アリスが、木材の折れる音を聴いて顔を上げた。
そこには、たった今折れた、魔力が篭った杖を投げ捨てるセリンの姿があった。
「・・・逃げて。
 精神力の尽きたアコライトに何が出来るのっ」
強い口調でアリスに告げるセリン。
「セ・・・セリンお姉さんっ」
「早くっ!」
その危機的状況は両者共理解している。
自分は無力、そう認識しているアリスは、直ぐに巨大スケルトンの攻撃範囲外に退避する。
「精神力が尽きてるのは、お前も一緒だろう、セリンよ」
ソードメイスを杖代わりに、何とか立ち上がるアル。
「だが、コイツは倒さなけりゃあならない」
四肢に力は漲っていない、正に満身創痍。
「だったら・・・誰が?
 くく・・・僕がやるしかないんだろうな、やっぱり」
多少大仰な表現でソードメイスで空を切ってみせる。
如何せん、ボロボロの状態でそうしても決まらないのだが。
「だから下がれ、二人とも」
「・・・仕方ないわね・・・手柄は譲るわ」
そう、事も無げにあっさりと、巨大スケルトンの攻撃を避けながら言うセリン。
そして、精神力が尽き、歩くにもフラフラしているアリスの肩を抱き、更に距離をとる。
「あ・・・待って、お兄さん・・・」
セリンに肩を担がれながらも、力を振り絞って聖なる力をアルに向かって分け与える。
「頑張って・・・死んだら・・・だめ、だから」
そして、少し疲れた笑顔。
それに対しアルは、サムズアップを返しながら。
「当然だ、そんなにご機嫌なヒール貰ったら、な。
 力が漲ってくるんだ・・・これなら、アレが撃てる・・・」
「お兄さん・・・!」
疲労を吹き飛ばす程の明るい笑顔が、アリスの顔から零れる。
「さ、行くわよ、邪魔に成ってはいけない」
アルをなんとか見守ることの出来る位置まで退いたセリンとアリス。
「アリス、あなた本当にヒールの修練しか積んでいないの?」
腰を下ろすと、セリンがアリスにこんな事を尋ねた。
アリスは、正直に自分の使えるスキルを伝える。
「はい、私はヒールと、ディヴァインプロテクションの基礎を習っただけですけれど・・・」
「・・・そう」
セリンはその応答に納得したのかしないのか、どちらともつかない微妙な表情で受け止めていた。


気力の回復したアルの表情は自信に満ちていた。
アリスのヒールを受け、更にアリスの決意を受けた。
負ける気はしない。
敵は、刻々と迫ってくる。
身体はボロボロ。
大丈夫、心までは折れていない。
先刻まで折れていたとしても、皆が直してくれた。
そして、巨大スケルトンの腕が大きく振り上がる。
だが。

ゴッ・・・!

アルに、それを避ける余裕は無かった。
恐らく、避けたところで反撃に転じるだけの勢いも無かった。
「お兄さ・・・んっ!!」
アリスの声は叫びにならなかった。
アルの左肩にめり込む巨大スケルトンの腕を見、ただ悲鳴をあげるしか出来ない自分が呪わしい。
今にも飛び出して行きそうなアリスを抱いた腕で制しつつ、セリンは呟く。
「信じるの・・・今は、彼を信じるの」
言いつつ、セリンの頬辺りを滴る汗は隠しようが無かった。
二人が固唾を飲み耐えている中、アルの拳がゆっくりと握られた。
「痛い・・・けど、倒れる訳には行かないって・・・」
アルはそう言い、徐に左肩にめり込む腕を左手でしっかりとロックする。
「辛いよ・・・なぁ・・・僕も、お前も!!」
そして、ソードメイスを逆手に握り、その巨大スケルトンの腕を――
「――――――ァ!!」
身体の一部を完璧に破壊されては、流石の巨大スケルトンも苦悶を見せ、仰け反る。
「さあ、帰してやるから・・・幸せに、なるんだぞ・・・っ!」
仰け反った巨大スケルトンに向かって、全力の跳躍。
そして、頭頂部から一気にソードメイスを叩き付ける。
「兄貴直伝・・・っ、バァーッシュッ!!」
その一撃の威力たるや、巨大スケルトンの頭から股間までを両断する程であった。
同時に、胸部付近に埋まっていた、人間の心臓にも見える臓物が四散する。
そして、巨大スケルトンは、糸の切れた人形のように力が抜け、粉末状となって崩れていった。
「やった・・・倒した・・・
 バッシュが、成功した・・・!」
自分の手を見詰め、吐息荒く感激に浸るアル。
敵を打破した事よりも、バッシュが決まった事に感激しているようにも見える。
「バッシュ、ね・・・
 ・・・まあ、今はそういうことにしておいた方が良さそうかしら」
アルには聞こえない様に・・・当人は歓喜で周りが見えていないようだが、兎に角こっそりと、独り言のセリン。
「お兄さんーッ!!」
セリンの制止が止み、アルに向かって飛び出していくアリス。
その勢いが強すぎたのか、巨大スケルトンの残骸にアルもろとも倒れ込んでしまう。
「ぶわっ!
 げほっ、げほっ・・・・・・
 ははっ、ははははははっ!」
「良かった・・・アルお兄さん、良かった・・・」
「・・・はぁ」
粉末状の残骸の中で抱き合う二人を見て溜め息を付くセリン。
果たして嫉妬の吐息か安堵の吐息かは、本人でも解りかねることだった。


「ここか・・・?」
「・・・あの、本当にここに皆さんいらっしゃるんですか?」
「知るか!
 さっきの剣士を信じるしかないやろ」
「は、はあ・・・
 でも、チラッとしか見てないって言っ」
「黙らんかいっ!
 あんた、商人やろ!?通りすがりの人でも信じんでどないするねんあぁ!?」
「・・・
 以前、人を信じすぎるべからず、なんて言われてたような気がするんですけど・・・
 それが、商人の真髄だって言っ」
「阿呆かっ!
 信じるべき人間とそうでない人間を見極めるんが真の商人やっ!
 そんな事も解らんでシュトルハイムの家に奉公し」
「あっ、セリンさん!!」

怨念の戦士を退治し、余韻に浸っている三人を見つけたルルゥは、ミナホそっちのけで声を上げる。
「あ、こぉらルルゥ、ここからがコールデン流商売術の・・・・・・
 ・・・・・・・・・
 あぁああっ、アリスぅぅっ!!!」
アルに抱き付くアリスが目に入ると、天地がひっくり返る様な大声を上げるミナホ。
「!!ぅぅぁ、み、耳が・・・」
その過激なまでのラウドヴォイスに、うずくまって耳を塞ぐルルゥ。
「ミナホさぁん、耳元で怒鳴らないで下さい・・・」
「せやかて・・・あんな・・・・・・」
アリスの方向を指す指が覚束無い。
動揺が、何と言われなくても手に取るように解る。
「あ・・・ミ、ミナホさんっ!」
外傷の無いアリスは、ミナホの姿を見るや元気に跳ね上がり、ミナホの元へ駆け寄る。
「ミナホさんっ、アリス達、こーんな、こーんな大きいモンスター、倒したんですよーっ!」
身振り手振りで手柄を説明、或いは自慢するアリス。
「あ・・・ぉ、おお、そか、そらよかった・・・
 ・・・・・・
 そか、別に何やヤラシイ訳や、ないんやな・・・」
ハハハ、と自嘲気味に呟き、やおら肩を落とし、項垂れる。
「?どうしたんですか、ミナホさん・・・」
流石に不審に思い、不思議な顔で訊ねるアリス。
この純粋で不思議そうな表情に、ミナホは弱かった。
「う・・・ああいや、何でもあらへんよ。
 ちと、道中疲れてしもーてな・・・」
「あんなに元気そうだったのに・・・
 本当は疲れていたんですね、ミナホさん」
こんな人でも疲れることがあるのだな、とクスリとしながらルルゥ。
「な、なんや悪いか!
 ウチかて人間や、何ぼなんでも限界っちゅうモノがやなっ!」
ミナホは、ルルゥが見透かしているような態度を取っているように見え、強く反発する。
「解りました、ハイ、赤ポーション。
 20zでお売りしますよー」
冗談か本気か解りかねる値段で交渉してくるルルゥ。
「要るかっそんなモン!
 っていうかウチかてそのくらい持っとる言うねん」
言いながら、赤ポーションをどこからともなく取り出し、それを一気に飲み干す。
「あ・・・ミナホさん、そんなに一気に飲んだら・・・」
アリスが止める間も無く一気飲みは続き、案の定、喉に詰まらせ咳き込むミナホ。
「ミナホさん、ダメですよ、妹さんの言うことは聞かなきゃあ」
言いつつ、またクスクスと軽い笑いが漏れる。
「だ、大丈夫、ですか・・・?」
心配はしているものの、やはり口元は笑ってしまっているアリス。
「ええぃ笑うなぁ!
 なんやなんや、人が折角心配なって来てみればー!
 ・・・げほっ、げほっ」


「・・・元気なものね」
仰向けに寝転がったままのアルと、その傍で何かごそごそと作業をしているセリン。
「・・・ま、元気なくらいが丁度いいよ、あいつらは」
くたびれてはいるが、晴れやかな声で呟くアル。
「いいの?手柄は貴方のものなのに、放って置かれているけど?」
「別に、手柄が欲しくてやった訳じゃないしな。
 そういうことだから、皆でやったって事にすればいいじゃないか」
欲の無さに呆れてか感心してか、セリンが溜め息を一つ。
「そうね・・・私達皆の手柄・・・
 フフ、悪くないわね」
「そうそう、いいものだろ、皆で何か共有するっていうのも」
「・・・
 そうね・・・大勢で喜びを分かち合う・・・
 久しく覚えていなかった感情ね」
作業の手を止め、何かを噛み締めるように目を閉じるセリン。
「ありがとう、アル・・・」
はっきりとそう言うと同時に、アルの方を見ると・・・
「・・・zzz」
「・・・・・・・・・」
折角、はっきりと自信を持って礼を言えたのに・・・と思うと腹立たしくなるところだが。
「・・・・・・zzz」
あどけなく眠るアルの顔を見ていると、どうでも良くなってしまった。
「全く・・・鈍いヤツ」
そう言い、アルの額を軽く、指で弾いた。





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