題名  ホワイトデー大作戦  
 
やっぱり投下SSは読みやすくなくっちゃいかん。最近の流行してる『山場の描写→俺の説明回想→時間軸を今に戻そう』のコンボは原作だから面白いわけであって、んなもん投下されても読みにくいだけである。  
その上、そのせいで俺に妄想癖があると思われるのはまったく迷惑な話である。  
てことで説明から入る、今日は3月11日の日曜日だ。  
 
 
朝、いつもの休日と同じく妹の襲来によって目を覚ました俺は、シャミセンを餌に妹を追っ払うことに成功した。普段なら朝飯のテーブル前まで強制連行されるのだが、昨日の昼から今日の夜にかけて親が親戚の所に出かけているため、朝飯が無いのが理由だろう。  
2度寝という至上の快楽を久方ぶりに貪ろうと枕を抱えなおしたところで、何でだろうねまったく、こうもいいタイミングで携帯が鳴るとは。  
どうせまたハルヒだろう、と思って相手を見ると意外なことにそれは古泉からの電話だった。  
「どうもおはようございます、突然ですがお暇でしたら今日の昼にでも付き合っていただけませんか?少々相談したいことがありまして」  
全力でお断りだ。何が悲しくて休日に男とデートせにゃならんのだ。それに昨日確かハルヒから聞かなかったか?俺はこの土日、両親が出かけるから妹の面倒を見るため家に居なきゃいかんことを。  
「ええ存じ上げております。涼宮さんもあなたが居ないとつまらないらしく、昨日の不思議探索も昼過ぎには切り上げてしまいましたから。今日に至っては自由行動です」  
だったらなんで電話してきたんだ?ちなみに俺は今安眠を妨害されて不機嫌まっさかりだぞ。  
「それはそれは失礼しました、もう10時になるのでさすがに起きてらっしゃると思ったのですが。妹さんのことも分かってはいますが、今日を置いていい機会があるとは限りませんから」  
「まあいい、で、用件はなんだ?妹のお守りを置いてまで休日にお前とデートせにゃならん理由があるのか?」  
「僕のほうでも色々考えてはいるのですが、ここはやはり二人で協力した方がいいと思いまして。特に涼宮さんはあなたの出方に期待しているはずです。僕も個人的に興味があるところです。予め教えていただければ機関の方でも最大限サポートする手はずも整っていますので」  
いったい何の話だ?相変わらずお前の話はさっぱりわからんぞ?  
「とぼけてらっしゃるのですか?それとも本当に忘れているのですか?前回はもらう立場だったので忘れていても問題は無い、というより忘れていた方が良かったと思いますが、今回はさすがにまずいと思いますよ?」  
だから何の話だ、はっきり言ってくれ、3行以内で頼む。  
「では単刀直入に申しましょう。ホワイトデーはどうしますか?」  
………俺がそれを完全に忘れていたことと、無理やり思い出さされてマリアナ海溝のどん底並みの気分に叩き落されたのはまさにneedless to sayってやつだ。  
 
「どうもこんにちは突然お呼び立てしてすみませんでした」  
ああ、まったくだ。しかも海のそこに叩き落すおまけ付でな。もしかして機関とやらは人をコンクリで固めて海の底に沈めるのが得意なのか?  
まったくすまなそうにしていない古泉のさわやかスマイルをじと目でにらみつつ俺は適当に返した。  
古泉の話によると今日はSOS団全員がフリーということらしいので、俺と古泉は今やSOS団のアジトパート2と化している喫茶店に入った。軽く昼食を取りながらの相談というわけだ。  
相手がSOS団専属メイド、麗しの朝比奈さんなら心躍りつつ回りからのチクチクささる視線を堪能するところだが、相手が古泉では俺の心も冬の寒空に放り出された動物園のワニのごとく、踊りだすどころか微動だにしないというものだ。  
「さてどうしましょうか?バレンタインであれだけ大掛かりなことを涼宮さんにしてもらった以上、ただチョコを渡すというわけにはいきません。  
先ほども申し上げた通り僕のほうでも作戦は練ってありますが、僕の場合ですとどうしてもミステリー的な展開になってしまいまして、孤島の時から3度目となると涼宮さんもそろそろ飽きが来るころでしょう。  
それに涼宮さんはあなたからのサプライズを何よりも期待しています。ここはどうでしょう、あなたが何か涼宮さんを喜ばせるような作戦を立てていただいて、僕と機関がサポートするという形で出来ないでしょうか?」  
「わかったわかった、そこまで言われんでもなんか奇人変人的な渡し方をせにゃならんということぐらい俺にだってわかってる。しかしだな、いったいどうすりゃハルヒが満足するかなんて俺に分かるわけ無いだろ?  
バレンタインはチョコをもらえるかもらえないかで悶々とするからこそもらえた時の感動も一塩なわけで、最初からもらえると分かっている奴を驚かせるなんて至難の業だ」  
「でしたら僭越ながら僕にいいアイディアがありますよ」  
古泉はいつになく下世話なニヤケ顔を浮かべると、こんなことを言い出しやがった  
「あなたが朝一番にこう言って渡せばいいんですよ『これが俺の本命だ、だから誰よりも早くお前に、二人っきりで渡したかった』とね。  
そうすればその日一日どころかしばらくは涼宮さんの精神が安定すること間違いなし。チョコの面白い渡し方を考える必要も無く、僕がアルバイトに呼び出されることも無くなるでしょう。  
まさに一石二鳥、いいアイディアだと思いませんか?」  
「却下だ」  
そんなことをしたら後々どんなひどい目にあうかは火を見るより明らかだ。大体なんで俺がそこまでせにゃならんのだ。たかがホワイトデーのために人生を棒に振る気は毛頭どころかカーボンナノチューブの先っぽほどもない。  
「そうおっしゃると思っていましたよ。」  
分かってるなら言うな。  
「ではこの作戦を実行する必要が無くなる様にいい方法を考えておいてくださいね。最悪の場合僕の考えた方法で仕方ないですが、後々がもっと大変になると思いますので」  
そう言って古泉は伝票を手に取った。いつもおごって頂いてますから、それに呼び出したのは僕の方ですしと言いながら2人分の料金をレジのお姉さんに渡している。  
古泉にしては殊勝な心がけである。が、今の俺にはそんな古泉を感心してやる心の余裕などは無いわけであり。  
まったくハルヒめ、ホワイトデーにここまで苦しめられるチョコを渡すとは、あれはもしや不幸の手紙ならぬ不幸のチョコか?などと下らん現実逃避を開始した。もらった時はうれしかったけどな。  
 
そうそういいアイディアなど思いつくはずも無く、ただだらだらと月曜の朝が来る。いつも通り殺人的な坂をいつになくどんよりした気分で登り、やっとのことで教室にたどり着くとハルヒが頬杖をつきながら外を見ている姿が目に入った。  
珍しくツインテールだな、そういえば最近こいつはまた髪を伸ばしている。いつぞやの中途半端なポニーテールとは違い、ちゃんと頭の両側できれいにまとまっているツインテールである。そういえば先週の金曜もみょうちくりんな髪型だったなこいつ。  
そうまるで宇宙人対策してた時のような………。  
そこで俺はハッとなった。思い出して数えてみると金曜のハルヒの髪の結びは5つ、今は2つ、おそらく土曜は4で日曜は3だろう。そして明日は1つ、明後日は………ホワイトデーだ。  
こいつ、カウントダウンしてやがる!俺は絶望の鍋のどん底から底が抜けてさらに落とされていく気分になった。いったいどうすりゃいいと言うのだ。ここまで意識しまくってる奴を驚かせるなんて俺が東大に現役合格する以上に不可能だ。  
ドラゴン桜が満開になって天空に昇っても無理だ。出来るとしたらそれは反則的な方法しかない。ん?反則?そういえば別に反則しちゃいけないってことは無いな。そうか、ここまで意識してるってことは逆に………  
俺は諸葛亮孔明ばりのアイディアを早速古泉に連絡した。  
 
そんなわけで(どんなわけだ?)3月13日、ホワイトデー前日だ。今日の下準備が明日の命運を分ける山場であることは間違いない。では作戦開始と行こう。  
 
朝教室に入ると、予想通りポニーテールのハルヒが昨日と同じ体勢で外を眺めていた。俺はハルヒのポニーテールを軽く引っ張り、ハルヒの首をかっくんしつつ声を掛けた。普通だったらこんなこと絶対やらないがな。後で何されるか分からん。  
「よ、ハルヒ、元気か?」  
ホワイトデーが待ち遠しすぎてなのかは知らんが、ここ数日不機嫌オーラ大量生産中のハルヒは、生産した黒い霧をここぞとばかりに撒き散らし、椅子をガタリと鳴らせ立ち上がり真っ直ぐ俺を睨んできた。  
「いきなり何すんのよ!SOS団の団長たるこの私の髪をいきなり引っ張るって言うのはどういうこと?理由いかんによっては死刑よ、死刑!いやそんなの生易しいわ、貼り付け獄門の刑よ!!何ニヤニヤしてるのよ。私は本気で言ってるんだから……」  
普段ならハルヒに怒鳴られたらやれやれといった感じで目を逸らすはずの俺が、満面の笑みをハルヒに向けていることに驚いたのだろう。語尾が小さいぞハルヒよ。  
「ああ、すまんすまん、まあそう怒るな。それよりこれを見ろ」  
そう言ってポケットから取り出した紙切れをハルヒに手渡した。  
「何よこれ、宝くじじゃない。1等でも当たったの?」  
お前じゃ有るまいし、1等なんか当たるかボケ。てか、これも当たった訳じゃないんだけどな。  
「いや1等はさすがに無いが、7等で10万のギフトカードだ。ふふふ、いいだろ?これも普段の行いだな。うらやましいか、んん?昼飯ぐらいならおごってやるぞハルヒ」  
するとハルヒはさっきまでの不機嫌オーラはどこ吹く風に乗せてぶっ飛ばし、爛々と輝く瞳でこう言った。  
「そうだわ、これ使ってSOS団でパーティー開きましょう」  
昼飯はおごってやるとは言ったが全部やるとは言ってないぞ?お前人の話聞いてんのか?てか、いつも通り都合のいいことしか聞こえてないんだろうな、まったく。  
「そうね、「春休み不思議発見祈願大感謝祭」ってのはどう?10万円もあればどこかの高級レストランでおいしいものがいっぱい食べれるに違いないわ」  
前言撤回、10万ってとこはしっかり聞こえていたらしい。にしても何に感謝するんだか………。いや突っ込みどころはそこじゃないな、こいつの中では宝くじはすでに自分のものらしい。どこのジャイアンだ、お前は。  
でも、まあ想定内だ。負け惜しみじゃないぞ?どっかの誰かと違って。  
「善は急げよ!今日の放課後SOS団みんなで出かけましょう。楽しみねー」  
ちょっと待て、それは俺のだ、お前は強盗か?  
ギフトカード奪還のために必死に食い下がる俺に、『SOS団は一心同体』だの、『普段お世話になっている団長にささげるのは当然』だの、ハルヒがやたら理不尽な理由を並べまくっている間に担任の岡田が入ってきた。  
まったく、これが本当に自分で当てたのだったら泣いてるぞ俺。もし宝くじが当たっても絶対ハルヒに言うのはやめよう。  
 
そして放課後。ハルヒは俺のネクタイ引っつかんで文芸部室に直行すると、長門が先に居た。お前授業はどうした?ハルヒと俺は6限終わって即来たぞ。  
「出ている。授業終了後にここに来た。特に問題は無い」  
まあ、長門なら今さらこの程度の不思議はへっちゃらさ。我ながら成長したもんだ。  
「後は古泉くんとみくるちゃんね、早く来ないかしら」  
程なく古泉が現れ、15分ほどしてから朝比奈さんがいらっしゃった。  
「おくれてごめんなさぁい、来年の授業の選択についての説明があtt」  
「遅いわよ、みくるちゃん!」  
そういえば3年生は文系と理系に分かれるからどれを取るか決めないといけないんだっけな。などど考えていると横からハルヒが叫んだ。  
「ふぇっ、あ、あの、ごめんなs」  
 急に叫ばれてビクビクッと文芸部の扉に隠れる朝比奈さん。扉からちらちらと顔をのぞかせる姿は小動物のようで、思わずギューとしたくなるね。  
「私はこの十分を十分千秋の思いで待ったのよ!でもいいわ、今の私の心は太平洋より寛大だから許してあげる。それより本題に入りましょう」  
「あ、ありがとうございますぅ」  
心が広いならいきなり怒鳴りつけるな。てゆうか朝比奈さん、そんなに有り難がらなくてもいいですよ、あなたに否は1フェムトたりともありませんから。  
そしてハルヒは、えーと春のなんとか祭り、めんどくさいから感謝祭でいいや、感謝祭の開催を高らかに発表したのだった。  
 
さて一言で感謝祭って言っても何をするかまったく決まってないので、何をするについて現在話し合いだ。しかしあいにく俺には先約が有る。古泉もな。  
「なるほど分かりました、ただ実を申しますと夕方に先約がありまして、そうですね、8時ぐらいには終わると思いますので、感謝祭でしたらその後にしていただけないでしょうか?」  
「古泉くん先約って誰と?どんなこと?SOS団春休み不思議発見祈願大感謝祭よりも大切なことなの?」  
俺に問い詰める時は『SOS団の活動より大切なものあるわけ無いじゃない』みたいな勢のくせに古泉の時は普通に不思議そうにしてやがる。ハルヒめ。  
「古泉は俺と一緒にちょいと野暮用があるんだよ」  
答えにくそうにしている古泉に代わって俺が答えてやる。  
「キョン君と古泉君でお出かけですか?何かお買い物にでも行くんですか?」  
「二人してなによ、せっかくの感謝祭なのにいったいどんな用事があr………うん、まあいいわ、んじゃあ9時くらいから始めましょう。それなら平気よね古泉くん?」  
「はい大丈夫です、どうもありがとうございます。」  
俺には聞かないんだな。にしてもまあハルヒも気づいたか、俺たち二人がそろって用事の理由なんてあれしかないからな。まあホントはすでに買ってあるが。  
朝比奈さんはまったく気づいてないみたいだ。ほら、あごに人差し指を添えながら斜め上を向いてらっしゃる。空中に?マークが浮かんで見えるね。  
「じゃあパーティーはどうしましょうか?どこかおいしい所にみんなで食べに行こうと思ってたんだけど、9時からじゃあディナーって訳にもいかないわね」  
「それでしたら六本木ヒルズのホテルに泊まってみるのはいかがでしょう?」  
「え、え、古泉くんそれどういうこと?」  
あわてて赤くなりながらハルヒが聞いている。いったい何を想像したんだ?ちょっとかわいかったのはまた別の話だ。  
「ホテルの1室を借りて皆で遊ぶのですよ。言ってみれば友達の家に泊まりに行くようなものです。夜景を見ながらのんびり春休みの計画を練るというのも乙なものでは無いでしょうか?  
高いところからなら不思議も見つかるかも知れないですし、普段お世話になっている涼宮さんに感謝の意を込めて優雅に過ごしていただくという意味でも、SOS団春休み不思議発見祈願大感謝祭に相応しいのではないでしょうか?」  
なるほど、ホテルに泊り込むとは言っていたが、なかなかどうして役者だな古泉。ハルヒの適当につけたパーティー名にうまい具合に結び付けやがった。  
「すばらしいアイディアだわ古泉くん!さすがはSOS団副団長ね。それで行きましょう。きっとすごく楽しいに違いないわ!!!」  
「ありがとうございます、では部屋の手配などは言い出した僕がやりますね。以前田丸さんのお手伝いで手配したことがありますので。  
部屋が取れましたら携帯の方まで追って連絡ということで。涼宮さん、それに長門さんと朝比奈さんはお菓子や飲み物の手配をお願いしてよろしいでしょうか?」  
「わかったわ古泉くん。ばっちりまかせといて!究極のお菓子をチョイスしてあげるわ、キョン覚悟はいい?」  
「いったい何の覚悟だよ。ところで古泉、予算の方は大丈夫なのか?俺の哀れな宝くじは10万円に化けるので精一杯だぞ」  
「大丈夫ですよ、スイート以外でしたら予算内です。それよりもマナー、特に服装が問題かもしれません。なにぶん大人社会に混じるわけですからね。  
僕たち男性は無難にスーツで大丈夫ですが、女性の方が何を着るべきなのかは分かりかねます。森さんにでもアドバイスを頂けるといいのですが」  
「えーっと、メイドさんの服とかじゃ駄目ですよね?どんな服がいいのかなぁ」  
朝比奈さんならどんな服でも問題無しですよ。俺が保障します。  
「じゃあせっかくだし今から3人で買いに行きましょう!古泉くん森さんの携帯教えて!  
大人の服選びの極意を聞き出して、ばっちり決めていくわ。でもそうなるとあんまり時間無いわね。なんてったって3人分選ばなくっちゃいけないし。じゃあ今日はここで一旦解散。また9時にえーっと」  
「地下鉄六本木駅の改札でどうでしょう?」  
「うん、じゃあ六本木に集合。よし、有希、みくるちゃん急いで買いに行くわよ!」  
 
「正直ここまでうまく行くとは思いませんでしたね。いやはやあなたの読みは完璧です。涼宮さんの行動をここまで的確に予想しコントロール出来るのは世界中探してもあなただけですよ」  
古泉が褒めてんだか貶してんだか分からんことをほざいている。  
「褒めているのですよ。いやはや機関の一員として喉から手が出るほどの才能です。いっそ機関に体験入会でもされてみてはいかがですか?」  
「遠慮しとく」  
俺と古泉はヒルズのホテルの一室で作戦の最終調整中だ。当初の予定では森さんから衣装を借りてくる予定だったがハルヒが買いに行くと言い出したので、別に止めることもあるまい、その通りにさせた。  
パーティー開始が早すぎると不味いが、遅くなる分には問題ないしな。実際ハルヒの服選びのセンスはなかなかのもので、それはSOS団の日々の活動で証明済みだ。  
もっとも朝比奈さんなら何を着てもベストドレッサー賞を取ってしまうほど似合ってしまうからだという説も有力だが。  
女性陣が衣装を借りるのではなく買いに行くことになった代わりといっちゃ何だが、買出しは男性陣の担当となり俺と古泉はしこたまスナック菓子とジュース類を買い込んだ。  
ハルヒの関心はすっかり服選びに向かったらしく、電話でそのこと伝えると『んじゃよろしくー』と言ってさっさと切ってしまった。  
「ここまで来ればもう大丈夫ですね、きっと上手くいきますよ。あとは僕たちも存分に楽しみましょう。せっかくのパーティーですからね」  
「一つ聞きたいんだがこの部屋はホントに10万以内なのか?」  
 なんとなく気になったので聞いてみる。部屋は広かったし、23階ということで景色もかなり遠くまで見渡せる。これで10万なら意外に安いものだ。  
「いえ。この部屋はグランドスイートですので20万ほどです。でもまあ夏のセッティングに比べれば安いものですよ。クルーザーや館の建設などで数億ほど掛かりましたから」  
「ああ、そうだな」  
ハルヒを退屈させないためだけに見たことも無いような大金が動くわけか。まさに無駄遣いだな。  
「ところで涼宮さんたちが来るまで暇つぶしにどうですか?」  
古泉はそういってマグネット式のチェスを取り出した。  
そんなやり取りをしている間に時間は9時40分、ようやくハルヒ達のお出ましだ。  
 
「さあ思いっきり遊ぶわよ!」  
まるで部室に入るかのように部屋にずかずか入ってきて、第一声がこれだ。大分待たされたわけだが、遅れてごめんなさいの一言もいえんのか?  
「遅刻!罰金!」  
と言おうとしてドアの方に目をやったが、俺の口からは何も出て行かなかった。なんというかあれだ、そうそう言葉をなくしたって奴だ。  
当然だろ?SOS団自慢の女性陣がそれぞれ趣向の違った煌びやかなドレスを身にまとってるんだぜ?お釈迦様でも見とれるね、これは。  
 
学校では頭の後ろの高い位置でポニーになっていたハルヒの髪は、今では少し低めの位置で一つにまとめられている。左耳の少し上にひまわりの飾り、耳には白い星のイヤリング、首にはこれまた白い十字架のネックレスをつけていた。  
肩から胸の上までの部分が大きく開いている鮮やかな赤いドレス。右脇から左腰に向かって流れる、白い川のような模様がドレスの赤をいっそう際立てる。  
腰には帯のようなものが巻かれているためスレンダーなハルヒの体型がよりいっそう強調され、いまさらながら『こいつこんな細かったんだ、いったいどこからあのバカ力が出てくるんだ』などど思った。  
腰から下は真下にすらりと伸びるカーテンのようになっていて、裾からは深紅の靴のつま先が煮え隠れしている。おそらくハイヒールなのだろう、ドレスで腰の位置を高く見せているのもあってか、まるで外人のモデルのようなプロポーションだ。  
化粧はしていないみたいだが、かえってハルヒらしい健康的な魅力が最大限生かされていた。  
 
朝比奈さんは髪を後頭部でなにやら複雑な形にまとめていて、後ろから見たら花が咲いているように見えるだろう。  
きらきら光るアイシャドウは、色白な朝比奈さんの肌とのコントラストがよく出ていて情熱的な紅の口紅とともに、なにやら大人の魅力をかもし出している。青い星のペンダント、薄い黄色のネックレス、どうやらハルヒと色違いみたいだ。  
だがドレスはうって変わって黒基調。タートルネックのように首まですっぽり隠れているが、その代わりといわんばかりにノースリーブで、左胸の下からおへその辺りにかけていくつもの流れ星が流れているというデザインだ。  
腰には金色のチェーンのベルト、朝比奈さん(大)がいつも着ているみたいなミニスカート。ひじから先は白いウォーマーを身に着けていた。赤い唇、服の黒、白い肌。普段のあのかわいい上級生の姿からは想像だにできないほど妖美な魅力満載である。  
 
さあ最後は長門だ。長門のドレスはうすい紫で、ところどころに薄いピンクの紫陽花が咲いているというデザイン。形はワンピースに近いが、ワンピースほどゆったりとしておらず長門の細い線がくっきりと浮き上がっていた。  
普段は正面から耳を隠しているもみ上げ部分は細い白の糸でぐるぐる巻きに束ねられ、あらわになった耳にはピンク色の星のイヤリング、首にもピンクの十字架のネックレスが掛かっている。  
長門の透き通るように白いほほにはうすくベニが広げられており、まるで上気して顔を赤らめているようだ。  
唇には光を反射してきらきら光る口紅が塗られていたが、塗られているのは唇の3分の1以下、ほんの申し訳程度の面積で、今にも口をつぐんでしまいそうな長門をよく表現していた。  
触れたら折れてしまいそうなほど細い腰、幻想的な薄紫のドレス、病的な白い肌と、上気したほほ、消え入りそうな唇。今すぐ長門をやさしく抱きしめたくなった俺を責められる奴なんか居ないさ。  
 
3人をたとえるなら、そうだな、ハルヒが春の高原に咲くひまわり、朝比奈さんが夜の闇に咲く薔薇、長門が立ちこめる霧の中に浮かぶコスモスって感じだ。うん、我ながらぴったりの例えだ。みんなにも見せてやりたいが、絵心の乏しい俺には無理な話だ。  
 
「何鼻の下伸ばしてんのよバカキョン」  
うるさい、余計なお世話だ。  
「うふ、キョン君のエッチ」  
 朝比奈さんのそんなお姿を見たら誰でもこうなると思いますが。  
「まあいいわ、とりあえず乾杯しましょ、みんなジュース持った?あ、待って。せっかくだからそこのグラス使いましょう。そっちのほうが雰囲気出るわ」  
 まあどう見てもワインかシャンパンを注ぐために用意されただろうグラスに、果汁100%オレンジジュースをつぐ。  
「みんないい?じゃあSOS団の未来を祝って、かんぱーーい!」  
 
それはまあ普通に楽しかった。  
孫にも衣装とはよく言ったものだね、ハルヒもいつもよりずっと大人っぽくて綺麗だったし、朝比奈さんはもしかして朝比奈さん(大)と入れ替わったのかと錯覚するほど色っぽかったし、長門は謎めいた雰囲気が紫のドレスとあいまって宇宙人オーラ5割り増しだ。  
ひとしきり遊んで俺が3人の姿を網膜にくっきり焼き付けた頃に、順番にシャワーを浴びようということになり、女性陣から一人ずつ浴びにいった。  
風呂上りで寝巻きになった3人はさっきまでと違い年相応の顔で、ほんのりほてった顔とほかほか頭から昇る湯気のアクセントによって健康的なエネルギーを体いっぱいに広げていた。  
ドレスも良かったけどやっぱりこっちの方が落ち着くのは、まだ俺がガキだからか?。  
ちなみに一番最後にシャワーを浴びることになった俺を、ハルヒをはじめ朝比奈さん、よりによって長門までが覗きに来たのはなんなんだろうね。とめろよ!古泉!!!  
 
そんなこんなで時間は過ぎ、今は、ふむ11時50分。そろそろだ、『用意は良いか?』俺は古泉に目配せする。『はい大丈夫です』よし抜かりは無いみたいだな。  
 
ボーンボーンボーン、ぴよっ、ぴよっ、ぴよっ。  
 
備えつきの振り子時計がひよこを吐き出しつつ12時の時を告げる。  
「あらもうこんなじk」  
「「ハッピーホワイトデイ!」」  
ハルヒの呟きをさえぎって、俺と古泉の声がきれいにハモった。  
 
そうこれが俺の反則的作戦だ。  
 
ふあぁぁぁーーーーーーぁ  
忌々しい坂道を登りながら俺は特大のあくびをした。そりゃそうだ、なんだかんだで2時過ぎまでしゃべってた挙句、着替え、鞄などを取りに全員ほぼ始発で家に帰ったからな。  
2,3時間しか寝る時間はなかったし、あの3人がそばに居るのにすやすや眠れるほど俺は聖人君主じゃない。おかげでほとんど徹夜だ、眠くないわけが無い。  
ホテルから出る辺りまではナチュラルハイってやつで元気だったが、家に着く頃にはぐったりモード、学校に着いたら泥のように眠るだろうことは疑う余地は無い。  
それにしてもハルヒの顔は見ものだったな。俺と古泉のホワイトデーチョコを受け取った時、ハルヒは目を見開き口は半笑い、顔は真っ赤で眉を吊り上げるという、なんだかいろいろごちゃまぜな表情をした。まったく器用なもんだ。  
「僕ら二人で皆さんを驚かせようと思って作戦を練りました。発案は彼ですけどね。僕は部屋や食べ物の手配などを担当しました」  
 古泉が作戦の裏話などをちらほら話しているうちに、複雑ハルヒは徐々に笑顔満開ハルヒに変身し俺は作戦成功を確信していった。それ以降、朝に始発で帰るまでハルヒは終始ご機嫌花盛りだった。  
だが授業が始まる頃には、眠さ核爆発なのはハルヒも同じようで、谷口の話によると俺もハルヒも昼になるまでピクリともせず仲良くお休みになっていたらしい。  
『二人して昨日は何やってたんだ?』なんていう谷口のニヤケ顔を適当にあしらいつつ昼を過ごし、5,6限もバッチリ睡眠学習した。  
 
放課後になり、とりあえず部室に向かう。まぁどうせハルヒのことだから『今日は眠いから解散』てな感じで自分勝手に決めてしまうんだろうが、俺には大事な用事がまだ残ってるんでね。  
「今日は眠いから解散。てゆうか徹夜なんてするもんじゃないわね。授業中ずっと寝てたから睡眠時間は十分なはずだけど全然寝足りないわ。キョンも試験前に徹夜とかしちゃだめよ。次の日一日無駄になるからまさに無駄よ」  
まあ試験勉強で徹夜など試みたところで、何時の間にやらベッドですやすや眠っていたという記憶は多々あるが、団長様様たってのご忠告とあれば以後気をつけなければなるまい。  
「んじゃみんなまた明日ね」  
それで解散となった。  
さあ、ここからが本当の戦いだ。俺は携帯を取り出し今別れたばかりの○○に電話をかけた。  
 
 
 
さて分起点だ  
『ハルヒ萌え』な人は>>653 
『朝比奈さん大好き』な人は>>654 
『長門かわいいよ長門』な人は>>655 
 

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