一杯の虚勢を張るが、あれだけ遊ばれてしまった後では効果がない。 「班長って怒ってばっかだね〜」 「ホントにそういう顔になっちゃうよ?」 「あ。なら、次は…」 遥が何か思いついたらしく、すぐ横の美保に何かを耳打ちする。 「それ、いいっ!」 「なになに?」 「えっとねぇ…」 四人は前かがみになって頭を突き合わせ、遙のアイデアを伝達する。 (今度は何なの?) 玲奈は表情には出さないようにしているが、内心かなり焦っていた。 せめて倒される前に抵抗していれば、と今さら後悔しても遅い。 話を終えた四人の笑顔を見ると、不安がさらに膨れ上がった。 「はーんちょ。今からすっごく楽しいこと、してあげる〜」 「楽しい、こと?」 「うん。いつも怒ってるから、笑わせてあげるの」 「笑わせるって、どう―っ!?」 どうするつもり?と言いきることができなかった。 左足の美保が、玲奈の脇腹を軽くつついたからだ。 「美保ちゃん、それはまだダメだよー」 「ん、ごめーん」 玲奈はその時、自分が今から何をされるのか予想がついてしまった。 「班長、くすぐられるの苦手?」 …やっぱり。残念ながら予想が的中してしまったようだ。 「普通、だけど」 嘘だ。本当はかなり苦手である。 上半身の二人は玲奈の手首のあたりに、下半身の二人は足首のあたりに。 少女たちは玲奈の体の中心から離れるように、座る位置をずらした。 「っ……ふぅっ!」 四人は人さし指を立てると、玲奈の四肢をなぞり始めた。 いくつものくすぐったさが生まれ、総毛立つ。 しかし、何故指一本だけなのだろうか。頭は混乱しているが、それだけ気になった。 (手加減してるつもり…?) 玲奈のその考えは、すぐに間違いだと分かった。 「みんな、いくよー」 四人はそれぞれ玲奈の手足の指先に指を置き、せーの、と声をあわせた。 「いっぽんばーし〜♪」 四人の指がゆっくりと、腕と足の先端から付け根の方に登ってくる。 そう。「一本橋」でゆっくり登り、「こちょこちょ」でくすぐりながら降りる。 四人はあの「一本橋こちょこちょ」をやろうとしていたのだ。 玲奈は数秒後に訪れるであろう刺激に身を固くした。 「んっ…」 指が腋と太股に到達し、小さく声が洩れる。 「こーちょこちょ〜」 「っ……ぅ…くふっ!」 四人の指が手足を駆け降り、玲奈は吹き出しそうになるのをギリギリのところでこらえた。 しかし。 「にーほんばーし〜」 余韻が消えないうちに、二回目が始まる。 「あっ…え、早っ!や…ストップ!」 玲奈は身を縮めようとするが、やはり動けない。 「こーちょこちょっ」 「んぅっ!…や、やめてってばぁ!」 おかしい。友達にくすぐられたことは何度かあったが、今まではこの程度なら我慢できた。 それなのに、今は。 「さんほんばーしー」 その時、何本かの筆が玲奈の視界に入った。 (あ!さっきのあれのせいだ!) 「こーちょこちょ〜」 またもや息をつまらせながら、玲奈は原因に気づいた。 どうやら先ほどの筆での『お掃除』のせいで、肌がいつもより過敏になってしまっているようだ。 「よんほんばーしー」 「く…っ!」 ――――― ―――――――― ――――――――――――― それから6回の一本橋を受け、次は10回目。 「みんな、次で最後だよー。じゅっぽんばーしぃ〜……」 四人の指は今までよりじっくりと、焦らすように這い上がってくる。 (くる…!) 「こちょこちょこちょこちょ〜!」 「やぁっ……あはははっ!」 指は仕上げとばかりに手足を何度も登り降りし、玲奈はついに声をあげて笑ってしまった。