「!?」
アルとアリスが見詰め合っている場所より更に奥。
洞窟全体に響き渡らんばかりの轟音が発せられた。
「っ!?
 この爆発・・・セリンが起こしたのか!?」
「ま、間違い無いと思います・・・
 この凄まじい魔力・・・先ほどセリンさんが放った魔法と同じ感じがします」
二人共、魔力の丈を感じ、その事の大きさを暫く頭の中で整理している。
「これ程の魔法を使うなんて・・・
 ・・・何か・・・とんでもないモノが居た・・・のだろうな」
「そ、そういうことに・・・なりますね」
爆発の起こった先を厳しく見据え、重いニュアンスの混じったトーンで呟く。
「あいつの事だ、死ぬ、なんて事は無いだろうけど・・・
 嫌な予感がする。
 ・・・とりあえず行くぞアリス!」
「あ、は、はいっ!」
そして、先の戦闘の疲労も忘れ、二人は力の限り、爆発の発生場所へと足を駆けさせるのであった。


「うっ・・・こ、これはっ」
「けほっ、けほっ・・・お、お兄さん・・・」
正に煙幕と表現するのが正しい程、煙で視界が遮られている。
煙だけではなく、爆発音が洞窟の壁を反響し、唸る様な低い音が残っていた。
「くっ・・・
 これじゃあ、状況が・・・!?」
ふとアルが目を向けた先に、何か長い物が、今に振り下ろさんと煙幕を切り上げる様が見えた。
実際には見えてはいなかったのかも知れない。
だが、確かにそれは事実としてアルの脳裏を掠めた。
思う前に、身体は動いていた。
その振り下ろされる物は敵。
その振り下ろされる先に居るのはセリン。
そう直感したアルは、煙幕を気にもせず、盾を掲げ突入していく。
「!アルお兄さん!?」
煙幕の中に取り残されたアリスが不安そうな声でアルの名を呼ぶ。
しかし、反応し、応えている隙など無い。
・・・その凶器が振り下ろされてしまったら、取り返しなど付いた物ではない。
「そんなこと・・・させるかぁぁっ!!」

ガッ・・・ッ・・・!!

「ぐ・・・」
鉄の音だった。
アルが左手に装備している、鉄の盾。
余りの勢いに、攻撃を受けた部分が凹んでいた。
当然、ダメージは完全に殺すことは出来ず、アルは左手を痛めてしまったようだ。
但し、当然ながらセリンは無事であった。
肩で息をしつつ、身を庇う様に横たわっていた。
「だ・・・大丈夫か、セリン」
足元にセリンが居る事を確認したアルは、左手の痛みによる苦渋交じりの笑顔で呼び掛けた。
「ア・・・アル?」
土煙で汚れた顔をゆっくりと上に向けるセリン。
「ははっ、何て顔だよ。
 一寸前まで澄まして戦っていたヤツの顔とは思えないね」
「・・・」
何時もの軽口を叩くアルに、正に合わせる顔が無いのか、目線を逸らすセリン。
と、そこに甲高い、悲痛にも聞える声が響く。
「アルお兄さんっ、上!!」
「!?」
煙幕が晴れてきて、アリスの位置からも敵の攻撃が見えるようになった様子である。
先程と攻撃の軌道は同様だが、また威力も同様に凄まじい一撃が、アルを襲う。
「ぐっ!」
今度は敵の攻撃に反応し、左手首を押さえしっかりとしたガードで攻撃を止める。
「・・・良く見ると、阿呆みたいにデカいな・・・
 けど、そんな事で戸惑ってる訳にも行かないよな!
 反撃、いくぞ!」
両腕に力を込め、その凶器を弾く。
「でぁああっ!」
そしてソードメイスを取り出し、目先にある足部と思われる部分を思いの丈凪ぐ。
骨が弾け飛ぶある種心地良い音が響く。
明らかに、ガクッとシルエットが片側に崩れ落ちる。
しかし、その状況を見ても油断の一つも許されない相手である。
「き、気をつけてアル!
 そいつ、躊躇う事を知らない!」
まるで応えず、どうやら右腕であるらしい凶器を振り下ろしてくる。
「な!?
 効いてないってこと・・・
 うぉ!?」
油断していた状況でのガードは、ダメージを充分に分散させる事が出来なかった。
「ぅ・・・あぁ・・・!」
盾は在らぬ方向へひしゃげ、アルの腕に大きな痣が残る。
「くっ・・・」
相手は次々に攻撃を放ってくる。
自分にヒールを掛けている余裕など存在しない。
「はッ・・・!」
盾を放棄し、ソードメイスを両手で掲げ攻撃を凌ぐ。
果たして、煙幕は晴れ、周りを一望できる状態にはなった。
「セリン!早く、アリスの元へ下がれ!」
「・・・ごめんっ」
気力を振り絞って立ち上がり、多少よろけつつもアリスの傍にへたり込む。
「い、今ヒールを―」
「大丈夫。
 私は外傷を負った訳じゃないから・・・
 それより、アルのサポートを・・・お願い」
無念さが垣間見える表情で、託すように告げるセリン。
精神力の尽きたマジシャンはかくも脆い存在である事を痛感しての表情だ。
「・・・わ、解りました・・・」
力強く頷き、アルにヒールを掛けるアリス。
強く想いを込めた、熱心なヒールである。
「サンキュー、アリス!
 これで、もうちょっとは持たせられる!」
攻撃を防いでいたソードメイスで弾き返すと、今度は相手の武器である右腕を殴打する。
「退かないなら、チャンスに一気に叩き込む!」
出来た隙の間、身体を支えている箇所である足腰を集中的に攻撃する。
「でいっ、でやっ、うりゃっ!」
骨が、霧散していく。
それは威力云々ではなく、アルの聖職者としての能力に拠るものであった。
「デーモンベインが発動したみたいね・・・」
「え?」
「聖職者特有の退魔の力・・・それが、デーモンベインよ」
「デーモンベイン・・・あっ、教会で習いました、アコライトの特殊能力だって。
 でも、何故セリンお姉さんがそれを・・・?」
知識の広さに感心しつつも、驚きの表情で訊ねるアリス。
「・・・魔法を使う者なら知ってて当然だと思うけど・・・
 まあいいわ、兎に角、アルは今その能力が発芽したようね」
「ア、アリスはそれ、多分使えませんけど・・・
 自然に出来るようになるなんて、アルお兄さん、凄いです」
尊敬の眼差しをアルに向け換え、溜め息を付くアリス。
確かに、特殊技能を覚えるには訓練と勉学は欠かせない。
戦場でそれが形になるというのは稀な事である。
(これが、人間の底力の面白いところ・・・ね)
心の中だけで感心しつつ、段々と強くなる聖の力を見詰めるセリン。
しかしアルも人間である、連戦の為か、突然目覚めた能力に身体が付いていかないのか・・・
ソードメイスを振るう手付きが覚束無くなってきている。
防御をするにしても、反撃までの移行がペースダウンしている。
アリスがことごとくヒールを掛けるも、精神的な疲労までは取り除く事は出来ない。
難攻不落の敵に、アルの方が気負けして来ているのだ。
各所を崩されつつ、アルへの攻撃を止めない―或いは止められないのかも知れない―巨大スケルトン。
その一発をガードし切れずに、吹っ飛ばされるアル。
「うお・・・っ!!
 ぐはっ・・・」
地面に倒され、背中を強く打ち付けてしまうアル。
「っ!ヒールッ!」
すぐさま、アリスのヒールがアルを包む。
外傷は浅い様だが、その顔には覇気が薄れて来てしまっていた。
「ぼ、僕は・・・勝てるのか、あんなヤツに・・・」
苦言を吐きながら、力弱く立ち上がろうとするアル。
「・・・・・・」
厳しい一言を掛ける役の筈であるセリンも、俯きがちに顔を伏せ黙っている。
「・・・っ」
その間にも、巨大スケルトンはゆっくりと、死骸を吸収し再生しながら向かってくる。
左足はその機能を取り戻しているようだ。
「なっ・・・一度隙を見せればこんな風に・・・再生していくのか・・・!」
巨大スケルトンの不屈の能力を目の当たりにし、更に気を滅入らせるアル。
握る拳も空しく、地に付いたままである。
「・・・そんなの・・・」
「・・・ん?」
「そんなの・・・お兄さん達じゃないです!」
アリスの、珍しく腹に力の篭った声が二人の耳を貫く。
「お二人とも・・・アリスより全然強くって、頼りになる心強い人達だって、ずっと信じてました・・・
 でも、こんな事・・・こんなことで折れる人達だなんて、アリス知らないよ!!」
頭を振りながら悲痛に叫ぶアリス。
その振れた顔からは、数滴の雫が零れていた。
・・・敵は、もう直ぐそこまで来ている。
「だから・・・アリスがやるしかないんですよね・・・
 このソードメイスは飾りみたいなものだし・・・まだまだ魔法の心得も無いけど・・・
 アリスが、お兄さん達はちゃんと出来るって事を、証明しなきゃいけないから・・・
 お二人がしたことが、間違いなんかじゃなかったんだ、って・・・
 私を肯定してくれたように、今度は私がお兄さん達を・・・」
言いながら、掌に聖なる力が宿っていく。
「アリス・・・」
「・・・」
二人とも、その重い言葉を受け止め、咀嚼していた。
「お願い・・・目の前の不浄の者を浄化してあげて・・・
 みんなのために・・・ヒールッ!!」
その間に、近寄ってくる巨大スケルトンと対峙し、構えるアリス。
聖なる力で巨大スケルトンを浄化しようと、ヒールを掛けるアリス。
「・・・・・・」
動きが、明らかに鈍っていた。
打撃では芳しいダメージを与えることは出来なかったが、やはり聖なる力は耐え難いようだ。
「もっと・・・もっと、あの子を癒してあげて・・・!
 この世の未練なんて残らないくらい、全部っ」
巨大スケルトンに向かって手をかざし、力の続く限りヒールを掛け続けるアリス。
「んっ・・・ぅぅ、まだ・・・この子だって、お兄さん達だって、みんな・・・
 みんな苦しんでる・・・っ!
 私だけ・・・何もしないなんてっ!」
アリスは本当に力が尽きるまでヒールを掛け続けるつもりらしい。
度重なるヒールにより精神力の衰えが感じられても尚、敵に温もりを与え続ける。
「あう・・・っ」
巨大スケルトンが、ようやくと言った感じで眼前にやって来た頃、アリスの腕がガクンと下がる。
「アリス・・・!」
逃げろ、という言葉がアルの口から出る前に、アリスはソードメイスを取り出し、構える。
先程アルが巨大スケルトンに向かってそうしたように、眼前にかざし。
「まだ・・・ですっ!
 ヒール出来なくたって、戦える!」
ソードメイスの照準は定まらない。
恐怖から来る震えにより、先端がしっかりと巨大スケルトンを捉える事はない。
それでも、大切な人達を守る為、目の前の魂を救う為、厳しく見据えることを辞めない。
そして、限りなく無機的に、巨大スケルトンの腕がゆっくりと振り上がる。
唇を噛み締め、拳にぎゅっと力を込めるアリス。
そして、ゆっくりと、アリスに向かって巨大スケルトンの腕が振り下ろされる・・・!
「・・・・・・・・・ッ!!」





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