「ハルヒか?」  
「んー、何?キョン、私今すごく眠いわ」  
「ああ、すまん。俺も眠いんだが、ちょいとお前に用が有ってな。今から教室で話せないか?」  
「うーん、明日にしない?今話を聞いてもきっと忘れるちゃうわよ」  
「あー、できるだけ急ぎたいんだ(てか今日じゃないと駄目なんだけどな)だから頼む」  
「もう、仕方ないわね、じゃあ今から行くけど高くつくわよ?なにせ団長様を呼び出すんだから。すごく眠りたがってるのにもかかわらず」  
「わかったわかった。じゃあ教室で」  
 
 
ガラガラガラ  
教室の扉を開け、ハルヒが入ってくる。俺がいつもの席に座っているのを見つけると、ハルヒはスタスタと歩いてきて俺の後ろの自分の席に座り、いきなり机に突っ伏した。  
「で、話ってなんなわけ?」  
 今日の授業中に爆睡していた時と同じ体勢でだるそうに聞いてくる。  
「話というより渡したいものがあるんだ」  
そう言って俺は水玉模様の包装紙に包まれた、ペンケースほどの箱でハルヒの頭を軽くノックした。  
「なによ、まったく」  
めんどくさそうに顔を上げたハルヒに面と向かって俺は言った。  
「ホワイトデーのプレゼントだ」  
「へ?」  
顔中に?マークを貼っ付けながらポカンと口を開けているハルヒに続けて言ってやる。  
「今日が何日か忘れたのか?ホワイトデーだよホワイトデー。バレンタインチョコ貰ったからにはちゃんと返さなきゃな」  
「え、でも朝にくれたんじゃ………」  
「は?何言ってるんだ?俺がホワイトデーのプレゼントを渡すのは今日は今が最初だぞ?ついでに言うと最後だ」  
「キョンの方こそ、何言ってるの?今朝チョコくれたじゃない、SOS団パーティーで、古泉くんと一緒に、有希やみくるちゃんにも………」  
 呆けたままのハルヒに、俺はまるで古泉のごとくわざとらしく  
「あー、それは昨日だ。まあ昨日の23時55分だったからお前も勘違いしたんだな、きっと」  
我ながら意地が悪い笑いを浮かべていたことだろう。古泉を超えたね、間違いない。  
事態を飲み込み始めたハルヒは徐々に表情を変えていく。昨日と違って眠いため頭が回ってないのか、いつもならコロコロ変わるこいつの顔も今はゆっくりお着替え中だ。  
ふむ、驚いた顔からうれしそうな笑顔に、次にはっとなって顔中どころか耳まで赤くしつつ眉毛を吊り上げる。なるほど、昨日はこうして怪しげな顔を作ったわけね。昨日よりゆでダコ度は遥かに上がってるけどな。  
「お前だけにプレゼントしたのがそんなにうれしかったか?」  
「ななな、何言ってるのよバカキョン。私はSOS団の団長なのよ?特別なのは当然じゃない!べ、別にうれしくなんか無いわよ。だって当然なんだから!!!」  
「耳まで真っ赤だぞ、ゆでダコハルヒ」  
「うるさい!うるさいうるさいうるさーーーい!!団長に向かってタコとは何よタコとは!キョン、あんたなんか死刑よ、死刑!いやそんなの生易しいわ、貼り付け獄門の刑よ!  
いやいやそれでも全然なまっちょろいわ、あなたにはもっとふさわしい地獄の罰を与えてあげる。明日までにバッチリ考えてきてあげるんだから、キョン、覚悟しなさい!」  
「わかったわかった」  
「なによ、ふんっだ」  
ひとしきり叫ぶとハルヒはドスドスと教室から出て行ってしまった。もちろん俺のプレゼントはしっかり持って。まったく、人に物をもらったら『ありがとう』って言うように親にしつけられなかったのかね。  
でもまあ、あの茹で上がりっぷりを見れば言葉は要らないってやつかもな。  
 
 
次の朝、俺が教室のドアを開けると、ハルヒが頬杖をつきながらぼーっと外を眺めていた。髪はポニーテール。それを結ぶのはいつもの黄色いリボンとは違う鮮やかな赤いリボン。  
 ふふ、思った通りハルヒに赤いリボンは良く似合う。  
 自分の席に着いて振り向きつつ  
「ハルヒ」  
「なに?」  
窓の外から視線を外さないハルヒに、俺は言ってやった。  
「似合ってるぞ」  
 
 
Fin  
 

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