待ちに待った12月の第一週。
今日は早番の為クラウドはすでに家に帰っている。ザックスも夕刻にはその日の仕事を終えて後は家路につくだけとなった。
ロッカールームに居合わせた同僚のソルジャーは楽しげに鼻歌を歌うザックスに声をかけた。
「随分ご機嫌だな」
「あ、やっぱわかっちゃった?」
ザックスは待ってましたと言わんばかりにロッカーを閉めながら同僚の方へ振り返る。
「わざとくせえな。これからデートか?」
呆れながらも訊ねてくる同僚にザックスは得意げに語り始めた。
「それに近いと言えば近いかな。これからクリスマスなんだ」
「クリスマスって…まだ大分日数あるだろ」
「オレのクリスマスは今週から始まるんだよ」
「はあ?なんだそりゃ」
訳がわからないといった顔をする同僚を置いて、ザックスはさっさとロッカールームを出て行った。
* * *
「ただいま」
ザックスがリビングへ来るやいなや、クラウドは読んでいた本を閉じてザックスとキッチンの方を交互に見やった。
「おかえり。もう食べ頃だと思うけど、パン食べる?」
「おう。それ楽しみに早く帰ってきたんだ」
「じゃあ切り分けるね」
一週間かけて熟成されたパンはパウダースノーを被った山のようだった。クラウドは1/4くらいの長さを切り取るとそれを更に薄切りした。
クラウドがパンの用意をしている間、ザックスはお茶の用意をすることにした。
淹れるのは先日出かけた時に見つけたクリスマス用の紅茶だ。花弁などのフレーバーがブレンドされた茶葉は普通の紅茶より少々高めだったが、ザックスはこの日の為に奮発して店で一番高いブレンドの茶葉を購入した。
「切れたよ」
薄切りにしたパンの盛り付けが終わり、クラウドはリビングにそれを持って来た。
「ちょーっと待った」
続いてザックスがトレイに温めておいたティーポットとカップを乗せて運んで来た。紅茶の缶を開けると茶葉のいい香りが室内に広がる。
茶葉をティーポットに入れ、お湯を注いで数分。蒸れたお茶をカップに淹れてクラウドに渡した。
「いい香りだね」
「へへ、ちょっと高いやつ買ったんだぜ」
お茶の用意も整ったところで二人は待ちに待ったパンを食べることにした。
口に含むとドライフルーツの甘味とシナモンの香りが口いっぱいに広がる。
「…ん。これはなかなか。美味いな」
「よかった。食べられる味になってて」
「これ酒入れてるか?」
「うん。この間母さんに作り方聞いたらお酒入れると大人の味になるって教えてもらったんだ」
少し硬めの食感を楽しみながらお茶を一口飲む。様々なフレーバーが入り混じった香りが鼻孔を抜けていく。
ザックスはパンを食べながらゆっくりとお茶を飲むクラウドに問いかけた。
「なあ。このお茶、懐かしい感じがしないか?」
「え?…うん。そう言われると…なんかこの香り…どこかで」
と、クラウドはカップから立ち上る湯気に鼻を近づけた。
「故郷の香りがするだろ」
ザックスはお茶を購入する時に店の人から聞いた茶葉にニブル方面に生えている草花がブレンドされているという話をした。
「そう…だったんだ」
「偶然なんだけどな。買うの決めた後で店の人から聞いてさ」
ザックスの話を聞きながらクラウドは目元を拭った。
「あれ…ホームシックにしちまった?」
「うるさいな!湯気が目にしみたんだよ…」
母の味と故郷の匂いが望郷の念を駆り立てる。同時にミッドガルに来たばかりの頃から今日までことが頭を駆け巡る。
クラウドが故郷を離れてもう一年が経とうとしている。都会に出てきて不安だらけの日々を過ごしたこともあったが、今はこうして穏やかな時を過ごせるようになった。
当時を思い返しながらクラウドは隣に座るザックスに頭を預ける。
「…来年はゴンガガのお茶飲もうよ」
「うんと言いたいところだけど、オレのところはこんなシャレたものないからなあ…」
クラウドの肩を抱き寄せながらザックスは残りのパンを口に放り込んだ。