二人のクリスマス  ◆第三週目





 この週、ザックスは遠征が入っていたので二人は週末まで顔を合わせる機会がなかった。クリスマスに休みを取る為、むりくり入れた仕事だった。
 仕事を終えて帰宅したクラウドは先日ケンカしたことを思い出し、ため息をついた。
 ザックスに八つ当たりしてしまった自覚があったので、少しバツが悪かった。
 というのも先週のケンカは仕事上がりに同僚に容姿のことでからかわれたのがそもそもの原因だった。
 その場だけのことと流すつもりだったが、帰宅してザックスから迫られた時にふとそのことを思い出してしまい、ザックスも自分のことをそういう風に思っているのかと無性に苛立ってしまった。
 恋人同士なのだからああいったスキンシップ自体は普通にあるもので、クラウドも別段それが嫌だとか我慢していたわけではなかった。ただからかわれたことが引っ掛かって、ついザックスにその苛立ちをぶつけてしまった。
「…言いすぎたよな…」
 謝りたくても謝れない。それが余計にクラウドの気を逸らせる。

 ―――ザックスに会いたい…

 しかしそういう時に限って上手く事が運ばなくなるもので、遠征先からの帰還に手間取り、ザックスの所属するチームのミッドガルに到着する日が一日延びてしまった。
 それを知ったのは帰宅した後のことで、やっと会えると期待していただけに落胆は大きい。
 どんなに帰りが遅くなろうとも今日は起きて待っていよう。そう思っていた矢先の報せに、クラウドはがっかりしながら切ろうと用意していたパンをテーブルに戻してリビングへ向かった。

 一緒にパンを食べる予定が一日ずれてしまった。
 クラウドはソファに寝転がりながらパンの方へちらりと視線を向ける。
 ここ最近はなかったが、ザックスが遠征に出たことはこれが初めてではない。一週間以上会わなかったのも今までに何度かあったことだ。けれどこれほど会いたいと思ったのはこれが初めてかもしれない。
 思えばあの夜ザックスが自分に迫ってきたのは遠征を控えていてしばらく会えなくなるからで…。こんな気持ちになるならあんな風に反発しなければよかったとクラウドは身勝手な行動を悔いた。
 早くにベッドに入ったもののなかなか寝付けず、クラウドは布団の中で何度も寝返りを打つ。いつもなら視線の先にいる存在がいない。目に映るのは無機質な寝室の壁。
 これほど人肌が恋しくなるなんて、どうしてしまったのだろう。
 クラウド自身戸惑いを隠せなかったが、それ以上に会えないザックスへの思いが降り積もる雪のように募る。
「…早く帰ってきてよ」
 クラウドは丸まりながら布団の中に潜り込んだ。



 * * *



 翌日、ザックスは一日遅れで遠征から帰還した。
「…ただいま」
 ザックスは玄関口で中の様子を窺うようにして帰宅の挨拶を告げた。
 すると非番で家にいたクラウドがザックスの元に駆け寄ってきた。帰ってきたザックスに唇を重ねると、クラウドはぴったりと身体を預けた。
 驚いたのはザックスだ。遠征に出る直前に怒らせてしまったので、多少機嫌が直っていればいいと思っていただけに、こんな出迎え方をされるとはいい意味で予想を裏切られた形だ。
「あの…クラウド?どうした…?」
「何か…寂しかったなって」
 ぎゅっと自分に抱きついて来るクラウドにこれは夢だろうかとザックスはぼーっと考える。
 思い返す限り、クラウドがこんな風に自分に甘えてきたことはほとんどない。もしかしたら初めてかもしれない。
 ザックスがあれこれと考えていると、クラウドがその胸元に顔を埋めたまま話しかけてきた。
「ごめん。この間ザックスに八つ当たりしちゃって…」
「ん?…ああ、別に気にしてねえよ」
 というのはウソで、正直なところかなり気にしていた。
 今まで拒否されないのをいいことに自分の気持ちばかり先行して、クラウドの気持ちを無視して行為をしていただろうかと遠征中も悩んだ。
 悩んだ挙句にちょっとしたミスをしてしまい、それが原因で帰還が遅れてしまった。
 先週は直前でお預け、そして今こんな出迎え方をされてザックスの抑制も効かなくなり始めた。さすがにもう許してくれるだろうとザックスは口を開いた。
「あ、じゃあクラウド、今日はさ…」
「ダメ。クリスマスまで禁止」
 ぴしゃりと言い放たれ、ザックスは脱力して壁に寄りかかった。
 結局生殺しか…と遠征で酷使してきた身体が一気に回復したと思いきや、反動でどっと疲れが出てきた。
 心底がっかりした顔をするザックスを見てぷっと吹きだすと、クラウドは顔をほころばせた。
「…ウソだよ」
 そう言うと背伸びをしてザックスの頬に音を立ててキスをした。そして聞こえるかどうかというほどの小声で「オレも我慢出来ない…」とぽそっとつぶやいた。
 それを聞いてじっとしていられるほどザックスの理性も堅固ではなかった。
 性急な動作でクラウドの身体を壁に押し付けると、首筋に口を寄せながら服の上から身体をまさぐった。
「あっ…ここじゃやだ…」
「…ベッドならいいのか?」
 言いながらザックスは行為を続ける。それを受け入れながらクラウドはこくんと頷いた。
「ん…でもその前にお風呂入った方が…」
「我慢出来ねえよ…それとも一緒に入る?」
「……うん、いいよ」
「え!?」
 冗談半分で口にした言葉にまさかそんな返事をされると思っていなかったザックスは大げさに声を上げた。
 ザックスの大仰な反応に恥ずかしさを我慢して告げたクラウドは、赤くなりながら頬を膨らませる。
「自分で言ったくせに何驚いてるのさ。もういいよ」
「ちが、待て!入るぞ」
「あ、ちょっと」
 せっかくのこのチャンスを逃してたまるかとザックスはクラウドの腕を引っ張り、浴室へと入っていった。

 二人が浴室から出てきたのはそれから一時間後だった。
 すっかりのぼせた二人は夕食の前に先日食べ損ねたパンを切り分けて食べた。
 残りは最後の週に食べる分のみとなった。





material:clef






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