ヴァーチャルクラウドに花束を #11





 クラウドがザックスから不可思議な質問されて数日経った。あの電話を最後にザックスは何も言って来なくなった。あれは結局何だったのだろうとクラウドが考えながら廊下を歩いていると偶然ザックスの姿が目に入った。
 何やらトレーニングルームへコソコソと入っていったので秘密の訓練でもするのかと思い、クラウドはその後を追った。
 モニタールームを通った際にマシンの前に立つカンセルの姿が目に入ったが、特に親しくしていたわけではなかったので、クラウドはそのまま素通りしてザックスのいる場所へ向かった。

 実を言うとクラウドはトレーニングルームに一度も入ったことがなかった。どういったシステムなのかは知っていたが実際どういう機器を使用しているのかまでは見たことがなかった。どうせ中にいるのはザックスだけだし、文句も言われないだろう。ちょうどいい機会だと思ってクラウドは軽い気持ちで入室した。

 中に入ると、屋外の広場の景色が広がっていた。これがヴァーチャル空間なのかとキョロキョロ周りを見ていると咳払いが聞こえたので、クラウドはそちらの方へ視線を向けた。そこにはザックスの姿があった。
 クラウドが声を掛けると、ザックスは急に神妙な顔になった。邪魔をしてしまっただろうかとクラウドが心配していると、ザックスは話があると告げた。
 いつになく真剣なまなざしで見つめられ、クラウドは思わず顔を反らした。
 どうしたのだろうとクラウドが胸をドキドキさせながらザックスが口を開くのを待っていると、突然告白をして来た。
 何を言っているのか、すぐには理解出来なかった。しかしいつものおちゃらけた表情とは違う、どこか熱を帯びた瞳にクラウドは囚われた。

 ザックスがオレのことを好き?
 本当に?
 夢じゃないの?

 そう思っているうちに、ザックスはクラウドの唇を奪った。熱い口づけにクラウドの思考は止まった。
 ザックスから好きだと告げられている。キスをされている。
 それだけで頭が真っ白になった。クラウドはザックスの服を握りしめ、ずっと告げるまいと胸の中にしまいこんでいた言葉を告げた。
「…オレも……ザックスのこと…好き」
 ただうれしかった。
 実るはずのない片思いだと思っていたのに、向こうも同じ気持ちでいてくれたなんて。
 だから押し倒された時も拒否の声を上げたものの、このまま身を任せていいとさえ思った。
 モニタールームにいたカンセルのことが気がかりだったが、ザックスから施される愛撫にクラウドの思考は快楽の海へと沈みかけていた。

 その時だった。
 突然何かの音が鳴り響き、クラウドの意識は現実に戻される。
 圧し掛かっていたザックスの愛撫の手が止まり、携帯を片手に何かを喋っている。

「…は?取り込まれてないって、こうしてちゃんと取り込まれて」

「え…本物…?」

 眼下を見るザックスの顔が明らかに青ざめている。

 どうしてそんなに慌てているのだろう。
 ここはヴァーチャルシステムを駆使したトレーニングルーム。
 取り込まれていない。何が?
 本物。本物のオレがいて都合が悪いの?

 その時、クラウドの頭の中で全てが一つに繋がった。不審という名の種が一気に芽を出し、ヒビだらけだったクラウドの心を砕け散らせた。

「本物って…何のことだよ…」
「あ…いや、その」
 クラウドのつぶやきにザックスは慌てた様子を見せる。それを見て疑惑が確信に変わった。喜びと絶望の落差にクラウドの思考は正常には作動せず、湧き起こってくる怒りと悲しみからクラウドは全身を震わせた。
 クラウドはザックスの身体を突き飛ばすと素早く立ち上がった。そして涙を流しながらザックスを睨みつける。
「ザックスのバカ!」
「クラウド!」
 ザックスの呼ぶ声が聞こえたが、クラウドは後ろを振り返らずにトレーニングルームから出て行った。
 一秒でも一緒にいたくない。もう顔も見たくなかった。


 そうだったんだ。
 やっとわかったよ。
 あの変な質問も電話も全部これの為に聞いてきたんだ。
 遊んでたんだね、『オレ』を使って。

 ひどいよ、ザックス・・・・





material:Abundant Shine






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