がっしゃーん。
人の転ぶ音が宿のロビーに響き渡る。
「アンタ・・・この、ミナホ・コールデンを忘れるたぁ、ええ度胸やんけ・・・」
よろよろと、テーブルに手を掛けながら起き上がるミナホ。
「あ・・・ッ・・・ミ、ミナホさん、です、そうです、ミナホさんですっ!」
余りにも焦る様子を隠すことなくフォローに力を注ぐルルゥ。
「・・・何や、ボケとかやのうて、ホンマに忘れてたんやな・・・?
 フフ・・・ええやろ、一流商人の心得、しっかり身体に染み込ませたるっ!!」
手を怪しく蠢かせながら、ルルゥににじり寄るミナホ。
そこで機転を利かせようと、ルルゥが一言。
「ミ、ミナホさん、それよりも、何故ここに・・・?」
その一言で、ミナホは使命を思い出したように静止する。
「せやせや、見張っとったらおもろいモン見てな」
「おもろいモン?」
見当が付かず、キョトンとオウム返しのルルゥ。
「それはなぁ――――――」


がっしゃーん。
骨の接地する音が洞窟に響き渡る。
「歩く度にこの激しい音・・・脆い・・・?」
言う間に、岩陰からその全身が露呈する。
「――――!?」
影を見ただけでは計れなかった、相手の大きさ、醜悪さ。
「・・・・・・・・・」
人骨が無秩序に並べられ、そうありながらも人の形を保つ、言わば巨大なスケルトンである。
それが、人間の三倍もあろうかというスケールで構成されている。
その巨体を引き摺り、目に入った標的・・・人間であるセリンへとにじり寄る。
明らかな人間への遺恨を込めた霊気を放ちつつ。
「!
 破ッ!!」
巨大過ぎる敵に唖然とするも、後方に飛び跳ねつつのナパームビートで応戦する。
しかし。
「・・・・・・・・・」
全く意に介した様子も無く迫ってくる。
「・・・私のナパームビートが・・・効かない!?」
セリンの魔力は常人とは比べ物にならない程のものである筈。
全く効果が無いということもないのだろう。
しかし、ダメージなどどうでもいいと言わんばかりに、ただ人間への遺恨のみを全面に押し出してくる。
この巨大スケルトンにとっての盾であるかのような、強い強い遺恨の霊気。
その迫力は、セリンでさえもたじろぐ程、鋭く重いものであった。
「くっ・・・・・・」
歩み自体は遅く、セリンが考える隙は充分過ぎるほどある。
しかし、巨大スケルトンの屈強な意思が、相手の何をやっても無駄という思い込みを誘発させる。
結果、セリンは魔法を撃つことなく、完全に追い迫られている状態である。
「っ、私とした事が・・・迂闊だった」
一階には、人が少なかった。
二階に至っては、人影など見えもしなかった。
今このフェイヨンダンジョンが危険であることは想像に難くなかったというのに。
「・・・!?」
セリンはその危険因子である事の更なる裏付けを目撃していた。
「死骸を・・・吸収した!?」
虫、動物、ヒト・・・あらゆる生物の死を、巨大スケルトンは喰らっていた。
その体躯には、セリンらと同じ冒険者の骸も混ざっている事だろう。
恐らく、この極めて危険で且つ凶悪な、命無き怪物に倒された後に―
「その所為ね・・・ここに誰も居ないのは」
生まれて初めて、セリンは身の危険を感じた。
正確には、自分の身の危険が引き起こす仲間の危険。
何としても、アルとアリスを傷つけることはしたくなかった。
セリンが彼等を、自分の運命の一部として認めた証拠であった。
「・・・厄介なのと関わったわね、アル、アリス・・・
 私に守られるなんて・・・茨の道を通ってしまうんだから・・・!」
そして、セリンは魔力を開放する。
恐らく、魔術師ギルドが力を合わせてもこれほどの魔力には辿り着けないだろう。
そう、人間を超えた魔力が、そこに存在していた・・・


「う・・・んッ」
「!アリス・・・気が付いたか」
スケルトンらの攻撃による、浅くない傷と出血の為に気を失っていたアリスが目を覚ます。
「痛みはどうだ、動けるか?」
アリスを抱きかかえた格好のままで頻りに心配をするアル。
「あ・・・は、はい、大丈夫・・・」
気を失っている様、詰まりは寝姿と同等の、所謂醜態を看られていたアリス。
湧き上がる恥ずかしさに赤面を抑える事ができない。
「い、今、起き上がりますから・・・」
その恥を掻き消す為に、頑張ってみようと思ったアリス。
足腰に力を入れ、地面に手を付き、重力に逆らって身体を持ち上げようとする・・・
ところが。
「んっ・・・しょ・・・・・・ひゃっ!」
目を覚まして間もない事もあり、上半身を起こそうとした時、よろめいてしまう。
「おっと」
こうなる事を予想していたのか、絶妙のタイミングでアルの腕がアリスを受け止める。
「無理するな、お前の身体はまだ未熟なんだから、労わってやらなきゃ」
「・・・・・・」
未熟・・・
そう、アリスはまだ未熟なのだ。
ダグラスに未熟だと言われ続けているアルからしてさえ、未熟。
アリスは、詰まり役に立たないという事と直結するのだと思い込んでいた。
「くっ・・・ぅ」
泣きたくなってくる。
アルもセリンも、しっかり自分のするべき事をして、ピンチを切り抜け生き延びていると言うのに。
自分は、凡庸なヒールしか出来ず、結局は敵に不意打ちを受け倒れてしまう足手纏い。
・・・そのままアルに身体を預けて、いつかの様に泣きはらしてしまいたかった。
「・・・っ」
しかし、そう自分で解っているのなら尚更、強くならなければならない。
何の為にミナホと別れての冒険を選んだのか、それを忘れる訳にはいかない。
目を醒まさせる様に首を横に振るって、自分から離すように、アルの胸を軽く押す。
「アリスは、大丈夫です・・・はい」
そして、出来るだけ、明るい笑顔。
「そ、そうか・・・」
アリスの目尻に濡れた様な跡があるのを目敏く見つけたアルだったが、気にしない事にした。
というか、気にしても居られなかった。
アリスが悩み、その上での笑顔だったという事と。
「・・・・・・」
アリスの笑顔が眩しかったから、である。
つい、目線を外して頭を掻くアル。
そしてまたふと、微笑んだままアルを見詰めているアリスと目が合う。
「・・・・・・っ」
さらにアルの顔が燃え上がっていく。
悟られないように、顔を背ける。
駄目押しに、更なる隠蔽行動をしてみた。
「あ、あーあ、あの奇天烈魔導士、何処ほっつき歩いてるんだかなあ。
 まさか、見知らぬ敵にやられてるんじゃないだろうなー?」
大仰に、声を張り上げて言うアル。
彼もまた、照れ隠しの行動が解り易かった。
「あ・・・そ、そういえば、何処まで行っちゃったんでしょう・・・
 すっかり忘れてましたけれど」
「・・・アリス、それも酷いと思うぞ」
流れを忘れて思わず突っ込んでしまうアル。
しかし、そんな楽しげな雰囲気の二人の元に凶報が届くのも、もう数秒後に迫っていた・・・





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