「あー長門か?」  
「………」  
うん、長門だ。  
「ちょっと話があるんだが今から暇か?」  
「特に急を要する指令は出ていない」  
「じゃあお前のマンションの近くの公園のいつものベンチで話せるか?」  
「話せる」  
「じゃあ俺一度家に帰るから、そうだな、30分後にベンチで大丈夫か?」  
「了解した」  
「じゃあまた後でな」  
「………待って」  
俺が電話を切ろうとした瞬間、めずらしく長門が戸惑うような声で言ってきた。  
「ん、どうした?なにか用事でもあったか?」  
「………現在の気温は5℃、今日はこれからさらに冷え込むと考えられる。あなたは昨日寝不足で体力および免疫能力が低下している。外に長時間居るのは危険。だから………」  
「だから?」  
しばらくの沈黙のあと、長門は呟いた。  
「話なら私の家ですることを強く推奨する。」  
 
 
 
ずずずずず  
相変わらず殺風景な部屋で俺は長門に出されたお茶を飲んでいる。  
コクコクコク  
長門も飲んでいるようだ。どうでもいいがその飲み方だと熱くないのか?  
「問題ない」  
そうか、まあ長門だしな。ところでカーテンとかは買わないのか?あった方が良いと思うぞ?  
「………そう」  
いつまでもコタツだけじゃさびしいだろ。  
「………」  
本棚とかは無いのか?  
「………」すっと寝室の方を指差す。  
そうか本棚はあるのか。  
…………………………………………  
いや、確かに俺は長門の無表情鑑定に関しては誰よりも自信があるし、普段部室とかで長門と2人っきりっていうのも慣れっこだ。しかしだな、この状況で落ち着いていられるわけがない。あーもう、どうやって切り出そうか。そうだ!これなら自然に、  
 
「昨日は楽しかったか?」  
「………」コクッ、5ミリほどうなずく。そうか5ミリか、長門的には相当楽しかったみたいだな。  
「そうか、それは良かった。チョコはもう空けたか?」  
「まだ未開封」  
「それならちょうど良い、チョコ返してくれないか?あれはなんと言うか、間違いなんだ。」  
「!!!」  
長門が少し驚いたように顔を上げ、うらめしそうに俺を見つめた。  
「……………そう」  
悲しそうにうつむくと、俺に聞こえるかどうかの声で呟く。  
そんな顔をされるとなんだか心が痛むんだが………。チョコもらったのがそんなにうれしかったのか?だとしたら光栄だな、長門に喜んでもらえるなら俺の苦労も報われるってもんだ。  
「代わりにこれを受け取って欲しいんだ」  
そう言いながら俺は表にこう書かれた袋をコタツの上に差し出した。  
 
『Happy White Day』  
 
うつむいていた長門は目だけを俺の差し出した袋に向け、一度さらに深くうつむいた後にゆっくり顔を上げた。事態が飲み込めていないといった不安そうに迷う瞳でこちらを見つめている。  
「長門にはいつも世話になってるからな。チョコじゃなくてもっと形に残るものをプレゼントしたかったんだ。迷惑だったか?」  
「………」  
長い沈黙。長門の表情はただでさえ分かりにくいのに、うれしいのか驚いたのか恥ずかしいのかなにやら複雑なものが入り混じっているようで、実際何を思ってるんだろうね、まったく分からなかった。  
沈黙に飽きたのか、長門は小さく、しかしハッキリとこう言った。  
「ありがとう」  
去年のクリスマス前、世界が改変された時の長門のように、小さく微笑んだように見えたのは俺の目の錯覚だったのだろうか?長門のみぞ知るって奴だな。  
 
俺がプレゼントしたスカーフを早速装備した長門は、現在台所でお片づけ中だ。長門が何をもらったら喜ぶか、全然見当がつかなかったが、有希にちなんで雪の結晶の幾何学模様が描かれたスカーフをどうやら気に入ってくれたみたいだ。  
鼻歌でも聞こえてきそうな勢いだね。  
さっきの長門の微笑み(?)をなんと無しに頭の中で遊ばせていると、ふとある疑問が浮かび上がってきた。俺は台所に向かって声をかけてみる。  
「なあ、長門」  
「なに?」  
台所から声が返ってくる。  
「あの世界、クリスマス前にお前が作り出した世界が長門の願望だったとして、だとしてだ、お前の中にあいつ、つまりもう一人の長門は、その、今でも居るのか?」  
「………」  
カチャリ  
お茶を置いた音がした後、音も無く長門は台所からリビングへと戻ってくる。うつむき今にも泣き出しそうな顔で。『めがねをかけた長門』が。  
「ずっと………、聞きたかったことがあるの」  
「な、なんだ?」  
ぶっきらぼうに答えた俺は内心ひどく動揺していた。何気なく聞いた質問からこんな展開になるとはまさに藪蛇だ。目の前に居るのはどうやら消失長門だ。俺の質問の答えはばっちり分かったが、その代わりにとんでもない事態になるとは。  
「あなたは向こうの世界ではなくこの世界を選んだ。あなたのそばに私じゃなくて涼宮さんが居る日常を。私は選んでもらえなかった。私は、どうして………、あなたを、………私じゃ………」  
最後は声にならなかった。  
「長門」  
俺は優しく語り掛ける。さっきの動揺なんてもう忘れたね。なんだ長門の聞きたかったことはそんなことか。だったら何も迷うことは無い。なにせ俺があの時思っていたことをそのまま言えばいいんだからな。  
俺はリビングの入り口に立っている長門にゆっくりと近づき、今にも消え入りそうな長門の髪を、くしゃくしゃっとなでてやった。  
「心配するな長門。俺はお前に全幅の信頼を寄せてるんだぜ?確かにあの世界の長門もそれはそれでかわいかったさ。でもな長門、俺はお前に、めがねっ子の長門じゃなくて宇宙人の長門に、あんなふうに笑えるようになって欲しいんだ。  
おまえ自身では気づいてないかもしれないが、この1年で俺もお前も変わった。そう、ちゃんと成長してるんだ。そしてあの世界を作ったお前なら、いつかきっと自然に笑えるようになると信じてる。  
だからこそ俺は迷い無くこっちに戻ってきたんだ。別にお前を選ばなかった訳じゃない。何も心配する必要なんて無いぜ長門」  
 俺に頭をなでられながらうつむいていた長門は、ゆっくりと俺の顔に涙のたまった瞳を向けてくる。  
「……………そう」  
つぶやいた長門は、今度こそ俺の見間違いじゃない、小さく、でもとても幸せそうに微笑んだ。  
 
 
Fin  
 
 

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