二人のクリスマス  ◆準備編





 12月が近くなるとミッドガルもクリスマスムードとなり始める。
 その年のクリスマスはザックスとクラウドが付き合うようになって初めて一緒に過ごすクリスマスだった。
 秋も深まり少し肌寒くなり出した頃、ザックスは12月の話をクラウドに持ちかけた。
 雑誌を片手にどうやって過ごすか浮かれた様子で話すザックスに、クラウドはぽかんとしながら
「外に食べに行くの?」
 と不思議そうに訊ねた。
「ん?家の方がいいか?…まあ二人きりで家でゆっくり過ごすのもいいかな〜」
 初めて一緒に過ごすクリスマスということもあって、どうやって過ごすかザックスも色々考えてはいたが、外だろうが自宅だろうが一緒に過ごせるなら結局どちらでもいいらしい。
 一方クラウドはザックスの言っていることの意味をわかりあぐねているようで、首を傾げた。
「…クリスマスって家で過ごすものじゃないの?」
「こっちじゃ恋人と過ごすクリスマスってのはこういうのがメジャーなんだよ」
 ザックスは持っていた雑誌をクラウドに見せながら説明した。
 イルミネーションの美しい大通りを歩きながらクリスマス一色に染まった街を眺め、夜景の見えるレストランで夕食、その後は予約したホテルで…というのがミッドガルでの定番の過ごし方だ。
「ふーん…変なの」
 クラウドにとってミッドガルでクリスマスを迎えること自体が初めてで、都会のクリスマスというのがいまいち想像がつかなかった。
 ザックスもクラウドと同じく田舎出身なので、ミッドガルに来た時当時は色々とカルチャーショックを受けたものだった。クリスマスにしても生活習慣にしても都会と田舎とでこれほどまでちがうのかと驚きの連続だったことを思い出す。
「なあ、ニブルはどういうクリスマスだったんだ?」
「どうって…村の教会のミサに行ったり、母さんがクリスマス用に焼いてくれたパンを食べたりするくらいかな。あとはケーキといつもよりちょっと豪華な料理作ってくれたけど」
「へー。結構地味だなあ」
「クリスマスは村中静かだし、店もほとんど開いてないよ。外出する人もあんまりいないから」
 クラウドの話を聞き、ザックスは顎に手をやりながら「うーん」と唸る。そしてしばらく考えてからクラウドの方を振り返った。
「…よし。今年はクラウドの故郷に倣ってクリスマスを過ごすか」
「え?オレの?」
「クラウドの故郷のクリスマスがどんなのか雰囲気だけでも知りたいしさ」
「うん…ザックスがいいならそれでいいよ」
 遊び好きのザックスには物足りないのではないかと付け加えたが、それでもいいとザックスは快諾した。
 そういうわけで、二人はミッドガルで定番となっているものとは少々異なるクリスマスを迎えることにした。



 * * *



 秋が終わり、コートの恋しくなる肌寒い季節になった。あともうしばらくするとミッドガルの繁華街は冬の一大イベントであるクリスマスに色めき立つ時期を迎える。
 この季節になると神羅本社ビルのエントランスにも豪奢なクリスマスツリーが飾られ、来客の目を楽しませる。
 そんな世間とは少しかけ離れたクリスマスを過ごすことに決めた二人。
 ニブルヘイムのクリスマスで欠かせないのが母親の焼いてくれたパンだという。
 各家庭でレシピは異なるらしいが、ストライフ家ではドライフルーツとたっぷりのバター、そしてシナモンで煮たリンゴを練り込んで焼いたものを12月の各週末に分けて食べていたという。
「そのパンって作り方わかる?」
「…母さんと一緒に作ったことあるから多分覚えてる…と思う」
「じゃあそれ焼いてくれるか」
 料理があまり得意ではないクラウドは少し悩んだが、
「ん…わかった。やってみる」とこくりと頷いた。
 材料は小麦粉にドライフルーツ、ラム酒、バター、リンゴ、シナモン、粉砂糖。
 必要な材料は粗方覚えているが、それでも不安は残る。クラウドは久しぶりに故郷の母に連絡を取ることにした。パンを作ると言ったら驚くだろうと小さく笑った。


 11月の末、クラウドは仕事上がりに材料を一通り買ってくると、キッチンでパン作りを始めた。後から帰宅したザックスはすでにパン作りを始めているクラウドにぎょっとした。
「もう作るのか?」
 まだ12月にもなっていないうちからさすがに気が早いのではと思ったが、そうでもないらしい。
 クラウドは材料を混ぜ合わせながらザックスの疑問に答えた。
「作ってから一週間置かないといけないから、今から作らないとダメなんだ」
「へー。そんなに時間置くのか。日持ちするんだな」
「うん。1、2ヶ月くらいは持つよ」
「そんなに持つのか?」
「元々冬場の保存食として作られてたんだって。昔は冬越えも結構大変だったから」
「ふーん…やっぱオレの故郷とは全然ちがうんだなあ」
「ゴンガガはどういうクリスマスだったの?」
 ザックスの故郷ゴンガガは亜熱帯気候の地方で、ニブルヘイムの気候と全く正反対だった。温暖な気候のせいか食材が腐りやすく、保存期間を長くする目的で香辛料を使う習慣がある為、自然と辛い料理が多い。
「…なんか村の真ん中にみんなで集まって、火焚いて踊って肉焼いて食った記憶しかねえ」
「全然違うね。別の季節のイベントみたい」
「だなあ」
「来年はゴンガガ式にする?」
 クラウドは笑いながらボールの中で混ぜ合わせた生地を丸く捏ね、布巾を被せた。
「楽しいは楽しいからいいけどよー。雰囲気も何もないぜ」
 恋人たちが静かに過ごすクリスマスとはかけ離れていそうだが、大勢でやるなら楽しいかもしれないと二人は笑った。

 しばらくして、部屋にこんがりといい匂いが漂い出した。
 オーブンを開けると焼けたパンの香ばしい匂いが部屋中に広がる。
「出来たか?」
「うん…何とか」
 天板を取り出すクラウドの後ろからザックスが焼き立てのパンを覗き込む。二人はドライフルーツのほんのり甘い匂いとシナモンの香りに鼻をひくつかせる。
「なかなかいい感じじゃねえか?」
 焼き色もちょうどいいきつね色。初めて作ったにしては上出来だとザックスに褒められ、不安そうな顔をしていたクラウドもホッと胸をなで下ろした。
 冷ましたパンに粉砂糖をかけるとまるで雪が降り積もった山のようで、見た目は母親が作ってくれたパンとそっくりに出来上がった。それを見ているうちに故郷が懐かしくなり、クラウドはうっすら涙を浮かべた。
「…クラウド?」
 粉砂糖を持ったまま固まっているクラウドを不思議に思い、ザックスは後ろから声を掛けた。
 ハッと我に返ったクラウドはにじんだ涙を拭うと何でもないと笑顔で振り返った。
「これでラップ掛けて一週間置いて完成」
「お、じゃあ来週が食べ頃か」
「うん。来週がちょうど12月の第一週だから。…おいしいといいんだけど」
 クラウドは初めて一人で作ったパンを不安げに見やる。
「ま、来週のお楽しみだな」
 心配そうなクラウドは逆にザックスは期待に満ちた顔でその肩を叩いた。





material:clef






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