侵入者がいよいよ近くに迫った瞬間、ザックスは身を起こした。
「えっ」
寝ていると思ったのか、突然起き上がったザックスに侵入者は声を上げて一瞬動きを止めた。
その隙を逃さず、ザックスは腕をつかんでベッドに押し付けた。
「オレんちに泥棒に入るたあ、ふてえ野郎だ!」
ザックスは背丈も高く、普段から鍛えているため同年代の男性よりがっしりした身体をしている。それに加えて職業柄、この手の輩を取り押さえるなど朝飯前である。
どんな顔をしてるのか拝んでやると押さえながらベッドサイドにある電灯のスイッチに手を伸ばした。
明かりが点き、泥棒の姿が明らかになった途端、ザックスは目を丸くした。
「…え?なにこれ」
照らし出されたその姿にザックスは間の抜けた言葉を発した。
泥棒が泥棒と思えぬ異質な姿をしていたからだ。
ザックスの力が緩んだ隙を突いて泥棒はその腕から逃れた。
ベッドの縁に立った姿にザックスは改めて目を丸くした。
真っ赤な帽子に真っ赤なミニスカワンピ、おまけに真っ赤なブーツを履いている。
クリスマスシーズンになると見かけるサンタのコスプレそのままの格好をしていた。
ザックスがぽかんとしていると、サンタ姿の泥棒が声を上げた。
「何するんだよ!」
「何って…そっちこそ何してんだよ。人んちに勝手に入って来てよ」
「そんなの見ればわかるだろ?プレゼント渡しに来たんだよ」
最近の泥棒はこういう言い訳をするのだろうか。
服装も言ってることも理解出来ず、ザックスは顔を顰めた。
照明に照らし出された泥棒は存外かわいらしい容姿をしていた。
金髪に透き通るような白い肌。サンタのコスプレが絶妙に似合っている。
この姿で「見逃して」とかわいらしくお願いされれば、すんなり許してしまうかもしれない。
しかし泥棒はあくまで泥棒ではないと言い張る。
「いやいや…君は泥棒だろ?」
「ちがう!」
「あー…泥棒じゃなかったら何なわけ」
「格好見ればわかるだろ?」
見たところでサンタの格好でバイトをしていた子がその服のまま泥棒をしに来たくらいしか思いつかなかった。
「…全然わかんねえ」
「子供の時はサンタクロースのこと信じきってたくせに…大人になるとみんなこうだ」
泥棒はザックスに背を向けるとぷうと頬を膨らませた。
「えーと…サンタだって言いたいのか?」
「そうだよ。クリスマスの夜にこの服で部屋に入ってくるのなんてサンタだけだろ」
あまりに自信に満ちた口調に「ああ、そうだな」と、つい信じそうになってしまった。
いや待てと自分に言い聞かせると、ザックスは聞き分けのない子供に諭すように話しかけた。
「いやほら、サンタってヒゲ生やした爺さんだろ?君全然ちがうじゃん」
「当たり前だろ。サンタクロースの孫だもん」
「……」
一体この与太話はどこまで続くのだろう。
ザックスは呆れつつもいつまでこの『サンタの孫』の話が持つか、とりあえず話を合わせることにした。